旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
ヒル魔がたった一言『アメリカに行く』と言って姿を消した。
だから、まもりは心密かに彼が二度と帰ってこないのではと危惧していた。
どこか俯き加減のまもりに気づいて声を掛けてきたのは、ムサシ。
その経緯を聞かされて彼は不思議そうに首を傾げた。
「ん? ヒル魔がそう言ったのか?」
それにまもりは頷く。
「・・・アメリカに行く、ってだけ言ったの」
「そうか」
その他は何も、と口を閉ざすまもりの肩をムサシは軽く叩く。
「あいつが本気であっちに永住するならもっと違う風に行動しただろうな」
「そう?」
「ああ。アイツが黙って何かやるなんてもう無理だ」
ムサシは笑みを浮かべる。それは幼子をあやすような、随分と穏やかなものだ。
「特に姉崎に言ったのなら尚更だろう」
「え?」
目を丸くするまもりに、ムサシは何を今更、という顔をした。
「お前達は付き合ってるんだろう?」
そして、部室からムサシが退出した後。
「ち、ち、違――――――――う!!!」
やや遅れてからまもりの金切り声が響いた。
それから日を置かずやってきた高校アメフトの東西理事と、帝黒学園の大和と鷹の四人が泥門高校を訪れ、その理由を聞かされて。
そこでやっと初めてヒル魔が何のためにアメリカに言ったのかが知れる。
今回開催されるのは、本場アメリカでのアメフト・ユース・ワールドカップ。
彼はいち早く偵察に行ったのだ。情報命の彼らしい。
お土産に、と四人を代表して大和が持ってきてくれたシュークリームをお茶請けに準備し、四人にコーヒーを淹れる。
ここのところ使ってなかったので豆が湿気ってないか気にしていたが、問題ないようだった。
「手伝おう」
「あ、大丈夫です。どうぞ座っていて下さい」
シュークリームを載せたお盆を手にカウンター側から出ようとするまもりの前に、大きな人影が立ちはだかる。
大和だった。彼は笑顔を浮かべてまもりの手からお盆をひょいと取り上げてしまう。
「あ」
「二人でやった方が早いよ」
まもりは戸惑う。あまり受け慣れないいわゆるレディ・ファーストの行為だ。
客なので手を煩わせたくないのだが、彼の言い方は柔らかいが押しが強く断れる雰囲気ではない。
仕方なくまもりは頷く。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
にっこりと笑う彼の笑みは悪意などなく、爽やかだ。
コーヒーを温めておいたカップに注ぎながらまもりはアメリカにいるだろう彼を思う。
偵察ならそう言っていけばいいのに。
僅かに苛立ち、コーヒーサーバーを持つ手が震えた。シンクに滴ったそれを、嘆息して拭き取る。
彼はいつも肝心なことを誰にも告げずに行動してしまう。
それを汲み取ってフォローできればいいが、できなければ彼はいつまでも一人で走り続けることになる。
あれほど熱望し狂気と紙一重な執着を見せたクリスマスボウルも決着した以上、もう彼が一人で全部背負い込む必要などないのだ。
ヒル魔は実質これでアメフト部を引退することになる。
春大会があるとはいえ、彼らが秋大会に出られないのであれば。
全国大会の舞台に再び挑むためにも、新たに獲得する部員達を鍛える必要がある。
そのためには実践が一番の練習になる。
そこにヒル魔が選手として立つ理由は、もうなくなるのだ。
これからは彼も彼のためだけに動くべきだ、と思った。
だが、そこでまもりは同時に気づく。
それはただのマネージャーであるまもりに告げるべき内容でもない。
ヒル魔に言えばきっとこう答えるだろう。
『なんでテメェにそこまで言う必要がある?』
・・・そう言われてしまえば、もう、まもりがヒル魔に口うるさく言う必要などどこにも、ない。
まもりは気を取り直し、カップとソーサーを載せたお盆を持ってカジノ風の内装に目を瞬かせていた東西の理事、鷹、そして大和に給仕する。
