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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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出産狂想曲(下)



+ + + + + + + + + +
まもりは腹をくくる。
ここまで来てしまえばもうここで産んでしまうしかない。
そうと決めてしまえば、まもりの指示は早かった。
「ヒル魔くん、お湯、沸かして!」
「ア?」
「それからタオルをもっと持ってきて! それと洗濯ばさみとタライ!」
「あ、ああ」
追い立てられるようにヒル魔が立ち上がって指示通り湯を沸かそうとするが。
「どれくらいだ?」
「たくさん!」
「・・・ああ」
神妙な顔をして頷くヒル魔を余所に、まもりはいきみ始める。
「ん~~~~~~~~~~~!!」
中途半端に産道で止まってしまうこと程怖いことはない。
早く出してあげなければ。
一方でヒル魔はヤカンを火に掛け、言われたとおりタオルをありったけ持ってきて、そしてタライを用意し、何に使うのかと首を傾げながら洗濯ばさみを持ってくる。
けれど必死にいきむまもりを前にどうすることも出来ず、用意したモノを床に置いてその場に立ちつくすばかり。
それでもまもりの額に玉のような汗が浮いているのに気づいて、先ほどのどさくさで落ちた濡れタオルで拭うと、青い瞳がヒル魔を射抜いた。
「ヒル魔くん、こっち来て・・・」
言われるがままに近づくと、まもりがいきなりヒル魔の肩口にしがみついた。
「アア!? 一体、何・・・」
「つかまり、たいの・・・! ん~~~~~!!」
「痛ェ!!」
ギリギリとヒル魔の背中に爪を立て、まもりは最後の一踏ん張り。
産院ならば分娩台で産み落とすからしがみつく為の棒があるのだが、ソファではそれもなくどうしても力が入らない。
だから代わりに拠り所としてヒル魔にしがみついたのだ。
容赦ない力でしがみつかれたヒル魔は、普段からは考えられない力を出すまもりに、驚嘆の視線を向け、その頭をこわごわと撫でる。
いつも出産の時には立ち会いはせず廊下で待っているだけだったのだが、実状はこうだったのかと三人目にして初めて知った。
「んう~~~・・・うう・・・!!」
苦しみ、ふうふうと短い息をつくまもりは、不意にふっと力を抜いた。
「おい、姉崎?!」
気絶したのか、と焦るヒル魔を余所に、響く声。
「ふんにゃあ!」
「・・・ア?」
「産まれ、たの・・・よ」
そっと押しのけられた格好のヒル魔は、恐る恐るまもりの下肢へと目を向ける。
ソファに敷かれたタオルに投げ出されて泣いているのは、紛れもなく産まれたばかりの赤ん坊だ。
血まみれのそれにおずおずと触れ、そっと抱き上げる。
熱い。
「ヒル魔くん・・・」
弱々しい声で呼ばれて、ヒル魔はその血まみれの赤ん坊をまもりに差し出す。
胸の上に赤ん坊を抱えて、まもりはほっと息をつき、笑みを浮かべ、そうして。
「ヒル魔くん、お湯でタオル濡らしてきて。赤ちゃん拭いてあげるの。あ、でもその前に洗濯ばさみ頂戴」
血まみれの両手を呆然と見ていたヒル魔は、その声で我に返って洗濯ばさみを渡し、よろよろと台所に引っ込む。
程なくお湯で固く絞ったタオルを渡されたまもりは、丹念に赤ん坊を拭っていく。
「お湯は沸いた?」
「・・・そろそろ沸く」
「そう。今何時?」
「・・・午後2時26分43秒」
「じゃあそれ覚えててね。出生届に書かないといけないから聞かれるわ」
「・・・おー・・・」
「その辺の綺麗なタオル頂戴。ううん、それじゃ大きいからそっちの小さいので」
出産直後とは到底思えないようなてきぱきとしたまもりの指示に従うだけで、ヒル魔はまだ呆然としているようだ。
ヤカンが湯の沸騰を告げる。
「あ、お湯沸いたわね。じゃあタライにお湯張って、・・・あ、どうしようかな」
「ナニガ」
「へその緒。今まだ繋がってるの」
「っ?!」
ほら、と見せられた赤ん坊の臍とまもりの下肢から伸びる細いひも状のモノ。
その途中で洗濯ばさみがちょこんと止まっている。
「とりあえずタオルで保温してあげて、先生来たらにお風呂にしようか。ヒル魔くん」
「おー」
「男の子よ」
「・・・そうか」
性別の事なんてすっかり意識から飛んでいた。
ヒル魔は複数のタオルで器用に赤ん坊をくるみ、愛おしそうにその額にキスを落とすまもりをじっと眺めている。
視線に気づいたまもりはヒル魔を見上げ、柔らかく苦笑した。
「ふふ。なんだかヒル魔くんの方が子供みたいね」
「テメェは毎回こんな状態だったのか」
「んー、今回は安産だったから、前回よりずっと楽だったわ」
「・・・そーか」
ヒル魔はまもりの頭をゴシャゴシャとかき混ぜる。
「わ!」
「ご苦労」
「・・・まだ正確には終わってないわよ」
くすくすと笑うまもりの顔には先ほどの苦痛はもうなく、疲労があるものの充実した表情で。
もう一度その頭をゴシャゴシャと撫でたヒル魔は、響いたドアホンに医師の訪れを知り、出迎えるべく立ち上がった。

