旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
マネージャーの密かな恋心を知ってから、俺の生活は少しばかり変化した。
まず必要以上に接点がなかったはずの俺の側に、マネージャーがちょくちょく近寄ってくるようになった。
前までの、どこか思い詰めたような張りつめた空気が柔らかくなって、俺としては嬉しいのだが。
そうなると他の面子もなんだか俺とマネージャーの仲を勘ぐるようになって。
次第に、俺の周囲では不思議な噂が流れるようになった。
そうして俺に対する悪魔の態度も少しばかり変わったように思う。
・・・全く、素直じゃないあたりは似たもの同士だな。
「ごめんね、戸叶くん」
「いいっすよ」
部活が終わった後、買い出しに行かなければと言うマネージャーに、黒木を筆頭にした他の一年生どもは俺を共に押しつけて外に追い出した。
まるで楽しむかのような視線に俺は顰めっ面を作ってやったが、マネージャーに文句はない。
彼女がしきりに恐縮するのを遮って、俺は口を開いた。
「最近は、どうっすか」
「んー・・・」
それにマネージャーは曖昧な笑みを浮かべる。
「変化なし、かな」
力無い言葉に俺は脳裏に金髪悪魔を思い浮かべる。確かに今日も取り立てて変化はなかったな。
「そもそも恋愛感情があるのかないのか判らない人だし、ね!」
努めて明るくいようとする彼女の頭をぽん、と撫でる。
年上にやる事じゃないかな、とも思うんだが、どうにもこの人は危なっかしいというか・・・頼りない。
「あれでも一応人なんすから、欲も感情もあるっすよ」
「そうかな」
「じゃなきゃあんなにクリスマスボウルに執着しないっす」
「そっか―――・・・」
くすくすと笑う。その顔は文句なくかわいい部類だ。
でも周囲にはしっかり者の優等生で通ってるから、相談事も持ちかけられるばかりで誰かに秘密を打ち明けることもしない。
だから余計に近寄りがたくて、距離を置かれるのかも知れない。
・・・と、そこまで考えて俺は一つ思い当たった。
それ、ヒル魔にも当てはまるんじゃねぇか?
逆に考えてみる。
俺が仮に悪魔の立場で、この姉崎まもりというマネージャーを好きだった場合。
強がって隙なく振る舞う彼女に対し、自分も弱みを見せられなくて平行線を辿る、そんな気がする。
「多分悪魔に言わせりゃ」
「なに?」
隣のマネージャーが俺を見上げる。
「マネージャーには恋愛感情があるのかないのか判らないっつー気持ちじゃないっすかね」
「え・・・」
「マネージャーはしっかりしすぎてて、人の心配ばっかりしてるし」
「そ、そんなことないよ?」
「セナの保護者みたいなところが抜け切れてないっす」
「うう、それは、そうかも」
買い出しの荷物を持ちながら俺は一つ提案してみた。
「少し隙を悪魔に見せればいいと思うっすよ」
「隙? でも・・・」
躊躇う彼女に俺は続ける。
どうにもまだ隙を見せることを悪い事だと思う節が残ってるようだ。
「マネージャー、相手を誰だと思ってるんすか?」
だから俺はにっと笑った。
「人の隙につけこむのが悪魔っすよ」
さてさて、買い出しから帰ってきた俺たちを迎えたのは悪魔ただ一人だった。
「あれ? 他のみんなは?」
「もうとっくに帰った。テメェらどんだけ買い出しに時間掛かるんだ」
ぎろ、と睨まれて俺は肩をすくめた。
そうと判れば全然怖くないんだよな、この視線も。
制服に着替えるべくロッカールームに向かう事にする。
が、俺は思い直して部室から出る前に、いきなり好きな男と二人きりというシチュエーションに固まるマネージャーに近寄った。
「マネージャー、ちょっと」
「なっ、なに?! 戸叶くん」
緊張に堅くなっている彼女に一言。
「はい口開けて」
は? と小首を傾げるマネージャーの口にあるものを放り込み、俺はさっさと踵を返す。
「キャー!!」
「んなっ?!」
途端に上がる悲鳴。驚いたようなヒル魔の声も聞こえたが、俺は関知せず外に出る。
口に入れたのは単なる飴だ。ただし、甘さの欠片もないミントキャンディ。
普段甘い物ばかり食べているマネージャーには激辛だっただろう。
右往左往する彼女を想像したが、あえて部室には戻らず着替えてソンソンへ。
