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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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サイレント・ストロベリー(上)

+ + + + + + + + + +
たぷんと揺れる、薄桃色の液体。
シャンパングラスに注がれたそれを、まもりは興味深そうに見つめている。
「・・・ねえ、本当に飲むの?」
それにヒル魔はぴん、と片眉を上げた。
「今更言うか」

まもりが19才の誕生日を迎えた日。
昔からの友達も勿論だが、大学に入ってからの友人もお祝いしてくれた。
この日ばかりは学食に行く約束で、皆が奢ってくれた。
他にも何人もが気合いを入れて作ったというお菓子や小物、センスのいい雑貨などを次々と渡してくれた。
その中の一つに、この酒があったのだ。
「これは?」
「それ苺のスパークリングワインなんだ!」
「苺・・・?」
へえ、そんなのあるんだ、と考えて少し。
「私未成年じゃない! 来年まで飲めないわよ!」
それに周囲の友人達はきょとんとした後、声を上げて笑い出す。
「な、なによう!」
「それはこっちの台詞よ!」
「今時大学生で律儀に酒も飲まないなんて、どんな優等生様だよ」
「まあ、姉崎さんならありかもね」
「うん、まもちゃんならあるね」
皆に口々に言われ、まもりは同居人であるヒル魔を思い出す。
彼はさほど酒を飲まないが、下戸でもないし時折買った覚えのないビールが冷蔵庫に入っていることもある。
そこそこには飲めるのだろう。
「まあ腐るもんじゃなし、貰っておけば?」
「そうね」
まもりは少々戸惑いながらも、結局はありがたくそれを受け取った。

「すげぇ量だな」
紙袋いっぱいに入ってる様々なプレゼントに、ヒル魔が呆れながら手を伸ばす。
彼はどこから調達したのか、今日は車で来ていた。
その後部座席にどんどんと荷物を積み込んでいく。
「ヒル魔くん、免許持ってたんだ」
「まあな」
ひょい、と見せられたのは確かに免許証だ。ただし生年月日が載っていない。
「・・・生年月日のない免許証なんてあるの?」
「お願いしたら快く作って下さいマシタ」
「脅迫じゃない!」
これでこの国の警察は大丈夫かしら、とまもりは一抹の不安を覚える。
「ああ、高校卒業してすぐ取ったのね」
発行日を見ると、こちらに引っ越してくる直前になっている。
ヒル魔が教習所に行っていると高校在学中には聞かなかったので、おそらくどこかで合宿でもして取得したのだろう。
正規の方法で取ったことを祈るばかりだ。
「私も取ろうかな」
「必要ねぇだろ」
「んー、でも、こういうときにヒル魔くんに頼りっぱなしっていうのもね」
後部座席一杯になった贈り物の山に嘆息する。
これから先、大きな買い物に行くときなんかにあれば便利だと思うのだ。
けれどヒル魔はピンと片眉を上げる。
「俺に頼るのに遠慮があるのか、今更」
まもりが最後に抱えていた袋を受け取ろうとしたが、それは割れ物だからと言われてヒル魔はすぐ手を引いた。
「テメェが免許取るのは時間と金の無駄だ」
どうせ取ってもすぐペーパードライバーになって、いざ乗る段階になったらアクセルとブレーキを間違えるだろう、と言われ。
「そ、そんなこと!」
「ねぇって言い切れるのか? 大学まで徒歩圏内に住んでて、駅も近く、車は現在手元にない現状で、レンタルしてまで車に乗るか?」
「・・・う~~~」
「必要になった時に取ればいい。当面いらねぇがな」
ケケケ、と笑ったヒル魔は、さっさと乗れとまもりを促した。


意外な程丁寧な運転に感心していたらすぐ家に到着した。
荷物を運び込み、プレゼントを並べてリストを作る。
手慣れたその様子に、まもりが淹れたコーヒーを飲みながらヒル魔は口を開く。
「テメェは昔っからこの日はこんな状況か?」
「こんな? ・・・あ、プレゼント?」
まもりはふ、と笑みを零す。
「ありがたいことに、色々貰うの。でもあんまり量がありすぎると覚えていられないじゃない? だからリスト作る癖がついてるのよね」
お礼状を書いたりするときなんか便利よ、とまもりは言う。
「マメマメしいことデスネ」
「ヒル魔くんはこういうことしないの?」
「生憎と悪魔に誕生日はゴザイマセンノデ」
にやりと口角を上げた彼にまもりはぷう、とむくれる。
「私にくらい教えてくれたっていいでしょ」
「そのうちな」
まもりの頭を撫でた彼は、その目の前にぽんと紙袋を置いた。
「これは?」
貰ったモノは全てリストアップしたはず、とまもりは首を傾げる。
「お誕生日おめでとうゴザイマス」
「え・・・」
「着替えてこい」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔のまもりは、おずおずと紙袋の中を見る。
白のオーガンジーの布地が見える。それと、何かピンク色も。
「飯喰いに行くぞ」
車もあることだし? とごしゃごしゃと頭を撫でられ、まもりは少々の間の後、顔をほころばせた。

ヒル魔が連れて行ってくれた店は人気のない、こぎれいな洋食店だった。
彼がくれたドレスに身を包み、まもりは慣れないヒールに注意深く歩き出す。
その手を取って彼は手慣れたようにエスコートした。
彼の姿を見ても深々と頭を下げて普通に接してくるところを見ると、どうやら脅迫したのではないと察知して息をつく。
脅迫するのがデフォルトの彼からすれば、しないのは珍しい。
更にちゃんと予約を取っているあたりが、なお珍しい。
顔に出ていたのだろう、注文を終えたヒル魔が僅かに憤慨したように口を開く。
「四六時中脅迫して回ってるわけじゃねぇよ」
「そうなの?」
「そこで疑問形か、オイ」
ケ、と舌打ちする彼にまもりは柔らかく苦笑する。
「そうね。ごめんなさい」
「サアテどうしようかナァ」
繊細な心がいたく傷付けられマシタ、と言いながら彼の眸は笑っている。
その後しばし言葉遊びのような会話を重ね、二人は落ち着いた時間を過ごしたのだった。

<続>
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