忍者ブログ
旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

* admin *  * write *  * res *
[565]  [564]  [563]  [562]  [561]  [559]  [560]  [558]  [557]  [556]  [554
<<10 * 11/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  *  12>>
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

パフェひとさじ

(ヒルまも)



+ + + + + + + + + +
目の前に置かれた巨大パフェに、姉崎は顔を輝かせた。
雁屋とファミレスのクリスマス限定コラボレーション企画、らしい。
糞くだらない代物としか見えない。
「これ! 食べてみたかったの!」
笑顔満面でスプーンを手に取り、姉崎はいただきます、と手を合わせた。
俺は盛大に眉を寄せつつ、コーヒーに口を付ける。
大して旨くもないそれでも、目の前の砂糖と油の塊に比べれば百倍マシだ。
「おいしい・・・っ!!」
感動に打ち震える姉崎に対して、俺は顰めっ面で、そーか、と返すのが精一杯だった。

クリスマスボウルを数日後に控え、俺は姉崎と相変わらず居残り作業を続けていた。
酸素カプセルにはもう入っていない。
今、俺はパソコンで作戦構築中、姉崎は部員のデータをとりまとめている。
俺はパソコンで作業しつつ頭の中でシミュレートを繰り返す。
おそらくは大会中最も複雑な心理戦が行われる事は想像に難くない。
圧倒的な力の差は、鎬を削るような関東大会を勝ち上がってきて多少埋まったとはいえ、やはりまだまだ相手とは歴然とした力の差がある。
そこで白秋の峨王のような物理的な破壊がなくても、心を折られてしまえば戦えなくなる。
けれどもう、部員達は崩れないだろう。幾つも危機を乗り越えてきた仲間達。
面映ゆいしそういうガラでもないので口にはしないが、それは信頼と言ってもいい。
ただ一つ心配があるとすれば。
俺はちらりと隣の姉崎を見た。
奴は連日の作業と部員達のケアに追われていて。
そして、用意しているいくつもの作戦の鍵を握る立場でもある。
最後の最後、残り時間も少なくなった段階で部員達に的確に指示を出すのは、俺じゃない。
姉崎の判断になる。
勿論暗号で相互理解出来るとはいえ、最後にそんな時間的余裕が残っているとは考えづらい。
NASA戦のブリッツ指示の時とは段違いのプレッシャーが掛かる。
その時に一つ指示を出し間違えるだけで、俺たちよりも姉崎の方が潰れる可能性は高い。
「・・・っ」
手元で書き損じたことに気づいた姉崎は、眉を顰めて小さく舌打ちした。
姉崎が、舌打ち。いらだたしげにケシゴムを掴む手つきも荒い。
相当煮詰まっているのが気配や行動の端々から溢れている。
本人そうと気づかせていないつもりだろうが、俺にはバレバレだ。
俺はタイピングの手を止めた。
「おい」
「何」
苛立ちがそのまま声になったような姉崎に、上着を投げつける。
「きゃ!」
「着ろ。出掛けるぞ」
「え?! だってまだ作業終わってないわよ」
「出掛ける、っつっただろうが。また戻って来る」
「どこに・・・」
俺は無言で時計を指さした。時刻は八時を回っている。
「夕飯。腹減った」
「そうね・・・」
途端に空腹を感じたのだろう、姉崎は微苦笑を浮かべた。
「どこに行くの?」
「決めてねぇ」
「えーと・・・あ! それじゃあ、行きたいところがあるんだけど!」
そこで姉崎は何かを思い出したように提案してきたのだ。
そうして二人してやって来たのは、駅にほど近いところにあるファミレスで。
混み合う時間帯だったが、俺には無意味だ。
ひらりと示した手帳に店長が顔を引きつらせながら慌てて席を用意する。
姉崎が何か怒っていたが、俺は無視してさっさと席に着き、メニューを開いた。
どうせこの手の店は何を食べても同じような味だ。
ろくに見もせずに注文を決めて店員を呼びつけようとしたとき、姉崎がおずおずと尋ねてきた。
「あの、ヒル魔くん。デザート食べてもいい?」
「ア?」
「お金は出すから! これ、どうしても食べたくて・・・」
これ、と指さしたのはシュークリームパフェとかいう死にそうに甘そうな代物だった。
思わず顰めっ面になった俺に、やっぱりダメ? と視線を向ける。
「この時間に喰うと太るぞ」
「や、そう、かもしれない、けど」
赤くなってそれでも上目遣いに見つめられ、俺は嘆息する。
無防備この上ない。
呆れたような俺の態度にもめげず、強請るその様に俺は盛大に舌打ちすると、店員を呼びつけて最後に姉崎にその糞パフェも注文するよう促した。

