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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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美食功罪(下)



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ヒル魔が、卒業後は、アメリカに、行く。
それは考えてみれば実にあり得る話だった。
彼の頭脳はそもそもこの大学程度では収まらない程抜きん出ていたし、アメフトに嵌るくらいだから、アメリカに新天地への願望があってもおかしくない。
いや、むしろそこに気づかなかったのがおかしいと言うべきか。
「おい」
ヒル魔は一人で行くつもり、なのだろう。
現にまもりは何も聞かされていないし。
こんなに近くで一緒に部活もして、日々顔を合わせているのに。
でもそれは今、同じ大学で同じ部活に所属しているから顔を合わせているのであって、卒業したら。
「おい」
日本にいたって顔を合わせる機会は極端に減るだろう。
それなのに、アメリカなんかに行ってしまったら。
顔を合わせるなんて、無理だ。
―――その日まで、もう一年と少ししかない。
「おい、姉崎!」
「っ」
名を呼ばれ、びく、とまもりは肩を震わせる。
「なにぼけっとしてやがんだ。帰るぞ」
「え・・・」
気づけば部室は誰もおらず、まもりはじっと携帯を手に固まっていたらしい。
「何見てたんだ」
「メール。友達から来るかと思ってたけど、まだ見てないみたい」
咄嗟に嘘をついたが、ヒル魔は気づかなかったようだ。
「帰ろっか」
「飯。作れ」
「えー? ヒル魔くん、いい加減自分で作った方がいいわよ」
じゃないと卒業したときに、という一言が喉でつっかえて出てこない。
区切りが不自然ではなかったせいか、ヒル魔はまもりの言葉の続きを詮索することなくにやりと笑った。
「ヤダネ」
ぐい、とその手を引かれる。一瞬それを振り解こうとして、やめた。
彼に手を繋がれるのは初めてではない。高校の時から、時折こうやって彼は強引にまもりを引っ張った。
それに不服を口では言いながら、逆らう気がなかった。
彼は強引だから。口でなんと言おうと、振り払おうとお構いなしだったから。
けれど、それは言い訳に過ぎないと理解する。
彼とのこの距離は、高校から今まで同じ学校に通って同じ部活に所属していたから成り立っていた関係で。
―――卒業したら、もう。
「ねえ、ヒル魔くん」
「あ?」
振り返る彼に本当に聞きたいことが、・・・聞けない。
「・・・何食べたい?」
「肉」
「メニューを聞いてるのよ! もう」
殊更に軽口を叩き、笑みを浮かべるまもりは胸にじわりと広がる苦い気持ちを表面に出さないよう必死だった。
ヒル魔は千里眼の持ち主か、と思う程にまもりの事を見抜くから。
この気持ちを知られる訳にはいかない。
まもりには何も言わず、アメリカに渡るつもりだった彼。
ヒル魔にとって、まもりとは卒業すれば切れる程度の関わりしかない相手なのだ。
それが悲しいと思う程にまもりがヒル魔のことが好きなのだと自覚しても、結果は見えている。
この距離が当たり前だと思っていたのは自分だけなのだと、思い知らされて、寂しくて。
まもりは手を引かれながら、僅かに俯く。
涙を零さないように忙しなく瞬きをしながら、まもりはただヒル魔の背中を見ていた。


結局夕食を彼の家で摂って自宅に帰り、まもりはパソコンを開く。
ヒル魔に習ったおかげで、これも人並みには扱えるようになった。
彼には感謝している。
だから尚更、アメリカに行くという彼に告白しようという気持ちはない。
好きだと告げた途端に失恋するのが目に見えているから。
それに、彼も気の置けない友人として扱っているまもりから告白されては迷惑だろう。
もう彼への気持ちは諦めて、自分なりの新しい道を探した方がいい。
今までと同じように彼の側で何喰わぬ顔をして平然としていられる自信もないから、今からでは少し遅いけれど、留学を考えてもいいかもしれない。
日本の外に出れば、考えも変わるかも知れないし。
まもりは自分に現実から逃げ出すための言い訳を山程しながら、インターネットで情報を集め出した。

それから。
まもりは時折、就活のため、と言って部活を休むようになった。
ヒル魔が呼んでも、前程彼の家に来なくなった。
それを訝しむヒル魔に、まもりは就活が忙しいの、と言って取り合わない。
そんなもの、と言いかけてヒル魔は止まる。
彼女の意志を無視して連れて行くつもりではあるけれど、彼女がしたいことを止める権限が今の自分にあるわけじゃない。
悶々とした気持ちのまま、ヒル魔は部活を終え、帰路に就く。
今までだったら隣にまもりがいて、他愛ない会話をしながら帰るのが常だった。
しばらく、彼女が作った食事を摂ってない。
彼女の料理に慣らされた舌が、かつては散々口にしたはずのコンビニ弁当やインスタント食品を拒む。
空腹と、それ以上に満たされない心にヒル魔は苛立つ。
ふと、視界の端に見慣れた茶色が過ぎる。
気のせいかとも思ったが、抜群の視力を誇るヒル魔の目はしっかりと彼女の姿を捕らえていた。
まもりは道路を挟んで向かいの書店にいた。そして、その傍らにいる男の右頬には十文字の傷。
「・・・糞長男」
待ち合わせをしたのか、偶然居合わせたのかは判らないが、ヒル魔の視線の先で二人は会話を続けている。
まもりが手にしているものが見えた。海外留学関係の書類だ。
留学? この時期に?
困惑するヒル魔を余所に、二人は会話を切り上げ、その場で手を振って別れた。
まもりは憂いのある顔で本を見下ろし、レジへと向かう。
十文字は書店から出てヒル魔のいる方へと歩いてきた。
渡りに船だ。
ヒル魔は口角をつり上げ、彼の目の前に立ちはだかった。
「・・・久しぶりだナァ?」



