旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
ヒル魔家の子供達は、足音を立てない。
見た目に派手な外見の姉であるアヤを筆頭に、妖介も護も。
あかりはまだ歩くというところまで至らないが、やはり育てば足音を立てないで歩くのだろうか。
疑問を投げかけたのは、二人の友人でありマネージャーでもある椿だった。
「どうなっとるん?」
「何が?」
「あんさんらの足音」
椿が練習後、妖介に尋ねた。
「なんで足音しないん?」
「あー・・・それは・・・」
妖介はちらりと背後を振り返る。
アヤとヒル魔がなにやら会話中だ。
おそらくはヒル魔に聞かれてはマズイのだろうと察した椿は、後でええから、と言ってその場を離れた。
その二日後。
「椿、帰り付き合え」
朝会うなりアヤの一言に、椿はきょとんと瞳を瞬かせる。
「知りたいんだろう?」
「足音ね」
妖介の補足でやっと理解した椿は頷く。
「ええの?」
「別に秘密にしてるわけじゃない。ただあの―――」
くい、とアヤの親指が指し示すのはグラウンドに小さく見えるヒル魔の背中。
「悪魔に聞かれると大変だからな」
「何が大変なん?」
「母さんの身体が」
「はあ?」
怪訝な顔をする椿に、二人は意味深に視線を交わし。
「じゃあ放課後ね」
「家に電話しておけ。夕食は外で食べる」
「え? ああ・・・ええけど」
共働きの両親は家に帰るのが遅い。メールしておけば事足りるだろう。
普通にその場で教えて貰えない足音がしない理由が、知った途端脅迫手帳にリストアップされる程だったらどうしようかと考えるが。
それならスッパリと教えない方をあの二人なら選ぶだろう。
訝しむ反面、少々楽しみになりながら椿は練習のサポートに勤しんだ。
練習が終わると、外はとっぷりと日が暮れている。
「相変わらず日のある間は帰れないねえ」
「ええやん。たまにテストで帰るとどうしてええかわからんもん」
「そうね」
三人で並んで帰るのは珍しくない。
基本的に椿は残務が多いので遅くなるのだが、その間二人も主務の仕事を手伝ったり、データ作成やら作戦会議やらで忙しいことが多いのだ。
妖介とアヤと椿という並びが基本だ。
アヤとならともかく、椿の身長では妖介と喋っていると首が攣りそうになる。だからアヤを挟むくらいで丁度いい距離だ。
こんな状況なのに、なんであの山口先輩は自分と妖介のことを誤解したのか今でも不思議だ、と椿は内心思っている。
三人はいつもの帰路ではなく、住宅街の細い路地をすり抜けていく。
ぴたりと妖介が足を止めた。
「今日の食事所はここでーす!」
そこには見過ごしてしまいそうな程小さな看板と、仄かな明かりだけがその存在を主張する店があった。
漆黒の扉には『Segreta』とある。イタリア語で『秘密』という意味だとアヤが耳打ちした。
「へー、こんなお店・・・って、高校生で入ってええの?」
あからさまに18才未満立入禁止の匂いがぷんぷんする。
「平気だ」
アヤに押し込まれ、店内にはいると、そこは外見からは想像できないくらい広々とした空間が広がっていた。
オレンジ色の照明を基調にした落ち着いた店内。天井は吹き抜けで高く、壁は白い漆喰が独特の陰影を映し出している。
天井や随所に見える柱は黒く、床も黒い木目調。それなのに暗すぎない。
その影が動いた。椿は一瞬そう思ったが、そこから黒い人影が抜け出たのだと気づく。
すらりとした長い黒髪の女性がそこにいた。身に纏う上品な衣服も黒。
切れ長の瞳がふ、と笑みを浮かべて三人を出迎えた。
「いらっしゃい」
年の頃が判然としない不思議な雰囲気の女性に、椿は見惚れた。
「こんばんは、マリアさん」
妖介の声ではっと我に返り、慌てて頭を下げるとくすくすと彼女は笑った。
「こんばんは。私の名前はマリアではないのだけれど・・・通りがいいのでそのまま呼んで」
