旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
ヒル魔の屋敷には幾つも部屋がある。
管理しているはずの雪光でさえ、完全に把握し切れていない場所も多々あるのだという。
「確かに、広いし・・・よく判らないところも多いわよね」
ここに住まい、日々生活しているはずの屋敷。
まもりもよく判らない場所の方がまだ多いのだ。
「もしかしたら雪光さんが私を通してないだけかも、とも思うのよ」
「まあ、それもあながち否定出来ませんね」
苦笑する雪光に、文句はない。
どうせ言い含めたのはこの屋敷の主であるヒル魔に違いないし、そうなれば雪光の独断で禁じられた場所にまもりを通す事なんて出来ないのだ。
「それこそヒル魔くんの言うとおり、時間は飽きる程あるんだから、気長に調べてみるわ」
「そうなさってください」
自分で迷い込んだのなら、あの主は煩く言わない事だろう。
二人は向かい合って座り、まもりは茶を飲んでいる。
年の瀬だから、と雪光が珍しく書庫からほぼ一日出た状態で掃除をしていたのだ。
とはいえ、彼が命じれば部屋中のゴミというゴミは全て外に排出されるし、襖や障子に関しては手を翳すだけでぺらぺらと剥がれて新しい紙に張り替えられる。まもりが手でやるとどうなるのか、という実演を求めて二人してまんまと失敗し、苦笑しながら再度貼り直したりしつつも、掃除は一日で完了した。
「年越し、って何か特別な事するの?」
「人間は年越し蕎麦というものを食べたり、二年参りということで除夜の鐘が鳴るときから神社に初詣に向かったりしますね」
「へえ。なんでお蕎麦なの?」
「『細く長く達者に生きられるように』というのが一般的な理由のようですね。食べたいですか?」
「ええ。お蕎麦ってどうやって作るの?」
す、とヒル魔が現れる。その手には包み。
「土産だ」
「え、これ・・・お蕎麦?」
「今からいちいち作らねぇでも、今時分じゃ人里で大概買えるんだよ」
「えー・・・」
作ってみたかった、という顔をするまもりにヒル魔はにやりと笑う。
「茹でて具を載せるだけでもいいだろ。好きにやれ」
「うーんと・・・ヒル魔くんはおあげ食べたいわよね? 待ってて、用意してくる!」
ぱたぱたと軽い足取りで台所へと消えた彼女に、やはり食い気が先に立つか、とヒル魔は雪光と二人して苦笑した。
蕎麦を食べ終え、片づけをしているとどこか遠くで鐘が鳴った。
「あ、これが除夜の鐘っていうの?」
「そうだな」
「ヒル魔くん、初詣行かないの?」
それにヒル魔は眉を寄せる。
「妖怪が初詣に行くわけねぇだろ」
「え?」
食後の茶を持ってきた雪光が補足する。
「神社にはそれぞれ神様がいらっしゃるんですが、神様が管理している『神域』というところには妖怪は立ち入れないんですよ」
「えっ、そうなの?!」
雪光から茶を受け取り、まもりはヒル魔の隣に座った。
「入れる奴らもいるが、ごく少数だ」
「でも・・・ヒル魔くんの仲間の神様がいるって聞いたけど」
誰に、とは言わなくても判る。ヒル魔はじろりと雪光を睨め付ける。
「糞面倒臭ェ。あいつら野狐がどうこう善狐がどうこう煩ェんだよ」
「ヒル魔くんが狐さんの中で一番上じゃないの?」
「神としての階級はまた別だ」
ヒル魔はいわゆる野狐だが、その中でも一番階級が高い『九尾の狐』だ。
しかし善狐となればもっと長く時を経る天狐や仙狐、空狐などもいる。
「実力なら負けないんでしょうけどねえ」
雪光が苦笑する。
「だったらその天狐とかいうのになってみればいいのに」
簡単に言うまもりに、ヒル魔はにやりと笑う。
「そうなると、テメェとは一緒に生活出来ねぇぞ」
「ええっ?!」
「あいつらは『神格』を得て肉体を捨てる。そしてこの世界と隔絶するんだよ」
神格を得た者は神だけが住まう世界へと移り、この世界との接点は神社だけとなる。
仮に神社に『いた』としても、触れる熱も映る影もない、稀薄な存在となるのだ。
「そんな・・・」
「それでもなって欲しいか?」
「そ・・・! そんなこと、聞くまでもないでしょ!」
