旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
まもりは差し出された雑煮を笑顔で受け取った。
「ありがとうございます!」
「ム」
がっしりとした体躯の男にまもりは礼を述べる。
彼がヒル魔の言うところの面倒くさい相手、飯縄権現の清十郎というらしい。
あの少女は鳥居をくぐった途端に子狐に変化し、彼女を案内した。
そして導かれた先の屋敷で待っていたのが彼だったのである。
「ヒル魔く・・・さんとは昔からのお知り合いですか?」
「いや。ヒル魔は俺よりも前からこの地にいる」
「そうなんですか」
ヒル魔くんって本当に今何歳なのかしら、と内心呟きながらまもりは雑煮を堪能する。
「おいしいですね」
「他にも色々用意している。食べていけ」
「嬉しいです」
用意されているのは色とりどりに様々なものが詰め込まれた重箱。
これっておせちよね、と考えてまもりはふっと笑みを引っ込めた。
そういえば若菜に貰ったおせち料理が屋敷にもあるのだ。
ここで食べていっては全て食べきれないかも知れない。
ヒル魔も食べるだろうが、かなりの量があったし、とまもりは考える。
「あの・・・そんなには食べられないのですが」
「いや、ここで食べて行った方がいい」
まもりは強引とさえ思える誘いに困惑する。
生真面目だと聞いていたので、理由を述べれば辞退出来るかも、と口を開こうとして。
「帰宅してから一昼夜は食事が取れないと考えて間違いない」
「え?! な、なんでですか?!」
「相手がヒル魔だからだ」
「え・・・」
戸惑うまもりに、清十郎が真顔で言った。
「精を付けろ。後で判る」
「はあ・・・」
まもりはなにやらよく判らないが、とりあえず身に危険が迫ればケルベロスは出てくるだろうし、多分これは食べていって大丈夫なんだろうと思いつつおせち料理に舌鼓を打ったのだった。
「入るぞ」
雪光が存在を知っていても、手が出せない最たる場所。
そこにヒル魔が足を踏み入れる。
一年間締め切られていても、不思議と淀まない空気の中で、一人の女性が座っている。
たおやかなその姿、秀でた額は雪光とよく似ている。
血のつながりはないが、同じような役目を負っているせいだろうか。
「ようこそいらっしゃいました」
す、と頭を下げるその様子にヒル魔は手を振った。
堅苦しいのは好かない。
ましてもう数えるのも億劫になる程に顔を合わせているとなれば、尚更。
「奥方様を迎えられて、なお一層貴方様の周りは賑々しくなるでしょう」
告げる声は淡々とさして広くもない室内に響く。
「今年は」
ヒル魔の問いかけに、蛍はふ、と笑った。
言葉よりも雄弁な、穏やかな表情。
「そうか」
ヒル魔はそれを見て立ち上がる。
来年は問題ないようだ。
ふと思い立ってヒル魔は口を開く。
「お倉坊主がテメェに会いたがってたぞ」
それに蛍はぱちりと瞬いた。
彼女は一年に一度屋敷の主のみ言葉を交わす存在。
余人と世間話などする術もない。
けれどその一言に、彼女は何かを感じたのだろうか。
すい、とどこからともなく取り出したのは白い組紐だった。
それをヒル魔に差し出す。
「渡しておく」
それに彼女は頷いて微笑んで頭を下げる。
ヒル魔は躊躇いもなく、一年に一度しか足を踏み入れられないその場所を後にした。
散々にごちそうを振る舞われ、お腹が重いと呻きつつ帰宅したまもりを迎えたのは、平素の通りのヒル魔ではなかった。
いつぞやのような、髪が長く狐の耳が頭上に現れ隈取りが浮かんだ、その姿。
獣に近いその姿は、判りやすく彼が妖怪であることを示している。
そしてその彼に半月程拘束されて抱かれ続けた日々を思い出し、一気に青ざめる。
「な、なに、それ」
「『東』にはいい言葉があってナァ」
「・・・い、いい、です。なんか聞きたくない・・・私眠いので、寝・・・」
後ずさるまもりを、逃さずヒル魔の手が掴み寄せた。
「寝かせてやるぞ。存分にナァ」
「や、何か違う! 違う事考えてる!!」
助けを求めようにも屋敷の中には他に妖怪の気配は一つもない。
雪光も書庫なのだろう、姿はないし、まもりの悲鳴を聞いていても出てくる様子はない。
孤立無援なまもりににやついた声が告げた。
「年明けに初めてヤるのを『姫始め』っつーんだよ」
「!!」