きっとそこには仲間がいるはずだ。俺をダシに使ったあいつらが。
飴は切っ掛けに過ぎないが、素直じゃない二人には充分だろう。
部室の二人がうまくいきますように、とガラにもなく願ったりして俺はそこへと足取り軽く向かった。
翌朝、練習前の部室。
恨み言を言われる前に、俺は昨日ソンソンで買っておいた甘い甘いキャンディを一袋彼女の手に載せた。
彼女はそれを受け取り、晴れやかな笑顔を見せた。
「・・・ありがと、ね」
小さな礼は、この飴やきっかけを作ったことに対してだけではない、と俺にはすぐ判った。
彼女の表情に加え、背後から突き刺さる悪魔の視線があったから。
俺はじわじわと浮かぶ笑みを手にしていた雑誌で覆い隠した。
練習に向かうべくグラウンドに向かって歩く。
その途中、ヒル魔の隣で臆することなく立つ彼女の姿を見て満足する俺の隣で、黒木がぼやく。
「んだよォ、せっかく昨日オゼンダテしてやったのによぉ」
「ハ?」
「しらばっくれんなよォ、トガは狙ってたんだろ、マネージャーのこと!」
「別に」
「嘘つけェ!」
「煩ェよ、黒木」
騒ぐ黒木を宥める十文字も同じ事を言いたげに視線を寄越す。
「別に狙っちゃいねえ」
もう一度繰り返すと、二人は胡乱げな顔をした。
俺はこれ以上答えることはない、とトレーニングマシーンの方へ足を向ける。
単にハッピーエンドが趣味なだけだ、とは。
負け惜しみみたいで口にするのが憚られただけなのだけれど。
背後から溌剌としたマネージャーの声と、楽しげな悪魔の声が響いている。
ちらりと伺えば、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
愁いを帯びた寂しそうな表情も、涙で赤く目を腫らした顔も、涙混じりに幾度も零された言葉も今はない。
やはり彼女は笑っているのが一番だ。
***
リンメイ様リクエスト『ヒルまもいちゃいちゃを第三者視点で』でした。・・・うーん二人はイチャイチャしてない! 戸叶が書きたくてなってつい・・・。彼は最後まで見届けるより後は当事者同士がどうにかしたら、というスタンスですっと姿を消しそうだなあ、と。当初は黒木くんだったのですが、彼は思うように動いてくれず断念しました。私は非常に楽しかったです!
リクエストありがとうございましたー!!
リンメイ様のみお持ち帰り可。
まず必要以上に接点がなかったはずの俺の側に、マネージャーがちょくちょく近寄ってくるようになった。
前までの、どこか思い詰めたような張りつめた空気が柔らかくなって、俺としては嬉しいのだが。
そうなると他の面子もなんだか俺とマネージャーの仲を勘ぐるようになって。
次第に、俺の周囲では不思議な噂が流れるようになった。
そうして俺に対する悪魔の態度も少しばかり変わったように思う。
・・・全く、素直じゃないあたりは似たもの同士だな。
「ごめんね、戸叶くん」
「いいっすよ」
部活が終わった後、買い出しに行かなければと言うマネージャーに、黒木を筆頭にした他の一年生どもは俺を共に押しつけて外に追い出した。
まるで楽しむかのような視線に俺は顰めっ面を作ってやったが、マネージャーに文句はない。
彼女がしきりに恐縮するのを遮って、俺は口を開いた。
「最近は、どうっすか」
「んー・・・」
それにマネージャーは曖昧な笑みを浮かべる。
「変化なし、かな」
力無い言葉に俺は脳裏に金髪悪魔を思い浮かべる。確かに今日も取り立てて変化はなかったな。
「そもそも恋愛感情があるのかないのか判らない人だし、ね!」
努めて明るくいようとする彼女の頭をぽん、と撫でる。
年上にやる事じゃないかな、とも思うんだが、どうにもこの人は危なっかしいというか・・・頼りない。
「あれでも一応人なんすから、欲も感情もあるっすよ」
「そうかな」
「じゃなきゃあんなにクリスマスボウルに執着しないっす」
「そっか―――・・・」
くすくすと笑う。その顔は文句なくかわいい部類だ。
でも周囲にはしっかり者の優等生で通ってるから、相談事も持ちかけられるばかりで誰かに秘密を打ち明けることもしない。
だから余計に近寄りがたくて、距離を置かれるのかも知れない。
・・・と、そこまで考えて俺は一つ思い当たった。
それ、ヒル魔にも当てはまるんじゃねぇか?
