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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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美食功罪(上)

(ヒルまも)
※二人が同じ大学に通っています。どのシリーズともリンクしません。
※リクエスト作品


+ + + + + + + + + +
大学のグラウンドは設備も広さも高校とは段違いだ。
それでも、あの時はあの時で何にも代え難い情熱がそこかしこにあった。
今も青空に響く悪魔の声。
「SET!」
その声を聞きながらみんなのサポートをする日々は、結局大学でも同じで。
「HUT!」
まもりはクリップボードを手に、グラウンドを眺める。
「HUT!」
紅白戦が繰り広げられるそこに、屈強な男達に紛れて細い影が跋扈する。
その姿を見ながら、まもりはこれまでのことを思い返していた。
大学への進学を決めたとき、当然のようにヒル魔も同じ大学へと進路を決定していて。
一応難所で通っているらしい狭き門を二人は悠々とくぐり抜けた。
そうして当たり前のようにヒル魔はアメフト部へと所属し、まもりも引きずられるようにしてマネージャー兼主務の立場に収まった。
勿論異論がないわけじゃない。
まもりが泥門高校アメフト部でマネージャーを務めていたのは偏にセナがいたからで、アメフト自体が好きなわけでも、ヒル魔の世話を焼くためでもなかった。けれど高校の時のあの高揚感が忘れられなかったのも確かで。
ヒル魔に強引に誘われて渋々という形で入ったけれど、その実まもりは嬉々としてマネージャー業と主務業に励んでいた。
高校の時と違ってマネージャーも主務もそれぞれそれなりに人数もいるし、機材も揃っている。
けれどその分業務量も増えているし、楽になったわけでもない。
新たな仲間達と励まし合いながらマネージャー業と主務業を続け、もう三年が経過した。大学生活もあと僅か、ということになる。
一方で大学に行ったら色々と華やかな場所に顔を出すことになるのだと思っていた期待は見事に裏切られた形だ。
平日はほぼアメフト部のことで忙殺されているし、休日も然り。更に数少ない休養のためはずの休みも、ヒル魔の自宅に入り浸って作業する事がほとんどだ。
休憩時間を告げる声に、まもりはドリンクボトルを持ち上げる。
「ま、仕方ないか」
ヒル魔と同じ大学と知った段階でこうなることは半ば予想通りと言えた。
「なにがだ」
視線を向ければ、いつの間にか背後に立っていたヒル魔の姿。
しきりにタオルで汗を拭っている。
「なんでもないわ。はいドリンク」
「おー」
差し出されたストローを銜え、啜る彼にまもりは眉を寄せる。
「ちょっと! ボトルくらい自分で持ってよ!」
「うるへぇ」
ストローを銜えたままヒル魔はパソコンを叩く。
未だにアナログ仕様のまもりにパソコン操作を根気よく教えて、どうにか人並み程度には扱えるようにはなっているのだが、最新のデータを打ち込むのはヒル魔自身が動いた方がまだまだ早い。
休憩時間であっても彼の手は休まらないのだ。
「んもう、休憩の意味がないじゃない!」
「座ってるだろうが」
「私が動けないでしょ!」
ドリンクを持たされるまもりは、勢い彼の隣に座ることになる。
他のマネージャーたちが慌ただしく動き回るのに自分一人こんな状況では申し訳ないと思うのだが、ヒル魔は馬耳東風だ。
ドリンクを置いて立ち去ろうとしても、パソコンを支える手が彼女の動きを阻んでいる。
端から見れば彼女を抱えて放さないヒル魔、文句を言いつつも側にいるまもりという図式。
最初からまもりに対して独占欲むき出しのヒル魔に対して突っかかろうという猛者は誰一人としておらず、注意だって出来ない。
今や二人はすっかりアメフト部の熟年夫婦と呼ばれている。
―――実のところ、この二人の関係は高校時代から何一つ変わっていなかったりするのだけれど、それは周囲のあずかり知らぬ事。
「汗すごいよ?」
「ん」
まもりがヒル魔の首に掛かったタオルを使って彼の汗を拭う。
それを好きにさせる様子に、慣れた面々はそれを見ても苦笑すらしない。
「おーい、そろそろ休憩終わりなー」
「はーい! ちょっとヒル魔くん、放して」
「ホレ」
ひょい、と腕を放したヒル魔はすっかり空になったボトルと汗に湿気ったタオルをまもりに押しつけ、さっさとグラウンドに戻る。
相変わらずなんだから、と肩をすくめたまもりはそれらを片づけるべく身軽に立ち上がった。


