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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ゴンドラの唄

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
最後にひとつだけ、我が儘を聞いてくれるというのなら。
あの観覧車に乗ってみたいの。


変なストーカーのような男に付きまとわれて辟易としていた私に、ヒル魔くんはにやりと笑って言った。
『俺と付き合えば解決するぞ』と。
不審そうに見つめてみれば、彼はにやついた笑みを隠しもせず続けた。
『俺も煩い糞女どもの相手をいちいちするのが面倒だ』と。
ああそうか。
彼はアメフト部が勝ち進むにつれて、段々と騒がれるようになっていたのだった。
ただの恐怖の対象から、恐怖を交えつつも憧れの対象へと変貌していた。
私の沈黙をどう取ったのか、彼は更に続けた。
『高校生活の間、どちらかに好きな相手が出来たら関係は解消。それまでの便宜的な関係だ』
都合がいいだろう? そう言われて私は笑みを浮かべて頷いた。
―――それは自嘲の笑みだと彼は気づいただろうか?


付き合ってます、と宣言をしても実質何かが変わる訳じゃない。
部活で一緒に過ごすのは今までと一緒、それ以外の時に一緒に過ごさないのも一緒。
ただ、彼と付き合う、という単語の効果は絶大で、私に付きまとうような人はいなくなった。
ヒル魔くんはどうだか知らないけれど、イキイキと部活に励んでいるのを見る限りは自由を満喫しているのだろう。
彼が好きになる人はどんな女性なんだろうか。
きっと綺麗な人か、可愛らしい人か・・・いずれにせよ私とは違う女性が選ばれることは間違いない。
今、隣にいられても、それは便宜的な関係に過ぎないから。
―――苦しいのは私一人だ。彼は何も知らないし、・・・それで、いい。


部活も引退して、進路も決まって、ぽっかりと穴が空いた日にヒル魔くんから連絡が来た。
どこかに行くか、と。
その声に、直感的に気づいた。
ああ。
きっと、ヒル魔くんには好きな人が出来たのだ、と。
これは別れの言葉を継げる準備だ、と。
私は声が震えないように気を付けて、言葉を紡いだ。


あの、関東大会のくじ引きをした会場の、遊園地。
あそこに行きたいの。


冬空、抜けるような青い色を背景に、観覧車がゆっくり回っている。
「なんでンなモン乗りたがるんだよ」
「いいじゃない、一度乗ってみたかったの」
文句を言いながらも付き合ってくれるヒル魔くんに、私は笑顔で答える。
ここで泣くのはおかしいことだから、ずっと笑っていようと決めた。


冬の平日、客はそう多くない。
観覧車に乗りこむ。ゆっくりとゴンドラが引き上げられていく。
「おい」
「なに?」
私は視線を外に向けたまま応じる。
その姿を視界に入れたら、絶対に泣く。
泣きたくない。便利なだけの関係ではなかったのだと、知られたくない。
知られて迷惑な顔をされること程辛いことはないのだから。
「丁度一年だな」
「そうね」
あの時は、誰もいない部室で唐突に話を振られたのだった。
しんと冷えた空気、どこか薄暗さが蟠る室内の様子が鮮やかに思い出される。
そこに一際輝いて見えた彼の金髪も。
告げられた言葉に一喜一憂し、結局は一人帰り道で切なさに泣いたことも。
「テメェは何か言うことはねぇのか」
「何も」
空が高くなっていく。
綺麗な青空の向こうに富士山も見える。
今日が晴れていて本当に良かった。
雨空だったら間違いなく濡れて帰って風邪を引いただろう。
小さく舌打ちが聞こえる。
「俺はもううんざりだ」
「何が? 私に? それともこの関係に?」
「どっちもだ」
声が詰まった。
「―――言い出したのはあなたでしょう」
空が歪んで、一瞬遠くなる。
泣くにはまだ早い。
彼が消えた後にゆっくり、心おきなく泣けばいい。


ぐらりとゴンドラが揺れた。
「うんざりなのは、俺自身にもだ」
どさりと隣に座り、腕が伸ばされる。
「ンな関係、テメェの首絞めるだけだって判ってたのに、な」
「え・・・」
捕らえられる身体。
しなやかな腕。
頬を拭う指。
「便宜的な関係なんかじゃ満足できねぇ」
「それ、は」
「・・・あ―――・・・やっと、触れた」
隙間なく抱きしめられ、聞こえた小さな呟きに。
私の涙腺はとうとう決壊した。



ゴンドラが頂点にさしかかったとき。
私たちの密やかな片恋はキスを切っ掛けに、静かに終わりを告げた。


***
命短し恋せよ乙女。
高校生っぽくカワイイ話を書こうと思ったら意外に難産でした。
元にした少女漫画があります。メジャーなので結構皆様ご存じかも。
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