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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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慈しみ深く、歌を。(下)



+ + + + + + + + + +
「・・・ああ・・・」
唇が離れ、吐息のような感嘆のような声がまもりのそれから零れる。
慈しむように触れたヒル魔の腕の中で、まもりの背が輝く。
閃くのは、輝く翼。
それを見たヒル魔の背にも、同様に輝く翼が現れる。
まもりの腕が、ゆるりと上がってヒル魔を抱きしめた。
ようやく出会えた相手を慈しむような、優しい抱擁。
それを目の当たりにした悪魔のヒル魔が厳しい顔つきになる。
「テメェが俺たちの間に入る余地はねぇんだよ」
「それはテメェの言い分だ」
漆黒の髪の合間から鋭い視線がまもりを捉える。
蛇のような、肉食の獲物を捕らえようとする瞳。
それに思わず怯えたまもりの肩を、ヒル魔が撫でる。
「糞蛇なんぞが俺に敵うわけがねぇ」
背の翼が音もなく広がり、ヒル魔が口角をつり上げる。
酷く好戦的な顔は天使とは到底言い難い気がするが、まもりはもう知っている。
己の背にもあるそれが、猛禽類と同じものであること。
正義を貫くための力が天使には秘められているということ。
悪魔のヒル魔の姿が歪む。
ばさりと音を立てて広がったのは暗く沈む翼だった。

まもりは瞳を閉じ、両手を合わせて祈る。
対照的な翼を持った男達が、始まりの言葉もなく互いに突っ込んだ。




どこまでも続く草原がある。
日差しは暖かく、風も穏やかで、青空には綿のような雲が浮かんでいた。
どこからともなく、歌声が聞こえる。
それは風に乗って、あてどなく歩いていたヒル魔の耳にも届いた。
彼はくるりと方向を変えた。
心地よい、優しい声音は次第に近づいてくる。
空を見上げて歌っている人影。
「まもり」
そう呼べば、彼女は歌うのをやめ、笑顔で振り返る。
「妖一!」
背にある、光り輝く美しい翼を翻らせながら名を呼ぶ彼女に手を差し伸べ、抱き寄せる。
彼の背にも、同様の翼がある。
「また歌ってたな」
「ダメだった?」
「いーや」
金色の髪を風に嬲らせ、ヒル魔は腕の中のまもりに笑みを浮かべる。
鋭利な造りのせいでともすれば冷たく見られる彼の顔だが、その表情は随分と穏やかだ。
ここには、穏やかで優しくて争いも餓えもない。
ありとあらゆる幸せが存在するという、人々が憧れてやまない『楽園』と呼ばれる場所。
「ただ黙って祈るより歌う方が届きそうな気がするの」
まもりは空色の瞳を細め、自らを抱きしめるヒル魔を見上げる。
遠く向こうに見えるのは銀色の世界樹。
まもりはヒル魔と同様に風に嬲られる茶色の髪を押さえ、視線を遠くに飛ばした。
同時に、記憶も。


あの戦いの後。
地に伏せたのは天使のヒル魔の方だった。
けれどまもりは天使の彼から離れず、ひたりと寄り添う。
戦いに勝利したはずの悪魔には一瞥もくれず、天使の彼を治癒しようと躍起になる。
「・・・何故だ?」
悄然とした悪魔のヒル魔の声に答えたのは、倒れた天使のヒル魔だった。
「テメェには、記憶は、ねぇのか」
ぼろぼろのヒル魔の声は、痛みに掠れていたが、それでもよく通った。
「ねぇ」
「なら考えろ。今、なんで、俺らが、二人に分かれてるかをナァ」
『俺』なら簡単に思いつくだろう、という謎かけのような言葉。
それに悪魔のヒル魔の眸が見開かれる。
「・・・天使には、天使。悪魔には、悪魔」
更にそこにまもりの声が響いた。
ここにきてやっと向いたまもりの青い瞳に、悪魔のヒル魔への恋慕はない。
けれど、己はかつてこの瞳に恋慕を交えた視線を受けたことがある。
その手を伸ばそうと、思い悩んだことがある。
あの時、まもりだって、こちらに手を。
あれは――――
「考えろ。そして探せ」
戦いには敗北したが、勝負には勝利した格好の天使の託宣。
もう一人いる。
この手を待つ、もう一人が。
悪魔の手が握り込まれる。
まもりの癒しを受けて、幾分穏やかになった呼吸の下で静かに天使のヒル魔が告げた。
「行け」



あの後、天使の二人は人としての生を全うしてからこの世界にやって来た。
神の意志を無視し人として過ごした二人に、神はこの世界からの移動や干渉、観察などの一切を一定期間禁止した。
そのため、静かに姿を消した悪魔のヒル魔が今どうなっているのか、今の二人には知ることは出来ない。
だから、祈るくらいしか出来ないのだけれど。
悪魔たちのために祈りを捧げるなんて言語道断だから、ひっそりと。
己の半身、もしかしたら入れ替わってその立場になったかもしれない彼らのために、せめて祈りの歌を。
「きっと会えるわよね」
「そうだな」
穏やかで変化のない、ともすれば退屈さえ感じるこの『楽園』。
波風のないそれこそが幸せだと、波瀾万丈な人の生を全うした彼ら。
そんな二人は手を繋ぎ、己の住処としている場所へと帰っていった。




まるで霞のように細かい雨粒が、一時も休まることなく降り注いでいる。
気温は夜になり、ますます冷え込んできていた。
仄かな街灯の明かりの下、濡れそぼった一匹の子猫が歩いていく。
街を行く人々は早く帰宅しようと猫などに気を向ける様子もない。
雨は一見柔らかく、けれど芯から全てを濡れそぼらせて体温を奪っていく。
真っ黒な毛並みから雫をしたたらせ、ふるふると震えながら歩くその猫は、とうとう力無くうずくまった。
「ミィ・・・」
小さな鳴き声を上げて、子猫が冷たさに凍えながら息絶えようとしたその時。
大きな白い手がその猫を拾い上げた。
冷えた子猫の身体には、火傷しそうな程に熱い手のひらを持つその男。
彼も、随分と濡れていた。
漆黒の髪からぽたりと雫が滴る。
それなのに、全く寒さを感じていないような口調で、彼は愛おしそうに呟いた。
「・・・見つけた」
指先が黒い毛並みを撫でる。
柔らかいそれが男の指先をくぐり抜けるのを繰り返す。
子猫は先ほどまでの寒さが嘘のように、日だまりのような暖かさにくるまれてゆっくりと瞬き。
そして、安堵したような鳴き声を上げたのだった。


***
ぽん様リクエスト『天使VS悪魔なヒルまも』でした。色々と細かいところは変更しましたが、大まかにはご希望通り! ・・・のハズです、たぶん(苦笑)天使なヒル魔さんが書いていて変な感じでしたw楽しく書けました♪リクエストありがとうございましたー!!

ぽん様のみお持ち帰り可。
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