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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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髪長姫(上)

(ヒルまも高校卒業後)
※『ピエタ』の前後くらい。

+ + + + + + + + + +
窓辺に立って空を伺ったまもりは、よく晴れているのを確認してヒル魔に声を掛けた。
「ねえ、ヒル魔くん」
ヒル魔は声も上げず、椅子に座ったまま首だけ捻ってまもりを伺う。
その前にはパソコン。相変わらずの姿だ。
「髪、切ってくれない?」
「ア?」
まもりは自らの髪を指先で摘む。
ヒル魔の位置から見ても、その毛先が傷んでいるのはよくわかる。
学生時代から今まで、毛先を揃える他はずっと伸ばしきりだったその姿。
今が最長記録なの、と鏡の前で鼻歌交じりだったはずなのだが。
「切りたくねぇって言わなかったか?」
「うん、最初はそのつもりだったんだけど・・・」
まもりは苦く笑う。
「やっぱりどうしても栄養が行き渡らなくてぱさぱさになるのよね」
聞いてはいたんだけど、とまもりは肩をすくめる。
「最初は大丈夫だと思ったのよ」
「なんだその根拠のねぇ自信は」
「元々髪質も堅いし、染めたりしないから傷むことなかったのよね」
ああ枝毛、とため息をつくまもりの姿を見て、ヒル魔は今までを思い返す。
そう、確かに彼女の髪で今まで傷んだところを見たことがない。
朝に夕に埃まみれ汗まみれになる部活の最中も、灼熱の太陽の下に立ち尽くしたデス・マーチの時も、秋雨の降りしきるグラウンドを過ごしたり雪の舞うクリスマスボウルを終えても。
どんな過酷な環境下であっても彼女の髪は常に艶やかだった。
「でも、長いままじゃこの後構えないし、もう無理にこだわらなくていいや、と思って」
する、と撫でる腹は随分と膨らんでいる。もう足下が見えないと先日まもりはぼやいていた。
その腹を撫でる指先も荒れている。いつもならもう少々長い爪も、ぎりぎりまで短く切り揃えられていた。
ヒル魔はふん、と鼻を鳴らすと立ち上がる。
「上着着て待ってろ」
「今日は暖かいわよ」
「晴れてるからそう感じるだけだ」
言いながらヒル魔は椅子とはさみと櫛を手に外に向かう。
日当たりの良い場所にそれらを置く彼を見ながら、まもりは彼の言いつけ通り上着を取りに向かった。

まもりにとって、アメリカの生活は慣れないことの連続だった。
結婚しているとは言え、留学生としてこちらに来ている以上、勉学にも手を抜きたくない。
同棲している期間があったからあまり二人だけの生活に違和感を持つことはなかったけれど、やはり身近に頼れる親や親しい友人がいないのは堪えた。
こちらの友人とは顔を合わせてまださほど日を数えておらず、外見はともかく性質的には完全に日本人のまもりは、文化の違いから来る食い違いに次第に苛立つようになった。そこにヒル魔がよく家を空けるようになって、気軽に話せる相手もいなくなって、徐々に追い詰められていき。
ついには、ヒル魔に書き置きを一つ残して日本に飛び帰ってしまったこともあった。
それはヒル魔がすぐ追いかけてきて事なきを得たが、その後まもりが妊娠して二人の生活リズムがまた変わって。
どうにか全てを自分一人でこなそうと奮闘するまもりに、ヒル魔は告げた。
一人で全て抱えるな、今は二人なのだから、と。
らしくもなく言葉を選ぶようなその姿と、躊躇いがちに触れた手にほろりと鱗が落ちた気がした。
彼もまた、一人で全てを抱えてしまって、人の荷物は奪い取る専門だった。
けれど奪い取れない荷物を、共に抱えるという選択肢を知っていても選んだことがなかったから。
自分一人が精一杯だと思っていたけれど、彼も彼なりに精一杯だったのだろう。
どうやったらいいかを模索しているのだと、まもりもようやく気づいた。
以来、まもりは意識してヒル魔に甘えるようにしようと、そう心に決めている。

<続>
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