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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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橙の滲む夏(7)/完結



+ + + + + + + + + +
数日後の、昼間。
じりじりと照りつける日差しを避けて木陰で涼んでいたセナは、呼ぶ声に顔を上げた。
「セナー」
「まもり姉ちゃん?」
一足飛びに伺うと、座敷にいたまもりは笑顔で彼を出迎えた。
「いらっしゃい」
「うん。どうしたの?」
先日の事件の記憶はまだ新しい。
あの後ヒル魔が宥めただろうけれど、祭りは嫌な思い出になってないだろうかと心配していたのだが。
「こないだはありがとう。あの時、お礼が言えなかったから。遅くなってごめんなさいね」
「え、そんな・・・別にいいのに」
にこにこと笑う彼女に憂いはなく、その様子に内心胸を撫で下ろす。
自分の能力は相手に悪戯じみたことしか出来ず、役立てる日が来るとは思っていなかったから。
ヒル魔に呼び出され、ああやってまもりを助けることが出来ただけで随分と嬉しかった。
それだけでいいと思っていたから、彼女からの言葉は面映く思うばかり。
頭をかく彼に、まもりは手にしていたものをすい、と差し出した。
「これ、お礼よ。受け取ってくれると嬉しいわ」
「え?」
受け取り、包みを開くとそれは浴衣だった。
寸法は大丈夫だと思うんだけど、とまもりはそれをセナに羽織らせる。
裄も丈も身幅もぴったり。まさに誂えられたそれに、セナは目を丸くした。
「これ・・・」
「私が縫ったの」
「ええ!?」
セナはそれに飛び上がって驚いた。同時に背筋が寒くなる。
これをあの嫉妬深いこの屋敷の主に知られたらどうなるか、と思ったのだ。
けれどそれを知ってか知らずか、まもりは笑みを浮かべたまま口を開く。
「それを着て、今度は一緒にお祭りに行きましょうね」
「そ、それは・・・」
セナは冷や汗をかく。
期待に満ちたまもりの誘いを無下にもできないし、かといってヒル魔は怖い。
この二人に関しては邪魔をして馬に蹴られたくはないところなのだが。
「だめかしら?」
返事のないことに、まもりは首をかしげてセナを見つめる。
含みのないその言葉に、セナはますます困り、どう言うべきかと言葉を捜す。
「何やってんだ」
「ヒィイイイ!」
そうして、危惧したとおりまんまとヒル魔に見つかり、悲鳴を上げるセナに構わず。
「あ、ヒル魔くん! 見て、これ。セナに浴衣縫ってあげたの!」
と、のたまったのだ。
「ア?」
眉を寄せる彼の顔を見られなくて、セナはだらだらと脂汗を流した。
「あら、暑い?」
まもりはのんきなもので、羽織らせていた浴衣を脱がせて畳む。
「セナは私のこと助けてくれたんだもの。お礼代わりに丁度いいかと思って」
「ホー」
「これを着て一緒にお祭りに行きましょう、って誘ってたところなの」
「・・・ホホー」
地を這うようなヒル魔の声に、セナはもう涙目だ。
どうにかして逃げたい。逃げ出したい。
「ソウデスネ。恩人デスカラネェ」
そんな事を言いながらも、セナに向かう視線はザクザクと突き刺さりそうな険しさで。
場の空気を読んで断れ、と言わんばかりのそれに、セナはごくりと喉を鳴らしたが。
「でしょ! だから三人で一緒に行きましょ!」
「ァア?」
「私、花火っていうのをまだ見てないし、セナがいたらまた人ごみに巻き込まれても助けてもらえるし!」
ね、と花が咲くような笑顔で言われて、ヒル魔の額に青筋が浮いた。
それはヒル魔だけだと頼りないと言っているも同じだと、彼女はわかってない。
セナはますます青くなる。
「ヒル魔さん、まもりさん。今、メグさんから・・・」
そこに雪光が顔を出した。
そうして、その場に満ちる微妙な空気にぴたりと動きを止める。
「ゆ、雪光さん・・・!」
泣きそうなセナと、不機嫌なヒル魔と、笑顔のまもりと。
その様子に察した雪光はまもりを呼ぶ。
「まもりさん。メグさんから差し入れをいただきましたよ」
「え? 何かしら」
「氷ですよ。今、台所で黒木くんが刻んでくれてます」
呼び出された鎌鼬三人の中で『切る』役目の黒木は、割と嬉々として氷を刻んでいる。
やはり彼らも暑かったから、氷の側で三人して涼をとっている。
「それをどうするの?」
「それに別に作った蜜をかけて食べるんです。冷たくて美味しいですよ」
「へえ・・・!」
美味しい、という言葉にまもりの瞳が輝いた。
「急がないと溶けちゃいますよ」
「はーい!」
楽しげに台所に向かったまもりを見送り、雪光はくるりと振り向く。
後には所在なげな男二人が残されていた。
そんな二人の顔を見て、なんて顔してるんですか、と雪光は嘆息する。
「ヒル魔さん、男の嫉妬は醜いですよ」
「嫉妬じゃねぇ」
「どう見ても嫉妬です。セナくんも他の人も誘うとかして矛先を逸らしなさい」
「は、はぃい・・・」
すっぱりと二人に言い放ち、全く世話の焼ける、という様子で雪光は台所を伺う。
どうやら氷の用意が出来たようだ。
セナを未だ威嚇しているヒル魔に、雪光が告げる。
「そろそろあちらに行かないと、まもりさんがいっぺんに氷を口に放り込んで頭を痛くしますよ」
「・・・チッ」
いいんですか? と笑顔でこちらを伺う雪光に、ヒル魔は舌打ちして姿を消した。
「セナくんはどうします?」
「あ、僕は食べないのでご遠慮します」
本当は氷の側で涼みたいが、もう十分に肝が冷えた。
ヒル魔さんも怖いし、と苦笑する彼に雪光も頷く。
「そうだね。後で他の人も誘って行こうよ、とでもまもりさんに言ってみなさい」
それならば角も立つまい。
「わかりました」
助かりました、と再度頭を下げてセナは姿を消した。
「さて。熱いお茶でも淹れましょうかね」
独り言ちて雪光も台所へと向かう。
氷を食べ過ぎて頭痛を起こすであろうまもりのために。


***
というわけで久しぶりの狐シリーズ、夏祭り編でした。
祭りって一口で言っても色々要素があるじゃないですか。一応江戸時代風という設定で書いてるので、その当時の文化だとどうなるだろうと色々調べて混ぜ込んで適当に捏造しました。屋台で食べるものとかが現代と違うので、一応時代考証を考えたんですがそもそも夜店が出たんだろうか。無礼講のこととかは本当にあったようですが、あんな人攫いみたいなことはなかったと思います、多分。活躍するセナが書けて楽しかったですw
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