まもりの唐突な留学希望について、両親は首を傾げたが反対する理由もないと言った。
「外の世界を見たいというのはいいことだ」
「若いうちしか見えないものがあるわ」
まもりはドイツへと留学を希望した。ドイツは幼児教育の先進国だ。
大学は留年を余儀なくされてしまうが、休学をしてでも行くつもりだった。
学校側に提出する書類の一覧を貰おうと、まもりは学生課へと向かう。
だが、まもりはそこにヒル魔の姿を見つけ、足を止めた。
彼には知られたくない。まもりはそっとその場を離れようとしたが、ヒル魔の方が一足早かった。
「姉崎」
大股に近寄り、まもりの腕を捕らえる。
「ここに用事があるんじゃねぇのか?」
「・・・やっぱりいいわ。また後で出直すから」
ない、というには普段通る場所と違いすぎて言い訳できない。
出直す、という言葉にヒル魔はぴんと片眉を上げる。
「出直さなくても、せっかくここまで来たんだから用事を済ませりゃいい話じゃねぇのか?」
からかう言葉に、まもりはその手を振り払おうとしたのだが。
「・・・痛っ」
思いがけずきつく握られた腕に、眉を寄せた。
「ドイツに留学だって?」
まもりは目を見開き、ヒル魔を見上げる。
そこにいるヒル魔は、心持ち痩せたような気がする。
そうして酷く真剣な顔をしていた。
「随分唐突な上に時季はずれデスネ」
「ドイツは、幼児教育の先進地なの。調べてたら、興味が湧いてきたから」
「休学して留年覚悟で留学か」
「悪い?」
まもりは眉を寄せて、腕を取り戻そうとする。
「私がどこに行こうが、ヒル魔くんには関係ないでしょ?」
ヒル魔がアメリカに行くのを決めたように、まもりがドイツに行くのを決めても、問題はない。
だって二人の間には何もない。卒業してしまえば途切れる、ただの腐れ縁のような間柄なのだから。
それをただ黙ってその日が来るのを待つよりは、いっそ自分が先に日本からいなくなればいい。
けれどヒル魔の手は、まもりを放さなかった。
「ある」
「どうして?」
「テメェは卒業と同時に俺とアメリカに行くからだ」
「・・・・・・・はい?」

卒業と同時?
ヒル魔と一緒に?
アメリカに行く?
・・・誰が?

今言われたことを噛み砕いて理解しようとするまもりは、完全に硬直していて。
そしてヒル魔がその隙を見逃すはずもなく。
抵抗の失せた腕を放し、彼女をひょいと抱き上げる。
「な、なななな何?! ちょ、ちょっとなんで私ヒル魔くんに抱き上げられてるの!?」
「テメェ今『はい』っつったろ」
「それは聞き返したの!」
了承の返事じゃなーい! と叫んでもヒル魔はどこ吹く風でまもりを抱いてスタスタと学生課のある建物を出て、外へと向かう。
「ちょっと、どこ行くの?!」
アメリカに行くのは卒業と同時だと今言ったではないか、と焦る。
彼ならこの足でアメリカに行くなんてのは充分あり得る話。
けれど予想は外れた。
「俺ん家」
「なんで?!」
「飯作れ」
「また?!」
どうして、と尋ねる前に。
「何喰ってもマズイんだよ」
どこか拗ねたようなヒル魔の、声。
「テメェが作った飯じゃねぇと、もう満足できねぇ」
抱き上げられたまま視線を下に向ければ、見上げる表情がにやりと歪んだ。
「責任取ってアメリカでもしっかり飯作りやがれ」
「なっ、そ、そんな、家政婦が欲しいなら向こうにもいるでしょ!?」
「テメェ話聞いてたのか? 俺はテメェの飯が食いたいっつってんだよ」
にやにやと笑いながらヒル魔はとどめのように口を開いた。
「一生な」


***
fumika様リクエスト『大学生ヒルまもにアクシデント』でした! やー、相変わらずのしっかりした世界観に沿って書くのが楽しくてもう! 書いているウチにがっつり胃袋掴まれたヒル魔さんの話になりました。出来てないのにいちゃついてる二人も実に面白く書かせて頂きましたw リクエストありがとうございましたー!!

fumika様のみお持ち帰り可。
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