旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
全ての執務を終えて自室に戻る頃には、大抵とっぷりと日が暮れている。
この洋館はどうにも薄暗い印象が拭えない。
かつんかつんと石造りの廊下を音を立てて歩いていく。
足音は一人分、しかし影は二つ。
幼い頃から隣にいる男の足音がしないのが不思議だったが、今となってはその謎が解明することはないのだと諦めている。
そう、この男は本当に謎が多かった。
蛭魔妖一。
怜悧な表情は滅多に綻ぶことはなく、何をやらせても一流で、隙など一つもない。
まもりが幼い頃は、彼女が何事かに躓くたびに彼の助言を得て危機を乗り切ってきた。
彼に出来ないことはないのではないか。
まもりは脳裏に彼の不得手そうなことを思い浮かべてみたが、おおよそ彼の出来ないことは思い浮かばない。
けれど『恋愛』という二文字を思い浮かべて一瞬足が止まる。
「どうなさいました」
「・・・なんでもないわ」
まもりは一瞬で開いた彼との距離を縮めるために跳ねるように脚を進めた。
彼の出来ないこととは、『恋愛』。そしてその先にある幸福な家庭を築き、穏やかな一生を過ごすこと。
そう、彼はまもりに、この屋敷に囚われ続けていて、彼自身の幸福な人生など、歩むことが出来ていない。
「・・・ねえ」
「はい」
声をかけたはいいものを、まもりは顔を上げることさえ出来なかった。
隣でこちらを伺っている彼の顔を見て、たった一言尋ねさえすればいいのに。
幸せか、と。
「・・・何でもないわ。ごめんなさいね」
「いえ」
戸惑いも訝しがる様子も何一つ伺わせない冷たい声に、まもりはぎゅっと手を握り締めた。
彼が幸せでないことなど、彼をこの場に留めている自分は百も承知なのに。
それでも彼に尋ねれば、雇われた身としてあっさりと言うに違いないのだ。
『幸せです』と。
心にもない言葉で、そのときばかりは笑みを浮かべて。
いつもそうだ。
まもりが立ち止まったとき、言葉が欲しいとき、彼は声をかけてくれる。
二人きりでいるときだけ、ほんの僅かに笑みを浮かべて。
それが判るだけに、苦しくてたまらなかった。
まもりの心の不調は、彼女の鉄壁の微笑で表面に出ることはない。
けれど、常に隣にいる執事のヒル魔には筒抜けだった。
「どうぞ」
「あら・・・」
まもりの執務机に、暖められたカップとシュークリーム。
そうして、彼女の目の前でこぽこぽと音を立てて紅茶が注がれた。
「どうしたの?」
彼女はシュークリームが大好きで目がない。
際限なく食べてしまうから、普段は制限されていて、お茶請けに出されるのは週に一度と決まっていた。
今日はその日ではないはずなのに、と見上げれば彼はふと口角を上げる。
「お疲れでしょう」
その一言に、まもりは小さく息を呑む。
彼女が疲れるほどの量の仕事を抱えていないのは、彼が一番よく知っているはず。
それでも白々しくそう言うのは、その理由を言って欲しい、ということで。
「そ、んなこと」
言える筈がない。他の誰のことでもなく、彼のことで悩んでいるのだから。
「このところ、ずっとそのようなお顔をされています」
「気のせいよ」
まもりは笑みを浮かべる。ぎこちないことは自分でもよく判っていた。
けれど、この気持ちだけは告げるわけにはいかなかった。
彼を側にとどめるためには。
「そうですか」
ヒル魔はそこで追求の手を止めた。
その顔にはどこか寂しそうな様子さえ見えて、けれどそれ以上の言葉を捜せず、二人の間には沈黙だけが落ちた。
<続>
この洋館はどうにも薄暗い印象が拭えない。
かつんかつんと石造りの廊下を音を立てて歩いていく。
足音は一人分、しかし影は二つ。
幼い頃から隣にいる男の足音がしないのが不思議だったが、今となってはその謎が解明することはないのだと諦めている。
そう、この男は本当に謎が多かった。
蛭魔妖一。
怜悧な表情は滅多に綻ぶことはなく、何をやらせても一流で、隙など一つもない。
まもりが幼い頃は、彼女が何事かに躓くたびに彼の助言を得て危機を乗り切ってきた。
彼に出来ないことはないのではないか。
まもりは脳裏に彼の不得手そうなことを思い浮かべてみたが、おおよそ彼の出来ないことは思い浮かばない。
けれど『恋愛』という二文字を思い浮かべて一瞬足が止まる。
「どうなさいました」
「・・・なんでもないわ」
まもりは一瞬で開いた彼との距離を縮めるために跳ねるように脚を進めた。
彼の出来ないこととは、『恋愛』。そしてその先にある幸福な家庭を築き、穏やかな一生を過ごすこと。
そう、彼はまもりに、この屋敷に囚われ続けていて、彼自身の幸福な人生など、歩むことが出来ていない。
「・・・ねえ」
「はい」
声をかけたはいいものを、まもりは顔を上げることさえ出来なかった。
隣でこちらを伺っている彼の顔を見て、たった一言尋ねさえすればいいのに。
幸せか、と。
「・・・何でもないわ。ごめんなさいね」
「いえ」
戸惑いも訝しがる様子も何一つ伺わせない冷たい声に、まもりはぎゅっと手を握り締めた。
彼が幸せでないことなど、彼をこの場に留めている自分は百も承知なのに。
それでも彼に尋ねれば、雇われた身としてあっさりと言うに違いないのだ。
『幸せです』と。
心にもない言葉で、そのときばかりは笑みを浮かべて。
いつもそうだ。
まもりが立ち止まったとき、言葉が欲しいとき、彼は声をかけてくれる。
二人きりでいるときだけ、ほんの僅かに笑みを浮かべて。
それが判るだけに、苦しくてたまらなかった。
まもりの心の不調は、彼女の鉄壁の微笑で表面に出ることはない。
けれど、常に隣にいる執事のヒル魔には筒抜けだった。
「どうぞ」
「あら・・・」
まもりの執務机に、暖められたカップとシュークリーム。
そうして、彼女の目の前でこぽこぽと音を立てて紅茶が注がれた。
「どうしたの?」
彼女はシュークリームが大好きで目がない。
際限なく食べてしまうから、普段は制限されていて、お茶請けに出されるのは週に一度と決まっていた。
今日はその日ではないはずなのに、と見上げれば彼はふと口角を上げる。
「お疲れでしょう」
その一言に、まもりは小さく息を呑む。
彼女が疲れるほどの量の仕事を抱えていないのは、彼が一番よく知っているはず。
それでも白々しくそう言うのは、その理由を言って欲しい、ということで。
「そ、んなこと」
言える筈がない。他の誰のことでもなく、彼のことで悩んでいるのだから。
「このところ、ずっとそのようなお顔をされています」
「気のせいよ」
まもりは笑みを浮かべる。ぎこちないことは自分でもよく判っていた。
けれど、この気持ちだけは告げるわけにはいかなかった。
彼を側にとどめるためには。
「そうですか」
ヒル魔はそこで追求の手を止めた。
その顔にはどこか寂しそうな様子さえ見えて、けれどそれ以上の言葉を捜せず、二人の間には沈黙だけが落ちた。
<続>
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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