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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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髪長姫(下)



+ + + + + + + + + +
上着をしっかりと着込んだまもりの首にタオルを巻く。
「今日はどうなさいマスカ」
「ずばっといっちゃって下さいな。ショートヘア・・・ああ」
まもりはケープを巻きながらふわりと笑う。
「ヒル魔くんと初めて顔を合わせたころくらいのショートにして欲しいわ」
「ア?」
ヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「覚えてない? 私、ほら一年生の時に風紀委員になってすぐヒル魔くんのこと注意しに行ったでしょ?」
「覚えてる。・・・が、短すぎねぇか」
ヒル魔の指が霧吹きで湿らせたまもりの髪を弄ぶ。
それが惜しむような響きなのにまもりは笑った。
「いいのよ。髪はすぐ伸びるし」
ねえ、と語りかけるまもりの腹が変形するのが上から見ていても分かる。ヒル魔はむっと眉を寄せつつ、はさみを手に取った。
「サルみてぇに短くしてやる」
「あんまり短くしすぎないでよ!」
「動くな。耳まで切るぞ」
物騒なことを言いつつも、ヒル魔の手つきは恭しい。
彼は口ほどに乱暴ではなく、所作は綺麗だ。
この大きな手が器用に髪を切り落としていくのを感じられる特権にまもりは口元を緩ませる。
それでも、そこはかとなく不機嫌な気配にまもりは背後の彼を伺おうとするが、すぐに頭を掴まれた。
「動くな」
「うん。・・・あのね、ヒル魔くん、機嫌悪い?」
「ア?」
「なんだか苛々してるみたいだし」
さっきまではそんなことなかったのに、と心配そうな口調で問われてヒル魔は小さく舌打ちした。
「そんなことねぇ」
「ホント? ヒル魔くん、私の顔見て言える?」
まもりは顔を正面に向けたままそう重ねて問う。ヒル魔は少々の沈黙の後、やや乱暴にまもりの肩を払った。
途端に地面に落ちるのは、切られた毛束。
ばらばらと落ちるそれらは、しばらく見ないほど長く纏っている。
「髪だけじゃねぇ。爪も、歯も、全部ぼろぼろになった」
「え?」
嫌そうにそう言った後はひたすらまもりの髪を切っていくヒル魔に、まもりは言葉の意味を考え。
そうして、ぷっと吹き出した。
「ひ、ヒル魔くん・・・」
その声が震えている。顔を見ずとも分かる。ヒル魔の眉間の皺が深くなった。
どうせ鬼の首を取ったような、晴れ晴れしい笑顔でいることくらい。
あえて返事もせず、ヒル魔はまもりの後ろ髪を全て整えると、今度は正面に回った。
前髪を切るのだ。
つまみ上げた前髪の下で、今日の空に似た青い瞳が笑っている。
「妬いたの?」
そう仕向けたのが彼であっても、今腹にいる子に愛妻が自らを削りつつも慈しむ様を見せられては面白くないのか、と尋ねられ。
「目、閉じろ」
答えずぶっきらぼうに告げる声に、まもりは喉の奥で笑っておとなしく瞳を閉じる。
切って顔に掛かる髪の毛を払い落としながら、ヒル魔は手早く前髪を切りそろえる。
毛先を整えるよりもずっと時間が掛かったな、と思いながらヒル魔は手櫛でまもりの髪を整えた。
「終わったぞ」
「うん、ありがとう」
まもりは笑ってケープを取り、はためかせる。
張り付いた髪の毛が散って、風に舞う。
傷んだ髪の毛はどこか乾いた気配で散った。
「ヒル魔くん」
「ア?」
道具を片付けながらヒル魔はまもりに視線を向ける。
「これだけ大変なこと、好きな人の子じゃなくちゃ出来ないと思わない?」
幸せそうに笑って腹を撫で、少し照れたように告げられて。
ヒル魔はケッと小さく笑う。
「おら、来い」
「え、髪の毛掃いておかないと・・・」
ご近所迷惑に、と続けるまもりの腕を引き、ヒル魔は口角を上げる。
「頭洗ってやる」
切り落とした髪の毛が、いくらタオルを巻いていても首筋に張り付いている。
それを洗い流さないと確かに気分は悪い。悪いが。
「でも・・・」
「妬いた」
「は?」
唐突な切り返しに少し考え、それが先ほどの問いの答えなのだと気づいてまもりは赤面する。
その隙を突いて、ヒル魔はまもりを抱え上げた。
「や! ちょっと、危ない!」
「煩ェな、落とすわけねぇだろ」
軽々と運びながらヒル魔はにやりと悪魔じみた笑みを浮かべた。
「生まれてきたら、しばらくこんな暇ねぇだろうからなァ」
まもりの唇を、昼日中にそぐわず、かなり淫靡に奪い取って。
「今は俺の事だけ考えてろ」
「な・・・!」
絶句するまもりを室内へと運び込んだのだった。


***
tail-B様でまもりちゃん妊婦のイラストを拝見してからずっと書きたかった話。
自分の中でなかなか固まらず、ようやく固まったぜ! と思ったら折良く(というかちょっと遅かったけど)tail-B様サイト開設三周年とのことでしたので、捧げさせてくださいませw
ぐり子さま、おめでとうございますw
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