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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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天使の逆襲

(ヒルまも)

+ + + + + + + + + +
折れた腕で戦い抜いた高校アメフト関東大会。
泥門デビルバッツは大会を優勝し、夢のクリスマスボウル出場権を手にした。
そのために犠牲になったのは蛭魔妖一の右腕一本。
だけ、というには大きい損失。何せ控えのQBはいないし、その他の選手のにわか仕込みで勝負するには相手が悪すぎる。

優勝後の熱気を未だ抱えたまま控え室へと向かう途中、最後を歩いていたキャプテンとマネージャーはそっと道を外れた。
それに気づいたムサシに視線だけで病院に行く旨を伝えると、セナは、と指が彼の背中を指して問う。
それにはどぶろくが察して軽く手を挙げたので、ムサシはそれ以上問うことをせず皆の後を歩いていく。
多分彼は、共に行って怪我の状況を今は聞かせたくないという二人の心情をちゃんと汲み取った。
意地でもタンカや車椅子の世話にはならないらしい彼の左側に立ち、支えくらいになるつもりでまもりは隣を歩いた。
彼の足取りは勝利の興奮もあってか、試合中よりは多少軽くて、まもりの介添えは必要ないと言わんばかり。
けれど怪我が治ったわけでも、骨を差し替えたわけでもない。
骨折はその衝撃で周囲の細胞も傷つけ、内出血を起こし腫れ上がる。
今もテーピングの下の患部はかなりの熱を持っているはずなのだ。
一刻も早くきちんと骨折箇所を合わせて固定し、冷やさないといけない。
今夜は熱も出るだろう。いや、もう出てるかもしれない。
「どこの病院に行くの」
「城下町」
そういえば以前東京ドームで野球をしたときに岡婦長が来ていた。なにがしかの繋がりがあるのだろう。
「糞マネ、俺の荷物はどうした」
「外にタクシー待たせてるの。そこにもう積んであるわ」
もちろんケルベロスを見張りにしてるわ。法律違反その他の荷物だもの、中身見られちゃ大変でしょ。
そう言うと、彼はごく僅かに嘆息した。
今のは、安堵のため息だ。
滅多に見せない、素の感情。
それにまもりは安堵よりも悲しみよりも怒りがこみ上げた。
通用口を使って東京ドームから出て、タクシーが待っている場所まで歩く。
正面入り口から遠いせいか、回りに人影はない。
インタビュアーたちもきっと控え室の方にいるのだろう。
怒りながらも、他に人がいないのを再度確認してから、私は口を開いた。
「どうしてそんなに自分を犠牲にするの」
「そんなつもりは毛頭ゴザイマセンガネ」
「どの口が言うのよ」
「この口」
べ、と舌を出されて、まもりは自分の脳内で何かが切れた音を聞いた。
「――――そうやって」
「あ?」
「みんなを煙に巻いて、悪魔みたいだって思わせて、満足?」
声が震える。悲しみではなく怒りで。
「試合中は悪魔の司令塔デース」
どうあっても認めないのかとまもりは拳を握りしめる。

こんなに痛い思いをしておいて!
こんなに私に心配掛けておいて!