さてその後。
到着した医師がへその緒を切るはさみをヒル魔に手渡し、せっかくですから切ってみましょうと勧めた。
抵抗したものの結局ヒル魔はこわごわそれを切り離すことになった。
得も言われぬ感触にそれきりヒル魔は押し黙ったままだ。
医師の手によって必要な処置がされ、診断を受けた赤ん坊は健康状態も良い為、そのまま自宅で様子見しようという話になった。
「奥様は入院なさいます?」
「んー・・・でもしなくてもいいんですよね?」
「そうですね。貧血もないようですし・・・不調が出たらすぐ来て下されば結構です」
「じゃあ今日は入院しません」
「判りました。安静にして頂いて、問題がなくても一週間ほどしたら一度病院にいらして下さいね」
「はい」
出生診断書を書いて貰い、受け取ったヒル魔は医師を見送った後、それはそれは深いため息を零したのだった。


帰宅したまもりの両親は、事の次第を聞いて目を丸くした。
アヤと妖介にリビングで待つよう言い置いて、二人は慌てて二階に上がる。
「もう産まれたの!?」
「な、なんでここにいるんだ?! 入院は?!」
驚く両親を前に、ベッドの中でまもりは苦笑する。
「ここで産気づいちゃって、結果的に自宅出産になっちゃった」
事の顛末を聞かされ、彼らはベッドのまもりと、隣に眠る小さな赤ん坊と、傍らに立つヒル魔とを交互に見た。
「はー・・・入院しなくて大丈夫なの?」
「ええ。医師はどっちでも構わないと言いました」
ヒル魔がまもりの母に答える。
「そうね。とりあえずは自宅療養していればいいものね」
ヒル魔一人が立ち会ったのだと聞いたまもりの母は、感謝と憐憫とが入り交じった暖かい視線を向け、彼の肩を叩いて外へと促す。
少し休むようにまもりに告げ、ヒル魔はまもりの母について廊下に出た。
「・・・すごかったでしょ?」
ひそりと囁かれ、ヒル魔は無言で頷く。
すごいなんてもんじゃなかった。
「でも聞く限りは安産だったみたいだし。初産の時はもっと酷かったわよ」
くすくすと笑われてヒル魔は微妙な顔になる。
あれでまだまだだというのなら、最初はどれほどの惨状だったのだろうか。
見ていたら二人目をすぐには望まなかったかも知れない。
と、その後からまもりの父が赤ん坊を抱いて出てきた。
「今度は男の子か・・・まもりに似るといいな」
三人目の孫を抱く手つきも手慣れた様子のまもりの父に、ヒル魔は視線をちらりと向けて、再びまもりの母に戻す。
彼女は下に残してきた孫の元へと向かうべく既に階段を下りていた。
「ご主人は立ち会いされたんですか?」
ヒル魔も同様に階段を下りてリビングへ向かう。
ちなみに先ほどの出産の痕跡は早々に始末したので他の家族が帰宅した途端血みどろの惨劇に出くわす―――とはならずにすんだ。
「まさか。全然しなかったし、病室の外で自分が痛いような顔してウロウロしてたっていう話よ」
「そうですか」
「立ち会いして、怖がらせるのも可哀想だったしね」
ふふふ、と笑う彼女は後から降りてきた夫から手渡された新たな孫を抱き上げる。
「名前はどうするの?」
「そうですね・・・」
小さな頭を撫でながら、ヒル魔は思案する。
ふと、足下にまとわりつく小さな熱に気づく。アヤと妖介が興味津々で上を見上げていた。
「おとーさん」
「あかちゃんなの?」
「おー。テメェらの弟だ」
見せられた小さな赤ん坊に、アヤも妖介も恐る恐る手を伸ばす。
真っ白なおくるみに包まれた身体に相応の、小さな紅葉手に触れて、二人はにっこりと笑う。
「かわいいね」
「あかちゃんかわいい」
好奇心のままにつつこうとするのを遮り、ヒル魔は彼らに告げる。
「テメェら母さんのとこに行ってやれ」
「おかーさんの?」
どうして? と小首を傾げる子供達にヒル魔はにやりと笑う。
「母さんはすごく頑張ってこいつを産んだんだ。良くできました、って言ってこい」
「わかった!」
「言ってくる!」
ぱたぱたと軽い足音を立てて手を繋いだまま走り去る子供達に、まもりの母は暖かな視線を向ける。
「あの子達もお姉ちゃんお兄ちゃんになるのね」
「そうですね」
「またこれから楽しみが増えるわ」
微笑むまもりの母の背後で、もう一回抱かせろとまもりの父が騒いだ。



***
美桜様リクエスト『護が生まれた日』でした。出産したことないんで、こんな曖昧な感じですみません。きっとヒル魔さん赤ちゃんが生まれてくるところは見られないだろうなあ、と思って存分にヘタレていただきました! 意外に血とかに弱そうですよね。これでしばらく懲りて次との間が空いたのかもしれませぬ(笑)この話を書くにあたり先輩方に質問しまくってすっかり周囲から出産したいのかと勘違いされた鳥でした。いらんわ!(笑)
リクエストありがとうございましたー!

美桜様のみお持ち帰り可。
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