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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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冬空に飛ぶ

(渋谷と筧と水町/巨深ポセイドン)
※渋谷視点です


+ + + + + + + + + +
あたしはぽつんと歩道の真ん中で立ちつくしていた。
後ろから来たサラリーマンが舌打ちしてわざと横を透るのを音がしそうな勢いで睨みつけ、怯んだのを尻目に携帯を取り出す。
登録なんて死んでもしてやらない、と言い張ったアイツの携帯番号を打ち込む。
・・・結局のところ、もう何度も掛けてるから、癪な事に完全に覚えてる。
それから通話ボタンを押そうとして、やめた。
携帯を手にガードレールまで歩いていって、そこに座る。
空を仰げば、高く遠く、透明な空気が満ちている。
夏の、あの、泣きそうな程に強い青はもうない。
泣きながらも笑顔で楽しかったと言った、先輩の震える声も。
大声を上げて泣く、誰よりも純粋に皆を惹き付けた水町が流した涙も。
その涙の陰で、ひっそりと奥歯を噛みしめたアイツの悔しさも。
何もかもを吸い込んで、あの空は晴れていた。
どこまでも吸い込まれそうな、透明さ。
がさりと手元の袋が鳴った。
買い出しに行って道に迷うのはもう慣れた。
アイツに怒られたら言い返してやろう。
こうなることが判ってるんだから、供の一人も付けろ、と。

マネージャーというのはほぼ名義のみでスコアの付け方だってよくわからないあたしに、アイツはしつこく付きまとった。口うるさいその様子が、まるで兄貴かオヤジのようだったので面と向かってそう言ったけれど、アイツは問答無用であたしを部活へと連れ出したのだ。
『俺が兄貴かオヤジみたいに見えるなら』
冗談なんて通じないくらい生真面目で、アメフトバカのアイツがふと口角だけ上げて笑った。
それは夏に惜敗した相手のQBほどには悪魔ではないけれど、ぞんぶんにこちらを小馬鹿にしたような顔で。
『妹だか娘だかにはしっかり躾してやるのが身内の務めだろ』
いらない、遠慮する、と喚くあたしを掴む腕は逞しかった。
振り払う事なんてできない。
力だけではなく、その熱が。
口では負けないはずなのに、結局黙らされた。
腕を掴まれただけで何も言えなくなった、本当の理由は悔しいから言ってやらない。
そう、決めた。


「ンハッ! 摩季みっけ~!」
「水町」
ぼんやりとした思考から引き上げられる。
視線を向ければそこには満面の笑みを浮かべた水町の姿。
後ろには誰もいない。
思わず確認したあたしの視線に気づいてるのかいないのか、水町はにっこりと笑って手を出した。
「何?」
「荷物ちょーだい」
ひょい、とあたしの手から荷物を取り上げると、更に左手であたしの右手を掴んだ。
あったかい。
「なに?」
「摩季ってば方向音痴だからこうすりゃ帰れるだろ」
「手はいいんじゃない? ついていけば・・・」
「んでも、手え繋いでた方があったかくていいんじゃね?」
ほら行こう、と引かれてあたしはつんのめりそうになる。
「ちょっと! 水町、アンタあたしとの歩幅考えなさいよ!」
「ンハッ? あ、そっか。摩季はちっちぇえよなあ」
「失礼な! あんたがうすらデカイだけでしょ、バカ水町!」
言い合いながらあたし達は手を繋いで歩き出す。
端から見たら、きっとあたし達はカップルのように見えるんだろう。
でも、あたしと水町はそんなんじゃない。
犬と飼い主、または姉と出来の悪い弟、っていうのがぴったりだ。
あたしと水町はそういう関係。

