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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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アネクメネ(下)


 


+ + + + + + + + + +
しばらくの沈黙の後、ヒル魔が嘆息して寝台に座った。
「・・・王が病床に伏しているのは、公然の秘密だ」
唐突な話題に、まもりはただ彼を見つめる。
「少し名のある貴族なら王が余命幾ばくもないことは知れていた。そこに輿入れを希望する貴族が現れた」
それはまもりの家のことだとすぐ気づく。
「しかもどこか後ろ暗い噂のある貴族ときた。単純に王への輿入れだけが目的じゃないと知れる程度には」
ヒル魔もじっとまもりを見ていた。
「事前に人をやって調べさせた結果、他国に大量の贋作を作らせていることと、盗賊と影ながら関係を作ろうとしていることを突き止めた」
彼が何を言いたいのか判らず、まもりはじっと耳を傾ける。
「その目的がろくでもない事だと判断した俺は、盗賊に扮してその貴族と接触した」
「・・・『盗賊に扮して』?」
まもりの疑問にはその場で答えず、ヒル魔は更に続ける。
「盗賊と同じ他国の言葉を操る俺を、ヤツは簡単に信じて作戦を口にした。輿入れ前の娘の狂言誘拐で私腹を肥やそうという、ずさんな計画だった」
所詮は貴族のおめでたい発想。作戦を実行すれば頓挫するのは目に見えていた。
「そのまま実行させても成功はしなかっただろう。だが、国境付近の盗賊どもと同時に片づけることを思いついた俺は、ヤツの作戦に乗った」
「・・・?」
盗賊の掃討と狂言誘拐の解決。
それをしたのが彼だと?
「俺はヤツの手引きで屋敷に入り込み、奴隷として過ごしていた。後はお前の知るとおりだな」
「・・・??」
混乱するヒル魔は立ち上がり、おもむろに礼をした。
洗練されたその仕草は粗野な盗賊でも、奴隷でもなく、堂々としたもので。
「俺の名は蛭魔妖一。『泥門』を統率する者だ」
目を見開くまもりに、ヒル魔はにやりと笑った。
『泥門』。
その組織はまことしやかに存在を噂されても、どこの誰が所属し、どうやって活動しているのかさえ判然としない。
ただ、王家に関し、表立って解決出来ない事件を専門に片づける組織だと噂されている。
王家の暗部に位置し、軍部が動くことの出来ないはずの事件が解決するとき、その名が囁かれることがある。
けれどほとんど作り話だと言われていたのに。
「・・・本物?」
にやにやと笑う彼に、まもりは眉を寄せる。
「王を光だとするならば―――」
ヒル魔は窓辺に寄る。この時になって初めて、まもりは彼が足音を立てていないことに気づいた。
どんなに美しく保とうとしても、砂の入り込む床は足音を立てずに歩くなんて芸当、一般の人間には無理なのに。
強い日差しに照らし出されて、彼の顔が逆光に沈み込む。
金色の髪までもが影に滲み、輪郭だけがきらきらと眩しい。
「俺たち『泥門』は影だ」
白い床に滲みもなく、くっきりと浮き上がる影。
光が強ければ強い程、その影ははっきりと存在する。
「王の威光が強ければ、俺たちも強くある」
「弱ければ?」
「その境目をなくし、光と影が入れ替わることもあるだろう」
まもりは目を見開いた。
今、彼は自らが王になる可能性さえ口にした。