「あ、はい。わかりました」
「どうぞこちらへ」
先に立って案内されるのに大人しくついていく。
通されたのは奥まった個室だった。
こんな高そうな所、と尻込みする椿の手を強引にアヤが引く。
「座って」
「逆に高校生があっちにいたら不審がられるからね」
「あ」
椿はあの店内の雰囲気を思い出す。まだ客はまばらだったが、三人くらいの年齢の人影はなかった。
おそらくはもっと遅い時間、隠れ家のようなこの店に一時の秘密を抱くために大人が出入りするのがこの店の流儀なのだろうと簡単に推測できる。
椿は大人しく腰を下ろした。メニューを手に、妖介が尋ねる。
「何飲む?」
「ワイン」
「・・・アヤ」
それにアヤは肩をすくめる。
「冗談だ」
「アヤ、飲めるん?」
「アヤはザルだよ。いや、ザル通り越して枠だけでもいいよ」
呆れたような妖介の声に椿は眉を寄せる。
一応世間的にはまだ17才で未成年なのに。
それにもアヤは飄々としたものだ。
「家でなら飲んだりするだろう?」
「クリスマスとかお正月とかなら・・・たまに」
「それと同じだ」
「どうかな。結構な頻度でしょ」
急性アルコール中毒には気を付けてね、と茶々を入れながら妖介はマリアを呼ぶ。
彼はすらすらとイタリア語で書かれているメニューを読み上げ、一通り注文してしまった。
「え、何頼んだの?」
「来てからのお楽しみ。大丈夫、飲み物はジュースだよ。アヤはペリエだけどね」
「当然」
甘い飲み物なんて言語道断、と言わんばかりのアヤに妖介と椿は顔を見合わせて笑った。
ごゆっくり、と言い置いてマリアが席を外す。
「さて、足音だったね」
それに椿はこくりと頷いた。
それだけ聞くのになんでこんな豪華な店に来ることになったんだろうか、なんて考える。
お財布にお金あったかな、と一瞬考えたが、いざとなったら二人に借りようと早々に諦める。
今更言っても遅いし。
「俺たちが足音を消すに至った流れなんだけど」
「くだらないことだ」
アヤが眉間に皺を寄せる。
「くだらないん? でも、あそこまで足音だの気配だの殺せるのはすごいと思うけど」
不思議そうな椿に、妖介が口を開いた。
「あれは俺たちが小学校に上がるかどうかの年の頃―――」
いつもなら目覚めることのない、深夜。
ぱちりと妖介は目を覚ました。
なんで起きたのか判らないが、眠気が遠い。
しばらく布団でごろごろしていたが、余計に目が冴えてしまった。
何か飲もうと、妖介は起きあがる。
と、いつもなら隣で寝ているまもりの姿がなかった。
妖介の様子がおかしければ寝ていてもすぐに気づいて目を覚ますのに。
母を起こさなくてほっとする反面、一体どこに行ったのかと不安にもなった。
父と一緒なのかな、と考える。
ヒル魔はその当時から神出鬼没で、早朝に帰ってくることもあれば、深夜に出掛けることもある。
子供達の眠りの妨げになるから、と寝室は別なのだ。
まもりに尋ねても仕事が判らないというから、父は不思議な存在だということくらいしか当時の妖介の頭にはない。
不思議な父と一緒にいるのなら今ここにいないのも不思議ではない。
妖介はそんな風に考えて、そっと部屋の扉を開けた。
リビングへの廊下は普段は真っ暗で怖いのだが、今日は違った。
リビングに明かりが灯っていて、そこから漏れる光で幾分歩きやすい。
きっとそこに両親がいるのだろう、とほっとする。
妖介はぺたぺたとさほど長くない廊下を歩き、ドアノブに手を掛けて少し開く。
「・・・っ」
途端に聞こえてきた押し殺すような声に、妖介は固まった。
今のは、まもりの声だったような気がする。
「ケケケ、何強情はってんだ?」
「うる・・・さっ・・・」
切れ切れの声は涙に滲み、苦しそうだ。
妖介は慌てて室内に入る。
「おかーさん!?」
「っ!!」
その声に息を呑む気配と、あからさまな舌打ち。
