ヒル魔とまもりの間に生まれた第一子は、まもりが「あや」という音を付けたいという願いから「綾」という字が当てられた。
なんとなく音が気に入っているらしい。そこはヒル魔も特に反論しなかった。
ちなみに「妖」の字はヒル魔に「安直すぎる」と却下されている。
「耳がヒル魔くん似だからいいじゃない」
「耳だけで決定か。この糞単細胞め」
言いながら二人の視線は生まれたての小さな赤ん坊に釘付けだ。
腹の中にいるときから自己主張が激しかったのできっと男だろうとなんとなく思っていたのに、生まれてみれば女。
もっとも、母子共に無事なら性別など拘らない。
「あんなにデカイ腹にいたわりには小さいもんだな」
「お腹は平均でしたっ! 赤ちゃん以外にも色々入ってたんだからしょうがないでしょ!」
「オレンジとかレモンとか糞シュークリームとかか」
「もう! 今シュークリームって言わないで!」
授乳中は甘いモノ禁止令が出ているため、まもりは非常にピリピリしている。
ただでさえアヤがお腹にいる間は甘いモノをなぜか全く受け付けられず、やっと食べられると思っていたらこの仕打ち。
「いつになったら食べられるのかしら・・・」
「相変わらず食い意地しかねぇのな、姉崎」
ヒル魔はアヤの頬に触れるか触れないかの位置で指を止める。
まだまだ芯のないぐにゃぐにゃほにゃほにゃした生き物は触るのも未だ恐ろしい。
うかうか手も出せずじっと眺める様をまもりに何度笑われてもまだ自ら手を伸ばそうとしない。
ヒル魔も一応人の子、世間一般の新米お父さんと一緒で、あんまり新生児は得意ではないらしい。
「酷いお父さんですねー」
「お前は俺に似ろよ。二人でこの糞シュークリームマニアを滅ぼしてやろう」
「あー」
ヒル魔の言葉に呼応するように、アヤが声を上げて笑った。
意味がわかったわけではないだろうが、なんだかタイミングが良くてまもりがむっとする。
「・・・二人して責めるなんて!」
「被害妄想もいいところだ」
「ぁぁう」
いいお返事。
「・・・つかぬ事をお伺いしますが、ヒル魔くんって生まれて何時間でしゃべり出したの」
「さすがにそこまで人外じゃねぇ。平均だ平均」
「うわーヒル魔くんに平均! ありえない単語!」
「見るか俺の母子手帳」
「いやーなにその黒いの! 黒い母子手帳なんてあるわけないでしょー?!」
まさか生まれたときからしゃべったり歩いたりはないだろうけれど。
なにしろ色々とイレギュラーなこの男の母親である。
脅迫母子手帳がありえるだろうか。
絶対にないと言い切れないのが非常に怖い。
「ぅあうー」
「あ」
子供そっちのけで騒ぐ両親に、ベビーベッドから小さな声が響く。
途端に母親の顔になり、子供の側に行くまもりにヒル魔は少しつまらなそうに続く。
「アヤ、どうしたの? お腹すいたの?」
「うう」
話しかけても言葉は解さないだろうと言いながら話しかけると、アヤは抱き上げたまもりではなくヒル魔の方に手を伸ばす。
「あ?」
「あらーお父さんご指名? はいお父さんがんばって!」
「何が! 糞ッ」
アヤを手渡されて若干慌てるが、とりあえず何度か抱かされているのを思い出して右腕で抱えてみる。
若干腰が引け気味だがそこはご愛敬。
「はい子供の前で汚い言葉遣いしない!」
「俺の子供ならその方が喜ぶだろーが」
「あー」
またもいいタイミングでヒル魔の腕で笑うアヤ。
「・・・・・・・・・」
「ねえ、やっぱりヒル魔くんお義母様に聞いてみてよ。生まれて何時間でしゃべり出したのかって」
「そんなの聞いてどうするっつーんだ。なあ、アヤ」
「ぁう」
「だったらその会話が成立してる風情なのがどういうことなのか説明してよ」
「アヤがちゃんと喋れるようになったら説明するだろ」
「う!」
やっぱり会話が成り立ってる気がする。
「・・・なんだか頭痛くなってきた」
「言っていてなんだが、俺もだ」
「ヒル魔くんが頭痛! またありえない単語が!!」
「だからお前は俺をどれだけ人外扱いしてるんだ!」
ぎゃあぎゃあとわめきながらもアヤの身体を抱く腕は力強い。
人の親になっても相変わらずの二人の間で、アヤは安堵したようにその目を閉じる。
その様子は、腹の中でも外でも騒がしさに差はないと言わんばかり。
やっぱりアヤは俺たちの子だな、と二人して苦笑を漏らすまであと15分。
***
ほのぼのが欲しくて作成。連載もの以外は続きを意識して作品は書かないんですが、なんとなく続いていく感じでこの先もこの一家は書いていきたいです。
長男二男についてはまた今度。
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。