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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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アウトライン(下)


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大型ショッピングモールでの、久々の脅迫手帳の登場にまだそれを持っていたのか、と呆れ怒るまもりを従え、ヒル魔はさくさくと買い物を終えて再び車に戻った。
「次はどこに行くの?」
「グラウンド」
その一言でまもりは理解する。
シーズン開始直前、練習に余念のない日々を過ごすはずのこの期間。
ヒル魔はまもりの到着に合わせて休んだのだろうが、グラウンドではチームメイトが練習をしているはずだ。
まもりがスポーツドクターとして働くのなら尚更チームメイト達との顔つなぎが必要だろう。
車から降り、ヒル魔について向かった先は、ロッカールームと併設して建つ施設だった。
『あれ、ヒル魔? 今日休みだったんじゃないの?』
事務員らしき男性がひょっこりと顔を出す。
どことなく栗田を思い出させるような巨漢だ。
『新しいドクターを連れてきたぞ』
『え、それってこないだ言ってた日本から呼び寄せたっていう人?』
どこ? ときょろきょろ周囲を見る彼に、まもりはヒル魔の隣からおずおずと声を掛ける。
『あの・・・私が、そうです』
その声に目を丸くし、彼はまもりを見下ろした。
『こんなに若い女の子が!? ちょっとヒル魔、何冗談言ってるんだよ!』
『アホか。コイツは俺と同じ年だぞ』
『ええー!? 冗談でしょ?! こんなに綺麗な子なのに!』
『どういう意味だ、コラ』
二人の会話にまもりは苦笑する。
『本当です。私の名前は姉崎・・・』
「ヒル魔だろ」
ヒル魔のツッコミにまもりははにかむように笑って言い直した。
『あ、・・・ヒル魔、まもりです』
よろしくお願いします、と頭を下げるまもりに男性の声はない。
どうしたのだろう、と顔を上げると、男性は目を見開き、口をぱくぱくとさせている。
『も、もしかして・・・奥さん、なのかい?!』
『? ええ、そうです』
つい半日前から、という一言を内心で呟くまもりに、彼は大仰に頭を押さえる。
『~~~なんてこった! こんなに綺麗な子が来てくれたと思ったらもうヒル魔のお手つきなのかい!』
神様は残酷だ、という嘆きにまもりは戸惑いヒル魔を振り返った。
彼は肩をすくめる。
「ここの連中は大概女に餓えてんだよ」
「そ、そうなの?」
「見ろ」
ホレ、と見せられたのは一日のタイムスケジュール。
その半端なく詰め込まれた練習メニューにまもりは目を丸くした。
「・・・え・・・これ、毎日?」
「そうだ」
絶句するまもりが目にしているタイムスケジュールでは、朝から晩までみっちりと練習漬けになっている。
毎日がこれだというのなら、日々デスマーチさながらなのだろう。
「下っ端の選手は寮生活だし、たまの休みも外に出るような元気のある奴はいねぇ」
だから女と接する機会はほとんど無いのだ、と言われてまもりも納得する。
アメフトという競技の性質上、女性が近くにいるのは試合中のチアリーディングくらいのものだろう。
それならば手近に女性がいれば声を掛けたくなるのかもしれない。
「俺もリズムが取れるようになるまで結構掛かった」
「そうなんだ・・・」
要領のいいヒル魔でさえ【結構】と言わしめる時を掛けて慣れたのか。
大丈夫だろうか、と不安を見せるまもりの頭をヒル魔が撫でる。
「テメェは四六時中選手と一緒にいるわけでもねぇし、ここで診るのは大概が怪我人だ。病人はまずいねぇ」
「え、でも・・・」
スポーツドクターなのにそちらはいいのか、というまもりの声にヒル魔はぴんと片眉を上げる。
「テメェがフルでサポートするのは俺のことだけでいい。普段はここの救護室で待機だ」
「ええ?!」
なんで、という前に、巨漢の男が割って入る。
『今日は事務の方も全員が揃ってないからバラバラになるけど、これから一緒に仕事することになるから今いる人だけでも先に挨拶しようね』
『はい』
すっと手を差し伸べられる。
『まずは僕から。ランフォード・ジェイソン。ラルフって呼んでね。僕はまもりさんと呼ばせて貰っても?』
『ええ、勿論。よろしく、ラルフさん』
それから順々に建物内の事務員達と挨拶を交わす。
誰も彼も親しげに声を掛けてくる雰囲気が暖かく、まもりはほっと胸をなで下ろした。
明日から勤務する救護室の備品をチェックし、細々したカルテの引継は明日以降ということになった。
ヒル魔に伴われ、明日からよろしく、という声に手を振ってまもりは施設を出る。
そのまま皆が練習してるだろうグラウンドの方に向かおうとするまもりの手を、ヒル魔が引いて連れ戻す。
まもりは小首を傾げてヒル魔を見上げた。
「チームメイトの人たちには?」
「テメェから声掛ける必要はねぇ」
「なんで?」
素っ気ないヒル魔の声にまもりは首を傾げる。
「サポートにはチームのコーチやトレーナーがつくんだよ」
だから個別のメニューを作る必要も、アドバイスも必要ない。
必要なのはあくまでも傷病者の手当のみ。
それにまもりの顔が曇る。
「そんな・・・。それじゃ私、何のために・・・」
日本で培ってきた専門的な知識が生かせない、とまもりは呟く。
「だから俺専属だっつったろ」
「チームと契約してるのに?」
「それはチームドクターとしての契約だ」
ぐい、とまもりを引き寄せてその肩を抱く。
「俺には専属トレーナーもコーチもいねぇ。その分をテメェが見ろ」
まもりはじわりと頬を赤くする。
「・・・ヒル魔くん、もしかして甘えるのが上手になった?」
「アァ?!」
予想外の言葉に、ヒル魔は声を上げる。
「昔だったら、そういうこと絶対言わなかったんじゃないかなぁ、って」
虚勢を張り続け、絶対に隙を見せないというある意味悲壮感さえあった高校二年の八ヶ月間を思い返す。
その隣に立ちながら、あの時には最後まで彼の弱みを本当の意味で見せて貰えなかったから。
こんなに判りやすく居場所を示されるとは思ってもみなかったのだ。
まもりは少々躊躇いを見せながらも彼の上着の裾に捕まる。
ヒル魔はピンと片眉を上げた。
「あの時から何年経ってると思ってんだ」
「そっか」
まもりは、離れていたこの数年間を思う。
同時に、彼がこの腕に抱いたことのあるだろう他の女性のことも。
「その分成長したっつーことだろ」
ヒル魔はまもりの手を上着から放させると、自らの腕に捕まらせる。
「え?」
見上げるまもりに、にやりと笑みを浮かべて。
「生憎とプロになるのに忙しくて、女に現を抜かす暇がなくてナァ」
「・・・ヒル魔くんなら両立出来そうだけど・・・イタッ!」
思ったままに口にすれば、ぺちんとおでこを叩かれる。
「毎日デスマーチ状態の俺が、か?」
あの状況を見ていてそう言えるのか、と問われてまもりは口をつぐむ。
確かにあの時はただ走り、ただ進むことだけを考えて、衣食住は最低限のことしか興味を払われなかった。
それが毎日続いていたのなら、いかなヒル魔といえども余暇を創り出すのは並大抵ではないということか。
でも、あれだけ極限状態に近くても多角的に動ける彼が?
そう思っているのが顔に出たのだろう。ヒル魔は彼女を引きつれ車に戻る道すがら、口を開いた。
「勿論、全部が全部アメフトの練習だけで過ごしてた訳じゃねぇ」
「やっぱり」
「だから女に現抜かす暇なんざなかったっつってるだろ」
胡乱な視線を向けられたヒル魔は口角をつり上げる。
「ちゃんと見せてやるよ」

