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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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静寂グラデーション(下)



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まもりは呼び出された公園で、強ばった顔で立ちつくしていた。
周囲にはカップルや初老の夫婦、散歩する女性やランニングする男性など、一般の人々が多くいるのどかな光景が広がっている。
それなのに、彼女の周囲だけ空気が冷たく凝っているようだ。
『プレゼント、気に入ってくれたかな?』
機械を通したような、奇妙な声がまもりにささやきかけた。
「なんのつもり? 一体何が目的なの!?」
声を荒げるまもりに、奇妙な声は笑ったようだった。
『まだ、君にとっておきのプレゼントがあるんだよ』
そしてこの場所を告げて、通話は切れた。
開けた広場の真ん中にある時計塔の下、じっと立つまもりに近寄る影がある。
その奇怪さに、すれ違う誰もが眉を顰める。
男は、やせっぽっちの身体にまるでサイズの合わない白のタキシードを着ていたのだ。
手には真っ赤な薔薇、そして同じく白い布で出来た何か。
安物の整髪料で固めたのかテカテカと奇妙な照りを発する髪。
不健康そうな顔にはどこか恍惚とした笑みを浮かべている。
まもりはその姿を目にして、一歩引いた。
「まもり」
声はまるで恋人にささやきかけるように甘く、熱い。
視線はまとわりつくようで、纏う空気は格好と相俟って酷くアンバランス。
「君に一番似合うドレスを用意したんだ」
ほら、と見せてくる真っ白なそれは、俗に言うウェディングドレスだろう。
自らを王子とでも言いたいのか、酷く芝居がかった仕草で、薔薇とドレスを差し出す。
まもりはまた一歩、引いた。
「一体、何なの!? 私、あなたなんて知らない!」
「何を言うんだ、まもり。僕たちは恋人同士じゃないか」
「名前で呼ばないで!!」
「いつも僕はそう呼んでるじゃないか」
心底不思議そうに、男はそんなことを言う。
「ああ、指輪がないのが不満なんだね。大丈夫、用意したよ。君に似合うように作らせたんだ」
「人の話を聞きなさいよ! 誰よ、あなた?!」
「最愛の恋人に対して、そんなに照れなくてもいいじゃないか」
大仰に嘆くようなその眸は、狂気や怒りや憎悪のような、負の感情を持ち合わせていない。
本気でまもりを恋人と思いこみ、彼女が自分を好きだという考えが正当であると言わんばかりの、奇妙な透明さがあって。異色のその姿に、まもりはぞぞっと背筋を震わせる。
気持ちが悪い。
今まで接したことのない人種に、本気でまもりは恐怖を覚えた。
躊躇いもなく近づいてくる男に更に後ずさる。
「近寄らないで!!」
「僕のまもりは甘い物が好きだよね。知っているよ、いつも紅茶にはミルクと砂糖を二つ、シュークリームが大好きで・・・」
語る男の言葉を遮り、まもりは叫ぶ。
「誰があなたの物になったの!? 寄らないで!! 気持ち悪い・・・!!」
嫌悪に歪む表情に、男はぴくりと頬を引きつらせた。
「僕の愛が判らないなんて、まもりはいけない子だね・・・」
男の眸に怒りが滲む。理不尽な感情に対して、まもりはとどめのように口を開いた。
「あなたなんて知らないわよ!! 勝手なこと言わないで!!」
「っ!!」
男が顔を歪め、薔薇の花束の合間から取り出したのは、サバイバルナイフ。まもりの瞳が見開かれる。
「僕のことを嫌うなんて、許さない・・・!! まもりは、僕のモノだ・・・!!」
そして突如として飛びかかろうとした、瞬間。
「?!」
男に向かって、何人もの手が伸ばされ、男はあっという間に押さえつけられた。
「確保!!」
「手錠寄越して、手錠!!」
男を取り押さえていたのは、先ほどまで周囲にいたごく普通の人々だった。
彼らは全員、私服警官だったのだ。
そこに悠然とした足取りで、真っ黒な足が近づいてくる。
押さえられ、呻く男の眼前に現れたのは、愉快そうに男を見下ろす、金髪の悪魔だった。
「随分と独りよがりの恋愛劇デシタネェ」
しかも大根芝居、とヒル魔はにやりと笑みを浮かべた。
「な、なんだ、お前は?!」
お前呼ばわりされたヒル魔は、強ばった顔をしていたまもりを抱き寄せる。
「・・・ヒル魔くん」
まもりの顔が嬉しそうにほころぶ。それに男は目を見開いた。