「どうぞ」
「ありがとう」
差し出したカップを受け取る大和は笑顔でカップに口を付ける。
美味しい、と素直に褒められ自然と笑みになる。
「こんなに美味しいコーヒーが飲めるなんて、泥門のみんなが羨ましいね」
それにまもりは曖昧に笑う。
このコーヒーメーカーで淹れるコーヒーを飲むのはヒル魔とまもりくらいなのだ。
正確にはまもりはカフェオレだけれども。
そんなまもりを見上げて大和は口を開く。
「名前を聞いてもいいかな?」
「姉崎まもりです」
「まもりさんか」
躊躇いなく下の名を舌に載せて、彼は続けた。
「まもりさんは今、好きな人はいる?」
「え?!」
何故突然そんな質問を、と疑問符を顔に貼り付けたまもりに、大和は爽やかな笑顔を向ける。
「いないのなら、俺が恋人に立候補しようと思ってね」
その言葉にまもりは硬直する。
「おいおい、随分唐突じゃないか」
隣で喋っていた西の理事長、本庄が目を丸くする。
隣では東の理事長も同様の顔をしていた。
少ないとはいえ公衆の面前で大胆なことを、と。
「恋はいつだって唐突なのさ」
けれどしれっと言って笑う大和に、まもりは困ったように口を開く。
「冗談はやめて下さい」
年上の、しかも他校のマネージャーにそんな冗談を言うもんじゃない、と言外に匂わせてまもりはサーバーを戻すべく踵を返した。
しかし、その背後を大和が追う。
「俺は本気だ。考えてみてくれ」
まもりはちらりと肩越しに視線を向ける。
真っ直ぐに向けられる視線は真摯で、冗談ではなさそうだ。
「クリスマスボウルの時に見かけてからずっと気になっていたんだ」
「え・・・」
「こちらに来ることになった時、真っ先に浮かんだのは君の顔だ。こうやって会えて、凄く嬉しい」
「っ」
衒いのない言葉に、まもりはじわりと頬を赤くした。
それが羞恥か喜びかは咄嗟に判じられない程混乱する。
忙しなく動く視点に、彼女が相当混乱していることを察した大和は、携帯を差し出す。
「連絡先を。結果はともかく、答えが欲しいんだ。勿論いい返事が一番だけどね」
軽い口調で笑みを浮かべる彼に、まもりは相当逡巡したが結局携帯電話を差し出した。
赤外線通信で送られた情報がディスプレイに表示される。
「待ってるよ」
爽やかに手を振って自席に戻る彼に、何一つ返せずまもりは立ちつくす。
サーバーに落ちる雫の音が、酷く耳について仕方なかった。
思わぬ珍客の騒動は、その後にやって来た。
登校してきて教室に入った途端、目を輝かせたアコと咲蘭に囲まれたのだ。
「あ、まも!」
「ねえねえ、これ見て!」
ばさ、と月刊アメフトを目の前に広げられたまもりは目を丸くする。
「どうしたの、これ」
「どうしたのって! やだ~、まも!」
「昨日来てたんでしょ?! この『彼』!」
指さされたのは大和の姿。特集を組まれたのだろう、見開きで彼のデータが載っている。
アメフトの事で話題を振られるとは思っていなかったまもりは頷く。
「あ、うん。今度アメリカで世界大会やるんだって・・・」
「そういうことじゃなくて!」
すぱん、とまもりの言葉は切り落とされる。
「いいなあって思わないの!?」
「すごくカッコイイじゃない!」
「まもと並んだら美男美女でお似合いだって!」
きゃー! と声を上げて騒ぐ二人を前に、まもりは困惑する。
騒ぎを聞きつけた別の女子まで混ざる始末。
彼女らも口々にまもりに尋ねる。
「せっかく関西から来たんだし、挨拶ついでに連絡先聞いたりとかしなかったの?」
「凄く優しく接してくれたんじゃない?」
「彼氏にするならああいう人がいいって思わないの?」
「いっそ付き合っちゃえばいいのに!」
わあわあと騒ぐ彼女たちの耳に、予鈴が響く。
「ほ、ほらほら、授業が始まるわよ」
「あっ! 今日一限目英語だったっけ?!」
「ヤバー、あたし当たるんだって!」
蜘蛛の子を散らすように解れた面々に、まもりは細く嘆息した。
<続>
