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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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Ginger ale

(ヒルまも未来設定)

+ + + + + + + + + +

社会人も二年目ともなると、大学の友達ならまだしも高校の友達とは恐ろしく疎遠になる。
ましてや性別が違い、友人というカテゴリーでくくっていいものか判断の付かない相手なら尚更。
それでも同じ国にいたなら、すれ違う人波や見下ろし見上げる視線の間にふと相手を見つけるかもしれない。
同じ国にいたらの話。
今、どこに彼がいるのか全く判らない。
それはあの時だって同じだったのだけれど。
あの時から全く変わらないのだけれど、彼の棲む場所が一体何処なのか、帰る場所がどこなのかは結局判っていない。
彼が好きだったと理解できる場所はたった数年の期間限定で、今はそこに足を踏み入れることさえ躊躇う程の遠さになっている。
だから。
彼と出会うには偶然に頼ってはいけない。
持てる限りのつてと知識を総動員させて、それでも運がなければ会えないくらいの確率。
そう思っていたのだけれど、それすら嘲笑うかのように彼は唐突に目の前に現れた。
「よう」
「――――――――昔からどうにも貴方は情緒には欠けた人だったって今思い出したわ」
「5年ぶりの再会で第一声がそれか」
「普通に会話をするには奇抜すぎる登場だって自覚してください」
「43,824時間26分32秒くらい大した時間じゃねぇだろ」
「相変わらず気の長いことね」
天を突く金色はあの時のまま。体躯は更にがっしりとしたけれどまだ細い。
腕にライフルやマシンガンはないけれど、身を包むのは変わらず黒い服だった。
見間違えようがないくらい、変わらない。
「行くぞ」
「どこに?」
「『立ち話もなんだからお茶でも』っつー一般的な発想はないのか」
「・・・貴方と一般的な会話なんて想像できませんから」
彼が変わらないでいる程、私の変わりようを突きつけられるような気がする。
私は変わった。
高校を卒業し、会社に勤め、忙しい日々を送る中で化粧を覚え、酒を覚え、男も覚えた。
今では世間の波というものに飲まれないように、流されてしまわないように必死で生きている。
彼は今も空高く飛び、私たちを見下ろしているというのに。
いつの間にこんな。
こんなに私は変わったの。

