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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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エディブル・フラワー(3)



+ + + + + + + + + +
めっきり運動していなかったせいで、息はあっという間に上がった。
それでも住み慣れた館内を迷うことなく駆け抜けて、まもりは庭へやってきた。
「・・・あ・・・」
そうしてぴたりと足を止める。
そこは、かつて遊んだときのままに、鮮やかな緑で染められていた。
かつて転げまわって遊んだ芝生は柔らかくまもりの足を受け止める。
庭を取り囲む木々からは涼やかな木の葉擦れの音が響く。
窓から見ていたのとは大違いだった。
僅かにまもりは拍子抜けする。
遠いと思っていたけれど、意外に近かった。
いや、遠いと思っていたのは自分だけだった。
庭はいつでもそこにあって、変わらず緑のままだったのだ。
「まもり、様・・・!」
慌てて追って来たのだろう、普段の冷静沈着ぶりが嘘のように、ヒル魔が息を上げて追いついてくる。
「一体、なんの、お戯れ、ですか」
不満そうに額の汗を拭う彼を見て、まもりは笑った。
その顔。
幼い頃、散々に我侭を言って引きずりまわして遊んだときに、よく見せてくれた顔だった。
あの時から大分年を経てしまったけれど、本質は変わらないということか。

そうか。そういうことか。

まもりは唐突に理解する。
「・・・小さい頃、よくここで遊んだわよね」
「そうですね」
「あの頃は楽しかったなあ、って思ってて。さっきも、そう思ってたわ」
「そうでしたか」
「ねえ、ヒル魔」
「はい」
まもりは彼の顔を見上げた。まっすぐに。
「もう私の御守、しなくていいわ」
言葉は思ったよりあっさりとまもりの唇からこぼれ出た。
ヒル魔の瞳が見開かれる。
「私も成人したし、もう一人でもやっていけるもの。ヒル魔にはヒル魔の人生があるでしょう?」
「・・・それは」
一転、ヒル魔が厳しい顔つきになる。
「私を、解雇するということですか」
「ええ」
まもりは躊躇いなく頷いた。
「先代との約束も、ここまで尽くしてくれたのなら果たされたと同じでしょう」
まもりがヒル魔と先代との『約束』を知っていたことを知っても、ヒル魔は揺らがなかった。
そのまま表情を変えることなく、じっとまもりを見下ろす。
「いままでありがとう。正式な書類はこれから作るから。退職金も希望額を渡すわ」
「・・・金銭に興味はございません」
ヒル魔の声が、低く響いた。
「それよりも私が去った後、まもり様はどうされるおつもりですか」
「そうねえ・・・」
まもりは空を見上げる。
よく晴れて、雲ひとつない青空が広がっている。
今の気分によく似ていた。
「旅にでも出るわ」
「旅?」
それは予想外だったのだろう、ヒル魔の眉が寄る。
「もう仕事も屋敷もどうでもいいの。うん、私、旅に出るわ」
「どうでもいいとはいかないでしょう」
今までどれだけまもりが苦労してその仕事をこなしていたか、ヒル魔は知っている。
けれどまもりは晴れ晴れと笑って首を振った。
「いいの。本当に、もういいのよ」

全て、彼の側にいるためにしていた仕事、保っていた財産、留まっていた屋敷。
何もかも、彼の側にいたいがために、まもりが一人で必死になっていただけだったのだ。
けれどそれは、彼のためではない。独りよがりの子供染みた独占欲で彼をこれ以上拘束してはいけないのだと、そう思えた。
彼を解放した今、もう要らない。
すべて要らないのだ。

突き詰めてしまえば、随分と単純なことで、そうして単純な結末だった。

<続>
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