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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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子猫に告ぐ

(ヒルまも)
※ブラックまもりちゃん降臨。

+ + + + + + + + + +
爽やかな朝の空気が、段々と冷たく引き締まっていく今日この頃、それでもまもりは背筋をピンと伸ばして颯爽と歩いていた。
学校側まで歩いていると、後ろからセナとモン太が追いついてきた。
「おはよう、まもり姐ちゃん!」
「おはようございまーッス、まもりさんっ!!」
「おはよう、セナ、モン太くん」
ムキャー今日もまもりさんは美しい、と瞳を輝かせる少年に、まもりの顔は自然と綻ぶ。
弟みたいで可愛いわ、という台詞はいつも唇の裏側まで上ってくるのだが、この少年の夢を砕くのは本意ではない。
学校に着くと、もうガシャーン、とラインが練習している器械の音が響いている。
ライン師弟のこの音はもう早朝の風景の一部になっている。
「今朝は走り込み中心で練習するって昨日ヒル魔さん言ってたよね」
「そうね、40ヤード走の測定もするみたいだし」
「ま、まままもりさん俺、まもりサンに向かって走りますから!!」
「そうね、ちゃんと計るからまかせておいて!」
そ、そうじゃなくて、となおも続けようとするモン太をセナがロッカールームへと連れて行く。まもりは軽く二人に手を振ると、部室へと足を向けた。
ドアを開くと、そこには既にヒル魔がユニフォーム姿でパソコン画面を覗き込んでいた。
「おはようヒル魔くん。相変わらず早いのね」
ちら、と視線だけこちらに向けるヒル魔を気にすることなく、まもりはコーヒーを淹れるべく準備にとりかかる。
もうこの早朝にヒル魔を見ることに慣れてしまった。最初は悪魔みたいな人なのに夜ではなく朝に活動するなんて、とよく判らない憤りを感じたものだが。
数を重ねるうちに一番ヒル魔が好む濃度を手が覚えてしまった。やや濃いめに落とされたコーヒーをカップに注ぎ入れ、ヒル魔の前に置く。
「どうぞ」
「ん」
短くても返事があるだけ進歩したものだとつくづく思う。
本当にこの男は常識的な人付き合いというものをしない。
知らないのではなく知っていてあえてやらないのがまた腹立たしい。そしてそんな心情を余さず彼は逆手に取っていく。
そうやって勝ち抜き、生き抜いてきたのだと安易に知れる外見も、見慣れてしまえば子猫の威嚇のようで微笑ましい。
そう。
まもりにとって、もうこの悪魔は脅威ではないのだ。
「あ、ヒル魔くん、背中にゴミついてるよ」
言いながらヒル魔の背についていたゴミを、手を伸ばしてつまみ上げる。わざと肩に手を乗せ、身を乗り出すようにして。
「……チッ」
途端にタイプミス。カチャカチャとデリートキーを押す仕草に幽かな焦りを見る。
まもりは一連のことに気づかないふりをしながら、自分用に淹れたカフェオレを手にヒル魔の斜め前に座る。
朝練の前に、時間があればヒル魔が前日に打ち込み、朝打ち出したデータのファイリングをする。
極力無駄な時間を作らないように水面下の白鳥よろしく動くヒル魔のサポートがまもりの仕事だ。
「そうそう、ヒル魔くん。今日は私早く帰らなきゃいけないの」
「あ? この忙しいのになに抜かすか、糞マネ」
「こないだ現社の授業でやった新聞作成、明日提出なんだけど資料が足りなくて。中央図書館行きたいのよ」
「そんなもん放っておけ」
「私一人のじゃないもの。グループのみんなに迷惑掛かっちゃうし」
ぎろ、と威嚇するようにこちらを見られてもこれは譲れない。
「…お前、何の担当やってんだ」
面倒そうにパソコンを叩く速度を落としたヒル魔に、まもりはきょとんとする。
「え? 中国の農村の…」
まもりの説明を受けてヒル魔はカタタタッとパソコンに何かを打ち込み、画面をこちらに向けた。