てててっと近寄ろうとすると、ソファから身体を起こしたヒル魔が不機嫌も露わに妖介を見下ろしていた。
その眼光の鋭さに妖介はびくっと身を竦ませる。
けれど母親のただならぬ様子に声を振り絞って問いかけた。
「・・・おかーさん、は?」
「母さんならここにいるぞ」
「おとーさん、何してたの? おかーさんいじめてたの?」
「いじめてねぇよ」
「うそ! だって、おかーさん今、泣いて・・・」
「泣いてねぇ」
「じゃあ、なんでお顔出さないの? ねえ、おとーさん!」
「煩ェな!」
唐突に怒鳴られて、妖介はうるっと瞳を潤ませる。
父親に理屈なく怒鳴られるなんて初めてで、ましてや母の危機かも知れないのに。
必死になって妖介はソファに近寄る。
「おかーさん! おかーさん!!」
「っこの・・・」
その時、ますます不機嫌になったヒル魔の影から、ひょこりとまもりが顔を出した。
「妖介? どうしたの?」
「おかーさん!」
まもりの顔を見た途端、妖介はぼろぼろと大粒の涙を零した。
「怖い夢でも見た? もう大丈夫よ」
優しく微笑んで頭を撫でてくれるのは、いつものまもりだ。
「おかーさー・・・」
差し伸べられる腕にぐしぐしと泣きながら抱きつくと、背後から盛大なヒル魔の舌打ちが響く。
それにびくっと震えた妖介の頭を撫で、まもりはそのまま抱き上げる。
「オイ!」
「妖介を寝かせてくるわね。おやすみなさい」
まもりはにっこりと笑うとそのまま妖介を抱っこして一緒に寝室へと戻ったのだった。
彩り鮮やかなパスタを巻き取っていた椿の手が止まる。
「・・・それって、さあ・・・」
「うん、ソレ」
妖介はピザを頬張りながらこくりと頷いた。
「・・・コーチ、哀れやな」
「その後が大変だった」
アヤがパスタに添えられていたエビを剥きながら続きに口を開いた。
<続>
見た目に派手な外見の姉であるアヤを筆頭に、妖介も護も。
あかりはまだ歩くというところまで至らないが、やはり育てば足音を立てないで歩くのだろうか。
疑問を投げかけたのは、二人の友人でありマネージャーでもある椿だった。
「どうなっとるん?」
「何が?」
「あんさんらの足音」
椿が練習後、妖介に尋ねた。
「なんで足音しないん?」
「あー・・・それは・・・」
妖介はちらりと背後を振り返る。
アヤとヒル魔がなにやら会話中だ。
おそらくはヒル魔に聞かれてはマズイのだろうと察した椿は、後でええから、と言ってその場を離れた。
その二日後。
「椿、帰り付き合え」
朝会うなりアヤの一言に、椿はきょとんと瞳を瞬かせる。
「知りたいんだろう?」
「足音ね」
妖介の補足でやっと理解した椿は頷く。
「ええの?」
「別に秘密にしてるわけじゃない。ただあの―――」
くい、とアヤの親指が指し示すのはグラウンドに小さく見えるヒル魔の背中。
「悪魔に聞かれると大変だからな」
「何が大変なん?」
「母さんの身体が」
「はあ?」
怪訝な顔をする椿に、二人は意味深に視線を交わし。
「じゃあ放課後ね」
「家に電話しておけ。夕食は外で食べる」
「え? ああ・・・ええけど」
共働きの両親は家に帰るのが遅い。メールしておけば事足りるだろう。
普通にその場で教えて貰えない足音がしない理由が、知った途端脅迫手帳にリストアップされる程だったらどうしようかと考えるが。
それならスッパリと教えない方をあの二人なら選ぶだろう。
訝しむ反面、少々楽しみになりながら椿は練習のサポートに勤しんだ。
練習が終わると、外はとっぷりと日が暮れている。
「相変わらず日のある間は帰れないねえ」
「ええやん。たまにテストで帰るとどうしてええかわからんもん」
「そうね」
三人で並んで帰るのは珍しくない。
基本的に椿は残務が多いので遅くなるのだが、その間二人も主務の仕事を手伝ったり、データ作成やら作戦会議やらで忙しいことが多いのだ。
妖介とアヤと椿という並びが基本だ。