イタダキマス、という囁きの後、あっという間に寝所まで連れ去られる。
逃れられずまもりはヒル魔に易々と押し倒された。
松の内が終わり、雪光が挨拶のため顔を出す。
室内には疲労困憊でおせちをつつくまもりと、隣で上機嫌に酒を呷るヒル魔の姿があった。
やっぱりそうなりましたね、という無言の視線に、ヒル魔はふんと鼻を鳴らしただけ。
そして彼は不意に懐から何かを取り出し、雪光に投げる。
「なんですか、これは」
「サアネ」
真っ白な組紐。
使い道も意味もわからないが、雪光はすぐにこれが蛍からのものだと察した。
理由はわからないが、そんな気がしたのだ。
組紐は編み残した部分をくくると丁度腕に嵌る程の輪になる。
彼はしばしそれを見つめていたが、くるりと自らの腕にそれを巻き付けた。
「ありがとうございます」
「おー」
何か判らないが理解し合っているような二人にも、まもりは気怠げに視線を寄越したきり。
しばらくしてからヒル魔がふらりと席を立ったのを見て、雪光がこそりとまもりに耳打ちする。
「よかったですね」
「・・・何が?」
掠れた声で尋ねられ、雪光はにっこりと笑った。
「清十郎さんが呼んでくださったおかげで、一日期間が短くなったんですよ」
なんの、とは言わなくてもすぐ判る。
まもりは目を丸くして、次いでその場にぐったりと身体を投げ出す。
「もしかして、毎年こうなるのかしら・・・」
「さあ。でも」
雪光は腕に撒かれた組紐をちらりと見つめた。
「それは、そう悪いことじゃないと思いますよ」
身体を繋げたまま穏やかな時を過ごせるのは平和の証なのだから。
けれど。
「他人事だと思って・・・」
笑顔の雪光に、まもりは恨みがましい視線を向けたのだった。
***
あけましておめでとうございます! 旧年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いします!
正月といえば振り袖、お雑煮、おせち、姫始めですよ、という短絡思考から出来た作品です(笑)
某方面からの大プッシュで雪光さん&蛍さんを出してみました。
あと特にご希望はなかったのですが進さんと19巻でセナに風船を取って貰った女の子も出しました(笑)
「ありがとうございます!」
「ム」
がっしりとした体躯の男にまもりは礼を述べる。
彼がヒル魔の言うところの面倒くさい相手、飯縄権現の清十郎というらしい。
あの少女は鳥居をくぐった途端に子狐に変化し、彼女を案内した。
そして導かれた先の屋敷で待っていたのが彼だったのである。
「ヒル魔く・・・さんとは昔からのお知り合いですか?」
「いや。ヒル魔は俺よりも前からこの地にいる」
「そうなんですか」
ヒル魔くんって本当に今何歳なのかしら、と内心呟きながらまもりは雑煮を堪能する。
「おいしいですね」
「他にも色々用意している。食べていけ」
「嬉しいです」
用意されているのは色とりどりに様々なものが詰め込まれた重箱。
これっておせちよね、と考えてまもりはふっと笑みを引っ込めた。
そういえば若菜に貰ったおせち料理が屋敷にもあるのだ。
ここで食べていっては全て食べきれないかも知れない。
ヒル魔も食べるだろうが、かなりの量があったし、とまもりは考える。
「あの・・・そんなには食べられないのですが」
「いや、ここで食べて行った方がいい」
まもりは強引とさえ思える誘いに困惑する。
生真面目だと聞いていたので、理由を述べれば辞退出来るかも、と口を開こうとして。
「帰宅してから一昼夜は食事が取れないと考えて間違いない」
「え?! な、なんでですか?!」
「相手がヒル魔だからだ」
「え・・・」
戸惑うまもりに、清十郎が真顔で言った。
「精を付けろ。後で判る」
「はあ・・・」
まもりはなにやらよく判らないが、とりあえず身に危険が迫ればケルベロスは出てくるだろうし、多分これは食べていって大丈夫なんだろうと思いつつおせち料理に舌鼓を打ったのだった。
「入るぞ」
雪光が存在を知っていても、手が出せない最たる場所。
そこにヒル魔が足を踏み入れる。
一年間締め切られていても、不思議と淀まない空気の中で、一人の女性が座っている。
たおやかなその姿、秀でた額は雪光とよく似ている。
血のつながりはないが、同じような役目を負っているせいだろうか。
「ようこそいらっしゃいました」