「ほれ」
「わ! すごい!」
向けられた先にはまもりが欲しかった資料画像。ふん、と鼻を鳴らして席を立つヒル魔は「朝練は免除してやる。それやって放課後は残れ」と言ってグラウンドへ向かった。
まもりはありがたく資料を閲覧しつつ新聞を完成させるべくペンを走らせる。
「それにしても、素直じゃないんだから」
まもりはくすくすと笑いながらパソコンをつつく。
二人でいられる時間が一番長いのは、練習後の練習メニュー作成や消耗品の在庫チェック等の雑用を部室で行っているときなのだ。
何が切っ掛けは知らないが、ヒル魔がこちらを憎からず意識しているというのは結構前に気が付いた。
そうと判ればわざと近くに行くように側に立ち、隙あらば触れるように振る舞ってみるのは非常に楽しかった。
逆にヒル魔がどうにかまもりと距離をおこうときつく当たってきたときに言葉通り素直に距離を置けば、今度は不安になるらしく近寄ってくる。
まるで野良猫を手懐けているようだ。それも子猫。
猫は1才で人間で言うところの17才だというから、あながち外れていない気がする。
「まあ、当人もどうにかしたいとは思ってるみたいだけど」
部室で二人きりの時に無関心を装いつつも時折こちらを見つめる眸にいつまで気づかないふりをしようかとまもりは思案する。
「とりあえず、アメフトを側にいる理由にしなくなったら、かしらね」
ふふ、と天使の微笑みでまもりはそう言うと、作業を終えてパソコンに手を伸ばす。
パソコン内のフォルダをざっと検索して、実害が少なそうなフォルダと、自分の名前が入ったフォルダを中身も見ずに消去する。
本当に重要なモノならきっとバックアップはとってあるだろうし、そもそもここに入れないだろう。
パソコンに弱かったのは少し前まで。努力家勉強家の姉崎まもりを甘く見る無かれ。
「こんな回りくどい方法じゃなくて、正面切って言ってきたら考えてあげてもいいわ」
あくまで尊大に、上位に立った者の口ぶりでまもりは呟く。
恋愛は惚れられた者が勝ちなのだ。
いつの世も、それが常識。
まもりはパソコンをそのまま適当にいじり、幾つも画面を展開させて強制的にフリーズさせる。そしてあたかも今それをしでかした、という風情でヒル魔の元に駆け出した。スカートを翻し、全速力で、あの素直でない人の所へ。
「ヒル魔くん! ごめんなさい、パソコンの電源落とそうとしたら何か変なところ触っちゃったみたいで動かないの!!」
「あぁ?! 何やってやがんだ糞マネ!!」
ごめんなさいごめんなさいと言いながら、まもりはヒル魔のユニフォームに縋りついて、その余裕のない顔を見つめる。
いつもフィールドの上じゃ冷静沈着、焦っていても決して綻ばない仮面がこのときばかりは脆くも崩れ、嬉しいような悲しいような複雑な表情を浮かべる。
「なんか見たか?」
「ううん、資料見た後はどこ押せばいいのか判らなかったから、適当にクリックしてたんだけど」
「ホー」
何か消えちゃマズイものでもあったの? と小首を傾げて見上げれば忌々しそうな舌打ち一つ。
そしてそれは情報処理過多になってフリーズしたパソコンを見て更にもう一つ飛び出した。


ごめんね、ともう一度囁いた私の背には天使の羽があるとして。
その羽は猛禽類のそれなのだと知らない貴方ではないでしょう?
せいぜい強がるといいわ、子猫ちゃん。

狩りはこれからよ。

***
相互リンク先『D-loved』管理人maru様に拙作を捧げさせて頂こうとリクエストをお伺いしましたところ、【恋人未満でまもりにベタ惚れだけど上手くいかないヒル魔さんと、 気付いてるけど敢えて知らないフリをして翻弄するまも姐】というご希望でした。えー…達成できているでしょうか。ヒル魔さんを子猫ちゃん呼ばわりするブラックまも姐は書いていて楽しかったです。新境地!!
maru様、相互リンクありがとうございましたー!よろしければどうぞお持ち帰り下さいませ!!
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