アヤとならともかく、椿の身長では妖介と喋っていると首が攣りそうになる。だからアヤを挟むくらいで丁度いい距離だ。
こんな状況なのに、なんであの山口先輩は自分と妖介のことを誤解したのか今でも不思議だ、と椿は内心思っている。
三人はいつもの帰路ではなく、住宅街の細い路地をすり抜けていく。
ぴたりと妖介が足を止めた。
「今日の食事所はここでーす!」
そこには見過ごしてしまいそうな程小さな看板と、仄かな明かりだけがその存在を主張する店があった。
漆黒の扉には『Segreta』とある。イタリア語で『秘密』という意味だとアヤが耳打ちした。
「へー、こんなお店・・・って、高校生で入ってええの?」
あからさまに18才未満立入禁止の匂いがぷんぷんする。
「平気だ」
アヤに押し込まれ、店内にはいると、そこは外見からは想像できないくらい広々とした空間が広がっていた。
オレンジ色の照明を基調にした落ち着いた店内。天井は吹き抜けで高く、壁は白い漆喰が独特の陰影を映し出している。
天井や随所に見える柱は黒く、床も黒い木目調。それなのに暗すぎない。
その影が動いた。椿は一瞬そう思ったが、そこから黒い人影が抜け出たのだと気づく。
すらりとした長い黒髪の女性がそこにいた。身に纏う上品な衣服も黒。
切れ長の瞳がふ、と笑みを浮かべて三人を出迎えた。
「いらっしゃい」
年の頃が判然としない不思議な雰囲気の女性に、椿は見惚れた。
「こんばんは、マリアさん」
妖介の声ではっと我に返り、慌てて頭を下げるとくすくすと彼女は笑った。
「こんばんは。私の名前はマリアではないのだけれど・・・通りがいいのでそのまま呼んで」
「あ、はい。わかりました」
「どうぞこちらへ」
先に立って案内されるのに大人しくついていく。
通されたのは奥まった個室だった。
こんな高そうな所、と尻込みする椿の手を強引にアヤが引く。
「座って」
「逆に高校生があっちにいたら不審がられるからね」
「あ」
椿はあの店内の雰囲気を思い出す。まだ客はまばらだったが、三人くらいの年齢の人影はなかった。
おそらくはもっと遅い時間、隠れ家のようなこの店に一時の秘密を抱くために大人が出入りするのがこの店の流儀なのだろうと簡単に推測できる。
椿は大人しく腰を下ろした。メニューを手に、妖介が尋ねる。
「何飲む?」
「ワイン」
「・・・アヤ」
それにアヤは肩をすくめる。
「冗談だ」
「アヤ、飲めるん?」
「アヤはザルだよ。いや、ザル通り越して枠だけでもいいよ」
呆れたような妖介の声に椿は眉を寄せる。
一応世間的にはまだ17才で未成年なのに。
それにもアヤは飄々としたものだ。
「家でなら飲んだりするだろう?」
「クリスマスとかお正月とかなら・・・たまに」
「それと同じだ」
「どうかな。結構な頻度でしょ」
急性アルコール中毒には気を付けてね、と茶々を入れながら妖介はマリアを呼ぶ。
彼はすらすらとイタリア語で書かれているメニューを読み上げ、一通り注文してしまった。
「え、何頼んだの?」
「来てからのお楽しみ。大丈夫、飲み物はジュースだよ。アヤはペリエだけどね」
「当然」
甘い飲み物なんて言語道断、と言わんばかりのアヤに妖介と椿は顔を見合わせて笑った。
ごゆっくり、と言い置いてマリアが席を外す。
「さて、足音だったね」
それに椿はこくりと頷いた。
それだけ聞くのになんでこんな豪華な店に来ることになったんだろうか、なんて考える。
お財布にお金あったかな、と一瞬考えたが、いざとなったら二人に借りようと早々に諦める。
今更言っても遅いし。
「俺たちが足音を消すに至った流れなんだけど」
「くだらないことだ」
アヤが眉間に皺を寄せる。
「くだらないん? でも、あそこまで足音だの気配だの殺せるのはすごいと思うけど」
不思議そうな椿に、妖介が口を開いた。
