旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
病は気から、という言葉がある。
確かに調子が悪くもないのに悪い悪いと騒いでいては確かに悪くもなるだろう。
逆に気をしっかり持てば多少の熱程度では揺らがずにいられるかもしれない。
いずれにしても個人差があることだけれど。
そうして。
まもりは、嘆息混じりに眼下に横たわる男を見下ろした。
「・・・だから、あんまり意地を張るのはどうかと思うの」
その言葉にも彼は低く唸るだけ。
事の起こりは晩秋の最中に雨に打たれて試合をし、更にその後川に落ちるという修験者のごとき荒行をしたせいにある。
後半は多分に彼自身の行動なので同情の余地はない。
ないが。
「たしかにあの時嬉しかったし、はしゃぐ気持ちもわかるわ。その後ちゃんとみんなで銭湯にも行ったし」
ゆら、と右手が挙がる。
そこで閃く言葉は一言、『煩ェ』。
けれどまもりは頓着せず言葉を続ける。
「でもやっぱり乾いたタオルが足りないからってすぐ身体を拭かなかったのは不味かったと思うのよ」
なんだかんだで他の部員の事が優先で、自分の事は後回しにする。
駒としての自分の力の数値には気を配るが、それ以外は全く気にしていない。
「ヒル魔くんは自分の事に無頓着というか、体力に過信してるところがあるのよね。部員が大切なのは判るけど、自分もその一員なのよ?」
まもりは彼の、温くなった額のタオルを改めて氷水に浸し、固く絞る。
そうしてタオルを置く前に、見るだけで人を殺しそうな視線を受け止めて殊更柔らかく笑った。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいでしょ」
ぺし、と間抜けな音を立ててヒル魔の額にタオルが乗る。
力無い右手の指は、こんな時でも『糞ッ!』と喚いていたけれど。
熱がある程度なら彼も無理をして部活に顔を出し、更には誰にも気取られもせず練習をこなしただろう。
ただしそれは熱だけの話で。
今回の風邪は、悪魔の喉にも影響した。
さすがに喋れないのであれば意思疎通はまもり以外には無理であり、更に彼女にそれだけ不調だということを知られれば部活など問答無用で帰される。
頭の中でいくつかシミュレートした結果、これは誤魔化すのは無理だと判断し、ヒル魔は休むというメールをムサシに送った。
そうして面倒ながら病院に行き、注射を受けて薬を手に帰宅すると。
自宅代わりにしているホテルの自室前に陣取るまもりの姿があった。
「あ、ヒル魔くん。どこか行ってたの?」
笑顔でこちらを見つめるまもりに、ヒル魔は遠慮無くものすごい顰めっ面をしてみせた。
「病院行った? もし行くのがしんどかったら一緒に行こうかと思って」
近寄ってくるまもりに、ヒル魔は眉を寄せたまま指を閃かせる。
『近寄るな。帰れ』
風邪だとは伝えてないが、多少の不調なら押し隠す彼が休んだのなら相当体調が悪いのだろう、と推測したムサシがまもりに告げたようだ。
この場所はムサシと栗田の二人しか知らないのだ。
個人情報の流出だ、と内心ヒル魔は舌打ちする。覚えてろよ、糞ジジィ。
「風邪が移るって心配してる? 平気よ、ちゃんとインフルエンザも予防接種してるし、うがい手洗いは欠かしてないわ」
きょと、と見上げられてヒル魔は頭が痛くなった。
そういう問題じゃない、と言いたかった。
けれど思わず額に手を当てた事で、調子が悪いのだと誤解した―――いや半分は誤解じゃないけれど―――まもりは慌てて彼の手を取る。
「ほら、体調悪いんでしょ? 早く横にならないと!」
「テメッ」
その短い声でも、しゃがれて酷く掠れている。そして疼く喉に思わず咳き込んだ。
「ああ、ほら早く鍵開けて! 着替えて横になって! あ、でもその前にうがい手洗い!」
ヒル魔の腕を捕らえ、ぐいぐいと引き寄せる彼女の、柔らかい身体に一瞬固まる。
無頓着この上ない。この女に危機管理能力はないのか。
一人暮らしの男の部屋にのこのことやってくるその糞鈍感さと、そう仕向けたムサシの確信犯的な行動が酷くいらだたしい。
「ヒル魔くんの身体はヒル魔くん一人のものじゃないんだからね!」