そう。
恋人同士、なら。
恋人と呼ぶのなら、呼ばれるなら―――

「摩季!」
呼ばれてあたしははっとする。
視線を向けた先には、手を繋いだまま頭を掻く水町。
「なあ、ここどこ?」
どうやら自信満々に歩いていたくせに、水町も道に迷ったらしい。
「あたしがそれ答えられるなら、一人で帰れるわよ」
「ンハッ、そりゃそーだ」
肩をすくめる水町は携帯を取り出した。
「あ」
それは、あたしがさっき呼ぼうと思ってやめた、アイツを呼び出すということで。
大きな手には不釣り合いな程の携帯を器用に操るその手を、あたしは咄嗟に止めた。
水町が不思議そうにあたしを見る。
「摩季?」
「もう少し歩こうよ」
「えー、でもそうすると部活に遅れる・・・」
「いいから!」
今度はあたしが水町を引きつれて歩き出す。
ここがどこかなんて、どうでもいい。
学校に帰り着けるかどうかなんて別にいい。
あたしがフラフラしていたって、きっとアイツは気にもしない。
・・・でも少しでも気にしたり、するのかしら。
そんな事を考えていたら。
「良くない」
後ろから聞こえてきた生真面目な声に、あたしと水町はばっと音を立てて振り返った。
そこには見慣れた仏頂面のアイツが立っていた。
「ンハッ、筧ィ!」
良かった、これで帰れる~! と笑顔満面でアイツに近寄る水町は犬だ。
それも半端ないほどの大型犬。
飼い主の制御なんて利きやしない。
そしてあたしは水町に引きずられるようにしてアイツの前に立たされるのだ。
「買い出しなのに、なんでこんなとこまで来てるんだ」
「こんなところって、ここどこよ」
「学校とは全然逆方向だ、バカ!」
ぴしゃりと怒られて水町は首をすくめる。でもあたしはつんとそっぽを向いた。
「あたしが方向音痴なのは前々からでしょ」
「買い出し先と学校までくらい覚えろ」
「それが出来ないから誰か一緒に行かせて、って言ってるじゃない」
それにアイツは渋い顔になった。
誰か一人をあたしにつけるとなると、先輩には頼めないし、練習が必要な面々には行かせられないし、かといって水町じゃ役に立たないし。
となれば結局は自分が行かなくちゃいけない、と判ってるから余計に嫌がるのだ。
そんなに嫌な顔するなら、あたしじゃない子にマネージャーを頼めばいい。
スコアも出来るし洗濯も掃除もドリンクもちゃんと出来る子なんて、たくさんいる。
実際沢山ラブレターを貰ってるのを、あたしだって知ってるんだから。
険悪なあたし達の間で、水町はきょときょとと両隣を見る。
それから水町はむんずとアイツの手を握った。
「何してるんだ」
「だって俺と摩季だけじゃいつまで経っても帰れないじゃん!」
水町はにかっと笑った。
「さ、帰ろうぜ! 道案内よろしく!」
ぶん、と握った手を振る水町にアイツが眉を寄せる。
「テメッ、水町!」
「ンハッ、さっさと帰らないと練習時間なくなるぜー?」
アイツは嫌そうに水町に掴まれた手を見ていたけれど、練習時間がなくなるという一言に結局はため息一つついて歩き出した。

三人で手を繋いで歩く様子は視線を集める。
ましてや水町とアイツの男二人が手を繋いでるのは余計に変なんだろう。
通り過ぎる人たちが不思議そうに二人と、オマケのようにあたしを見る。
それに居心地悪そうにアイツが眉を寄せた。
「水町、放せ」
「いいじゃん、手え繋いでた方があったかいし」
「良くない。なんで男二人で手なんか繋ぐんだ」
アイツの一言に、水町はちょっと考えてからまたにかっと笑った。
そして。
「じゃあ場所交代。摩季は真ん中な!」
「え、ちょっと!」
「これならいいだろ!」
何がいいの、と文句を言いたいけれど、あからさまにほっとしたようにアイツがあたしの右手を握ったから何も言えなくなる。
そして私の残った左手を水町が握った。
「ちょ・・・、なにこれ!」
まるで子供を挟む夫婦のような姿に、あたしは堪えきれず笑ってしまった。
「まるでこれって子連れの散歩みたいだよな! あ、筧アレやろうぜアレ!」
「あれって何?」
不思議に思って聞いても、水町とアイツは視線を合わせる事で理解し合ったらしい。
「ほらほら!」
せーの、と水町が声を上げる。
両手を上にして、水町とアイツに持ち上げられた。
「うわ、すごーい!」
ふわりと持ち上げられるその感覚が珍しくて、あたしは思わず声を上げた。
数十センチ上に引き上げられるだけでさっき見上げた空が随分と近くなった気がする。
そうか、この二人っていつもこれよりももっと高いところから見てるんだ。
あたしなんて随分小さいんだろうなあ。
天に吸い込まれそうなその感覚と、思いがけない浮遊感にあたしは思わず右手に力を込めてしまう。
けれどあたしの右手を掴んでいたアイツの手は、まったく躊躇いなくぎゅっと握り返してくれた。
ゆったりと地面に降ろされて、また何もなかったかのように歩いていく。
ふと水町があたしの顔を覗き込んだ。
「ンハッ、摩季ってば顔赤いけど、熱あんの?」
「そっ、そんなことないわよ、夕日のせいよ、バカ水町!」
両手を握られているせいで顔を隠す事なんて出来なかった。
水町の足に蹴りを入れるあたしの頭上であいつのため息が聞こえた気がするけど、こんな顔見せられやしない。


「あの時、実は筧も顔赤かったんだぜ」
後でこっそり水町に教えられて、あたしはようやく最近アイツの小言なしに付けられるようになったスコア表にペンを走らせる。
俯いた顔がまた赤いのをアイツに知られないように、殊更、真剣に。


***
『千段』のmasayon様が捧げ物として書かれていたお話の後書きに触発されて書かせて頂きました!
渋谷さんが方向音痴というのはmasayon様のお話にあった設定です。掲載許可ありがとうございます!
方向音痴の渋谷さんが水町くんとじゃ帰れなくて、結局筧くんも入って三人で手を歩けばいい、という。
この二人の話をちゃんと書いたのは初めてですね。三人とも口調に苦労しました(苦笑)
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