まもりは湯飲みを卓に置いてぎゅっとヒル魔に抱きつく。
「私の隣にいないヒル魔くんなんてヒル魔くんじゃないんだから!」
「ソウデスネ」
ぽんぽんとあやすようにまもりの頭を撫でる。
結局は甘い雰囲気になった二人に、雪光は笑みを浮かべていた。
けれど、玄関に現れた気配に顔を上げる。
「失礼します」
す、と姿を消した雪光は、程なくして微妙な表情で戻ってきた。
「どうした?」
「・・・『噂をすれば影が差す』というんでしょうかね」
それにヒル魔はぴんと片眉を上げる。
立ち上がる彼にまもりもついていくと、玄関には小さな女の子が提灯を手に待っていた。
やってきたヒル魔とまもりを見て、ぴょこんと頭を下げる。
そして笑顔で手にした手紙を差し出した。
にこにこと笑うだけで、彼女は一言も喋らない。
「こんばんは」
ヒル魔が手紙を読んでいる間に、まもりはしゃがみ込んで子供の目を見る。
「そいつは喋れねぇぞ」
ヒル魔に言われ、まもりは少女を観察する。彼女は笑顔でその視線を受け止めていた。
澄んだ黒目勝ちの瞳。
緩く波打つ髪の毛は飾り紐で二つにくくられているが、着ているのは白の着物と、赤い袴だ。
「チッ、あの糞稲荷め」
手紙を読み終えたヒル魔が、じろりと少女を睨め付ける。けれど少女はただ笑うだけだ。
「まもり」
「はい?」
名を呼ばれたまもりは、次の瞬間ヒル魔に息を吹きかけられる。
「!」
「こんなもんか」
「え・・・」
着物が変わった。指先で触れた髪も結い上げられている。
普段着ているのと違う、袖が長いものだ。彩りも賑々しい赤が主体のもの。
「きれーい! なにこれ?」
「振袖。本来は未婚の女が着る物だが、今日は特別だ」
「なんで?」
ヒル魔は少女を見下ろす。
「こいつはミサキ。神の使いだ」
「神様の?」
「この近くにいる神の一人が、テメェを招待してぇんだとよ」
「え!? 私だけ?!」
「あいつは糞生真面目だから冗談とかシャレとか通じねぇんだよ。一度テメェと顔合わせしてぇんだと」
面倒そうな口調に、どんな神様なのだろうかと不安になる。
けれどそんなまもりを余所に、少女はまもりの手を取る。
子供らしいあたたかな手に引かれ、まもりは三和土に降りる。
用意された雪駄に足を入れながらヒル魔を振り返る。
「あの・・・何か持っていったりしなくていいの?」
「むしろ振る舞われてこい。ケルベロスもいるから何かあったら呼び出せ」
まもりは首元を確認すると、確かにいつもの筒が首から下がっていた。
「ケルベロスは『神域』でも平気なの?」
「奴のところなら平気だ。飯縄権現だからな」
「?」
よく判らないが、ヒル魔がそう言うのなら平気なのだろう、多分。
さあ早く、と言いたげに少女が手を引く。
「ヒル魔くん、行ってきます!」
「おー」
ひらひらと手を振って見送られる。
そういえばヒル魔に見送られるのは初めてだ、とまもりは気づく。
隣に彼がいないだけでひどく寒く感じた。
「・・・」
まもりがぶるりと身を震わせた振動を、手を繋いでいた少女は察知したようだ。
きゅ、と強く手を握られると不意に暖かな空気に包まれる。
「え?!」
驚き視線を下げれば、少女はふんわりと笑う。
そういえば彼女は神の使いだと言われていた。こういうこともできるのか、と感心する。
「神様ってどんな方かしらね?」
返事がないのを承知でまもりは喋る。
「ヒル魔くんが面倒なんてあんまり言わないから、きっと相当真面目な方なんでしょうね」
ヒル魔は思い立ったら吉日、とばかりに不意に現れたり消えたりする。
結局は屋敷に帰ってくると知っているし、ほとんど夜は閨を供にしているから気にならないが、昼夜問わず色々と忙しない男なのだ。
そんな風に身軽な彼が、彼女が仕える神様は面倒だと言うなんて。
つらつらと考え事をしながら歩いていると、ざわざわと人々が話す声が聞こえてきた。
見れば深夜も近いというのに、人々が厚着をして行列を成している。
長い石段は人が詰めかけ、少し押されたら将棋倒しになってしまいそうだ。
これほどの人出を見た事がなかったまもりは、じっとその様子を眺めてしまう。