・・・そのむくれた顔さえ悪くないと思うあたり、この風邪は酷く質が悪いな、と注射の効用が切れ始めて熱が上がった頭で彼はぼんやりと考えた。
そしてまもりは、ベッドに横たわるなり重病人のような状態になったヒル魔の世話を焼いている。
まもりが持ち込んだ氷枕に頭を預け、目元までを濡れタオルで覆った彼の姿はひどく頼りない。
ベッドサイドに椅子を置いて、彼の隣に座る。
こうやって改めて眺めると、彼はやはりアメフトなんてスポーツをやってる割に細い。
女のまもりよりは確かに逞しいが、どこか細い印象が拭えない。
輪郭が鋭利で、全体的に尖った印象があるからだろうか。
先ほどまでは絶えず常と同じ悪口雑言ばかり紡いでいた手も、疲れたのかベッドの外に投げ出された状態だ。
その手に触れてみる。
こうやってじっくり触れるのは初めてかも知れない。
熱があるからか、茫洋としたあたたかさがまもりの手に優しい。
触れたら切れるような、剃刀みたいな存在かと思っていた。
「!」
ぎゅ、と手が握られる。ばっと視線を上げたが、彼は変わった様子もなくただ横たわるだけだ。
静かなヒル魔なんて想像が付かなかったけれど、そういえば彼は基本的に足音を立てないし気配を殺すのも上手だ。
元は静かな人なのかも知れないな、と考える。
穏やかで静かで、判りやすく優しいヒル魔を想像してみる。
・・・あり得ない。想像の中でもそんな彼は彼ではない。
まるで寄る辺ない子供のような手を握り、まもりは小さく呟く。
「風紀委員失格かもね、私」
破天荒でない彼なんてもう想像出来ない。
一般常識の型枠なんて簡単に打ち壊して、悪魔の如く知慮知謀を凝らして一つの目的に邁進する姿。
けれど一人で走り抜けるのではなく、周囲を巻き込んで一人残らず高みへと押し上げる、判りづらい優しさを秘めていて。
独裁者を気取りながら、その実誰よりも努力を惜しまない人だから。
もうただ行動を正せとは言いづらくなった。
「たまには甘えてくれたらいいのに」
あり得ないけれど、頼ってくれたらその分頑張れるのに。
そんな呟きに、ぴくりと指が震えた。
「ん? どうかした、ヒル魔くん?」
くい、と引くような手つきにベッドの上に乗り上げるように彼の顔を覗き込む。
と。
「きゃ!」
ぐい、と引き寄せられた。
椅子から強引に引き上げられ、ひんやりとしたものが太ももに触れる。
ヒル魔の髪だ。
「え」
ヒル魔の頭がまもりの腹の辺りにある。
強引に引き寄せられて、妙な体勢になっている。
ベッドヘッドに手を突き、まもりは声を上げた。
「や、ちょっと! ヒル魔くん、放して?!」
焦るまもりの声にも、彼の手は緩まない。
しがみつかれる形に、まもりはどうにかまずは座ろうと藻掻き、体勢を整える。
足を投げ出した形で座り、氷枕を遠ざけた。
枕元に対し直角に座る形になり、足先がベッドサイドにはみ出る。
先ほどまでそこに預けられていた彼の髪が冷たい。
まもりの太ももに頭を置いた彼がもぞりと動く。
「っ、くすぐった・・・」
苦笑するまもりを余所に、ごそごそと居心地の良い場所を探そうとする姿が思いがけず可愛らしくて、まもりは抵抗も忘れて彼の行動を見守ってしまう。
ようやく落ち着いたらしい彼が動きを止める。そうして、ほっとしたような吐息を漏らした。
まもりは自分の口元を手で押さえた。
どうしても、緩んでしまう。
目元の濡れタオルだけはそのままなので、このタオルを捲ったらどんな顔なんだろうか、と捲りたい衝動に駆られる。
でも。
『たまには甘えてくれたらいいのに』
そう呟いたのは嘘ではない。
タオルを捲る代わりにそっとその髪を撫でる。
整髪料の引っかかりは多少あるものの、想像よりもずっと柔らかい感触。
幽かに香るのはミント。
先ほどの動きでヒル魔の肩が布団からはみ出している。
まもりは腕を伸ばすと、布団を引き上げて彼の首元まで覆う。
そうして幼子をあやすように、静かに歌い出した。
***
風邪引きヒル魔+膝枕をさせたくて・・・! 自分から甘えるヒル魔さんが難しかったなあ。
確かに調子が悪くもないのに悪い悪いと騒いでいては確かに悪くもなるだろう。
逆に気をしっかり持てば多少の熱程度では揺らがずにいられるかもしれない。
