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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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天上の青

(ヒルまも)
6000hitキリリクお礼作品。

+ + + + + + + + + +
ぼんやりと空を見上げる。
冬とはいえ、日差しがあって風よけがあればけっこう暖かい。
空は澄み切って、日ごと高くなっていく。
もう少し時が進めば、空は透明さを増して身を切るような冷気を伴う。
その時にはこの忌々しい糞右腕も回復する。
というかさせる。
今現在、ありとあらゆる手段を講じて糞右腕の骨を繋げようと躍起になっているのは、なぜか俺よりも糞マネだった。
あの女は、病院から出てきた俺を待ちかまえ、そして笑ったのだ。
『その腕じゃ色々と大変でしょ』
その顔を見て、色々と大変なのはお前だろう、と言いかけたのはほんの数日前。


午前中の授業終了を告げるチャイムが鳴った。
少しして階下へと続く鉄の扉が開かれる。そこから現れ、こちらに近づいてくる人影。
「やっぱりここにいたのね。はい、お弁当」
「あー」
糞マネが青い布地に包まれた弁当を寄越す。これも糞マネが自ら言い出したことだ。
『カルシウムとかビタミンとか、ちゃんとバランスよく摂らないと』
栄養補助食品に頼るようではだめだと、お前はどこの糞栄養士だと言いたくなるくらい完璧な弁当。
若干小魚多め。
片手でも食べやすいようににぎり飯、おかずはピンで刺すタイプかフォークで掬えるものを。
気配りまで完璧。
「砂糖は控えめにしてあるけど、味はどう?」
「別に食えればなんでもいい」
「栄養バランスは保証するわ」
ひなたぼっこしながら糞マネの手作り弁当を頬張る俺。…どこの青春ドラマだ、糞。
「はい、デザートはヨーグルト。カルシウム増量」
「糞甘ぇのは食わねぇぞ」
「大丈夫、無糖だから」
はい、と渡されるそれを見て、そのまま視線を糞マネに向ける。
「何?」
「蓋開けろ。片手じゃ開けられねぇ」
「あ、そうね」
ぺり、とその蓋を開いて糞マネは安っぽいプラスティックのスプーンで白を掬う。
「はい」
「・・・これを食えと?」
「うん。はい」
あーん、と言う糞マネにため息一つ、俺はスプーンを奪い取って口に運ぶ。
「そのまま食べちゃって良かったのに」
そして浮かべるのはあの時見せた笑みと同じ。
ヨーグルトまで食べ終え、ごろりとその場に横たわる。
「糞マネ」
「何?」
弁当箱を包み直し、こちらを見る糞マネの顔は笑っている。
貼り付けたように、あの時と同じように。
「俺は従順に働くように言ったが、無理をしろと言った覚えはねぇ」
「無理なんてしてないわよ」
「目の下に糞クマ貼り付けたえれぇ不細工な顔でそれを言うか?」
あからさまに不調なのに、それを隠すために校則違反の慣れない化粧までして。
自分の信条を覆してまで従おうとする姿は最早目障りだと言いたくなるくらいで。
「無理なんかじゃないわよ」
「それが無理じゃねぇっつーなら、お前は俺に何か言うことがあるんじゃねぇか」
「何もないわよ」
「ほー」
素直じゃない女。ここまで水を向けても糞マネは何も言わない。
授業をさぼっていても、顔を見ても挨拶しなくても、弁当の味の感想を言わなくても、糞マネと呼んでも、文句一つ言わず。
まったく、らしくない。
「お前は俺の糞右腕が折れたくらいで凹みすぎだ」
「凹んでません」
「アメフトで怪我なんざ日常茶飯事だ。今回はたまたま俺の骨が折れたが、誰だってあり得る話だ」
「たまたま? 今回は事前に分かってたじゃない」
「糞チビだって筋痛めたろ」
「そうだったわね」
「お前なら俺よりも糞チビ優先させるだろ」
「だってヒル魔くんは替えのないQBだもの」
「糞チビだって替えのないRBだろーが」
