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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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焚き火

(狐の嫁入りシリーズ)


+ + + + + + + + + +
まもりは、はー、と息を吐いて手を温めながら廊下を歩いていた。
「寒・・・」
すりあわせる指先は赤くなっている。
冬の洗濯は、水が冷たくて辛い。
井戸水は多少暖かいが、外気が寒いのは如何ともし難い。
厚着をしてしのいでいても、手先つま先の冷えはどうにもならないものだ。
室内に入れば多少は暖かいが、元より風通しの良いように作られている日本家屋。
寒さ対策はやはり火鉢を囲むか炬燵にはいるかのどちらかになる。
そもそも洗濯の必要性があまりない生活なので、やめられてはと雪光に再三進言されている。
けれど、それ以外に明確にまもりがここで出来る作業、というのが今のところないのだ。
だからなんとなく洗濯をやめることが出来ないまま今に至っている。
他に出来ることがあれば、こんなにムキにはならないんだけれど。
そうぼんやりと考えていたら。
「まもり姉ちゃん」
「え?」
くい、とセナに袖を引かれる。
振り返ればセナが何かを抱えて笑顔で立っていた。
「どうしたの、セナ」
「これ、貰ったんだ。でも僕は食べられないから、姉ちゃんなら食べるかな、って」
それはりっぱなサツマイモだった。しかも大量に。
まもりは顔をほころばせた。
「わ、随分大きいわね! どうやって食べようかしら」
そこに猫又の鈴音とその兄の夏彦、鎌鼬三兄弟も現れる。
「やー、まも姐、ヤキイモやるの?」
「アハーハー! ヤキイモは美味しいよね!」
「やきいも?」
「ハ? 喰った事ねぇのか?」
「ハァ、そういや姐さんは今回が『東』で初の冬なんじゃねぇか?」
「ハァアア、それならやってみねぇとな!」
ぱちくりと瞳を瞬かせるまもりの前で、それぞれの役割が決まる。
枯葉をかき集める者、地面を掘る者、石を集めてくる者、水を汲んでくる者。
「どうやって作るの?」
「やー、まずこの穴に石を敷くの」
掘り下げた穴に適当な大きさの石を満遍なく敷き詰め、そこの上にどっさりと枯葉を積み上げる。
「で、点火!」
「きゃっ!」
鈴音が取り出した火打ち石で枯葉に火がともる。
乾燥した木の葉はあっという間に燃え上がった。
ぱちぱちと音を立てて枯葉は炎に包まれる。
ぱちん、と時折爆ぜるのは虫の卵だろうか。
「ここにサツマイモ入れるの?」
「んーん、そうすると焦げちゃうから。少し火が落ち着いたら入れるんだよ」
「ふうん」
しばらく加熱すると、下に敷いた石も熱せられて赤くなっているのが判った。
ここであらかた火を消す。
そしてそこにサツマイモを放り込み、余熱でじんわりと焼き上げるのだ。
「こんな風に焼くのね。どんな味なのかしら」
「甘くて美味しいよ。私たちはあんまり熱いと食べられないんだけど」
「ああ、猫舌だからね」
「アハーハー! 僕に掛かれば熱さなんて!」
「ハァ? じゃあこれ喰ってみろよバカ」
「アハーハーアチチチチチ!!」
取り出した直後のサツマイモを渡され、夏彦が悲鳴を上げる。
その様子を苦笑しながら見つめ、焼き上がったとおぼしきサツマイモを枯れ枝に刺して持ち上げる。
「いい匂い」
「ヤー、そうだよね! まも姐、食べてみて!」
「うん」
ほく、と割れ目から金色が覗く。
それを恐る恐る口に含んだ。
「甘くて美味しいわね!」
「でしょ!」
目を細めるまもりに、鈴音を始めとした面々は楽しげに笑う。
「冬になったらこれ食べないとね!」
「そうなんだ」
「他に蒸したり煮たりもするけど、こういうのもたまにはいいでしょ?」
「そうね」
冷ましながら食べ頃を待つ鈴音と鎌鼬三兄弟。
彼らは元が動物であるため、あまり熱い物は得意ではないらしい。
なら、ヒル魔も苦手だったりするのかな、と思っていた時。
「ヤキイモか」
「ヒル魔くん」
後ろから唐突に現れた彼に抱き留められ、まもりは首を上げる。
「食べる?」
「おー」
渡されたサツマイモをぱくりと割り、一口囓る。
途端にヒル魔は少々眉を寄せた。
「糞甘ェな」
「おいしいわよね」
「相変わらず糞嫁は甘い物がお好きなようデスネ」
「なによ、ヒル魔くんは美味しいと思わないの?」
「甘すぎる」
「もう。でも食べなくても、持ってるだけであったかいわよね」
眸を細めるまもりを、ヒル魔は抱き寄せて自らの胸に納める。
「暖かさを求めるなら、俺はこっちだな」
ぽかぽかと暖かい身体を持つまもり。
まるで日向に集う太陽の光を集めて出来ているかのようだ。
その証拠に、ほら瞳は青空の色だ。
「私は懐炉じゃないのよ?」
「似たようなもんだ」
きゅう、と抱きしめる彼の腕に、まもりは笑みを浮かべて身体を預ける。
やはり身体は寒さにどうしても緊張しがちで、辛かったのは事実だったので。
彼が背をあたためてくれるなら、外でもそんなに寒くはない。



そんな二人を眺めていた鈴音は、ようやく冷めてきたサツマイモを手に笑う。
「やー、なんか食べる前からお腹一杯って感じよね」
それを聞きつけた夏彦がくるくると回りながら鈴音の手からサツマイモを取り上げた。
「アハーハー! 食べないのかい鈴音、なら僕が食べてあげようじゃないか!」
「ちょっと、食べるって! 意味が違うのよこのバカ兄!!」
「イタタタタ!!」
ギャリギャリと音を立てて背を引っ掻かれ、情けない悲鳴を上げる夏彦を見た十文字は、ため息をつきつつ最近めっきり用途以外に使われるようになってしまった傷薬を取り出したのだった。


***
久しぶりに狐の面々が出てきました。みんなでたき火を囲む図が書きたかった模様。
ヤキイモ食べたいなあ。
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