「あ」
くい、と手を引かれる。
少女はその人混みを避け、横道に逸れた。
そして小さな鳥居に近寄る。
見覚えがあるものだった。それは新婚旅行に行ったときに『くぐった』のと同じ、小さな鳥居。
「ここをくぐればいいのね?」
こくり、と頷かれて。
まもりはすい、と足を踏み出した。
まもりが出掛けてから、ヒル魔は雪光を振り返った。
「テメェも下がれ」
それに雪光は苦笑する。
「毎年の事ですが、一度お会いしたいものですね」
それにヒル魔は口角を上げる。
「屋敷の主しか会わない奴だ」
「それは知ってますけども。立場的には姉弟のようなものですから、お話してみたいんですよ」
一年に一度だけ、屋敷の主のみ会える、『刑部姫』。
その名を蛍という。
本来は城に住み着く存在だそうだが、彼女はなぜかこの屋敷に居着いている。
雪光もその存在と所在は知っているものの、顔を合わせた事はない。
「たしかにテメェとは似てるかもな」
屋敷を守る存在、お倉坊主の雪光。
屋敷の今後を告げる刑部姫の蛍。
いずれも同じ『屋敷』を塒にする妖怪だ。
「テメェが蛍と会う時は、俺がこの世から消えたときだな」
それに雪光は嘆息して微笑んだ。
「それでは、せいぜい会えない事を願う事にしましょうか」
詮無い事を申し上げました、と雪光は頭を垂れる。
その頭をぽんとヒル魔が撫でた。
「正月はゆっくりしてろ」
「年始のご挨拶は・・・」
「今年は全員松の内が明けてからにしろと連絡してある」
それに雪光は出掛けている最中のまもりのことを考え、こめかみを押さえた。
「・・・あまり羽目を外しすぎないようになさってくださいね」
無駄でしょうけど、とは内心でだけ呟く。
にやにやと笑うヒル魔に良いお年を、と告げて雪光は書庫へと下がったのだった。
***
2008年は大変お世話になりました!
2009年も毎日更新は続けていきたいと思っておりますので、是非お付き合いの程よろしくお願いします!
管理しているはずの雪光でさえ、完全に把握し切れていない場所も多々あるのだという。
「確かに、広いし・・・よく判らないところも多いわよね」
ここに住まい、日々生活しているはずの屋敷。
まもりもよく判らない場所の方がまだ多いのだ。
「もしかしたら雪光さんが私を通してないだけかも、とも思うのよ」
「まあ、それもあながち否定出来ませんね」
苦笑する雪光に、文句はない。
どうせ言い含めたのはこの屋敷の主であるヒル魔に違いないし、そうなれば雪光の独断で禁じられた場所にまもりを通す事なんて出来ないのだ。
「それこそヒル魔くんの言うとおり、時間は飽きる程あるんだから、気長に調べてみるわ」
「そうなさってください」
自分で迷い込んだのなら、あの主は煩く言わない事だろう。
二人は向かい合って座り、まもりは茶を飲んでいる。
年の瀬だから、と雪光が珍しく書庫からほぼ一日出た状態で掃除をしていたのだ。
とはいえ、彼が命じれば部屋中のゴミというゴミは全て外に排出されるし、襖や障子に関しては手を翳すだけでぺらぺらと剥がれて新しい紙に張り替えられる。まもりが手でやるとどうなるのか、という実演を求めて二人してまんまと失敗し、苦笑しながら再度貼り直したりしつつも、掃除は一日で完了した。
「年越し、って何か特別な事するの?」
「人間は年越し蕎麦というものを食べたり、二年参りということで除夜の鐘が鳴るときから神社に初詣に向かったりしますね」
「へえ。なんでお蕎麦なの?」
「『細く長く達者に生きられるように』というのが一般的な理由のようですね。食べたいですか?」
「ええ。お蕎麦ってどうやって作るの?」
す、とヒル魔が現れる。その手には包み。
「土産だ」
「え、これ・・・お蕎麦?」
「今からいちいち作らねぇでも、今時分じゃ人里で大概買えるんだよ」
「えー・・・」
作ってみたかった、という顔をするまもりにヒル魔はにやりと笑う。
「茹でて具を載せるだけでもいいだろ。好きにやれ」
「うーんと・・・ヒル魔くんはおあげ食べたいわよね? 待ってて、用意してくる!」