「ヒル魔くんの方が重傷だし」
「怪我の度合いで心配の比重が変わるわけじゃねぇ」
俺は空を見ながら糞マネと言葉の応酬を続ける。
今は言葉を投げても、虚ろに空へと吸い込まれていくようだ。
重さがない。感情が伴ってない。
まるで手応えのない人形相手に一人足掻くような印象が脳裏を過ぎる。
ふと、だらだらと続いた言葉の応酬が止まる。
顔に影が掛かった。
見上げるとこの空よりももっと透ける青。
こんなに空っぽな瞳をする女だったか、お前。
「・・・これでも、必死に、我慢してるのよ」
表情は硬くて、震える声は小さくて、けれど唇だけが幽かにわなないていた。
「その必要が何処にある」
「だって」
視界の端で、白い手がこちらに触れようかどうしようか決めかねている動きが見て取れる。
糞。
派手に鳴らした舌打ちは、99%自分へ向けたものだ。
その閃く手を捉える。瞳を見つめたまま、氷のように冷えた指先を掴んだ。
「前にも言ったと思うが、お前は俺に怒れ」
「・・・・・・いいの?」
躊躇いがちに力が込めて握り返す手は、随分と小さく柔らかい。
「糞マネが糞シュークリーム以外の何かを腹に溜め込んで自家中毒で倒れるのがもう丸わかりなモノデネ」
ケケケ、とだめ押しで意地悪く笑ってやると、その顔がくしゃりと崩れた。
「ヒル魔くんのバカ。何でも平気っていう顔して無茶ばっかりするし」
「事実平気だからな」
「でも怪我しちゃったのはしょうがないから、せめて悲しい顔しないように努力してたのに台無しにするし」
「努力の割にはボロがでかい」
「・・・自分を大事にしないって詰ろうにも、ちゃんと私のお弁当食べてくれるし逆に心配されるし」
「労働力の減少は喜ばしくねぇからな」
「もう! ・・・本当に、面倒見いいんだから」
うつむき、肩を震わせる糞マネのそれが笑いからだけではないのは明白だが、あえて口には出さない。
ぽつぽつとコンクリートに染みを作るそれを、ぼんやりと眺めた。
握ったままの糞マネの手が次第に熱を帯びてくる。
「糞マネ」
「なに?」
「帰るぞ」
起き上がってその手を引くと、糞マネは覚束ない足取りで立ち上がった。見事に化粧が崩れている。
昼休みはもうすぐ終わる。
「午後の授業はどうするの?」
「今日はさぼる。お前も来い糞パンダ」
途端にさぼりはだめよ、と咎められる。
次いでパンダ? と首を傾げるので化粧崩れを指摘してやると、慌てて手鏡を見て悲鳴を上げている。
糞マネもやっと調子が戻ってきたようだが、まだまだ覇気が足りない。
「そんな寝不足の頭で授業受けたところで頭に入らねぇだろ。いいから着いてこい」
「どこに行くの?」
「俺の家」
途端にびしりと固まった糞マネに、にやにやと笑って見せる。
「俺は怪我人だし、テメーは寝不足。つかの間の安息日といこうじゃねえか糞マネ」
「・・・あ、ど、どういう、こと?」
「何を想像したかは知らねぇが」
そうこまで口にすると糞マネは真っ赤になる。
「今必要なのは休養だろ」
とりあえずは家で一眠り。
そして目を覚ましたら、糞右腕が折れているせいで洗いづらい頭でも洗わせよう。
そう決めた。
「今はな」
だから、お前の想像したことはクリスマスボウルの後だ。

俺の内心を知ってか知らずか、糞マネは赤みの残る頬をそのままに、笑った。


***
6000hitを踏まれたナノカ様キリリク『実は腕を負傷したヒル魔さんの面倒をみてた(みてる)まも姉さん』でした。
折れちゃったから治す、という超ポジティブなヒル魔さんについていけず、フォローはしてみるものの、衝撃を引きずって情緒不安定になるまもりちゃん。結局面倒見てるのどっちさ? という感じで申し訳ないです!
リクエストありがとうございましたー!

ナースまもりちゃんとか色々と浮かんだのですが、エロネタだったので断念したのはココだけの話(笑)
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