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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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しろがねすすき

(狐の嫁入りシリーズ)
※『焚き火』の続きです


+ + + + + + + + + +
目の前には銀色のススキの海。
月光を弾いてきらきらと輝くその場所に、ひとつ金色が煌めく。
それは月よりももっと色濃く、鮮やかで。
こんな色を持っているのはたった一人しか知らない。
ヒル魔くん。
ぴんと立った耳が風を受けてくい、と動く。
一度だけ見た事がある、頭の上に付いている獣の耳。
あの時と違って、髪は短いけど。
「ほら」
こちらを見つめる顔は屈託無く笑っている。
でも。
あからさまに彼が小さい。
年の頃は十歳くらいだろうか。
でもちょっと顔が違う、ような気がする。
そして私が見上げているということは、私も小さいということだ。
今何歳くらいなんだろうか。
彼よりは年下、ということが判るだけ。
「おいで」
手を差し伸べられる。
躊躇いなく握ったその手は、とてもあたたかかった。
私たちはススキ野原の脇のあぜ道を、手を繋いで歩いていく。
夜だけど、月が明るくて星も綺麗だから、全然怖くない。
「どこいくの?」
「あそこ」
指さされた先には、賑やかな音と揺らめく光がある。
「あれは、なに?」
「人間の祭りだよ」
「お祭り・・・」
ふさ、と彼のしっぽが揺れる。
「でもあそこに行くなら、隠さないとね」
「なに・・・」
ふわ、と頭を撫でられる。
途端に頭に感じたのは、違和感。
彼の指に触れられているのは、私の耳だ。
そんなところについていたことはないのだけれど。
「耳としっぽ」
「え・・・」
振り返れば、彼だけにあると思っていたしっぽが私にもある。
「お前は変化が苦手だから」
「そ・・・うだったっけ」
「ばれないように気を付けないと」
「うん」
スッキリしない心持ちのまま、人々が賑やかに笑いさんざめくその場所に近づく。
きゅ、と手を強く握られる。
「俺から離れたらだめだよ?」
「うん」
「絶対だよ」
「じゃあ、」
約束の指切りをしよう、と言おうとして。



「やはり風邪ですねー・・・」
苦笑しつつ雪光がまもりの額に載せていた手ぬぐいを取り替える。
「ったく! だから洗濯やめろっつったじゃねぇか!」
高見が処方した薬を手に、苦々しくヒル魔は舌打ちした。
ふうふうと荒い息をつくまもりは夢でも見ているのか、隣にいるヒル魔の手を放さない。
「まもりさんも洗濯くらいしかやる事がないと仰ってましたから」
「んなもん、寝てりゃいいんだよ」
「性分なんでしょう。元々じっとしているより身体を動かされたい性質だとご自分も仰ってましたよ」
きゅ、と縋るように手を握るまもりにヒル魔の顔は晴れない。
「普段からヒル魔さんがあまり外に出されないのですから、やる事がないのは当然ですよ」
ちくりと雪光が嫌味を言う。ヒル魔は更に不機嫌に言い返す。
「そもそも妖怪が勤勉でどうする」
「まもりさんは正確には妖怪じゃないですよ」
ああ言えばこういう雪光を、ヒル魔はぎろりと睨め付けた。
「黙れ」
「はいはい。お茶でも淹れてきましょうか」
す、と雪光が姿を消す。
まったく、と嘆息しつつ熱のせいで赤みが増したまもりの頬をつついた。
天使の血が入っているから、基本的に食事も睡眠もさほど必要としないはずのまもり。
けれどヒル魔に抱かれるようになってから体力の消耗が激しいらしく、食事や睡眠は欠かせない。
そうして、人と同じように病気にもなると今回判った。妖怪にはあり得ない事態だ。
死に至る程の病気になるかどうかはまだ判らない。
『パンドラ』であるまもりが、子供を成したらどうなるのだろう。
子が成せるのは『西』で実証済み。『東』であれば生まれ落ちる子が魔族になることはない。
ただ、彼女には相当な負担が掛かるはずだ。
ましてや大妖怪であるヒル魔の子ともなれば、その身体に更に何かしらの悪影響が出るかもしれない。
どうしたものかな、とヒル魔は内心呟く。
長く長く続くこの時の中で、この手を放すなんて考えていない。
けれど多分、まもりがこの先本当に命を落とす事があっても、無理矢理につなぎ止める事はしないだろう。
そんなことをした途端、ヒル魔が慈しむこの世界の崩壊が始まる。
小さな雫が、ほんの一滴落とされただけでこの世界は歪み出すから。
そうして何より、そんなことになれば悲しむのはまもりだろうから。
親が産み落とした子を自由に出来ないのと同じように、例え『創造主』のヒル魔であっても、この世界に狐の妖怪の『彼』として範疇を越えた事は出来ない。
埒もないことを、と一人自嘲する。
どうなるか判らない未来の事を一人悲観する必要はまだないはずなのに、まもりが寝込んだだけでこの有様だ、と。
「・・・ヒル魔くん?」
不意にまもりが意識を取り戻した。
握ったままの手を、小さく引く。
「どうした」
「・・・約束、しよ」
夢うつつの状態らしいまもりは、ヒル魔の手を解いて指を絡めた。
「ゆびきり・・・」
とりあえず彼女の好きなようにさせようと、ヒル魔は彼女の望むとおりに小指を絡めてやる。
「だいじょーぶ」
まもりは不意ににっこりと笑った。
「私は、離れないよ」
ヒル魔の目が見開かれる。
「絶対よ」
くい、と引くような小指の熱。
まるでヒル魔が今まで胸裏で巡っていた諸々の考えを全て看破した上で囁いたよう。
「・・・ああ。約束だ」
さらり、とヒル魔の手がまもりの頭を撫でる。
柔らかいその手つきに、まもりは安堵し再び意識を沈み込ませたようだ。
おそらくは何かの夢を見ていて、その続きで言ったのだろうとは推測出来た。
けれど綻ぶ口元は押さえようが無くて。
「お茶をお持ちしました」
す、と再び姿を表した雪光は、先ほどまでとは打って変わって優しい笑みを浮かべたヒル魔にきょとんとする。
けれど絡み合った小指に何かを感じ取り、賢明な雪光は笑みを浮かべると二人の邪魔をしないようにお茶だけ置いてさっさと書庫へと引きこもったのだった。