だから、まもりは心密かに彼が二度と帰ってこないのではと危惧していた。
どこか俯き加減のまもりに気づいて声を掛けてきたのは、ムサシ。
その経緯を聞かされて彼は不思議そうに首を傾げた。
「ん? ヒル魔がそう言ったのか?」
それにまもりは頷く。
「・・・アメリカに行く、ってだけ言ったの」
「そうか」
その他は何も、と口を閉ざすまもりの肩をムサシは軽く叩く。
「あいつが本気であっちに永住するならもっと違う風に行動しただろうな」
「そう?」
「ああ。アイツが黙って何かやるなんてもう無理だ」
ムサシは笑みを浮かべる。それは幼子をあやすような、随分と穏やかなものだ。
「特に姉崎に言ったのなら尚更だろう」
「え?」
目を丸くするまもりに、ムサシは何を今更、という顔をした。
「お前達は付き合ってるんだろう?」
そして、部室からムサシが退出した後。
「ち、ち、違――――――――う!!!」
やや遅れてからまもりの金切り声が響いた。
それから日を置かずやってきた高校アメフトの東西理事と、帝黒学園の大和と鷹の四人が泥門高校を訪れ、その理由を聞かされて。
そこでやっと初めてヒル魔が何のためにアメリカに言ったのかが知れる。
今回開催されるのは、本場アメリカでのアメフト・ユース・ワールドカップ。
彼はいち早く偵察に行ったのだ。情報命の彼らしい。
お土産に、と四人を代表して大和が持ってきてくれたシュークリームをお茶請けに準備し、四人にコーヒーを淹れる。
ここのところ使ってなかったので豆が湿気ってないか気にしていたが、問題ないようだった。
「手伝おう」
「あ、大丈夫です。どうぞ座っていて下さい」
シュークリームを載せたお盆を手にカウンター側から出ようとするまもりの前に、大きな人影が立ちはだかる。
大和だった。彼は笑顔を浮かべてまもりの手からお盆をひょいと取り上げてしまう。
「あ」
「二人でやった方が早いよ」
まもりは戸惑う。あまり受け慣れないいわゆるレディ・ファーストの行為だ。
客なので手を煩わせたくないのだが、彼の言い方は柔らかいが押しが強く断れる雰囲気ではない。
仕方なくまもりは頷く。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
にっこりと笑う彼の笑みは悪意などなく、爽やかだ。
コーヒーを温めておいたカップに注ぎながらまもりはアメリカにいるだろう彼を思う。
偵察ならそう言っていけばいいのに。
僅かに苛立ち、コーヒーサーバーを持つ手が震えた。シンクに滴ったそれを、嘆息して拭き取る。
彼はいつも肝心なことを誰にも告げずに行動してしまう。
それを汲み取ってフォローできればいいが、できなければ彼はいつまでも一人で走り続けることになる。
あれほど熱望し狂気と紙一重な執着を見せたクリスマスボウルも決着した以上、もう彼が一人で全部背負い込む必要などないのだ。
ヒル魔は実質これでアメフト部を引退することになる。
春大会があるとはいえ、彼らが秋大会に出られないのであれば。
全国大会の舞台に再び挑むためにも、新たに獲得する部員達を鍛える必要がある。
そのためには実践が一番の練習になる。
そこにヒル魔が選手として立つ理由は、もうなくなるのだ。
これからは彼も彼のためだけに動くべきだ、と思った。
だが、そこでまもりは同時に気づく。
それはただのマネージャーであるまもりに告げるべき内容でもない。
ヒル魔に言えばきっとこう答えるだろう。
『なんでテメェにそこまで言う必要がある?』
・・・そう言われてしまえば、もう、まもりがヒル魔に口うるさく言う必要などどこにも、ない。
まもりは気を取り直し、カップとソーサーを載せたお盆を持ってカジノ風の内装に目を瞬かせていた東西の理事、鷹、そして大和に給仕する。
「どうぞ」
「ありがとう」
差し出したカップを受け取る大和は笑顔でカップに口を付ける。
美味しい、と素直に褒められ自然と笑みになる。
「こんなに美味しいコーヒーが飲めるなんて、泥門のみんなが羨ましいね」
