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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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流言飛語(中)



+ + + + + + + + + +
クラスメイトが遠巻きに見ているのを居心地悪く感じつつ、けれど噂の真偽を改めて口にする必要性もなくて、まもりはヒル魔の待つ昇降口へと歩いていく。
「お待たせ」
「おー」
二人連れ立って歩けば、昨日までは気にしてなかった視線が背後から突き刺さるようだ。
なんで二人でいる事にこんなに肩身が狭いような気がしないといけないのか、と理不尽に感じた。
と、そこに元気な声がかかる。
「あ! ヒル魔先輩こんにちは!」
「こんにちはっス! はっ! まままっまもりさん・・・!」
「ちっす」
ランニングに出掛けるところだったらしい一年生たちと鉢合わせる。
「ヤー! 二人とも、これからデートなの?」
ローラーブレードで併走するつもりらしい鈴音がにこにこと笑いながら声を掛けてくる。
それは先ほどのクラスメイトたちの視線と同じ意味合いの言葉だけれど、居心地は悪くなくて。
自然と笑顔になってまもりは首を振る。
「これから勉強するのよ」
「やー、二人で!?」
ラブラブだねー、と笑う鈴音の後ろでモン太が叫んでランニングに出てしまうし、それをセナと小結が追い、三兄弟たちが苦笑しながら続く。
「あ! じゃあ私も行かなきゃ。二人ともたまには部室に遊びに来てねー!」
音がしそうな勢いでメンバーを追っていった鈴音にヒル魔が口を開く。
「相変わらず騒がしいな」
「ふふ、でもそれが鈴音ちゃんでしょ?」
それにヒル魔はまもりを見下ろす。
「テメェは糞チアの言葉ならなんもねぇんだな」
「え?」
そう言われれば、鈴音の言葉はまもりに不快な気持ちをもたらさなかった。
「うん・・・多分、ヒル魔くんの事もちゃんと判ってる人に言われる分には平気なのよ」
鈴音はヒル魔が見た目通りだけの人ではなく、どれほどに努力したかを彼の人となりと共に知っているから。
「噂は無責任じゃない? 結局誰が発したか判らないようなことに振り回されるんだもの」
「ホー」
「ヒル魔くんは違うの?」
それにヒル魔はにやりと笑う。
「俺は糞噂なんぞ関係ねぇからな」
「なんで?」
「さっきも言っただろ」
そう言ってまもりの手を取り、すたすたと歩き出す。
答えが貰えず、よく判らないながらまもりはその隣を歩いたのだった。

ヒル魔の家はごく普通のワンルームマンションの一室だ。家具もシンプルだが、銃器がごく普通にそこらに存在するあたりが彼の家らしい。
当初は雑多な印象だったが、まもりが通うようになってから大分すっきり整頓されるようになった。
彼の家で勉強していてもそういった雰囲気にはならない。
もしかしてヒル魔は興味がないのでは、とも思ったが、その割にはバレンタインデー以来からキスもよくするし、隙あらば抱きついてくるような状態だ。
「・・・あの、ヒル魔くん」
「ア?」
がりがりノートになんだかよく判らない言語を書いているヒル魔にまもりは恐る恐る尋ねる。
「その、ホワイトデー、なんだけど」
それにヒル魔の眉がぴんと上がった。
「私・・・」
その後の言葉が続かない。
どうしたいのか、どうしようか。
声を掛けたはいいが、物言いたげに沈黙するまもりに、ヒル魔は立ち上がってまもりの隣に座り、彼女を抱き込む。
「あ・・・」
背後からくるむように抱かれ、まもりは頬を染めた。
「テメェ、最近随分と浮ついてんな」
それは自覚があるので、まもりは小さく頷く。
「抱かれるのが嫌ならそう言え」
「え?!」
そう来るとは思わず、まもりは声を上げて背後を伺う。
ヒル魔は無言でまもりを見下ろしている。その手が触れるのは手。
慈しむように触れてくる優しい指先に、まもりは瞳を細める。
最初は触れるだけでいちいち飛び上がる程驚かされたヒル魔の指先は、それでも一度だって彼女を脅かさなかった。
その熱に後押しされるようにまもりは小さく問いかける。
「ホワイトデー、泊まっていってもいい?」
「あ―――・・・」
ヒル魔の頭がぼす、とまもりの肩に沈む。まもりの視界の端に、金色。
「次の日、休みでしょ。だからね、その、友達の家に泊まるって、そう・・・」
まもりがどぎまぎしながらも言葉を紡げば、ヒル魔はそのままの姿勢で喉を鳴らして笑う。
「お好きにドーゾ」
その声と共に頬に触れた唇はとても優しかった。


それからの日々はあっという間に過ぎていった。
アメフト部に在籍していた頃は、それこそ飛ぶように時間は過ぎていったけれど。
あの吹きすさぶ嵐に丸ごと持って行かれるような時の去り方とは違う。
薄い紙を幾重にも貼り合わせていくかのような、積み重ねる過ぎ方。
過ぎれば過ぎる程その後が強固になるような。
寒々しい季節から芽吹きの季節に向かう間だから特にそう思うのかも知れない。
そうして気づけば、ホワイトデーは翌日となっていた。
相も変わらずヒル魔の部屋で勉強している。
一ヶ月で随分とこの空間にも馴染み、定番の位置というのも決まってきていた。
「ヒル魔くん、私何持ってくればいいの?」
まるで行楽にでも行くような気軽さでまもりは尋ねる。
「ア? 着替えくらいだろ」
「そうなの?」
「他に何を用意するつもりなんデスカネ」
逆に問われ、まもりは保健体育で習った程度の知識が脳裏を過ぎる。
「・・・その、避妊具とか」
「じゃあお伺いシマスガ、買ってこいと言われて買ってこられるかテメェ」
「・・・ごめんなさい」
無理です、と言うとヒル魔はケ、と小さく笑った。

<続>
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