ぱたぱたと軽い足取りで台所へと消えた彼女に、やはり食い気が先に立つか、とヒル魔は雪光と二人して苦笑した。
蕎麦を食べ終え、片づけをしているとどこか遠くで鐘が鳴った。
「あ、これが除夜の鐘っていうの?」
「そうだな」
「ヒル魔くん、初詣行かないの?」
それにヒル魔は眉を寄せる。
「妖怪が初詣に行くわけねぇだろ」
「え?」
食後の茶を持ってきた雪光が補足する。
「神社にはそれぞれ神様がいらっしゃるんですが、神様が管理している『神域』というところには妖怪は立ち入れないんですよ」
「えっ、そうなの?!」
雪光から茶を受け取り、まもりはヒル魔の隣に座った。
「入れる奴らもいるが、ごく少数だ」
「でも・・・ヒル魔くんの仲間の神様がいるって聞いたけど」
誰に、とは言わなくても判る。ヒル魔はじろりと雪光を睨め付ける。
「糞面倒臭ェ。あいつら野狐がどうこう善狐がどうこう煩ェんだよ」
「ヒル魔くんが狐さんの中で一番上じゃないの?」
「神としての階級はまた別だ」
ヒル魔はいわゆる野狐だが、その中でも一番階級が高い『九尾の狐』だ。
しかし善狐となればもっと長く時を経る天狐や仙狐、空狐などもいる。
「実力なら負けないんでしょうけどねえ」
雪光が苦笑する。
「だったらその天狐とかいうのになってみればいいのに」
簡単に言うまもりに、ヒル魔はにやりと笑う。
「そうなると、テメェとは一緒に生活出来ねぇぞ」
「ええっ?!」
「あいつらは『神格』を得て肉体を捨てる。そしてこの世界と隔絶するんだよ」
神格を得た者は神だけが住まう世界へと移り、この世界との接点は神社だけとなる。
仮に神社に『いた』としても、触れる熱も映る影もない、稀薄な存在となるのだ。
「そんな・・・」
「それでもなって欲しいか?」
「そ・・・! そんなこと、聞くまでもないでしょ!」
まもりは湯飲みを卓に置いてぎゅっとヒル魔に抱きつく。
「私の隣にいないヒル魔くんなんてヒル魔くんじゃないんだから!」
「ソウデスネ」
ぽんぽんとあやすようにまもりの頭を撫でる。
結局は甘い雰囲気になった二人に、雪光は笑みを浮かべていた。
けれど、玄関に現れた気配に顔を上げる。
「失礼します」
す、と姿を消した雪光は、程なくして微妙な表情で戻ってきた。
「どうした?」
「・・・『噂をすれば影が差す』というんでしょうかね」
それにヒル魔はぴんと片眉を上げる。
立ち上がる彼にまもりもついていくと、玄関には小さな女の子が提灯を手に待っていた。
やってきたヒル魔とまもりを見て、ぴょこんと頭を下げる。
そして笑顔で手にした手紙を差し出した。
にこにこと笑うだけで、彼女は一言も喋らない。
「こんばんは」
ヒル魔が手紙を読んでいる間に、まもりはしゃがみ込んで子供の目を見る。
「そいつは喋れねぇぞ」
ヒル魔に言われ、まもりは少女を観察する。彼女は笑顔でその視線を受け止めていた。
澄んだ黒目勝ちの瞳。
緩く波打つ髪の毛は飾り紐で二つにくくられているが、着ているのは白の着物と、赤い袴だ。
「チッ、あの糞稲荷め」
手紙を読み終えたヒル魔が、じろりと少女を睨め付ける。けれど少女はただ笑うだけだ。
「まもり」
「はい?」
名を呼ばれたまもりは、次の瞬間ヒル魔に息を吹きかけられる。
「!」
「こんなもんか」
「え・・・」
着物が変わった。指先で触れた髪も結い上げられている。
普段着ているのと違う、袖が長いものだ。彩りも賑々しい赤が主体のもの。
「きれーい! なにこれ?」
「振袖。本来は未婚の女が着る物だが、今日は特別だ」
「なんで?」
ヒル魔は少女を見下ろす。
「こいつはミサキ。神の使いだ」
「神様の?」
「この近くにいる神の一人が、テメェを招待してぇんだとよ」
「え!? 私だけ?!」
「あいつは糞生真面目だから冗談とかシャレとか通じねぇんだよ。一度テメェと顔合わせしてぇんだと」
面倒そうな口調に、どんな神様なのだろうかと不安になる。
けれどそんなまもりを余所に、少女はまもりの手を取る。
子供らしいあたたかな手に引かれ、まもりは三和土に降りる。
用意された雪駄に足を入れながらヒル魔を振り返る。
「あの・・・何か持っていったりしなくていいの?」