「クリスマスまでの限定だったから、食べられないかも、って思ってたの」
笑顔で山のような生クリームを平らげていくその様子に、俺は視線を逸らす。
見ているだけで胸焼けがしそうだ。
「来年また同じ品物ががあるとは限らないし、食べておきたくて」
先ほどまで部室で漂わせていた苛立ちは見事に霧散している。
全く手軽な女だ、と俺はコーヒーを飲み干し、呼びつけた店員におかわりを持ってこさせる。
「ヒル魔くんは甘い物食べないわよね」
「俺は砂糖を食べたら痺れて動けなくなるんデス」
「嘘!?」
「嘘」
「・・・なーんだ、嘘なの」
どこか残念そうな姉崎にふんと鼻を鳴らして二杯目のコーヒーに口を付ける。
夕飯を食べた後なのに全く落ちないペースでアイスをすくい上げる姉崎は、ふと何かを思案するように動きを止めた。
こういうときの姉崎の行動はろくなもんじゃない。
眉を寄せて視線を向けると、姉崎は笑顔でスプーンを差し出した。
溶けたアイスがスプーンの背に白く雫を作っている。
「何のつもりだ」
「食べたら本当に痺れるかも、って思って」
「嘘だっつったろ」
「だったら証明して見せて」
ほら一口、と差し出される甘い甘い香りの一匙。
「はい、あーん」
語尾にハートマークが付いてるんじゃないか、というくらいの甘い声で、姉崎はスプーンを寄せてくる。
人に毒物を笑顔で与えようとする姉崎に、俺は顰めっ面から一転して笑みを浮かべてやる。
「俺がそれ喰ったら間接キスだナァ」
「っ?!」
姉崎がびくりと肩を震わせ、途端にかあっと頬を染めた。
・・・オイオイ、なんだその反応。今時小学生だってそんなツラしねぇぞ。
面白くなった俺は慌てて引こうとするその手ごとつかみ取る。
「何、す・・・」
「喰わせたいんだろ?」
にやりと笑って、俺はそのスプーンを引き寄せた。
「!!!」
咥内に広がる甘味に、俺は盛大に眉を寄せる。
べったりと張り付くような甘さと、それを更に強調するかのような甘ったるい匂い。
「糞不味ィ」
ぱ、と姉崎の手を放し、すかさずコーヒーで口を漱ぐ。
ただでさえ不味いコーヒーが更に不味い。
立て続けの三杯目を所望し、視線を姉崎に向けると奴は真っ赤になって固まっていた。
「ほらな」
「何、が」
「痺れねぇ、っつったろ」
べ、と舌を出す。
実際は舌が痺れるかと思う程甘かった。よくあんなもん大量に喰えるもんだ。
姉崎はスプーンを片手にまだ固まっている。
俺は三杯目のコーヒーを半分飲んだあたりで姉崎の手からスプーンを奪い取る。
どろり、と半分以上溶けて掬いづらいアイスを載せ、奴の前に突き出した。
「え」
戸惑う視線の前で、俺はにたりと笑ってやる。
「はい、アーン」
先ほどの姉崎の口調を真似てやる。
姉崎は真っ赤になって俺とスプーンを交互に見つめた。
引き結んだ唇は幽かに震えている。
「そんなに照れるなんて、姉崎さんは随分と俺の事がお好きデスネ」
「なっ・・・むぐ!」
何事かを言い返そうと大口を開けたところにスプーンを放り込んでやった。
「テメェで頼んだんだ、残すんじゃねぇぞ」
「・・・うん」
残り少ないパフェを先ほどとはかなりペースダウンしながら姉崎は食べ続ける。
俯いて隠しているつもりらしいが、首まで真っ赤じゃ隠しようがねぇよ。
俺は堪えきれない笑みを浮かべつつ、視線をメニューの束に移し、ふと気づいた。
「オイ」
「な、なに?」
「その糞パフェは第二弾があるらしいぞ」
「えっ?! 本当?!」
正月限定での糞パフェがあるらしい。
これをありがたがる気持ちは到底理解出来ないが、姉崎のような女が大挙して来れば儲かるんだろう。
「お正月限定なのかぁ・・・どんな味なんだろう」
先ほどまでのぎこちなさが嘘のように、姉崎はメニューに釘付けだ。
「喰いに来るか」
「えっ?!」
こぼれ落ちそうな程瞳を見開いた姉崎に、にやりと笑ってやる。
「クリスマスボウルでテメェが職務を全う出来たら喰わせてやろう」
「・・・そんなの! 当たり前じゃない!」
一瞬惚けた姉崎は、次いできらりと瞳を輝かせる。
先ほどまでの焦燥や荒れた空気は払拭され、毅然と前を向くその姿。
そう。
テメェは俺たちの勝敗を決める大事な腕の持ち主なんだからな。
「どうだか。潰れるんじゃねぇぞ」
わざと小馬鹿にしたように言えば、姉崎は少しむくれて見せて、それでも結局は嬉しそうに笑った。


***
サイトの15000HITキリ番を踏まれたかおる様リクエスト『ファミレスで「はい、あ~ん?」「……あ~ん」というシチュエーションになってしまうヒルまも』でした! どちらからどちらに食べさせるのはお任せ、というご希望だったのでじゃあ両方で、と。どっちもちゃんと口空けて食べさせる感じじゃなくてすみません(苦笑)
楽しく書かせて頂きました♪リクエストありがとうございましたー!!

かおる様のみお持ち帰り可。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

管理人のみ閲覧可能にする    
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カウンター
プロフィール
HN:
鳥(とり)
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
最新コメント
[01/05 鳥]
[01/05 NONAME]
[10/21 NONAME]
[10/11 坂上]
[10/02 坂上]
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
フリーエリア
powered by NINJA TOOLS // appeal: 忍者ブログ / [PR]

template by ゆきぱんだ  //  Copyright: hoboniti*kotori All Rights Reserved