全快した後、まもりはヒル魔に夢の話をした。
「私が小さな狐の子になってて、隣にいた子もヒル魔くんそっくりだけど小さくて、まるでお兄ちゃんみたいだったの」
「ホー」
「ヒル魔くんが小さい頃はこうだったのかな、って後で思ったわ」
かわいかったんでしょうね、という言葉にヒル魔はぴんと片眉を上げる。
「俺がガキの頃は狐のまんまだ」
「あ、・・・そっか、妖怪になるのって大人になってからなのね」
「大人、っつーか何百年か生きねぇとならねぇんだよ」
「そうなの? じゃあ、あれはただの夢かあ・・・」
かわいかったのに、という台詞に、ヒル魔はにやりと笑みを浮かべる。
「だが、最初から妖怪として生まれればそういうガキもいるかもしれねぇナァ」
まもりはぱっとヒル魔を見つめた。
「テメェが何もやる事ねぇっつーんで暇もてあましてるんなら、いっそ孕ませるのも手だよナァ?」
「え」
「俺とテメェのガキだったらそういうナリかもナァ?」
それにまもりは真っ赤になって口を開閉させる。
「ちょ、それ、でも、あの・・・っ」
「そういう選択肢もある」
楽しげに喉の奥で笑いながら、ヒル魔はまもりの頭を撫でる。
あの夢の中で感じた、頭の上にある耳の感触はない。
もし、子供が生まれたら耳としっぽはどうなってるのかしら。
確かめてみたい、かも。
そんな風に考えていたまもりの耳に、ヒル魔のあっさりとした声が響いた。
「だが、当面子供はナシだ」
「え」
そして回転する地面。
「まだまだテメェを堪能しねぇとナァ」
ぽす、と転がされたのはつい先日やっとのことで脱出した布団の上で。
「や、ちょっと!?」
「俺から『絶対離れない』っつー約束もあることだしナァ」
「え、それ違う!」
「違わねぇだろ?」
にやにやと自信たっぷりに笑う彼にまもりは夢の中で見た幼いヒル魔のような少年を思い浮かべる。
そうして、自分に似ているだろうその妹とおぼしき少女も。
ヒル魔が言うのなら当面は産む事はないのだろう。
けれど会ってみたい。いつか、あの二人に。
「・・・いつかは産みたいわ」
その言葉にヒル魔はそのうちな、とだけ囁いてまもりに深く口づけたのだった。


***
最初のまもりちゃんがが見た夢は、私が見た夢を元にしました。私、よく映画みたいな夢見るんですよ~。
狐のヒル魔さんは当面まもりちゃんを孕ませる気がないようで、せっついてみましたがダメでした。
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