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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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橙の滲む夏(5)



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「まもり姉ちゃん」
そのとき。
名を呼ばれて、くい、と後ろから袖を引かれた。
「え」
すると、それまで集団から抜け出せなかったのが嘘のようにまもりの体が止まった。
怒涛の勢いからするりと引き抜かれ、まもりは瞳を瞬かせる。
「大丈夫?」
そこには、見慣れた小柄な少年の姿。
まもりのことを何故だか『姉ちゃん』と呼ぶのは彼だけ。
「セ・・・セナ!?」
「うん。ヒル魔さんに呼ばれたんだ」
にこにこと笑ってセナはまもりの袖から手を放した。
先ほどヒル魔と二人で回っていたときよりも随分と閑散とした参道の真ん中で、二人はぽつねんと立ち尽くしていた。
集団は既に境内へと走りこんだらしい。もう影も形もない。
今までの喧騒が何だったのだろうか、としきりに瞬くまもりに、セナは鳥居の方を指差す。
「まもり姉ちゃんがあそこに行く前に止めて欲しいって言われたんだ」
「止めて、って」
「僕、袖引き小僧だから」
人を引き止めるだけの力しかない、人によく似た妖怪。だが、逆にそれが幸いした。
小柄な彼なら、あの集団に妖怪特有の移動方法を使って不意に混じっても不審がられない。
そうして、彼の能力であればまもりを止めることが出来ると。
咄嗟にヒル魔は判断した。
ヒル魔自身が正体を現して大事にすることなく、セナにまもり救出を託したのだ。
「でも、どうして? ヒル魔くんは境内に入ったらケルベロス呼んでいいって・・・」
「ヒル魔さんは、きっとまもり姉ちゃんに余計に怖い思いさせたくなかったんだよ」
「余計、に?」
それはどういうことか、と重ねて問おうとしたまもりの目の前に、ぬっと黒く大きな影が現れた。
ようやく追いついたヒル魔だった。苦々しい表情で、額から鋭利な顎にかけてぽたりと汗が滴っている。
人に変じているからこそ見る、焦った彼の姿。
「糞チビ、余計なこと吹き込むんじゃねぇ」
「はははははいっ!」
セナはぴょんと飛び上がり、すばやく横道へと姿を消す。
「ヒル魔くん・・・」
まもりはヒル魔におずおずと手を伸ばす。
彼がその手を掴んで引き寄せると、まもりの瞳が一気に潤んだ。
「こ、・・・怖かっ、た・・・!!」
ぼろぼろと泣くまもりを抱きしめ、ヒル魔はその背をぽんぽんと叩く。
「わた、私、全然、動けな、くて・・・」
「悪かった」
短い謝罪に含まれる苦い後悔を感じ取って、まもりは更に涙を零す。
彼がどうしようもないほど一瞬のことだった。
そして、妖怪としての正体を現せないほどの人ごみで手が出せなかったのだと。
それはまもりにだって判る。
けれど考えることと感情は別で。
応じる言葉どころか声一つまともに出せないほど、涙が溢れて止まらない。
「・・・戻るぞ」
ひょい、とヒル魔はまもりを抱き上げる。
人が見ている、と慌てたまもりを易々と抱えなおし、彼は囁く。
「見てねぇよ、誰も」
それにそれじゃ歩けないだろう、と言われてまもりはいつの間にか下駄が片方脱げてしまっていることにようやく気づいた。
「あ・・・」
見れば浴衣は袖が片方取れかかっているし、帯も解けそうだ。
あの射的屋で手に淹れた張子細工の入った巾着もどこかへ消えてしまっていた。
見るも無残な有様に、まもりはますます消沈し、俯く。
「・・・」
その頭を優しく撫で、ヒル魔は適当な横道から空家を潜り、屋敷へと戻った。

「おかえりなさい」
まもりの様子を見て、雪光は穏やかな笑みを浮かべて優しくお風呂を勧めた。
落ち込んだ様子で浴室へと消えたまもりを見送り、彼は嘆息した。
「ヒル魔さんがいるから大丈夫だと思ったんですが、やはり巻き込まれましたか」
ヒル魔から状況を聞いて、雪光は眉を寄せる。
「境内まで行かなかったのが不幸中の幸いでしたね」
それでも随分と怖い思いをなさったでしょうね、と続く言葉は飲み込んだが、それくらい聡い彼は察しただろう。
苦々しい顔つきは雪光の嫌味めいた言葉にではなく、自らの失態について思うところがあるからだ。
雪光の視線を受け、ヒル魔は口を開く。
「少し出る」
「はい。すぐ戻ってきて下さいね」
言われずとも、とちらりと視線を浴室へと向け、ヒル魔はふっと姿を消した。

<続>
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