いずれにしても個人差があることだけれど。
そうして。
まもりは、嘆息混じりに眼下に横たわる男を見下ろした。
「・・・だから、あんまり意地を張るのはどうかと思うの」
その言葉にも彼は低く唸るだけ。
事の起こりは晩秋の最中に雨に打たれて試合をし、更にその後川に落ちるという修験者のごとき荒行をしたせいにある。
後半は多分に彼自身の行動なので同情の余地はない。
ないが。
「たしかにあの時嬉しかったし、はしゃぐ気持ちもわかるわ。その後ちゃんとみんなで銭湯にも行ったし」
ゆら、と右手が挙がる。
そこで閃く言葉は一言、『煩ェ』。
けれどまもりは頓着せず言葉を続ける。
「でもやっぱり乾いたタオルが足りないからってすぐ身体を拭かなかったのは不味かったと思うのよ」
なんだかんだで他の部員の事が優先で、自分の事は後回しにする。
駒としての自分の力の数値には気を配るが、それ以外は全く気にしていない。
「ヒル魔くんは自分の事に無頓着というか、体力に過信してるところがあるのよね。部員が大切なのは判るけど、自分もその一員なのよ?」
まもりは彼の、温くなった額のタオルを改めて氷水に浸し、固く絞る。
そうしてタオルを置く前に、見るだけで人を殺しそうな視線を受け止めて殊更柔らかく笑った。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいでしょ」
ぺし、と間抜けな音を立ててヒル魔の額にタオルが乗る。
力無い右手の指は、こんな時でも『糞ッ!』と喚いていたけれど。
熱がある程度なら彼も無理をして部活に顔を出し、更には誰にも気取られもせず練習をこなしただろう。
ただしそれは熱だけの話で。
今回の風邪は、悪魔の喉にも影響した。
さすがに喋れないのであれば意思疎通はまもり以外には無理であり、更に彼女にそれだけ不調だということを知られれば部活など問答無用で帰される。
頭の中でいくつかシミュレートした結果、これは誤魔化すのは無理だと判断し、ヒル魔は休むというメールをムサシに送った。
そうして面倒ながら病院に行き、注射を受けて薬を手に帰宅すると。
自宅代わりにしているホテルの自室前に陣取るまもりの姿があった。
「あ、ヒル魔くん。どこか行ってたの?」
笑顔でこちらを見つめるまもりに、ヒル魔は遠慮無くものすごい顰めっ面をしてみせた。
「病院行った? もし行くのがしんどかったら一緒に行こうかと思って」
近寄ってくるまもりに、ヒル魔は眉を寄せたまま指を閃かせる。
『近寄るな。帰れ』
風邪だとは伝えてないが、多少の不調なら押し隠す彼が休んだのなら相当体調が悪いのだろう、と推測したムサシがまもりに告げたようだ。
この場所はムサシと栗田の二人しか知らないのだ。
個人情報の流出だ、と内心ヒル魔は舌打ちする。覚えてろよ、糞ジジィ。
「風邪が移るって心配してる? 平気よ、ちゃんとインフルエンザも予防接種してるし、うがい手洗いは欠かしてないわ」
きょと、と見上げられてヒル魔は頭が痛くなった。
そういう問題じゃない、と言いたかった。
けれど思わず額に手を当てた事で、調子が悪いのだと誤解した―――いや半分は誤解じゃないけれど―――まもりは慌てて彼の手を取る。
「ほら、体調悪いんでしょ? 早く横にならないと!」
「テメッ」
その短い声でも、しゃがれて酷く掠れている。そして疼く喉に思わず咳き込んだ。
「ああ、ほら早く鍵開けて! 着替えて横になって! あ、でもその前にうがい手洗い!」
ヒル魔の腕を捕らえ、ぐいぐいと引き寄せる彼女の、柔らかい身体に一瞬固まる。
無頓着この上ない。この女に危機管理能力はないのか。
一人暮らしの男の部屋にのこのことやってくるその糞鈍感さと、そう仕向けたムサシの確信犯的な行動が酷くいらだたしい。
「ヒル魔くんの身体はヒル魔くん一人のものじゃないんだからね!」
・・・そのむくれた顔さえ悪くないと思うあたり、この風邪は酷く質が悪いな、と注射の効用が切れ始めて熱が上がった頭で彼はぼんやりと考えた。
そしてまもりは、ベッドに横たわるなり重病人のような状態になったヒル魔の世話を焼いている。
まもりが持ち込んだ氷枕に頭を預け、目元までを濡れタオルで覆った彼の姿はひどく頼りない。
