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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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偉大なる遺伝子

(ヒルまも一家)

+ + + + + + + + + +

息が上がる。
汗が滴る。
でもリズムは変えず、一定に。
物心着く頃から、走るのは好きだった。
長く伸ばした黒髪をお下げにして走る姿はスポーツ好きの女の子としては悪目立ちだが、こればかりはしょうがない。
一通りいつものコースを走り終えて家に戻ると、先に帰っていたらしい弟の妖介の顔が目の前に。
母親譲りの茶髪で顔つきは父親そっくり。その顔が柔らかく微笑んだ。
「おかえり、アヤ。コーヒー飲むでしょ」
「うん」
そしてひょっこりと顔を出す母親の顔も優しく微笑んでいる。
「その前にシャワー浴びてきなさいね」
「ん」
シャワーを浴びに向かう途中、起きてきたもう一人の弟である護がこちらに駆け寄ってきた。黒髪の頭が寝癖も混じって爆発状態だ。
こちらは完全な母親似の顔つき。髪と目は真っ黒で父親似らしいが、父親がこの色なのを生まれてこの方見たことはない。
「お帰り、おねーちゃん!」
返事の代わりに頭を撫でてやる。

シャワーから出てきて身支度もそこそこに、新聞片手にコーヒーを飲む。
「アヤちゃん、お行儀悪いわよ」
何度言われてもこれは直らないので、一応咎めるだけになっている母親に視線を返す。
「本当にそこはお父さんと同じなのよね」
「アヤの顔は母さん似だよね。目も青いし」
呆れたような母の声に弟の声が被る。
それにしても、と母親はため息をついた。
「お父さん何処行ったのかしら」
「さー。せっかく一家揃ってわざわざアメリカから帰ってきた位だから、なんかやることあるんだよね」
「そうよね~、二人とも高校入試に間に合って良かったわよ」
「おかーさん、ぼくもう一個パン食べる」
「あらそう? じゃあ追加で焼くわね」
家族四人の和やかな食卓にあまりそぐわない電子音が響く。
「ん、父さんだ」
「何かしら?」
「もしもーし。・・・はい、うん。あ?」
「妖介の声は本当にお父さんそっくりね」
「ぼくもああなるかなー」
「どうかしらね?」
下の弟は小学生だ。上の二人とは3才離れている。
「あーそう? うん、判った。じゃ」
ピ、と電話を切って妖介はアヤを見る。
「なんかアヤと一緒に外に出ろって」
「あらそう。アヤ、その格好でいいの?」
来ているのは黒のジャージ。それに異論はなくこくりと頷く。妖介も似たようなモノだ。
「じゃあ早く行った方がいいわね。じゃないと…」
言い終わる前に銃声が響く。まもりはこめかみに指を当てた。
「・・・あの人にここは日本で貴方は法律違反者だって言ってくれる?」
「俺が言っても聞かないよ。母さんが後で言っておいて」
「ぼくが言ってこようか?」
「護は危ないからだめよ。お父さんより背が大きくなったら挑戦しようね」
「うん!」
「じゃー俺たち行ってきます」
「「いってらっしゃーい」」
よく似た顔二人に見送られ、外を出たところで。

勢いよく、暗転。


そして気が付けば見慣れない場所で二人して横たわっていて。
先に気づいていたアヤが起きあがって周囲を伺っていた。
そのままの体勢で、妖介が口を開く。
「・・・俺さあ、あの二人の子として生まれたにしちゃ随分寛容だと思うんだよ」
「そうね」
「でもさ、これはないんじゃないかな」
「うん」
「そりゃさ、あの父さんの子で、顔はそっくりだけど、別にクローンって訳じゃないし」
「ええ」
「そもそも父さんはあの年で金髪にして髪立ててるスタイルをずーっっっっと変えてないていうのも最早おかしい」
「そう」
「まあ俺はいいよ。なんとなく想像ついたっていうか、高校を無理矢理あそこにされた段階で選択肢はなかったかな、って」
「まあね」
「でもさあ! なんでアヤまで金髪にされてるかってことを向かい合って正座して小一時間問いつめたいんだよ俺は!」
そこで妖介はがばりと身体を起こした。
その勢いのまま目の前の椅子に詰め寄った。
「だから聞けよ、人の話!!」
「アヤと会話してたんだろ」
そこに腰掛け銃を手入れする男が一人。言わずと知れた蛭魔妖一その人だ。
「アンタにも言ってたんだよ、父さん!!」
「アーすまないな、最近耳が遠くて」
「どの口がほざきやがる!!」
「日本の高校大会は女でもアメフトできるしな」
「・・・やっぱ狙いはそれか糞オヤジッ!!」
「おー久々聞いたなお前のそれ」
「俺は汚い言葉遣いなんてしたくないんだよ! まるっきり父さんみたいだし似たくないし!」
「偉大な遺伝子に感謝しろよ」
「しない! アヤも文句言えよ!」
「別に異論ないよな。お前が本気で抵抗したら俺だって手こずるしなぁ」
「・・・えー、アヤ?」
ちらりとアヤが視線を寄越すと、父親は楽しそうに、弟は顔を盛大に顰めた。
「ほらな」
「あーあ。さようなら俺の平凡な人生・・・」
がっくりと肩を落とす弟の側に歩み寄り、肩を叩くアヤの足取りは軽い。
「お前ら、その髪型は変えるなよ。秋大会まで隠すからなァ」
「うん」
「アヤ」
妖介の顔がこちらを覗き込む。その顔がへろんと崩れた。
「あ、やっぱりアヤは金髪似合うね」
「俺の娘だ、当たり前だろ」
「そりゃ俺に言うべき台詞でしょ。父さんと同じ顔なんだから」
「お前は論外だ」
「なんでだよ!」
かなり上の位置から文句を言う息子相手に父親はそれを見上げつつにやにやとした笑みを崩さない。
そんな二人を眺めて、アヤはこの日初めて口角を上げた。


そして泥門高校の入学式当日。
なぜだか例年以上に張りつめた空気に誰もが落ち着かなかったり、気弱な校長が祝辞の途中に卒倒しそうになる一幕があったりと、波乱含みな予感がひしひしと押し寄せ。
十数年ぶりに校庭で響き渡った銃声に、語り継がれていた伝説の悪魔再来を知ったアメフト部の部員たちは、今後の惨劇を容易く思い浮かべ。
一様に嬉しいような怖いような引きつった表情を浮かべたのだった。

***
想像してください。よく笑ってよく喋る外向的で姉に甘くへらっと笑うヒル魔さんを。
うわああ怖いー!自分で書いておいてなんですがすごく怖いこの子!でも髪を立てず下ろして耳も普通ならちょっと目つき悪い人とだけ認識されないかな・・・と思って作ったんですけどね。おお怖。最初姉は鉄馬ばりに口を利かなかったのですが、そりゃなかろうとちょっと喋って貰いました。最大三文字で精一杯らしい。

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