す、と頭を下げるその様子にヒル魔は手を振った。
堅苦しいのは好かない。
ましてもう数えるのも億劫になる程に顔を合わせているとなれば、尚更。
「奥方様を迎えられて、なお一層貴方様の周りは賑々しくなるでしょう」
告げる声は淡々とさして広くもない室内に響く。
「今年は」
ヒル魔の問いかけに、蛍はふ、と笑った。
言葉よりも雄弁な、穏やかな表情。
「そうか」
ヒル魔はそれを見て立ち上がる。
来年は問題ないようだ。
ふと思い立ってヒル魔は口を開く。
「お倉坊主がテメェに会いたがってたぞ」
それに蛍はぱちりと瞬いた。
彼女は一年に一度屋敷の主のみ言葉を交わす存在。
余人と世間話などする術もない。
けれどその一言に、彼女は何かを感じたのだろうか。
すい、とどこからともなく取り出したのは白い組紐だった。
それをヒル魔に差し出す。
「渡しておく」
それに彼女は頷いて微笑んで頭を下げる。
ヒル魔は躊躇いもなく、一年に一度しか足を踏み入れられないその場所を後にした。
散々にごちそうを振る舞われ、お腹が重いと呻きつつ帰宅したまもりを迎えたのは、平素の通りのヒル魔ではなかった。
いつぞやのような、髪が長く狐の耳が頭上に現れ隈取りが浮かんだ、その姿。
獣に近いその姿は、判りやすく彼が妖怪であることを示している。
そしてその彼に半月程拘束されて抱かれ続けた日々を思い出し、一気に青ざめる。
「な、なに、それ」
「『東』にはいい言葉があってナァ」
「・・・い、いい、です。なんか聞きたくない・・・私眠いので、寝・・・」
後ずさるまもりを、逃さずヒル魔の手が掴み寄せた。
「寝かせてやるぞ。存分にナァ」
「や、何か違う! 違う事考えてる!!」
助けを求めようにも屋敷の中には他に妖怪の気配は一つもない。
雪光も書庫なのだろう、姿はないし、まもりの悲鳴を聞いていても出てくる様子はない。
孤立無援なまもりににやついた声が告げた。
「年明けに初めてヤるのを『姫始め』っつーんだよ」
「!!」
イタダキマス、という囁きの後、あっという間に寝所まで連れ去られる。
逃れられずまもりはヒル魔に易々と押し倒された。
松の内が終わり、雪光が挨拶のため顔を出す。
室内には疲労困憊でおせちをつつくまもりと、隣で上機嫌に酒を呷るヒル魔の姿があった。
やっぱりそうなりましたね、という無言の視線に、ヒル魔はふんと鼻を鳴らしただけ。
そして彼は不意に懐から何かを取り出し、雪光に投げる。
「なんですか、これは」
「サアネ」
真っ白な組紐。
使い道も意味もわからないが、雪光はすぐにこれが蛍からのものだと察した。
理由はわからないが、そんな気がしたのだ。
組紐は編み残した部分をくくると丁度腕に嵌る程の輪になる。
彼はしばしそれを見つめていたが、くるりと自らの腕にそれを巻き付けた。
「ありがとうございます」
「おー」
何か判らないが理解し合っているような二人にも、まもりは気怠げに視線を寄越したきり。
しばらくしてからヒル魔がふらりと席を立ったのを見て、雪光がこそりとまもりに耳打ちする。
「よかったですね」
「・・・何が?」
掠れた声で尋ねられ、雪光はにっこりと笑った。
「清十郎さんが呼んでくださったおかげで、一日期間が短くなったんですよ」
なんの、とは言わなくてもすぐ判る。
まもりは目を丸くして、次いでその場にぐったりと身体を投げ出す。
「もしかして、毎年こうなるのかしら・・・」
「さあ。でも」
雪光は腕に撒かれた組紐をちらりと見つめた。
「それは、そう悪いことじゃないと思いますよ」
身体を繋げたまま穏やかな時を過ごせるのは平和の証なのだから。
けれど。
「他人事だと思って・・・」
笑顔の雪光に、まもりは恨みがましい視線を向けたのだった。
***
あけましておめでとうございます! 旧年中は大変お世話になりました。今年もよろしくお願いします!
正月といえば振り袖、お雑煮、おせち、姫始めですよ、という短絡思考から出来た作品です(笑)
某方面からの大プッシュで雪光さん&蛍さんを出してみました。
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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