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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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デンファレ(下)



+ + + + + + + + + +
洋服を引き裂き、彼女を蹂躙しようとした、まさにその時。
「何やってる」
低い声が工事現場に響いた。
「あぁ?!」
男達とクリスが視線を向けると、そこには工具箱を持った男が一人立っていた。
年の頃は四十代だろうか。鍛えられた身体は年齢よりもずっと若い気がする。
「見りゃ判るだろぉ、お楽しみ中なんだよ!」
「オヤジは出てけよ!」
思わぬ邪魔にがなり立てる男達に押さえられているクリスを目に留め、男は耳に小指を突っ込んだ。
「どう見ても楽しんでる風情じゃないな」
「ウルセェよ、ジジイ!!」
「さっさと出てけよ!!」
「それはこっちの台詞だな」
男は工具箱を地面に置く。
「ここは俺の現場だ」
「ハーァ? 今は夜で工事は終わりですぅー」
「帰って母ちゃんとハメて寝ろよ!」
「それともオヤジだから勃ちもしねぇか?!」
ギャハハハ、と下品に笑う男達には何を言っても無駄だと察したのか、男はおもむろに彼らへと近寄り始める。
「来るなっつってんだろ!」
けれど男は応じず、すたすたと近寄って来た。
「テメェ!」
その場にあった鉄パイプを握り、男が一人殴りかかる。
思わず目を閉じてしまったクリスの耳に、人が倒れる重い音。
そして。
「なっ!? テメェ・・・何しやがる!」
「正当防衛って知ってるか、クソガキども」
ぱっと瞳を開けば、顔面から鼻血を出して倒れる先ほど殴りかかった方の男と、平然と立つ男とが見えた。
「俺の現場で強姦なんて人聞きの悪いことはさせねえ」
じろり、と凄みのある顔が男達を厳しく睨め付けた。
「もう一度だけ警告してやる。さっさと出て行け」
「チッ!」
男の手がクリスから離れる。そして男が取り出したのはバタフライナイフだった。
「説教臭ェジジイは死ね!」
「死ね!」
そして残った一人も同じようにバタフライナイフを持って男に飛びかかる。
男はそんな男達を一瞥すると、おもむろに右足を一歩後ろに下げた。
そして、その右足で地面を派手に蹴り上げる。
「うわっ?!」
「ぎゃっ!」
途端に巻き上がる土と礫。
クリスは咄嗟に目を瞑って免れたが、飛びかかっていた男達は目に土が入った、と怯んで動きを止める。
その腹に容赦ない蹴りが入った。
「ぐわっ!」
「げふっ!!」
ドカドカッと音を立てて男達を立て続けに蹴り伸して、男はふんと鼻を鳴らして未だ倒れているクリスに近寄る。
『大丈夫か』
『は、い』
クリスは男を見上げる。
うっそりと大きな男だ。彼はクリスの格好を見ると眉を顰めた。
「襲ってくれと言わんばかりの格好だな」
立てるか、と手を差し出され、クリスは男を見つめる。
男は困ったように頭を掻いた。
『あー・・・立ってくれ』
頷いて手を掴んだ彼女を軽々と引き起こす。
『警察』
単語とジェスチャーで、どうやら警察に連絡するか、と言われているのだと察したクリスは首を振った。
泡を吹いたり鼻血を流して倒れる男達は、それなりの制裁を受けたような気がするし。
と、最初に顔面を殴られたらしい男が目を覚ましたらしくふらふらと立ち上がる。
「・・・テメェ、俺にンなコトしてただで済むと思うなよ?!」
「小便臭いガキに言われる覚えはないな」
それに飄々と返す彼に、男は真っ赤になって地団駄を踏んだ。
「俺のオヤジは議員だぞ!? こんな工事現場なんかすぐ更地にしてやるかんな!!」
それにも彼は顔色一つ変えず、男に歩み寄る。
「なんだよ!」
「お前の父親が国会議員だろうが総理大臣だろうが、お前が偉い訳じゃない」
「う、煩ぇ!!」
勘違いするな、と凄む彼の覇気に気圧され、喚きつつも男は後ずさる。
と、そこに黒塗りの車が現れる。
中から姿を現したのは、いかにも裏の世界で働いているという風情の男が二人だった。
この男達の仲間か誰かが知らせたのだろう。
「先生の息子さんに随分なことしてくれたな」
「この落とし前はきっちり付けて貰おうか」
低い恫喝にも彼は顔色を変えない。
「ウチの工事現場でヤンチャされるのは迷惑なんでな」
「子供のイタズラだろうが」
「自分の立場考えて行動したほうがいいぜ」
因縁を付けようとする男達に、彼は一つ嘆息した。
「・・・この手は使いたくなかったんだが」
男は自分を囲む連中をぐるりと見渡した。
「俺はヒル魔とは二十年来の友人でな」
小指を耳に突っ込んで、飄々とした口調で。
日本語がほとんどわからないクリスであっても、その単語はわかった。
ヒル魔。それは、彼女の知る【妖一おじさん】のことだろうか。
「貸しも大量にある」
「ひるまァ? それがなんだってん・・・」
議員の息子だと言った男の口を、後からやって来た男が塞いだ。
その顔が蒼白になって脂汗を掻いている。
「ヒ・・・ル魔・・・」
「ヒル魔・・・の・・・?」
「冗談だと思うか」
