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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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情熱の歌

(音大でヴァイオリン専攻のヒルまも)
※の/だ/めとは関係ありません。

+ + + + + + + + + +
まもりはため息をついた。
それは間違いなく、諦め、という意味合いのものだった。

まもりは手にしていたヴァイオリンを弾くでもなく眺めていた。
幼い頃にこの楽器に惚れ込んでからというもの、負けず嫌いという性格も功を奏してまもりは順調に成長した。
難関といわれる音大の試験もクリアし、この先の道筋に曇りなどひとつも見受けられなかった。
それもつい先日までの話。
有り体に言えば彼女には平均以上の才能がなかった。たぐいまれなる努力でもってその腕は複雑な楽曲であっても弾きこなせたが、その先には進めない。
単なるの解釈の違いという問題以前に、どんなに努力しても求めるレベルに届かないのだと。
講師はとうに気づいていた。けれどまもりが頑なにその事実を認めようとしなかったのだ。
そして講師は最終手段に出た。
一人の青年を呼んで目の前でまもりと同じ課題曲を演奏させたのだ。
年は同じだと思うが、音大というところは二浪三浪が当たり前で同じ学年であっても同じ年とは限らない。
とにかくさほど変わらない年の彼が奏でた音は、まもりよりも数段深く、美しかった。
他の追随を許さない、怜悧でありながら情熱が満ちた音は、今まで聞いたどんな音よりも素晴らしかった。
それが才能なのだと言われたら、まもりに太刀打ちする術はない。
まじまじと見つめても、かれは全く動じることなくその演奏を続けた。
生来からのものではない金髪を逆立てた冷たい顔立ち。
大きな耳に裂けた口から覗く牙も全て鋭角で触れたら必ず傷つきそうな存在。
間違いなく外で見かけたら単なる犯罪人としか見えないだろう。
なのにあんなに優しく美しい音でヴァイオリンを奏でられたら、そんな外見すら些細なことだと思わせる。
名前は聞かなかった。
聞かなくても充分だった。情報に疎いまもりでも彼の存在は知っていたし、同時に彼の演奏がまもりへの最後通牒になるのだと理解していた。
曰く、『弓折りの蛭魔妖一』。
相手が思わず自らの弓を折ってしまうほどに才能の差を見せつける男。
確かにまもりも自らの弓を折りたくなった。
ただしそれは演奏を聴く前。彼が来たのを目にしたとき、講師の算段が読めて絶望したのだ。
それを視線だけで諫められて、彼は音を奏でた。
完璧だった。
だから、まもりは演奏が終わったと同時にその場から逃げ出した。
向かったのは学校側の土手。たまにここで野外練習をしていたから、自然と身体がここに向かった。
「それで、なんで私の隣にあなたがいるの」
なぜか追いかけてきた男と今、川面を見ながら会話しているのが不思議。
「人の話も聞かずに逃げたからだ」
「あんなもの聞かされたら逃げたくもなるわ」
「ホホー? この俺の演奏を、『あんなもの』呼ばわりとは失礼なヤツだな」
さすがに言葉が悪かったかな、とまもりは考えて言い直す。
「・・・・・・あんなに、熱烈な愛の言葉みたいな音、聞いて落ち着いていられる程大人じゃないの」
そう。
あんなに熱を帯びた音を、情熱に燃える音を、なのに表面上は美しく滑らかな音を、まもりは今まで聞いたことがなかった。
その言葉を聞いて、ヒル魔はにやりと笑った。
「優等生の姉崎まもりサンには刺激が強すぎたか?」
なんで名前を、と思ったが、講師が呼び立てたのならそこで聞いたのだろう。まもりは出来る限り感情を押し殺す。
「聞かせる相手が違うんじゃないの」
そっけなく言ってまもりはヴァイオリンをいっそ川に投げてしまおうかとも思ったが、またしてもヒル魔の言葉がそれを止めた。
「違ってねぇよ」
「え?」
「聞かせる相手はお前だ」
「・・・なんで」
彼とは面識がなかったはずだ。あればこんな強烈な人、忘れるわけがない。