ベッドサイドに椅子を置いて、彼の隣に座る。
こうやって改めて眺めると、彼はやはりアメフトなんてスポーツをやってる割に細い。
女のまもりよりは確かに逞しいが、どこか細い印象が拭えない。
輪郭が鋭利で、全体的に尖った印象があるからだろうか。
先ほどまでは絶えず常と同じ悪口雑言ばかり紡いでいた手も、疲れたのかベッドの外に投げ出された状態だ。
その手に触れてみる。
こうやってじっくり触れるのは初めてかも知れない。
熱があるからか、茫洋としたあたたかさがまもりの手に優しい。
触れたら切れるような、剃刀みたいな存在かと思っていた。
「!」
ぎゅ、と手が握られる。ばっと視線を上げたが、彼は変わった様子もなくただ横たわるだけだ。
静かなヒル魔なんて想像が付かなかったけれど、そういえば彼は基本的に足音を立てないし気配を殺すのも上手だ。
元は静かな人なのかも知れないな、と考える。
穏やかで静かで、判りやすく優しいヒル魔を想像してみる。
・・・あり得ない。想像の中でもそんな彼は彼ではない。
まるで寄る辺ない子供のような手を握り、まもりは小さく呟く。
「風紀委員失格かもね、私」
破天荒でない彼なんてもう想像出来ない。
一般常識の型枠なんて簡単に打ち壊して、悪魔の如く知慮知謀を凝らして一つの目的に邁進する姿。
けれど一人で走り抜けるのではなく、周囲を巻き込んで一人残らず高みへと押し上げる、判りづらい優しさを秘めていて。
独裁者を気取りながら、その実誰よりも努力を惜しまない人だから。
もうただ行動を正せとは言いづらくなった。
「たまには甘えてくれたらいいのに」
あり得ないけれど、頼ってくれたらその分頑張れるのに。
そんな呟きに、ぴくりと指が震えた。
「ん? どうかした、ヒル魔くん?」
くい、と引くような手つきにベッドの上に乗り上げるように彼の顔を覗き込む。
と。
「きゃ!」
ぐい、と引き寄せられた。
椅子から強引に引き上げられ、ひんやりとしたものが太ももに触れる。
ヒル魔の髪だ。
「え」
ヒル魔の頭がまもりの腹の辺りにある。
強引に引き寄せられて、妙な体勢になっている。
ベッドヘッドに手を突き、まもりは声を上げた。
「や、ちょっと! ヒル魔くん、放して?!」
焦るまもりの声にも、彼の手は緩まない。
しがみつかれる形に、まもりはどうにかまずは座ろうと藻掻き、体勢を整える。
足を投げ出した形で座り、氷枕を遠ざけた。
枕元に対し直角に座る形になり、足先がベッドサイドにはみ出る。
先ほどまでそこに預けられていた彼の髪が冷たい。
まもりの太ももに頭を置いた彼がもぞりと動く。
「っ、くすぐった・・・」
苦笑するまもりを余所に、ごそごそと居心地の良い場所を探そうとする姿が思いがけず可愛らしくて、まもりは抵抗も忘れて彼の行動を見守ってしまう。
ようやく落ち着いたらしい彼が動きを止める。そうして、ほっとしたような吐息を漏らした。
まもりは自分の口元を手で押さえた。
どうしても、緩んでしまう。
目元の濡れタオルだけはそのままなので、このタオルを捲ったらどんな顔なんだろうか、と捲りたい衝動に駆られる。
でも。
『たまには甘えてくれたらいいのに』
そう呟いたのは嘘ではない。
タオルを捲る代わりにそっとその髪を撫でる。
整髪料の引っかかりは多少あるものの、想像よりもずっと柔らかい感触。
幽かに香るのはミント。
先ほどの動きでヒル魔の肩が布団からはみ出している。
まもりは腕を伸ばすと、布団を引き上げて彼の首元まで覆う。
そうして幼子をあやすように、静かに歌い出した。
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風邪引きヒル魔+膝枕をさせたくて・・・! 自分から甘えるヒル魔さんが難しかったなあ。
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HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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