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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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アイソレーション・タンク(3)



+ + + + + + + + + +
最初に始めてから何枚目になるか判らないほどのDVDを再生する。
それは泣けると評判のDVD。
手にはタオル。程なく瞳から涙が溢れ出した。
画面ではめまぐるしく色々な世界が展開していくのをほとんど見ずに、まもりは泣く。
ぼろぼろと泣き続け、溢れる涙をタオルで吸い取らせ続ける。
DVDはただの口実で、事実はただ泣くだけ。
腫れぼったい瞼で学校に行っても、DVDを見て泣いたのだと言えば誰でも納得する。

一年生の時は宿敵だと信じて疑わなかったヒル魔。
そんな彼と二年生になってから部活で共に過ごすことになり、次々に自分の既成概念を打ち砕かれた。
自らの信じる正義は正義だけではなく、同様に悪も悪だけではなかった。
悪魔で弱点などないのだと嘯き突き進む彼の優しさも脆さも垣間見て。
同じ目標に向かって進み、共に過ごすうちに、これは恋かと考えるようになった。
好きだと素直に思った。そうして、憎らしく啀み合っていても恋に落ちるものなのかと感心さえしていた。
出来ることなら彼も同じように思ってはくれないかと、心密かに思ってもいた。
けれど。
あの嵐の日。関東大会へと駒を進めたあの夜。
まもりは知った。
ヒル魔が欲したのは光速の足を持つセナであり、まもりは単なるおまけだった。
おまけにしては少しだけ便利だったからマネージャーとして利用した。
ただ、それだけ。
道具としてしか見ないヒル魔が、まもりを好きになることなんてあり得ない。
彼が恋愛などに現を抜かす暇などないと誰より知っていたはずなのに。
その瞬間、まもりは感情を抑え込んだ。
それはヒル魔の傍らに居続けるために必要なことだった。
側にいることがどれだけ辛く悲しくても、便利なだけだと思われていたとしても。
マネージャーとして仕事を与えられた以上、放り出すことはしたくなかったから。

―――それでも、完全に抑えることは出来なくて。
だから。
「・・・っ」
しゃくり上げ、存分に泣く。
こうやって泣かねばやっていられなかった。
辛くて、苦しくて、悲しくて仕方なかった。


学校が終わるなりやってきた鈴音は、部室で一人作業中だったまもりに纏わり付く。
「ねえねえまも姐! まも姐のおすすめDVDって何?」
「え? どうしたの、突然」
「やー。今度友達とパジャマパーティーやることになって、私DVD持ってく係になったの」
でも実は、あんまり映画とか知らないから、という鈴音にまもりは困ったように笑った。
「うーん・・・私が見るのはみんなで楽しむ感じのじゃないから」
「そうなの? まも姐結構DVD借りてるんでしょ? 一枚くらいおすすめとか楽しいのとか」
最後まで言い切る前に、鈴音は言葉を切った。
まもりが本当に困ったように、もう少し踏み込んだならばこの場で泣き崩れてしまいそうな顔をしたから。
「ごめんね」
小さく謝られて、鈴音は少し大げさだと思うくらい手を振った。
「う、ううん! 私こそそごめん! 別の人に聞いてみるから、大丈夫!」
ごめんねー、とそう叫んで部室を飛び出した鈴音は勢い余って目の前の人影にぶつかった。
「ぶっ!」
「糞ッ! どこ見てやがる、糞チア!」
「あっ」
鈴音がぱっと目を上げれば、そこには不機嫌そうな顔をした悪魔、もといヒル魔。
休憩時間だろうか、一人部室に戻る途中だったようだ。
赤いユニフォームを咄嗟に握りしめ、鈴音は勢い込んで彼に今のまもりのことを告げる。
そうせねばならない、と思った。
インラインスケートのつま先が浮き上がるくらいの勢いは、角度を間違えるとキスを強請るようにも見える。
そうして焦り出て行った鈴音を心配して顔を出したまもりは、まさしくその様子を見てしまい。
きつく眉を寄せて静かに部室へと戻った。


<続>
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