それから連れて行かれた先は、こぢんまりとしたビルの一角だった。
小さなオフィスにはいくつかデスクとパソコン、大きな電子機器があるばかりで、人影はない。
けれど雑多に積まれた書籍や散乱する書類から人の気配はする。
「ここは?」
「ここは俺の仕事場だ」
「仕事・・・」
落ちていた書類を一枚拾い上げる。そこにはまもりにとっては訳のわからない数字や言語が並んでいる。
「今日は休みだが、従業員は六人。徐々に増やす予定だ」
「コンピューター関係の仕事?」
「おー」
まもりはぐるりと室内を見回す。
「いくら鍛えても、俺自身の能力はもう頭打ちだ」
静かな声に、まもりは振り返った。
入り口に立つ彼は、まもりからやや離れた位置からごく静かに言葉を綴る。
「あと何年アメリカでプロのフィールドに立てるか判らねぇが、そう長くはないだろう」
密やかな告白に、まもりはじっと耳を傾けた。
「それまでに俺は絶対スーパーボウルへ行く。そして―――」
苛烈な光を宿した眸が真っ直ぐにまもりを射抜く。
「社会人アメフトで、『日本』が『アメリカ』に勝つのを見届ける」
まもりはただぱちりと瞬いた。
彼のサポート、彼の仕事、彼の夢。
全てを隠さずにまもりに晒した、彼。
おそらく、その全てを任せられるのはまもり一人と言いたいのだろう。
まもりはきつくその手のひらを握りしめる。
頬が上気するのを止められない。
「それは・・・随分、私のことを買ってくれてると理解していいのかしら」
ヒル魔はにやりと笑う。
「存分に自惚れろ」


そして二人は共に生活する部屋へと再び戻り。
まもりの呼び方が『ヒル魔くん』から『妖一』へと変わるのまでに、またしばらく時間が掛かったのだった。


***
まっぴ様リクエストの話の前フリだけになってしまいました。この先は後日続けるのでもう少々お待ち下さい。
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