「いつもここで練習してただろ。まるで録音したかっつーくらい毎回完璧な演奏してたな」
「聞いてたの? ・・・ふふ、でも、つまらない音だったでしょう?」
そう。
技巧的に優れていても、そこになんの感情も乗らなければそれは音楽ではない。
まもりも感情を乗せていたつもりだったのだ。
けれどそれは『つもり』だけだった。聞いていてもただ綺麗ね、と言われるだけの。
「ありゃまるで悲鳴だった」
その言葉に、まもりは目を見開く。
「・・・そんな解釈されたの初めてだわ」
「へえ。俺には音を楽しむっていう概念がなくてただ叫んでるだけみたいな音にしか聞こえねぇな」
まもりはヴァイオリンを見下ろす。
この楽器が好きだ。奏でる音が好きだ。
でもなんでだろう、最近は楽しくなかった。以前は弾くだけで楽しかったのに、今は。
「・・・もう、ダメなのね」
それを突きつけに来たのだろう、彼は。
だが、ヒル魔は気分を害したように口を開いた。
「諦めるのが早すぎる」
「後押ししに来たんじゃないの」
そのために呼ばれたのだろうと暗に言うと、ヒル魔はがしがしと頭を掻いた。
「・・・あのなあ、俺が巷でどう呼ばれてるかは知らねぇが、この俺が、糞講師なんかに呼ばれてわざわざ時間割いてくるわけねぇだろ」
「だって私、貴方のことよく知らないし」
ヒル魔は以前からまもりの存在を知っていたようだが、まもりは違う。
「中途半端にしか噂聞いてねぇヤツが一番扱い辛ぇ。糞!」
独り言に近く文句を言うヒル魔に、まもりは一から聞くべきかと口を開いた。
「そもそも、なんで私のところであんなに熱烈に演奏したの」
「お前に聞かせるためだ」
「じゃあ目的は達したでしょ。私が弓を折るのを黙って見てたらいいじゃない」
「それは周囲が勝手に付けたあだ名だろ。お前は察しが悪い」
「ちょっと待って。なんだか混乱してきたから、整理するわ」
「さっさとしろよ」
まもりはこめかみを押さえながら彼の言葉を思い返す。
彼は講師に無理矢理呼ばれた訳ではない。
自分の意志でまもりに曲を聴かせた。
あれ。
「・・・ちょっと待って」
「待ってるだろ」
人の話を聞く前に逃げたから追ってきた。
弓を折らせるためじゃない。
ヴァイオリンを川に投げるのも阻止した。
「なんだか、整理してたら変な結果が出てきたんだけど」
「お前自身が変だから今更だろ。どういう結果だ」
首を捻っていたから、ヒル魔の酷い口の利き方もなんとなく流してしまった。
確かに今、私も混乱してるし、変、かも。
だって。
彼は、熱烈な愛の言葉のような演奏をした。
聞かせる相手は私で間違いないと言った。
どこにも否定はなかった。
「だって・・・なんだか、あなたが、私に、愛の告白をしているようだって・・・」
そこまで口にして、まもりはへら、と笑った。
「あは、はは。まさかね」
だってまさか。
顔や音は知っていても、実際に会ったのは今日が初めてなのだ。
ましてや会話したのも初めて。
だが、ヒル魔は笑わなかった。
「そのまさかだ」
「え」
ぎぎっと音がしそうな動きで、まもりはヒル魔の方へ向く。
彼はじっとまもりを見つめていた。
しかも至近距離で。
「な―――――――」
言葉は続かなかった。彼の顔が耳の側に寄せられる。
「今ならお前にもあれくらいの演奏はできるだろ」
「何を、根拠、に」
切れ切れに呟く唇に触れる熱がある。
「強いて言うなら、その顔、だな」
にやりと焦点がぼけるくらいの距離で笑われて。
「感情が技術に追いついただろ」

まもりは数回瞬きをして、赤い顔のままおもむろにヴァイオリンを構えた。



その音は情熱的に響き渡り、隣にいる男は満足そうにその頬をゆるめた。

***
たまたまアマチュアの弦楽四重奏を耳にしたのですが、一人だけ髪の毛逆立っていて、どう見てもヴァイオリンなんて弾きそうにない外見なのに、とても上手な子がいたのですよ。そこで思いついて一気に書きました。
私はあんまり音楽に詳しくないので勢いだけですが、書いちゃったから・・・(貧乏性)
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