不敬であると簡単に詰れない、威圧感の塊がそこにいる。
太陽を背負った彼は、深い闇の中でにたりと口角を上げた。
「・・・私の、父は? 家は、どうなったの?」
「わざわざ聞くのか?」
笑みを浮かべたまま、彼はすっと手刀を自らの首にトン、と当てた。
判りやすい『斬首』の仕草にまもりは言葉を失う。
「テメェはあのまま、死んだことになってる」
それは同時に、まもりの家が断絶したことを示していた。
「え・・・」
「生きて帰ったところで、テメェの家はもうねぇからな」
影から抜け出た彼は、静かにまもりの傍らに立つ。
その手がそっとまもりの髪を撫でた。
優しい仕草に、まもりはじっとヒル魔を見上げる。
「私を殺すんでしょう?」
「そんな予定はねぇ、っつったろ」
途端に不機嫌そうに寄せられた眉に、まもりは小首を傾げる。
「じゃあ、遊郭にでも売り飛ばすの?」
「いい加減その辺の考えから離れろ」
「じゃあ、なんで私を生かすの? もう、私が生きている意味なんてないでしょう」
心底不思議そうに尋ねるまもりに、ヒル魔はじっとまもりを見つめて。
「俺がテメェを抱いた理由が何だと思ってんだ?」
「嫌がらせでしょ」
間髪入れずに答えたまもりに、ヒル魔の手の動きが止まる。
「・・・ア?」
「もしくは、性欲処理?」
その追い打ちに、ヒル魔は苦虫を噛み潰したような顔でまもりの頭を乱暴にかき混ぜた。
「きゃ!」
「永遠を誓わせたところから全部、嘘だと思ってるんだナァ?」
思いっきりため息をついたヒル魔の姿をただ見上げていたまもりは、こくりと頷いた。
「ンな糞面倒臭ェ嘘つく必要がどこにあんだよ」
「私を油断させるために・・・」
「必要なけりゃさっさと殺すなり逃がすなりする方が楽だろ」
浚った後に手を出す必要などどこにもない。
「まもり」
「っ」
初めて呼ばれた名に、驚きびくりと震えたまもりの顎をすくい取り、ヒル魔がその唇を奪う。
柔らかく触れるそれに、思わずまもりが腕を突っぱねようとしたのも許さず、深くその唇を貪るキスが続く。
呼吸もままならないほどのキスに力が抜けた身体を寝台に横たえられる。
押し倒される衝撃に我に返ったまもりは、舌なめずりをして見下ろしてくるヒル魔を慌てて見上げた。
「な、何・・・」
「永遠を誓わせたことまで嘘だと言われたのは心外だ」
「だ、って! あの薬、とか、あの状況とか・・・っ」
まもりの意志を無視して進んでくる手に、まもりは逃れようと身体を捩る。
「もう待てねぇよ」
だが、ヒル魔はにやにやと笑って止めようとはしない。
寝間着の隙間から滑り込んでくる手は、柔らかくまもりの身体を辿る。
「随分痩せたな。もっと喰え」
「え、ちょっ・・・」
どうにか逃げようとするまもりの耳に、ヒル魔がキスを落とす。
そうして。
「愛してる」
「っ!!」
囁かれた言葉に目を見開いたまもりはぴたりと動きを止めた。
今、何と言ったのか。
呆然とするまもりの眦にも優しいキスを落とし、ヒル魔は笑みを浮かべる。
「信じられねぇっつーなら、じっくり教えてやる」
「え、え・・・ちょっと、待・・・!」
「待てねぇって言っただろ」
熱っぽい言葉を吹き込まれ、暴君のように尊大に言い放つ。
それなのに、まもりを気遣うような優しい手つき。
しばしの逡巡の後、まもりは恐る恐るヒル魔に腕を伸ばす。
そして、きつく瞳を閉じると、彼にしがみつく。
これが嘘でも、目が覚めたら終わる夢でも、もう、いい。
きつく抱き返してくれる腕が偽りでないことだけを祈りながら、まもりは考えることを辞めた。