ねえ。
世間一般で言えば5年は長いのよ、ヒル魔くん。

「ここは?」
「ここが牛丼屋にでも見えるのかテメーは」
「素直にバーだって言えばいい話でしょう! もう」
連れてこられた先は薄暗い照明のバー。
それでも人がそれなりに入っていて、中ではピアノの生演奏が行われている。
金色の毒々しい悪魔は、夜の街には眩しすぎるのだと思っていた。
けれど彼は見た目よりもずっと静かにその身を薄闇に委ねている。
むしろなじめないのは私の方かもしれない。
カウンターに座り、目の前に出されたメニューは定番のカクテルが並ぶ。
「私は・・・じゃあファジーネーブル下さい」
「相変わらず糞甘ぇ物好きなのか」
ケ、と小馬鹿にしたように笑われたが、仕方ない。甘い酒が好きなのだ。
「そういうヒル魔くんはどうなの」
「ジンジャーエール」
ぷっ。
思わず吹き出してしまって、ヒル魔くんに睨まれた。
「なんかヒル魔くんって見た目にすごくお酒強そうなのに、飲まないの?」
「別に飲めるが、さして好きでもねぇな」
「意外。でも意外でもないのかな。スポーツマンだったもんね」
「今もだ、阿呆」
でもコーラは飲んでたよね。スポーツマンには炭酸も本当は御法度なのに。
そう懐かしく高校時代を思い出す。
そうか、今もスポーツやってるのか。アメフトなのかな。
違うのかな。
それさえ、今の私には判らない。
隣に座っているのに、距離はとても遠い気がする。
「お待たせしました」
目の前にグラスが二つ。オレンジ色と金色。
「乾杯する?」
「何に」
「偶然の再会に」
「誰が偶然でここに来るか」
さらりと言われて、やっぱりそうだったか、と納得。
では何が目的でここに来たのだろうか。
「従順に働く労働力の回収」
「・・・?」
咄嗟に何のことか判らなくなったけれど、ヒル魔くんは答えずかるくグラスを触れ合わせてさっさとそれに口を付けた。
私にはなんてことないジンジャーエールでもヒル魔くんには甘そうに見える。
それを横目で見ながらグラスに口を付けた。甘い。
甘さで誤魔化されたアルコールの苦み。辛さ。
甘くなければ、甘くしてもらわなければ飲み込めない。
変化した自分も、変化しないヒル魔くんも、二人の間にある43,824時間26分32秒という空白も。
グラスを置いて沈黙を破ったのはヒル魔くんだった。
「テメーは相変わらずテメーだけの尺度で物を測る」
「なにそれ」
「姉崎」
滅多に呼ばれなかった名字に、どきりとする。
いつでも彼と私はキャプテンとマネージャーから逸脱せず、他の部員と同じ距離で接していた。
それがどれほどに苦しくても、側にいられたならそれでいいと思っていたから。
卒業して物理的に離れると途端に会えなくなる。
そんな分かり切っていた現実を思い知ったのは、高校を卒業してすぐ。
その後大学生の頃に泥門デビルバッツの有志メンバー飲み会でちらりと顔を合わせてそれきりだった。
自分の勇気のなさに、どれほど涙をこぼしたか、ヒル魔くんは知らないでしょうけど。
「飲め」
目の前に、ヒル魔くんが口を付けたグラス。
ちょっと躊躇ったけど、今更間接キスとか言うお子様ではないだろう、多分。
そしてその金色の液体を口に含んだ瞬間。
「ッ!!」
げほ、と噎せた。
にやにやと笑うヒル魔くんにグラスを返して、慌ててハンカチで口を拭う。
「辛ッ! なに、これ?!」
「元からジンジャーエールはこーいうもんだ」
ケケケ、と笑われて確かにジンジャーは生姜だけど、まさかこんなに辛いなんて! と涙目で文句を言う。
「相変わらず固定観念がありやがると目の前に何があっても見ようとしない女だな」
私が噎せた辛い液体をヒル魔くんは何事もなく嚥下する。
「俺はいつだって俺だし、お前もそうだろ。だから別に問題なかった」
「? 何が・・・」
何が言いたいのだろう。首を傾げる私に、彼は尊大に言いはなった。
「約束を忘れた訳じゃねぇだろうな? 最初に言っただろう、答えられなければ労働力として従順に働け、とな」
約束。
それは。
あのクリスマスボウル直前、初冬の東京ドームの救護室で突きつけられた三問目。
いやその前の、高校二年生になったばかりの春先、綺麗に磨き上げたばかりの部室でモップ片手に楯突いたときの――――。
「え、あれまだ有効だったの!?」
「期限を設けた覚えはねぇなあ」
にやにやと笑われて絶句した。どこまで悪魔なのだ、この男は。
「えー、マネージャー業務だけかと思ってた・・・」
「その考えが甘ぇんだよ」
ケケケと笑って彼は立ち上がる。
「来い」
「・・・どこに?」
先ほどと同じようなやりとりだけれど、今度は命令だ。
事前に従順な労働力は逆らうなよ、と釘を刺しておいてどこに連れて行くというのだろう。
「回収に来たっつったろ」
腕を掴まれ、触れた唇はあの辛い液体を嚥下したくせにひどく甘かった。


***
尊大過ぎやしませんか、ヒル魔さん。
ジンジャーエールが辛くて驚いたのは数年前の私です。甘いのが一般的だと思ってたので。
タイトルが決まらなくていつも難儀します。だれか私に名付けのセンスを下さい。

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