にやり、と彼が唇を歪める。
「今、呼んでやる」
「いいいいいや結構です!!」
「スミマセンでした、もうこんな事はさせないようにします!!」
飛び上がる男達は、倒れている男達も連れて慌てて車に戻り、そのまま勢いよく走り去った。
『ヒル魔って・・・妖一おじさんの、友達?』
クリスの声に、男はピンと片眉を上げた。
『ヒル魔を知ってるのか?』
『うん。あの人の子供と友達なの』
『アヤと妖介か』
それなら一応連絡しておくか、と呟いて男は携帯電話を取り出した。
「ヒル魔か? ああ。・・・お前の子供の友達・・・」
ちら、とクリスを見るのに気づいてクリスは名乗る。
『カレル・クリスティーナ。クリスってみんなは呼んでる』
「クリスって子を拾った。ああ、ウチの工事現場で襲われそうになっててな」
そのまま二言三言話して彼は携帯をクリスへと向けた。
『何やってんだ、糞チア』
『妖一おじさん!』
電話口から聞こえる聞き慣れた声に、思わずクリスの喉が詰まる。
『・・・こ、怖かった、よう・・・!』
ぼろっと涙を零すのを見て、男は肩をすくめる。
『そーか。とりあえずテメェはウチに来い。そこの糞ジジイが送る』
喋るだけ喋ったヒル魔にさっさと通話を切られてしまう。
クリスが視線を向けると、先にヒル魔から全て聞いていた男が彼女を手招いた。
泣き顔の彼女に車から出した新しいタオルを押しつけ、彼女を軽トラの助手席へと乗せる。
ぶっきらぼうだし英語もほとんど喋れないようだけれど、彼の雰囲気はクリスを落ち着かせた。
こんなことは初めてだ、とクリスは隣でハンドルを握る男を見る。
『あの・・・お名前、は?』
それにヒル魔から聞いていないのか、という顔をされたクリスはもう一度ゆっくりと繰り返す。
『貴方のお名前を教えてください』
それに男は口を開いた。
『武蔵厳。皆はムサシと呼ぶ』
ムサシ、という名前をクリスは反芻する。
日本の武士の名前にそういう人がいたような気がして、侍がまだいたのならきっとこういう人物達なのだろうな、という感想を抱く。
クリスはぺこりと頭を下げる。
『ムサシさん、助けてくれてありがとう』
『礼には及ばない』
程なくして軽トラは見慣れたヒル魔の家へとやってきた。
扉を開いて車に向かってくるのは、アヤだ。
『アヤ!』
それに気づいてぱっと顔を輝かせて駆け寄るクリスに、アヤは冷淡に言い放つ。
『クリス・・・厳さんに迷惑を掛けたのか』
その喋り方が普段の不機嫌さとは比較にならないほどの怒気を湛えていて、クリスはぴたっと動きを止める。
「どうした、アヤ」
「厳さん」
後ろからやってきたムサシが声を掛けると、アヤはふわりと笑った。
クリスは目を見開く。
アヤのそんな笑顔、見たことがなかったから。
「父から聞きました。大変でしたね」
「ん、そうでもない。ヒル魔の名前を出したからな」
「それくらいならいくらでも使ってください」
幸せそうに笑って、全身で好きだと言っているようなアヤに、クリスはただただ見惚れた。
昔からアヤはとても綺麗な子で、けれど外見で言い寄ってくるような人間には男女関係なく容赦なく厳しい顔しか向けない。
仲良くなれても、笑顔なんてほとんど見られないのに。ムサシは、当たり前のようにアヤの笑顔が見られるのだ。
ムサシとアヤなんて、年の差がありすぎる。
身長だってムサシはそんなに大きいわけじゃない。
あの二人は、絶対に釣り合わない。
そう思いたいのに、不思議な程二人でいるのを見ていても違和感がない。
外見でも、年齢でもなく、纏う空気が似通っているのだと、少し遅れて理解する。
クリスは呆然と立ちつくす。
アヤへの、この片想いが成就しないのだと、言葉よりも雄弁に現実を突きつけられた。
『クリスちゃん』
掛けられる柔らかい声に視線を向けると、玄関を開くまもりの姿があった。
『大変だったわね。さ、こっちに来てお風呂に入ってらっしゃい』
見る人を癒やす笑顔を浮かべて手招くまもりに、クリスはぎこちなく頷く。
振り返ると、その後にアヤと並んでやってくるムサシの姿。
二人をこれ以上見ていたくなくて、クリスは唇を咬んでまもりの元へと向かう。
『怖かったわね。もう大丈夫よ』
クリスはぼろぼろと涙を零す。
それが優しく撫でてくれるまもりの手のあたたかさによる安堵からなのか、失恋の痛みから溢れるものなのか、クリス自身にもそれは判らなかった。


後日。
とある市議会議員が数々の汚職事件が明るみに出たため、逮捕され失脚した。
その関連工事を行っていた会社の役員や関係のあった暴力団たちも次々と警察に捕まった。
そしてその子供についても、父親が握りつぶしたとおぼしき事件の捜査線上に浮き上がり、目下取り調べを受けている最中とのこと。

それがクリスを襲った者たちに関することなのだ、と知るムサシは、一人静かに口角を上げたのだった。

***
なんだか唐突にやってきたムサシとアヤの二人を第三者が見たらどうなるんかな、という衝動で書きました。
『デンファレ』は蘭の一種。花言葉は『お似合いの二人』と『我が儘な美人』でぴったりかな、ということで採用。
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