跡継ぎを産むためだけに家の道具として使われる、甘やかされて美しく着飾らせられた女達。
彼女達はほとんど、そんな自分の存在意義を深く考えてはいない。
身近な男達は自らを養うための存在であり、夫となる男には今以上の水準の生活をただ求める。
見返りに子供を産みさえすればいい、と考えて。
身の回りの世話をする侍女も下男も奴隷も物と同等の扱いで、自らには何一つ力もないのにただ父や夫の威光を借りて偉そうに構えている。
自らが何か出来るか、何かをしようか、そういった考えは全くない状態でただ美しく存在しようとする。
そうやって育てられているし、そうとしか考えないように吹き込まれている。
ただただ綺麗な、抱き人形。
そんな、優しくされるのが当然と思っている女を抱くのは酷く面倒で、煩わしい。
性欲処理で女を抱くなら遊郭にでも遊びに行く方が楽しめるし、面倒ごとがない。
貴族の女になんて興味はなかった。
けれど。
その存在意義を疑う、愁いを帯びた青い瞳に出会った。
女としては最高の良縁だとされる王への輿入れさえも、ただ道具となるしかない自分の立場も、そうあるべきなのかと葛藤する姿。
尊大に命じながら、不平不満を誰に当たることもなく一人じっと抱え込んでいた、女。
何一つ自分の意志が反映されないのだと、聡明な青い瞳は寥々とした光を湛えていて。
愚鈍な父親の計画に巻き込ませるにはどこか惜しい気がした。
計画通り彼女を浚い出した後、移動途中に用意した隠れ家。
質が良すぎて目立つ寝間着を脱がせ、着替えさせた時。
もう何度も目にした白い身体を貪りたいと、唐突に欲が蠢いた。
まだ男を知らないのは、無防備なその様子で知っていた。
ただでさえ女は手垢が付いていない方がいいと思うのが貴族の風潮だ。
怯えたその瞳に、征服欲が膨れあがる。
こんな感情を抱いたのは初めてだ。
盗賊達が使っていた媚薬を惚れ薬だと偽り、飲ませて。
自分が彼女の初めての男になったのだと、破瓜の血を見て酷く興奮した。
そして理解する。
惚れ薬などと偽って、薬を飲ませてまで強引に事に及んだ本当の理由を。
ただ、あれほどに侮っていた貴族の娘である彼女を手に入れたかったのだと。
自分の側に置きたいのだと。
「誓え」
言葉は考えるよりも先に溢れた。
「永遠に俺のモノになるってナァ」
理性が失せた状態につけこみ、言質を取る。
深く抱きしめ、満たされる快感は、今まで抱いたどの女にも感じなかった類のモノだった。
そして作戦を実行するために昼夜となく奔走し。
頭として振る舞い、部下となった盗賊達には彼女に手出しをさせないように言い含め。
念のために側近を彼女の見張りに置き、時が満ちれば全てを一気に片づけ、彼女を自らの屋敷に迎え入れる予定だったのに。
油断していた首謀者のあの男や、盗賊の身柄を取り押さえたとき、彼女は姿を消していて。
部下達に方々を探させて、自らも探し。
ようやく見つけた時には、既に虫の息だった彼女。
ぼろぼろの手足を投げ出し、砂にまみれたその姿を見つけたときの、あの安堵と―――恐怖。
手当をし、連れ帰り、意識を取り戻すまでの時の、あまりの長さにどれだけ心配したか。
あの青い瞳が、何の憂いもなく柔らかく綻ぶのを見る前にみすみす死なせるのか、と暗い気持ちになり。
ようやく目を覚ましたと思えば、悪魔を見るような拒絶。
あの屋敷でも見せなかった、これ以上ない程の恐怖と絶望に満ちた色に、らしくもなく胸が痛んだ。
その後も容態が安定するまで医者に面会謝絶の診断を出され散々気を揉んだ。
時折忍び込んで様子を伺えば、熱に浮かされ譫言のように殺せと囁く姿。
いっそその言葉通り。殺せばよかったかとまで思った。
けれど。
復調した彼女と対峙し、あれほどに傷ついて悲痛な笑みを浮かべさせた理由に思い至って。
ようやく、己の不手際を知った。
囁いた言葉も、抱きしめた腕も、完全に彼女の不安を払拭するにはまだ至らない。
ならば信じさせるまで。
嘘偽りなく、愛していると言い続け、抱きしめてやる。
己を信じるまで。
いや、信じたとしても、この手は放さない。

―――まもり。
あの時、お前だけに永遠を誓わせた理由はただ一つ。
俺はもう、とうの昔に。


光の差し込む、明るい寝室の中。
深い影の中でまもりを腕に抱き、ヒル魔はひそりと笑った。



***
サキ様リクエスト『花盗人の続き』でした。色々あれもこれもと書き入れるうちにえっらい長くなって、区切っても区切りの関係で一つ一つが長くてすみませんでした(苦笑)特にヒル魔さん言い訳がましくてねー・・・(苦笑)最初は単に実は貴族でした、という話にするつもりが段々変な風に。まもりちゃんを絶望させる下りがすっごく楽しかったです(ヒドイ)wリクエストありがとうございましたー♪

サキ様のみお持ち帰り可。
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ついうっかりブログ作成。
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