それにまもりは曖昧に笑う。
このコーヒーメーカーで淹れるコーヒーを飲むのはヒル魔とまもりくらいなのだ。
正確にはまもりはカフェオレだけれども。
そんなまもりを見上げて大和は口を開く。
「名前を聞いてもいいかな?」
「姉崎まもりです」
「まもりさんか」
躊躇いなく下の名を舌に載せて、彼は続けた。
「まもりさんは今、好きな人はいる?」
「え?!」
何故突然そんな質問を、と疑問符を顔に貼り付けたまもりに、大和は爽やかな笑顔を向ける。
「いないのなら、俺が恋人に立候補しようと思ってね」
その言葉にまもりは硬直する。
「おいおい、随分唐突じゃないか」
隣で喋っていた西の理事長、本庄が目を丸くする。
隣では東の理事長も同様の顔をしていた。
少ないとはいえ公衆の面前で大胆なことを、と。
「恋はいつだって唐突なのさ」
けれどしれっと言って笑う大和に、まもりは困ったように口を開く。
「冗談はやめて下さい」
年上の、しかも他校のマネージャーにそんな冗談を言うもんじゃない、と言外に匂わせてまもりはサーバーを戻すべく踵を返した。
しかし、その背後を大和が追う。
「俺は本気だ。考えてみてくれ」
まもりはちらりと肩越しに視線を向ける。
真っ直ぐに向けられる視線は真摯で、冗談ではなさそうだ。
「クリスマスボウルの時に見かけてからずっと気になっていたんだ」
「え・・・」
「こちらに来ることになった時、真っ先に浮かんだのは君の顔だ。こうやって会えて、凄く嬉しい」
「っ」
衒いのない言葉に、まもりはじわりと頬を赤くした。
それが羞恥か喜びかは咄嗟に判じられない程混乱する。
忙しなく動く視点に、彼女が相当混乱していることを察した大和は、携帯を差し出す。
「連絡先を。結果はともかく、答えが欲しいんだ。勿論いい返事が一番だけどね」
軽い口調で笑みを浮かべる彼に、まもりは相当逡巡したが結局携帯電話を差し出した。
赤外線通信で送られた情報がディスプレイに表示される。
「待ってるよ」
爽やかに手を振って自席に戻る彼に、何一つ返せずまもりは立ちつくす。
サーバーに落ちる雫の音が、酷く耳について仕方なかった。
思わぬ珍客の騒動は、その後にやって来た。
登校してきて教室に入った途端、目を輝かせたアコと咲蘭に囲まれたのだ。
「あ、まも!」
「ねえねえ、これ見て!」
ばさ、と月刊アメフトを目の前に広げられたまもりは目を丸くする。
「どうしたの、これ」
「どうしたのって! やだ~、まも!」
「昨日来てたんでしょ?! この『彼』!」
指さされたのは大和の姿。特集を組まれたのだろう、見開きで彼のデータが載っている。
アメフトの事で話題を振られるとは思っていなかったまもりは頷く。
「あ、うん。今度アメリカで世界大会やるんだって・・・」
「そういうことじゃなくて!」
すぱん、とまもりの言葉は切り落とされる。
「いいなあって思わないの!?」
「すごくカッコイイじゃない!」
「まもと並んだら美男美女でお似合いだって!」
きゃー! と声を上げて騒ぐ二人を前に、まもりは困惑する。
騒ぎを聞きつけた別の女子まで混ざる始末。
彼女らも口々にまもりに尋ねる。
「せっかく関西から来たんだし、挨拶ついでに連絡先聞いたりとかしなかったの?」
「凄く優しく接してくれたんじゃない?」
「彼氏にするならああいう人がいいって思わないの?」
「いっそ付き合っちゃえばいいのに!」
わあわあと騒ぐ彼女たちの耳に、予鈴が響く。
「ほ、ほらほら、授業が始まるわよ」
「あっ! 今日一限目英語だったっけ?!」
「ヤバー、あたし当たるんだって!」
蜘蛛の子を散らすように解れた面々に、まもりは細く嘆息した。
<続>
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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