大学に通うようになってから彼の自宅が思いの外近いのだと知った。
そして今では。
「ヒル魔くんって今でも自炊しないの?」
「するだけ時間と金の無駄だ」
「やり出せば上手そうなのに。・・・はい出来た。ちょっとテーブルの上片づけて」
「おー」
まもりがヒル魔の自宅で食事を作ることも珍しくなくなった。
ほぼ外食かコンビニ弁当というヒル魔の食生活が大学に通うようになって更に目立つようになったので、それではいずれ体を壊すとまもりの世話焼き気質に火がついた格好だ。
手際よく皿を並べ、ご飯をよそい、二人で食べる。
「いただきます」
「イタダキマス」
ヒル魔はまもりの料理についてあまり美味しいともマズイとも言わないけれど、好きな味付けのモノから目に見えて減るので、まもりはそれを覚えて料理のレパートリーを増やしてきた。今ではどのおかずも大抵同じくらいのペースで消えていく。
「テメェがここに来てるって、親は知ってんだろ?」
「うん。ママもヒル魔くんなら安心ね、だって」
「ホー」
まもりの言葉にヒル魔は僅かに眸を眇める。
「お茶淹れるね」
「コーヒー」
「あんまり飲み過ぎるのもよくないわよ。・・・って、今更か」
ちょっと待ってて、と言って立ち上がる背を見て、ヒル魔は天然度合いにも程があるな、と密かに嘆息した。
まもりの母がヒル魔を信用しているのは、まもりが天然だと判っていて手を出さないことを評価して、だ。
娘を襲うならもっと早く襲っているだろう、手を出さないのはそれなりに大事にしてくれているのだろう―――そう思っているのがありありと判る。
それがどうして本人はそうと知れないのか、とヒル魔はコーヒーを受け取りつつ半ば恨みがましい視線を向けるが。
「なに? 砂糖欲しい?」
まるで判ってないまもりは自らのカップに入れている砂糖をヒル魔に見せる。
「いるか。んなもん近づけたら殺すぞ」
「ハイハイ。相変わらず小学生みたいな事いうのね」
肩をすくめるまもりに、ヒル魔は天然も過ぎると犯罪だ、と内心ぼやく。
こいつにとっちゃ俺は単なる手の掛かる男友達の域を越えないのだろう、と。
いや、もしかしたらこいつには男と女という概念すらないのかも、と考えてヒル魔は薄ら寒くなった。
けれど。
「おいしー」
のんきにカフェオレを啜るその顔を見ていたら、力が抜けた。
「まあ、いい」
「何が?」
「ベツニ。寄るな、甘臭ェ」
「砂糖は無臭です!」
男よりも女の方が色々感づいたり鋭かったりすると聞くが、どこの世にも一般大衆から外れた者は存在する。
こいつもその一人だな、とヒル魔はきゃんきゃんと吠えるまもりを見て思う。
一方で、ヒル魔の脳裏にはこれからのプランが浮かんでいる。
彼は大学卒業と同時に渡米し、向こうで新たな生活を始めるつもりだった。
そのための準備は着々と進んでいる。そうして最後の仕上げは、油断しきっている彼女を問答無用で連れ去ること。
さすがにそこまで行けば超がつく天然の彼女でも理解せざるを得まい。
それまでせいぜいぼんやりさせておこう、とヒル魔はまもりの頭をごしゃごしゃと撫でたのだった。

数日後。
いつも通り部活の準備をしていたまもりだが、ヒル魔の姿はなかった。
ゼミが違うので、時間差があるのはいつものこと。
けれど大概は彼の方が早いので、変な気分だ。
同じ学年のマネージャーが作業しながら口を開いた。
「そういや、最近玲子は就活どう?」
「あー、あたし内定貰えそうなんだ! 雪乃は?」
「あたしは・・・まだまだ面接行かないと」
「そっかあ。どっち方面希望だっけ?」
「マスコミ。だけどどこも厳しくてさあ」
ぼやく彼女の視線がまもりに向かう。
「ねえ、姉崎さんは?」
「え? 私?」
「そうそう。姉崎さん就活してる? あんまり話聞かないけど・・・」
「一応いくつか受けたけど・・・」
「そうなの?」
「あ、でも姉崎さん保母さん希望じゃなかったっけ? 国家試験もあるんだよね?」
「うん。そっちもあるし、希望の就職先が公立保育園だから、公務員にならないと」
「うわー大変!」
「狭き門だよね! それならいっそヒル魔の奥さんになっちゃえばいいのに」
「え?」
目を丸くするまもりに構わず、二人は会話を続けていく。
「ねえ、これぞ永久就職! キャー素敵な響き!」
「保母さんじゃなくても自分の子の面倒みられるし!」
いやーん、と二人はまもりを置いてけぼりのまま、手を取り合いはしゃいでいる。
「でも卒業してすぐ結婚はないでしょー?」
「いやいや、だってヒル魔は卒業と同時にアメリカ行くんだよね? そしたら姉崎さんもついてくのかなーって」
「え? そうなの?」
「うん。部長と話してるの聞こえたのよ」
「へー。そういえばヒル魔が就活してるって聞かないね」
「そーそー。だからヒル魔にしても姉崎さんにしても就活してる話聞かなくても全然気にしてなかったんだ」
違うの? そう小首を傾げて尋ねられたが、まもりは目を見開いたまま固まっている。
「姉崎さん?」
「どうしたの?」
「・・・っあ、な、なんでもない・・・」
「そう? 平気?」
「うちら、なんか気に障ること言っちゃった? ごめんね?」
気遣う声に、まもりは半ば上の空で首を振った。
「平気、平気。うん、大丈夫。そっか、ヒル魔くん・・・」
その呟きに、はしゃいでいた二人は顔を見合わせた。
「まさか、ヒル魔がアメリカ行くの・・・知らなかった、の?」
こくりと頷くまもりに、二人の顔色が一気に青ざめる。
「やばっ!」
「ヒル魔に殺される!!」
その時。
「俺がなんだって?」
「「ぎゃ――――――――――――――――!!!」」
実にタイミング良く現れたヒル魔に二人は悲鳴を上げて部室から逃げ出した。
「・・・なんだありゃ」
「・・・さあ」
一体何が、とまもりを見るが、彼女は黙々と作業を続けている。
「何かあったのか?」
「何もないわよ。どうして?」
逆に聞き返され、ヒル魔は首を傾げながら自らの準備に向かう。
背後でそっとこちらを伺うまもりの視線には気づかないままで。


<続>
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