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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ブルーネイル・ブルー

(ヒルまも高校卒業後)
※『イヤーロブ』の後あたりです。


+ + + + + + + + + +
濡れたような艶の爪。
綺麗に手入れされたそれを前に、まもりはにっこりと笑った。
「こんなに自分の手が綺麗になるなんて、嬉しい!」
「喜んで頂けて嬉しいです」
素直に喜びを示す客のまもりに、担当したネイリストは満足そうに笑った。
彼女が今回チャレンジしたのは、ジェルネイル。
スカルプより堅くなく、爪自体への負担も少ないという。
それでもマニキュアより数段長持ちするし丈夫だ。
つやつやとしたそれは根元から爪先にかけて碧のグラデーションがされている。
所々に白いラインストーンをちりばめたそれは彼女の瞳と相俟ってとてもよく似合っていた。
「段ボール箱を壊したり、剥がすという作業には弱いですけど、普通の生活には支障はありません」
「そうですか。気を付けますね」
ネイリストからの細々とした注意を受けながら、まもりは感覚を確かめるように爪を触っている。
「これは喜んでもらえそうだわ」
満足そうなまもりに、ネイリストはあら、と笑みを深める。
「彼氏さんに見せるんですか?」
「ええ。たまには驚かせようと思って」
にっこりと笑ったまもりの真意を知らず、ネイリストは彼氏さんも喜ばれるといいですね、と笑った。


帰宅したまもりの爪を見て、ヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「なんだソレ」
「ふふ、綺麗でしょ?」
ほら、と見せびらかすまもりに、ヒル魔はちらりと視線を向けただけだ。
もし似合っていなかったり分不相応だったりした場合には容赦ない言葉が飛んでくる彼だから、コメントなしということであれば問題ないと判断されたのだろう。
それ以上に余計な口を挟んで先ほどの喧嘩を蒸し返したくない、という彼の思惑も感じられるがまもりはそれにはあえて触れない。
言い争っていつかのように部屋を飛び出したのはつい三時間程前の話。
「さっきたまたまネイルサロンの前を通ってね。そこにお店があるのは知ってたんだけど、今日は思い切って入ってきたの」
「ホー」
「いい気晴らしになったわ」
にこにこ、と笑うまもりにヒル魔は一言コーヒーを所望した。

眠る準備を整えてから腕を引いた彼に、まもりは笑みを浮かべてその首に腕を回す。
彼女からの承諾を得て、ヒル魔も笑みを浮かべて彼女を己の寝床に引き込み。


そして。
「痛ッ!!!」



二日後。
件のネイルサロンの看板には臨時休業の札が下がっている。
ひっそりと静まりかえった店内には冷や汗を浮かべてジェルネイルを取る作業をするネイリスト。
意識を朦朧とさせ、なすがままのまもり。
そうして、彼女を背後から抱える凶悪な笑みを浮かべた悪魔の三人だけがいた。
「せっかく・・・やってもらったのに・・・」
「煩ェ」
両手を施術台に載せているので身動きが出来ないまもりにべったりと貼り付き、ヒル魔は彼女の耳に噛みつく。
「いたっ!」
「俺はその万倍痛かった」
「そんなこと、ないもん」
「ホー。何を根拠にそう言うんデスカ?」
「ヒル魔くん、面の皮どころか全身の皮が厚いんだもん・・・」
喧嘩しつつもいちゃついてるように見える二人を前にして、ネイリストは作業しつつもいたたまれず、ひたすら視線を逸らし続けていた。

ここのところほぼ毎晩のように貪られ続ける日々に嫌気が差したまもりは、ヒル魔に回数を減らすか日を空けるかしてほしいと進言したのだが、『テメェも楽しんでるだろうが』という一言で相手にもされず喧嘩が勃発した。
ソレがヒル魔にとっても単なる性欲処理ではなく愛情表現だとは判る。
判るけれども、限度はある。
何より基本的な体力に歴然の差があるのだ。
まもりの方が先に音を上げるのは必然だろう。
喧嘩はしばらく悪戯に時間を消費しただけで解決はせず。
そんな状況に、頭を冷やしてくる、と一言言い置いてまもりは外出した。
歩いていてふと目に付いたのはネイルサロン。
ジェルネイルのうたい文句を見て思いついたのだ。
まもり自身の爪は彼の背中に傷を付けるほど尖っても頑丈でもないが、ジェルネイルは堅いので丈夫なのだという。
これでコーティングされた爪であれば、日頃どれだけ引っ掻いても平然としている彼にダメージを与えることができるはず。
そうなれば少しは警戒して距離を置くかも知れない、と。
その読みは半分当たっていた。

半分は。

まんまと誘いに乗ったフリのまもりを堪能しようとした彼の背に、彼女は爪を立てた。
当社比120%アップの力加減で。
情け容赦ないその力に彼の背に傷が刻まれ血が滴る。
これにはさしものヒル魔も痛みに声を上げた。
何よりも安らぐはずの寝床、ましてや腕に抱いているのは最愛の恋人なのに。
その仕打ちに硬直するヒル魔の前でまもりがざまあみろ、というように笑った。
途端に、ヒル魔の目が据わった。


「俺に怪我させて萎えさそうなんざ百年早いんだよ」
「だからって・・・やりすぎ・・・」
めそ、と涙目で眉を寄せるまもりの身体は今、相当悲惨な事になっている。
全身、主に背中に多く残る咬み傷。
尖ったヒル魔の歯形がまもりの柔肌にくっきりと残されている。
正面から抱き合えば爪の餌食になるのだと瞬時に理解したヒル魔は彼女をひっくり返して挑み掛かったのだ。
結局、まもりが彼の背に爪を立てられたのは一度だけだった。
後はひたすら敷布にしがみつく時間が長時間続いた。
その結果。
「ゆびも、ひざも、痛い・・・」
「自業自得だ」
両手指の第二関節付近は掴んだ敷布に擦られたため赤くなり皮膚がめくれる直前だし、両膝も同様。
嬌声と悲鳴がひっきりなしに漏れ出た喉はがらがらだし、泣きすぎて目は痛いし、腰も腹も鈍い痛みに支配されている。
何度も許しを請うて、身体を離す条件として提示されたのがジェルネイルを取り去る事、だった。
綺麗に手入れされたジェルが取り払われるのは寂しいが、今はつかの間の安息。
けれど、しっかりとしがみつくヒル魔はこのジェルネイルを剥がし終わったら再び自室のベッドに連れ込む気なのだ。
抵抗など許さないと言いたげに。
そして今度こそその身体を全部抱きしめるために。
爪などに邪魔されて堪能出来なかったとヒル魔は飄々と言い放つのだ。
逃げたいが、もうその体力は残っていない。
悪魔の体力は底なしなのかしら、と疲れた頭でまもりは考える。
こうなれば今、少しでも休んで回復させるしかない、と逃げるのを諦めた。
そして静かに瞳を閉じて、背後の彼に身体を預けたのだった。



***
馴染みの美容院でジェルネイルやってくれるっつーんで行ってきたんですよ。綺麗な爪を見てるだけで幸せw
私は仕事柄あんまり派手な爪が出来ないので、単なるグラデーションだけですが。
丈夫な爪で引っかかれたらさすがのヒル魔さんも痛いだろうなあ、と思ってたらこんな話に。
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