「あれは俺たちが小学校に上がるかどうかの年の頃―――」
いつもなら目覚めることのない、深夜。
ぱちりと妖介は目を覚ました。
なんで起きたのか判らないが、眠気が遠い。
しばらく布団でごろごろしていたが、余計に目が冴えてしまった。
何か飲もうと、妖介は起きあがる。
と、いつもなら隣で寝ているまもりの姿がなかった。
妖介の様子がおかしければ寝ていてもすぐに気づいて目を覚ますのに。
母を起こさなくてほっとする反面、一体どこに行ったのかと不安にもなった。
父と一緒なのかな、と考える。
ヒル魔はその当時から神出鬼没で、早朝に帰ってくることもあれば、深夜に出掛けることもある。
子供達の眠りの妨げになるから、と寝室は別なのだ。
まもりに尋ねても仕事が判らないというから、父は不思議な存在だということくらいしか当時の妖介の頭にはない。
不思議な父と一緒にいるのなら今ここにいないのも不思議ではない。
妖介はそんな風に考えて、そっと部屋の扉を開けた。
リビングへの廊下は普段は真っ暗で怖いのだが、今日は違った。
リビングに明かりが灯っていて、そこから漏れる光で幾分歩きやすい。
きっとそこに両親がいるのだろう、とほっとする。
妖介はぺたぺたとさほど長くない廊下を歩き、ドアノブに手を掛けて少し開く。
「・・・っ」
途端に聞こえてきた押し殺すような声に、妖介は固まった。
今のは、まもりの声だったような気がする。
「ケケケ、何強情はってんだ?」
「うる・・・さっ・・・」
切れ切れの声は涙に滲み、苦しそうだ。
妖介は慌てて室内に入る。
「おかーさん!?」
「っ!!」
その声に息を呑む気配と、あからさまな舌打ち。
てててっと近寄ろうとすると、ソファから身体を起こしたヒル魔が不機嫌も露わに妖介を見下ろしていた。
その眼光の鋭さに妖介はびくっと身を竦ませる。
けれど母親のただならぬ様子に声を振り絞って問いかけた。
「・・・おかーさん、は?」
「母さんならここにいるぞ」
「おとーさん、何してたの? おかーさんいじめてたの?」
「いじめてねぇよ」
「うそ! だって、おかーさん今、泣いて・・・」
「泣いてねぇ」
「じゃあ、なんでお顔出さないの? ねえ、おとーさん!」
「煩ェな!」
唐突に怒鳴られて、妖介はうるっと瞳を潤ませる。
父親に理屈なく怒鳴られるなんて初めてで、ましてや母の危機かも知れないのに。
必死になって妖介はソファに近寄る。
「おかーさん! おかーさん!!」
「っこの・・・」
その時、ますます不機嫌になったヒル魔の影から、ひょこりとまもりが顔を出した。
「妖介? どうしたの?」
「おかーさん!」
まもりの顔を見た途端、妖介はぼろぼろと大粒の涙を零した。
「怖い夢でも見た? もう大丈夫よ」
優しく微笑んで頭を撫でてくれるのは、いつものまもりだ。
「おかーさー・・・」
差し伸べられる腕にぐしぐしと泣きながら抱きつくと、背後から盛大なヒル魔の舌打ちが響く。
それにびくっと震えた妖介の頭を撫で、まもりはそのまま抱き上げる。
「オイ!」
「妖介を寝かせてくるわね。おやすみなさい」
まもりはにっこりと笑うとそのまま妖介を抱っこして一緒に寝室へと戻ったのだった。
彩り鮮やかなパスタを巻き取っていた椿の手が止まる。
「・・・それって、さあ・・・」
「うん、ソレ」
妖介はピザを頬張りながらこくりと頷いた。
「・・・コーチ、哀れやな」
「その後が大変だった」
アヤがパスタに添えられていたエビを剥きながら続きに口を開いた。
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鳥(とり)
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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