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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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エディブル・フラワー(2)


+ + + + + + + + + +
まもりは思い悩む。
悩んでも悩んでも、答えは出てこない。
彼を開放するという選択肢も、自らが他の男と結婚するという選択肢も、どちらを選んでもその先が想像がつかない。
いや、想像がつかないのではなく、想像したくないのだ。
彼が自分の下を去って、幸せになるなんて、信じたくない。
心底彼の幸せを願っている一方で離れて欲しくない、側にいて欲しいという我侭な心が浮かんでしまう。
彼は、優秀な人だから。本当は、こんな辺鄙な場所で押し込められる道理はないはずだ。
では自らが他の男と結婚して側を離れる、というのも気持ちが悪い。想像したくない。
家を存続させる上なら適当な相手はいくらでもいる。選べる立場に、自分はいる。
けれど、選びたくない。選ぶなら、・・・ヒル魔を。
彼となら。ヒル魔となら、手を取り合って生きたいと思う。
けれどそれだけはダメなのだ。
雇われの身だからだと、本音を押し殺させた状態でまもりが彼に迫ってはいけない。
受け入れてもらえても本心からだと思えず。
かといって拒まれては側にいることさえ苦しい。
そのまま、何食わぬ顔をして顔をあわせることができない。
それであっても彼から離れたくないのに、隣にいるだけで気詰まりになるのが目に見えている。
八方塞だ。どうしたら、いいのだろうか。
ぐちゃぐちゃと考えは纏まらず、心の澱は溜まるばかり。
今まで彼女の悩みを受け止める存在はヒル魔だけだった。
当の本人にどうしたらよいかなんて相談できるはずもない。
まもりはほとんど上の空で処理した書類をまとめ、立ち上がり、庭を眺める。
幼い頃からの思い出が満ちたその場所は、とても遠く見える。
懐かしい。
あの頃に、戻りたい。
何も憂うことのなかった、幼い頃に。
彼と対等に並んでいられた、あの頃に。
「・・・まもり様」
「っ」
びく、とまもりは肩を震わせ、勢いよく振り返る。
そこには思った以上に近くにヒル魔がいて、息を呑む。
「なにかありましたか」
「・・・何も。何も、ないわ」
我ながら下手な言い訳だと思いながらまもりは彼から目をそらす。
「そうですか」
応じる声に動揺はないが、聡い彼にはお見通しなのかもしれない。
ふと、そんな風に思う。
彼はまもりのことをよく見ていて、こんな子供染みた気持ちなどとうの昔に知っているのかも。
それならば一人悩むまもりの姿はなんて滑稽なのだろうか。
一人で取り乱して、一人で思い悩んで、一人で傷ついて。
・・・どこまでも、一人で。
「まもり様?」
知らず、涙が滲む。
どうして、自分ばかりが。
たった一人で、こんな風に思い悩まなければいけないのだろうか。
だがそれは八つ当たりに過ぎないのだと、冷静な自分は叫んでいる。
落ち着いて。いつもの通り、振舞って。
いつもの通り、微笑んで座って、仕事をして。
・・・もう、限界だった。

逃げたい。

「まもり様!?」
ヒル魔の隣をすり抜け、まもりは走り出す。
彼の呼ぶ声を振り切り、全速力で闇雲に。
廊下を足音高く、スカートの裾を蹴り上げ、階段を跳ね落ちるように。
窓に切り取られた光と影を交互に潜り抜けて、全てをかなぐり捨てるように。
巨大な扉を抜けて、外へ。

<続>
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