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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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微笑む薊

(ヒルまも)
※『Don’t Disturb』と裏の『臆病な棘』の間のヒル魔さん視点です。
※セクシャルな表現が含まれます。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

+ + + + + + + + + +
泣いている女は厄介だ。
宥めても慰めても、自分の気が収まるまで泣きやみもしない。
延々と泣き続けてふっと憑き物が落ちたように泣きやむ。
だから姉崎の時もそんなものだと思って傍観していた。
酒に酔っていたという要因もあり、きっとそのまま放置しておけば翌日にはすっかり忘れているだろうとも。
だから。
「ヒル魔くん・・・」
その手を伸ばされて、俺は正直困惑した。
逃げ道を求めるように伸ばされた手は、小刻みに震えて俺のシャツを握った。
「どうして」
か細く漏れる声は嗚咽混じりで、心ある者が聞けば良心を痛ませる程悲痛だった。
生憎と俺にはないものなので、振り解くのは簡単だった。
「どうして、私、だけ・・・」
事実を知って周囲との温度差にやっと気づいたこの女は、それでも周囲に心配をかけまいと気を張っていた。
それが、大きな山を一つ越えた事で催された祝勝会で手にしてしまった酒によって、暴かれた。
ホテルで催された祝勝会の会場から抜け出し、借りていた部屋に押し込んで出て行こうとした俺のシャツを掴んだのだ。
「ひどい、よ・・・!」
流す涙は、悲しみと憤りと、やるせなさと。
様々な負の感情が織り混ざって光る。
「俺をどうしたいんだ?」
「謝って、よ」
「何についてだ? テメェが気づかなかった事を棚に上げて、糞チビを鍛えてヒーローに仕立て上げた俺がなんで謝る必要がある?」
わざと意地悪く囁けば、奴は言葉に詰まって一層涙を零す。
正直付き合いきれなかった。
さっさと手を放させようとして、気づく。
そういえばこいつが自分から手を伸ばしてきた事など一度だってあっただろうか、と。
人に与えるばかりで、自分から何かをせがむような動きを見た事はない。
誰でも見返りを求めるものだ。それが普通だ。
聖人君子でも悪魔でもそれは同じ。
「おい」
声を掛ければ涙に濡れた顔を上げる。
ヒデェツラだった。
天使だ女神だと崇められる女の、張り付いたような笑みも消えた素の表情。
それに俺は言い表せない程の優越感を知る。
興味を惹かれてその頭を撫でてみれば、思った以上に柔らかい髪がさらさらと指をすり抜けていく。
気づけば宥めるような仕草になっていたようで、姉崎はすんすんと鼻を鳴らしながらこちらを伺っている。
全く以て無防備だ。
それでも、この女のこんな顔を見るのは俺だけだという事実に、浮かぶのは笑みだけで。
「ひるまくん」
おず、と掴んだままだった手を放した女を、引き寄せてやる。
腕に招き入れてみれば、心地よさそうに瞳を細める。
柔らかい。
細い。
モップ一本でこちらに立ち向かってくる常の姿からは想像も付かない程頼りないその身体に、思わず腕に力を込める。
「・・・っ」
小さく呻いたのに気づいて腕をゆるめれば、それでも逃げずに俺の背に腕を回してくる。
染み込む体温が心地よくて、その髪に唇を寄せる。
どこか夢見心地の表情で、姉崎はそれを受け止めていた。
少しでも嫌がったら手を止めようと自分に言い訳して、用心深く手を進めていく。
ベッドに押し倒し、どこに触れても柔らかく頼りない身体に、喉が干上がる程興奮する。
拒むことなく女の身体は緩やかに開かれていく。
けれど。
ただ酒に酔っているから女の意識も曖昧なんだろう、という理性の囁きに思わず手が止まる。
このままなし崩しに抱いて、きっとこの女は後悔するだろう、とも。
それに良心なんて欠片もないはずの俺は、躊躇った。
自分のやる事に後悔なんて感じないしそうやって生きてきたけれど。
この女に関してはそうでもないらしい、と内心苦笑を浮かべる。
らしくないと言われればそうだろう。
けれど容易く手出しできないほど、この女は俺の中でも結構なウェイトを占めているのだと改めて思った。
名残惜しいが、急ぐ必要もないと手を引きかけたその時。
「やめないで」
姉崎が舌足らずに囁く。
「たすけて」
離れようとする俺の身体を抱き寄せて、女は泣いた。
正直、疲労と勝利の高揚とで身体はギリギリのところまで来ている。
これ以上進んでしまえば、もう止めてやれない。
「もう止まらないぞ」
「・・・いい、よ」
涙混じりのその腕に、俺は一度嘆息してから改めて応える。
幽かに震えたのは安堵なのだと、そう理解した。


けれど翌日顔を合わせても、彼女は平然としたままだった。
ああ、これは全然覚えてねぇな、と思う。
けれど残念だとは思わない。考えられる要因の一つだったから。
どうせ一度きり、夢うつつの状態で終わらせる気もない。
改めて手を伸ばしてみれば、姉崎は目を見開き一瞬困惑したが、すぐにそれを笑みで覆い隠した。


それから。
何度身体を重ねても、姉崎は自らの顔を覆って見せないように背けたまま。
普段は笑みを浮かべているくせに、腕の中だけは意地を張ってこちらを見ない。
ならばと乱暴に抱いてみても、僅かに呻くだけで歯を食いしばるだけ。
次第に苛立ちが募るが、姉崎の態度は一向に軟化しない。
あの夜だけだ。
たった一晩、素直に泣いただけ。
それ以来一度も見られない、こちらに伸ばす腕。
「・・・チッ」
舌打ちして作業を再開する。
先ほどまで傍らにあったぬくもりはもう消えて、いつもと同じ部室なのにひどく寒々しい。
俺は頭を振って考えを切り替える。
今はクリスマスボウルが最優先。個人の感情なんかに振り回されている場合ではない。
―――けれど。
一度知ったあの腕のぬくもりが恋しくてならないのだと。
決戦が終わった暁には逃さず告げてやろう。
そう、決めた。

***
クリスマスネタを書こうとしていたらなんでかこんな話に。
ヒル魔さん視点がやっと書けました。
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