本日は日曜日、天候は晴れ。
泥門高校、絶好のアメフト日和。
ただし本日に限り練習は午後から。
東京大会の最中、皆の気力は高まるばかりだが、身体はさすがにそうはいかない。
あまり疲労が蓄積すると大きな怪我の原因になる。多少は休息が必要だとマネージャーが進言したためだ。
激しい口論の末、天使のマネージャーは悪魔のキャプテンからみんなのため半日の休みをもぎ取った。
「・・・なのに、なんで私は呼び出されているの?」
「用事があるからだ、糞マネ」
「その呼び方やめてって言ってるのに! もう!」
ただいまアメフト部部室には悪魔のキャプテンこと蛭魔妖一と天使のマネージャーこと姉崎まもりの二人がいた。
ヒル魔はパソコンを起動させてデータ処理をしているらしい。まもりはその隣で文句を言いながらもモップがけをしていた。
日頃は人の出入りが激しくて床の拭き掃除はなかなかできない。確かに絶好のチャンスではあったが、まもりとて疲れていない訳ではないのだ。
悪魔のように見えたって蛭魔妖一だって人の子なのだから、疲れているだろうに、彼はそんなそぶりを一切見せない。
本当にもう、意地っ張りなんだから、と。
まもりは当人に聞かれたら烈火の如く怒りそうなことを考えて掃除していたら。
「・・・来たな」
ぽつりと呟き、ヒル魔がパソコンを閉じる。
「え? なに?」
「ネズミだ」
幽かな足音が聞こえたと思ったら、ドアの鍵部分がガチャガチャと鳴る。
「ちょっ・・・ネズミって、偵察のこと?!」
「おー」
ヒル魔が用意したのはマシンガン。まもりはとりあえず持っていたモップを握りしめた。
「っていうかこれ、泥棒じゃないの?」
「そうとも言うな」
ちょっと考えたまもりは、わざと大きな声でヒル魔に話しかける。
「警察呼んだ方がよくない?」
「大会中に警察沙汰は避けてぇなあ」
「・・・ねぇ、向こうにこの声聞こえないの?」
「この部室は改装工事後から完全防音だ」
「あらそう、残念」
鍵は大して複雑な物ではないため、開かれるのはもう時間の問題だ。
「来るぞ。構えろ」
「モップを? マシンガンみたいに?」
「それで俺のマシンガンを止めてるんだから同じようなモンだろ」
「そういうものかしら?」
「そーいうもんだ」
ふざけた会話をしながらも、視線はドアから外さない。
カチリ、と鍵がかみ合った音が部室に響いた。
侵入してきたのは他校生が二人。
その直後にモップとマシンガンを突きつけられた二人は、抵抗する間もなく脅迫手帳に名前を連ねることとなり、最後には泣きながら逃げ帰った。
「休みが決まったのは昨日なのに、あの人たちよく来たわね」
「エサ撒いたに決まってんだろ」
「今日の午前中が休みだって? それともデータが部室に置いてあるって?」
「両方」
あっさりと種明かしをして、ヒル魔は再びパソコンを起動させる。
「偵察に来るのが判ってたんなら、対応は私一人だってよかったんじゃない?」
「トラップしかけておいてか?」
「それじゃあ他の部員も下手したら引っかかっちゃうでしょ! もっと穏便に!」
「じゃあ聞くが、男二人をどうやって穏便に追い返すんだ?」
「え、説得してみる」
「説得されるような殊勝なタマがデータ盗みに来るか。もう少し世間っつーものを知れ、糞マネ」
「もー! だったらヒル魔くん一人でやればよかったじゃない!」
「ほとんどそうだったろ」
そして画面から目を離さず、コーヒーを淹れろと命令。
まもりはぷう、と頬を膨らませてそれでも勤勉な部長にコーヒーを淹れるべく席を立つ。
そしてまもりから見えないところでヒル魔は幽かに口角を上げた。
我が泥門デビルバッツのマネージャーは当人こそ無関心なものの、同じ高校はおろか他校生にも絶大な人気を誇っている。
その偏執的なファンは悪魔と謳われるヒル魔の脅威を知っていてもなお近寄ってくるのだ。
こうして危険を顧みずやってくる小物は後を絶たない。
「はい、コーヒー」
目の前にブラックコーヒーが置かれる。先ほどまでまもりはむくれていたはずだが、今度は伺うようにこちらを見ている。
「ね、もしかして・・・部活が休みの日とか、ああいう人たち今までも来てたの?」
「多少はな」
「そっか、ヒル魔くんが今まで一人でやってくれていたのね」
「だがそろそろ俺も一人でやるのが面倒になってきてな」
「だから私も呼んだのね」
察しのいいまもりの台詞にヒル魔はにやりと笑ってみせる。
「そういうこった」
「へーえ。頼りにされてるみたいで嬉しいわ」
にっこりと笑ったまもりに、ヒル魔は今思い出したと言わんばかりに口を開いた。
「ああ、そういやお前がいりゃマシンガンなんて使わないでも撃退できる方法があるんだが」
「え?! そうなの? だったら先に言ってくれたらさっきの人たちから実践できたのに」
「そうか、手伝ってくれるか?」
「私で出来ることなら、喜んで」
「そうか」
「うん。・・・えっ、ちょっと、ヒル魔くん近いんですけど」
「近寄らなきゃできねぇだろ」
「え、何が?」
小首を傾げるまもりの耳元に、ヒル魔の唇が寄せられる。
「きゃ! やめて、何・・・!?」
「あいつらの目的はなんだったと思う? 姉崎」
低い囁きにまもりはどぎまぎしながらもデータを盗みにでしょ、と答える。
「そう。ただしアメフトじゃなく、お前のデータだ」
「私・・・の!?」
歯が耳朶に当たる程近くでヒル魔は続けた。
「いい加減お前にたかるネズミの駆除に無報酬でかり出されるのはどうかと思ってたところだ」
「えぇ・・・ッ!? ちょ、それでなんで私に、あ、ちょっと触らないでっ!!」
いつの間にか拘束され、密着した身体にまもりの逃げ場はない。
どうしようかと焦るまもりの耳元で更に楽しげな声が響いた。
「イタダキマス」
「ッキャー!!!」
残念ながら武蔵工務店力作の完全防音の部室は、その悲鳴を幽かにも外に漏らすことはなかったのだった。
***
実は基本的に文章に英語を使うのが非常に苦手です。理由は簡単、英語が喋れないからです。
今回のタイトルも翻訳にかけただけなので意味が違ってたらスミマセン。まもりちゃんチーズ扱い。
ねむ様の素敵イラストを見て浮かんだとは・・・言い難く・・・でも書いちゃったので・・・あわあわ。
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。