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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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橙の滲む夏(6)



+ + + + + + + + + +
まもりが湯から上がると、居間には元の姿に戻ったヒル魔のみが座っていた。
ふっと息を吹きかけ、まもりを元の姿に戻し、湯飲みを差し出す。
「水だ」
渡されて口をつけ、そういえば喉が渇いたと口にした途端の事件だったと思い返す。
またあの一件を思い出して消沈した彼女に眉を寄せ、かろうじて舌打ちは押し留めたヒル魔はまもりの手をとる。
「見せろ」
湯にしみた擦り傷や切り傷。そしてヒル魔の手には鎌鼬の薬壷。
「え、その薬」
どうやら十文字から借りてきたようだ。
ヒル魔はそこから薬を掬い取ると、まもりの傷に塗りつける。
大したことはない、と言いたかったが、彼の方がよっぽど痛そうな様子で、まもりは黙る。
脚にもあった傷にも薬を塗り、ヒル魔はまもりを見つめる。
「他には?」
「もう大丈夫」
「そうか」
最後に針仕事で傷ついていた指先を撫で、ヒル魔は壷に蓋をする。
すっかり痛みの消えた二の腕を、それでもまもりはそっと摩った。
沈黙が落ちる。
「・・・ああいう祭りの時、ってのは」
重い口を開いたのはヒル魔が先だった。
「境内の中である時刻になると、一斉に明かりが落ちる」
「?」
「そうなると、その場にいる連中は手当たり次第事に及ぶんだよ」
無礼講の一夜。それは見も知らぬ男女が夏の夢を見るひと時。
「え・・・」
その言葉に、まもりはあの集団の中で見た眸を思い出した。
あの情欲に燃える眸は、見間違いではなかったのだ。
さあっと血の気が失せるのを見て、ヒル魔はそっとまもりを抱き寄せる。
「悪かった」
本日二度目の謝罪。そういえば彼が謝ることなんて今までなかった。
初めてのそれはひどく苦くて痛くて。
「俺の側にいれば大丈夫だと思ってたが・・・」
「だから、雪光さんもヒル魔くんも色々言ってたのね」
「ああ。可能性は低いがないとは言い切れなかったからな」
境内に入ってしまえば逆に清十郎が助けてくれるだろうとは思ったが、彼は神である。
他の者たちに容認していることを彼女だけ止めることが果たしていいのだろうか、とか考えて助けない可能性もあった。
ケルベロスが姿を現したなら、さしもの彼も騒動だと理解しただろうが、あの糞生真面目な彼の考えることは予想がつかない。
「怖がらせるつもりはなかった」
それに、巻き込まれなければ楽しむだけで終わることのはずだったのだ。
「うん。仕方のないことだったもの、ね」
それでも憂いが残る笑みを見せるまもりに、ヒル魔は懐から取り出したものを押し付けた。
「? これ、何?」
「張子の代わりだ」
「え・・・」
包みを開くと、そこには鼈甲の櫛が入っていた。
それもよく見れば細かな細工の中に狐があしらわれたものだ。
「わ! カワイイ! どうしたの、これ?」
「テメェを追う間に見つけた。買ったのはテメェが風呂に入ってる間だがな」
それはもう明かりの落ちた店だったけれど、祭り用の安価な飾り物の並ぶ後ろに見えたのだ。
元より彼は夜目の利く妖怪である。
それが中々の細工だと瞬時に気づいて、あの短い時間に店を訪れ、もう寝入っていた店主を無理矢理起こして買い求めてきたのだ。
「え!? わざわざ、こんな時間に!?」
驚き声を上げるまもりの頭を撫で、ヒル魔はその理由を口にする。
「テメェのことだ、かどわかし未遂で祭り自体が嫌になるんじゃねぇかと思ってな」
「・・・うん」
あの一瞬は本当に怖かった。
けれど、その直前まで確かに楽しかったのだ。色々な物を見て、食べて、遊んだのだから。
「せっかく行ったのに、祭りに悪いことの思い出しかねぇんじゃ、つまらねぇだろ?」
ヒル魔はまもりの手から櫛を取ると、彼女の髪を梳る。
湯上りの髪は、僅かに引っかかりながらも滑らかな鼈甲に解かれていく。
それはまもりのわだかまりをも解すかのようで。
「・・・櫛は苦死に通じるとされ、普通は贈らねぇ」
「そうなの?」
髪を梳られる心地よさに瞳を細めていたまもりは、眠気さえ混じる声で彼の言葉の続きを願う。
「だが、一生を添い遂げる相手にならかまわねぇんだと」
「へえ・・・」
程なく解かし終わったヒル魔は、まもりに改めて櫛を渡す。
彼女はそれをまじまじと見つめた。
室内の明かりを弾く鼈甲の色合いが、あの祭りの明かりを髣髴とさせる橙にも見える。
「・・・お祭り、また行きたいわ」
あの橙が滲んだ夏の夜を、もう一度見たい。
そう思えて、まもりは笑みを浮かべてヒル魔を見上げる。
「また、行こうね」
その笑みが憂いを払拭したものであるのを見て。
「そうだな」
ヒル魔も笑みを浮かべ、約束をするかのようにその唇に自らのそれを落としたのだった。

<続>
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