「むしろ振る舞われてこい。ケルベロスもいるから何かあったら呼び出せ」
まもりは首元を確認すると、確かにいつもの筒が首から下がっていた。
「ケルベロスは『神域』でも平気なの?」
「奴のところなら平気だ。飯縄権現だからな」
「?」
よく判らないが、ヒル魔がそう言うのなら平気なのだろう、多分。
さあ早く、と言いたげに少女が手を引く。
「ヒル魔くん、行ってきます!」
「おー」
ひらひらと手を振って見送られる。
そういえばヒル魔に見送られるのは初めてだ、とまもりは気づく。
隣に彼がいないだけでひどく寒く感じた。
「・・・」
まもりがぶるりと身を震わせた振動を、手を繋いでいた少女は察知したようだ。
きゅ、と強く手を握られると不意に暖かな空気に包まれる。
「え?!」
驚き視線を下げれば、少女はふんわりと笑う。
そういえば彼女は神の使いだと言われていた。こういうこともできるのか、と感心する。
「神様ってどんな方かしらね?」
返事がないのを承知でまもりは喋る。
「ヒル魔くんが面倒なんてあんまり言わないから、きっと相当真面目な方なんでしょうね」
ヒル魔は思い立ったら吉日、とばかりに不意に現れたり消えたりする。
結局は屋敷に帰ってくると知っているし、ほとんど夜は閨を供にしているから気にならないが、昼夜問わず色々と忙しない男なのだ。
そんな風に身軽な彼が、彼女が仕える神様は面倒だと言うなんて。
つらつらと考え事をしながら歩いていると、ざわざわと人々が話す声が聞こえてきた。
見れば深夜も近いというのに、人々が厚着をして行列を成している。
長い石段は人が詰めかけ、少し押されたら将棋倒しになってしまいそうだ。
これほどの人出を見た事がなかったまもりは、じっとその様子を眺めてしまう。
「あ」
くい、と手を引かれる。
少女はその人混みを避け、横道に逸れた。
そして小さな鳥居に近寄る。
見覚えがあるものだった。それは新婚旅行に行ったときに『くぐった』のと同じ、小さな鳥居。
「ここをくぐればいいのね?」
こくり、と頷かれて。
まもりはすい、と足を踏み出した。
まもりが出掛けてから、ヒル魔は雪光を振り返った。
「テメェも下がれ」
それに雪光は苦笑する。
「毎年の事ですが、一度お会いしたいものですね」
それにヒル魔は口角を上げる。
「屋敷の主しか会わない奴だ」
「それは知ってますけども。立場的には姉弟のようなものですから、お話してみたいんですよ」
一年に一度だけ、屋敷の主のみ会える、『刑部姫』。
その名を蛍という。
本来は城に住み着く存在だそうだが、彼女はなぜかこの屋敷に居着いている。
雪光もその存在と所在は知っているものの、顔を合わせた事はない。
「たしかにテメェとは似てるかもな」
屋敷を守る存在、お倉坊主の雪光。
屋敷の今後を告げる刑部姫の蛍。
いずれも同じ『屋敷』を塒にする妖怪だ。
「テメェが蛍と会う時は、俺がこの世から消えたときだな」
それに雪光は嘆息して微笑んだ。
「それでは、せいぜい会えない事を願う事にしましょうか」
詮無い事を申し上げました、と雪光は頭を垂れる。
その頭をぽんとヒル魔が撫でた。
「正月はゆっくりしてろ」
「年始のご挨拶は・・・」
「今年は全員松の内が明けてからにしろと連絡してある」
それに雪光は出掛けている最中のまもりのことを考え、こめかみを押さえた。
「・・・あまり羽目を外しすぎないようになさってくださいね」
無駄でしょうけど、とは内心でだけ呟く。
にやにやと笑うヒル魔に良いお年を、と告げて雪光は書庫へと下がったのだった。
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鳥(とり)
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性別:
女性
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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