「まもり!? な、なんでそんな男に・・・」
「さっきから言ってるでしょう。私、あなたなんて知らないわ。気安く呼ばないで」
迷惑そうにまもりは言い捨て、ヒル魔の腕に身を委ねてほっと息をついた。
「俺のモンに手を出した罪は、重いぜ?」
見せつけるように笑うヒル魔は、やって来た刑事に尊大な笑みを浮かべる。
「ご協力ありがとうございました!」
「おー。他にも色々やってるらしいから、じっくり調べろよ」
「はっ!」
尊大なヒル魔相手に敬礼する刑事を見て、男は呆然とする。
「おら立て!!」
「他にも色々と聞きたいことがあるんでな!」
「な・・・ぬ、濡れ衣だ!! 俺は、ただ、まもりと・・・!!」
警察官たちに追い立てられる男はそう喚くが、殺人未遂の現行犯逮捕では何も聞き入れられることはない。
けたたましい音を立ててサイレンを鳴らすパトカーが走り去り、密かに公園内を立入禁止にしていた警察官達が制限を解除すべく散っていく。
公園内はあっという間に閑散とする。今は二人だけが公園内にぽつねんと立っていた。
「・・・もう。私が刺されたらどうするつもりだったの?」
「その前に助けただろ」
「警察の人たちがね」
まもりは肩をすくめる。
なんだかんだ言って、彼が絶対にまもりを助けるのは目に見えていたから、言う程怖くはなかったのだけれど。
「ああいうのが確信犯って言うのかしらね」
「かもな」
地面にうち捨てられ、警官達に踏みつけられてぼろぼろになった白いドレスと花束を見下ろす。
「一体どこであんな風に思いこんじゃったのかしら」
「切っ掛けはなんだか知らねぇが、奴の家はテメェに関するモンですげぇ有様だったぞ」
ケッと苦々しく言い捨てるヒル魔に、まもりは嘆息する。
「・・・本当、迷惑この上ないわね」
ヒル魔の迅速な手配により、実は相手は早々に知れていた。
近隣大学に通う男で、浪人と留年を繰り返し、高校生の時から何度もストーカー行為で厳重注意を受けたことのある危険人物だったそうだ。もっと早い時期に相手を痛めつけて行為自体を辞めさせるのは簡単だったが、まもりを諦めたとしても、その他の人に迷惑を掛ける可能性が限りなく高いというヒル魔の調査結果に、まもりが今回の計画を思いついたのだ。
ヒル魔の脅迫手帳は知られたら困るという弱みを根本としているので、誤った方向に走っているストーカーには効果がない。それに、警察側もこの男の度重なるストーカー行為の苦情の対応に苦慮していたらしい。
計画の実行には一般人であるまもりを囮にすることに難色を示したものの、結果的にあの男の逮捕に繋がったので警察も胸をなで下ろしたことだろう。
「実際に被害にあった女の人も多かったんじゃない?」
「奴に関しちゃ撃退される事の方が多かったらしいな」
手帳を捲りながらヒル魔は言う。
実際に警察が動けなかった理由の一つに、ある程度から踏み込んだ行動を起こさないか、起こしても女性側に早々に撃退されることが多かった事実があったようだ。男も、付きまとう女性をその都度変えていたらしい。
変に諦めがいいというか、悪いというか。
「女の子の方が強かった、ってこと?」
「テメェ含め、な」
からかう口調のヒル魔の背中をぺちんと叩き、まもりは先ほどの男を思い出す。
「あの人も、あの情熱をもっと別の方向に向けたら良かったのにね」
「ストーカーにまで随分とお優しいコトデスネ」
からかう口調の彼に、まもりはふっと笑みを浮かべてすり寄る。
きっとまたむくれると思っていたヒル魔はピンと片眉を上げた。
「お?」
「ヒル魔くんが側にいてくれるから、私は寛大になれるのよ」
絶対に守ってくれるという安心感をくれる彼の側だから、まもりは笑っていられるのだ。
心配事が失せて、ようやく心底明るい顔で笑うまもりに、ヒル魔も楽しげにキスを落としたのだった。



***
海小鳥様リクエスト『高校卒業後ストーカー被害に遭うまもりとそれを知ったヒル魔』でした。もっと派手に色々すると思ってらしたらスミマセン。正当に片づけて貰いました(笑)実際ストーカーに狙われた際にはまず警察への相談が第一です。相談が事前にない状態で実際に暴力を振るわれたりした後から駆け込んでも対応してもらえなかったりするので、どんなに嫌でもまず相談を! リアルに追求しそうになって話が逸れそうだったのでちょっと変な男程度にしてしまいました・・・でも楽しかったです!リクエストありがとうございましたー!!

海小鳥様のみお持ち帰り可。
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