「ここにいる『蛭魔妖一』は人間でしょ!!」
まもりは目の前の男をキッと睨み上げた。
本当は一発殴ってやりたい。今、どこからともなくモップを出して一撃喰らわせてやりたい。
悪魔ならそれでもいい。
悪魔なら良かった。でも彼は悪魔じゃなくて人間。
そして怪我人。
本当なら歩く事なんて出来ないはずの人間なのだから。
「人間なんだから、痛いとか苦しいとか、試合以外の時には言ってもいいでしょ!!」
「なんでいきなり切れるんだ。カルシウム不足だぞ、糞マネ」
「不足するのはヒル魔くんの方でしょ!! 骨作るのに要るんだから!!」
「論点がずれてるぞ」
「だれがずらさせてるのよ!! だから、腕折ってるのに試合に出るなんて、バカよ、大バカよ!! 許せないッ!!」
「・・・あー、骨に響く姦しさだな。怪我人は労れ」
「これくらいで響きなんかしないくせにそういうことばかり言って!! その腕、そんな風に扱うなら私に寄こしなさいよ!!」
「あ?!」
突拍子のないまもりの発言にヒル魔の目が見開かれる。
「きれいに治すわよ!! 治療が出来るとかじゃないけど、大事に手当して、カルシウム摂らせて、酸素カプセルに放り込むわよ!!」
「おい、糞マネ」
「貴方は人間なんだから!! 替えのきかない、蛭魔妖一っていう人間なんだからぁ!!!」
こんな大声でわめいたのは記憶にないくらい幼い頃から今まで一度もない。
「だから悪魔なんかじゃないんだから! 自分を過信しないで!!」
おもむろにヒル魔の左腕が持ち上げられ、まもりの目尻を撫でる。
「興奮して叫んで泣き出すなんざ、どこの糞お子様デスカネ」
目の前でゆるく苦笑される。こんな柔らかい笑みを見せられたのは初めてだ。
でも、それに流されないで続ける。続けなきゃいけない。
「糞マネ」
その手が私の頭に触れた。その指が熱い。
熱が出ている。
「もっと私を、私たちを、頼って欲しいの!! 私たちは仲間なのよ、ヒル魔くん一人で戦ってる訳じゃないんだから!!」
「―――糞マネ、俺は」
唐突に響いたクラクションが私たちの声を封じた。
視線の先にはタクシー。後部座席にはヒル魔くんと私の荷物。
助手席にはケルベロスが座っている。
運転手はケルベロスの威圧感に憔悴した顔で、こちらに助けを求めるように視線を向けていた。

唐突に頭が冷えた。
そうだ。今は私がこんな風に感情にまかせて叫ぶときではなかった。
一刻も早くヒル魔くんを病院に連れて行かないといけない。

「ごめんなさい! お待たせして」
「いいえ・・・」
引きつった顔でそれでも運転手は後部座席を開いた。先にヒル魔を押し込み、まもりも後に続く。
「保険証持ってるの?」
「必要ねぇ」
「必要ないって、そんなことないでしょう」
「俺が要らねぇっつったら要らねぇんだよ。いいから黙れ、糞マネ」
ふ、とヒル魔の瞼が降りる。
途端に酷く憔悴したような顔になる彼に、まもりは即座に黙り込んだ。
そういえば、彼はなんと言おうとしたのだろうか。
もう一度聞いても、このタイミングでは答えてくれない気がする。


ギプスでがっちり固定された腕を吊って、先ほどまでとは一変して怪我人という風情になったヒル魔に、まもりは問う。
「ね、さっきタクシーに乗る前、なんて言おうとしたの」
「忘れた」
やっぱり、とまもりは嘆息した。
「とりあえずヒル魔くんの家に行こう」
「あ? 着いてくる気か」
「当たり前じゃない。ヒル魔くん、一人で身体拭けるの」
ただでさえ試合の後だ。早く着替えたいだろう。
「シャワーでいいだろ」
「ギプス濡らさないようにしなきゃそれもダメよ。ビニールかなにか被せないと」
「糞ッ、めんどくせぇ」
けれど口ほどではなく軽快に、ヒル魔は逡巡のそぶりを見せず、すたすたと歩き出す。
「ちょっと! どこ行くの」
「お前が言ったんだろ。家に帰る。その前に飯」
固定されただけで随分と元気そうに見えるから不思議なものだ。
そして素直にまもりを伴って自宅に戻るというヒル魔の発言に虚を突かれる。
「なにせ頼って欲しいと駄々捏ねられたからなァ」
「え?」
「お前は従順な労働力だ、こき使ってやるぜ糞マネ」
振り返った顔はいつも通りのにやりとした顔だったけれど。
どこか余分な力が抜けたように見えて、まもりは穏やかに笑った。
「望むところよ」

***
これくらいまもりちゃんには怒って自己主張して欲しかったという願望が多分に含まれてます。
自分で書いておいて何ですが、こんなに素直なヒル魔さんはヒル魔さんじゃない気がしてなりません・・・!
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