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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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愚者であれ

(瀧兄妹)


+ + + + + + + + + +
バカ兄貴がいつものようにクルクル回りながら私の部屋のドアを叩いた。
「アハーハー! マイシスター、ちょっといいかい?」
「って、聞きながら入ってこないでよ!」
ノックの意味ないじゃない、と憤慨する私に構わず、兄貴はクルクルと回る。
「ねえ鈴音、頭がいいっていいことなのかな?」
「はっ!?」
突拍子もない兄貴の言葉に、私は目を瞠った。
だって『あの』兄貴の発言なのだから。
ようやく念願叶ってプレーが出来るようになった泥門高校のアメフト部、その部長に糞バカと二重にヒドイ呼ばれようの兄貴。
それでも毎日ズタボロになりながら楽しそうに練習に励んでいる。
アメフトに対する情熱だけは誰にも負けないと常々言ってる―――もしかしたら頭が悪くて前に言ったことも覚えてないのかも―――な兄貴の最大の弱点は、やっぱり超絶バカなところであって。
もしかしたら、自覚するようなことがあったのかな、と私は兄貴が次に喋るまでの間に随分色々考えた。
けれど、兄貴は私が考えているのとは違うところを見ていたのだ。
「ムッシューヒル魔とマドモアゼルまもりのことだけどね!」
「・・・はぁ?」
「おや? ムッシュー十文字のマネかい?」
「違うわ! そうじゃないわよ!」
なんであの二人の事を口にするのだろう、という胡乱な私の視線を受けて、バカ兄貴はまたクルクル回る。
「頭がいいってことは、色々考えるってことだね!」
「普通の人でも色々考えるのよ。考えないのは兄貴だけだって」
一応突っ込むけど、バカ兄貴は相変わらずクルクル回ってて聞いちゃいない。
「色々考えると動けなくなるものなのかな?」
180センチを越えた男が室内で回ってるのは決して見ていて楽しいもんじゃない。
でも、これは兄貴の癖だ。
たとえばムサシャンが耳を掻くのや、妖兄が考え事するときに銃を暴発するのとかと同じ部分の。
頭の回転が悪いから、それを補足するように兄貴は回るのだと、私は知っている。
「成功するかどうか判らないことだって、やらずに終わったら絶対成功しないじゃないか!」
「感嘆符なしに喋れないの、兄貴」
「好きなら好きって言えばいいんだよ!」
兄貴が不意に動きを止めた。
足を上げた間抜けなポーズもそのままに、抜群のバランス感覚を遺憾なく発揮するその姿にではなく、兄貴の発言に私の口は閉ざされる。
「言わなきゃ伝わらないし、判らない。頭がいいからそんなことくらい判ってるだろうに」
歌うような口調には、純粋に判らない、という疑問しかない。
ようやく私は口を開いた。
「・・・みんな、怖いんだよ」
「怖い?」
「私は好きだと思ってるけど、相手はどう思ってくれているんだろう。迷惑にならないだろうか、嫌がられないだろうか、そんなことばっかり」
あの二人に限らず、それは、私も。
思わず俯いた私の頭を、兄貴が撫でる。
「アハーハー、なんだそんなこと!」
バカでバカで仕方ない、けれどちゃんとボールを、仲間を、願い続けた夢を掴む大きな手。
「好きって素敵な言葉じゃないか! 言われて嫌なことなんてあるのかい?」
「どうでもいい人に言われても嫌でしょ!」
「どうしてだい?」
兄貴は真っ直ぐに私を見た。バカすぎて世間の常識に濁ることのない、怖いくらいに澄んだ眸で。
「自分を見て、好きって言ってくれる人は、どうでもよくないじゃないか!」
もう一回くるりと回って、兄貴はようやく足を下ろした。
「考えて動けなくなる前に言えばいいのさ! 好きだってね!」
「・・・兄貴って、ホントバカだね」
「マイシスター! 愛する兄貴に対してヒドイじゃないか!」
「愛してない! ほらさっさと部屋に戻って寝なよ! 明日も早いんでしょ!?」
「おおっとそうだね! グッナイマイシスター!」
言いたいことを言いたいように言って、自作の変な鼻歌を歌いながら兄貴はドアを開いて、そこでいきなり振り返った。
「大好きだよ、マイシスター鈴音!」
衒いのない言葉に、私の方が盛大に焦る。
「やー!? 何言ってるのバカ兄貴―!!」
思いっきり手元にあったクッションを投げたけど、それは楽しげに笑った兄貴が消えたドアにぶつかって床に落ちただけ。
私はしばらくぼんやりドアを見ていたけれど、のろのろと立ち上がって扉へと近づく。
落ちたクッションを軽く叩いて胸に抱いて、こっそりと笑った。

「・・・兄貴も、たまにはいいこと言うね」


***
なんだか急に瀧兄妹が書きたくなりました。
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