逆に考えてみる。
俺が仮に悪魔の立場で、この姉崎まもりというマネージャーを好きだった場合。
強がって隙なく振る舞う彼女に対し、自分も弱みを見せられなくて平行線を辿る、そんな気がする。
「多分悪魔に言わせりゃ」
「なに?」
隣のマネージャーが俺を見上げる。
「マネージャーには恋愛感情があるのかないのか判らないっつー気持ちじゃないっすかね」
「え・・・」
「マネージャーはしっかりしすぎてて、人の心配ばっかりしてるし」
「そ、そんなことないよ?」
「セナの保護者みたいなところが抜け切れてないっす」
「うう、それは、そうかも」
買い出しの荷物を持ちながら俺は一つ提案してみた。
「少し隙を悪魔に見せればいいと思うっすよ」
「隙? でも・・・」
躊躇う彼女に俺は続ける。
どうにもまだ隙を見せることを悪い事だと思う節が残ってるようだ。
「マネージャー、相手を誰だと思ってるんすか?」
だから俺はにっと笑った。
「人の隙につけこむのが悪魔っすよ」
さてさて、買い出しから帰ってきた俺たちを迎えたのは悪魔ただ一人だった。
「あれ? 他のみんなは?」
「もうとっくに帰った。テメェらどんだけ買い出しに時間掛かるんだ」
ぎろ、と睨まれて俺は肩をすくめた。
そうと判れば全然怖くないんだよな、この視線も。
制服に着替えるべくロッカールームに向かう事にする。
が、俺は思い直して部室から出る前に、いきなり好きな男と二人きりというシチュエーションに固まるマネージャーに近寄った。
「マネージャー、ちょっと」
「なっ、なに?! 戸叶くん」
緊張に堅くなっている彼女に一言。
「はい口開けて」
は? と小首を傾げるマネージャーの口にあるものを放り込み、俺はさっさと踵を返す。
「キャー!!」
「んなっ?!」
途端に上がる悲鳴。驚いたようなヒル魔の声も聞こえたが、俺は関知せず外に出る。
口に入れたのは単なる飴だ。ただし、甘さの欠片もないミントキャンディ。
普段甘い物ばかり食べているマネージャーには激辛だっただろう。
右往左往する彼女を想像したが、あえて部室には戻らず着替えてソンソンへ。
きっとそこには仲間がいるはずだ。俺をダシに使ったあいつらが。
飴は切っ掛けに過ぎないが、素直じゃない二人には充分だろう。
部室の二人がうまくいきますように、とガラにもなく願ったりして俺はそこへと足取り軽く向かった。
翌朝、練習前の部室。
恨み言を言われる前に、俺は昨日ソンソンで買っておいた甘い甘いキャンディを一袋彼女の手に載せた。
彼女はそれを受け取り、晴れやかな笑顔を見せた。
「・・・ありがと、ね」
小さな礼は、この飴やきっかけを作ったことに対してだけではない、と俺にはすぐ判った。
彼女の表情に加え、背後から突き刺さる悪魔の視線があったから。
俺はじわじわと浮かぶ笑みを手にしていた雑誌で覆い隠した。
練習に向かうべくグラウンドに向かって歩く。
その途中、ヒル魔の隣で臆することなく立つ彼女の姿を見て満足する俺の隣で、黒木がぼやく。
「んだよォ、せっかく昨日オゼンダテしてやったのによぉ」
「ハ?」
「しらばっくれんなよォ、トガは狙ってたんだろ、マネージャーのこと!」
「別に」
「嘘つけェ!」
「煩ェよ、黒木」
騒ぐ黒木を宥める十文字も同じ事を言いたげに視線を寄越す。
「別に狙っちゃいねえ」
もう一度繰り返すと、二人は胡乱げな顔をした。
俺はこれ以上答えることはない、とトレーニングマシーンの方へ足を向ける。
単にハッピーエンドが趣味なだけだ、とは。
負け惜しみみたいで口にするのが憚られただけなのだけれど。
背後から溌剌としたマネージャーの声と、楽しげな悪魔の声が響いている。
ちらりと伺えば、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
愁いを帯びた寂しそうな表情も、涙で赤く目を腫らした顔も、涙混じりに幾度も零された言葉も今はない。
やはり彼女は笑っているのが一番だ。
***
リンメイ様リクエスト『ヒルまもいちゃいちゃを第三者視点で』でした。・・・うーん二人はイチャイチャしてない! 戸叶が書きたくてなってつい・・・。彼は最後まで見届けるより後は当事者同士がどうにかしたら、というスタンスですっと姿を消しそうだなあ、と。当初は黒木くんだったのですが、彼は思うように動いてくれず断念しました。私は非常に楽しかったです!
リクエストありがとうございましたー!!
リンメイ様のみお持ち帰り可。
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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