旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
兄弟二人から提案されたのは、意外なことに近場の川縁の散歩だった。
それも黒美嵯川のような一級河川ではなく、ごく普通の用水路。
どうしてだ、と尋ねたが二人はにこにこと笑みを浮かべるだけで理由を口にしない。
これは尋ねても無駄だ、と諦めて当日を迎えた。
「おはようございます」
玄関を開け、アヤが声を掛ける。
「いらっしゃい、アヤちゃん」
母が応対しているのを聞きながら、ムサシは護が寄越した服を着て玄関へと顔を出す。
「おはようございます、厳さん」
にこっと花が綻ぶような笑みを浮かべるアヤに同じく笑みを返し、ムサシは母に無言で背を叩かれながら外に出る。
アヤは花柄のブラウスに白のスカート、上にロングパーカーを羽織り、シルバーのバレエシューズを履いていた。
髪は護がやったのだろう、くるくると巻かれて可愛らしく編み込まれている。
滅多に見ない女の子らしい格好のアヤを、ムサシはしげしげと眺める。
「・・・あの、どこか、変ですか?」
心配そうに己を見るアヤに、ムサシは苦笑する。
「いや。あんまりかわいいもんだから、見惚れた」
「っ!!」
途端に、かーっと音がしそうに赤面するその様がまたかわいらしく、ムサシはその頭を撫でた。
「・・・こ、子供扱い、ですか?」
「まさか。子供とは付き合えんからな」
飄々と言うと、アヤは赤面したまま手にしていた鞄を持ち上げる。
「お弁当、作ってきました」
バレンタインデーの礼だとは事前に言っておいたのに、というのが顔に出たのだろう。
それを見たアヤがはんなりと笑う。
「厳さんが美味しそうに食べて下さるのを見るのが、大好きなんです」
頬に赤みを残したままそんなことを言うアヤに、ムサシは少々照れくさそうに笑い、その鞄を持つ。
「え、私が持ちます」
鞄を追いかけるアヤの手を、掴むのはムサシのもう片方の手。
「荷物持ちは男の仕事と相場が決まってる」
そしてそのまま手を繋いで、そそくさと歩き出す。
思いがけないその行動に、アヤはとても嬉しそうに笑み崩れた。
十分程歩いたところに、その川はある。
日頃から人々が集まり、魚を釣り、のどかな雰囲気のある場所。
そして、今は。
「こりゃ、見事だな」
「そうですね」
満開に咲いた桜が青空に白くその姿を誇っている。
時間帯にもよるのだろうが、花見客は大概夜に集う。
仕事があるのだろうし、その他の朝から酒を飲む悠々自適な面子は人混みが予想される休日になど集わないのだろう。
休日の朝ということもあって、人通りはまばらだった。
「ここは早咲きなんだな」
「種類が違うと聞きました」
ちらりと橋のたもとを見れば、確かに普段見る桜とは違う種類らしく、お役所が作ったらしい仰々しい説明看板があった。
「キレイです」
風に靡く白い霞のような花々を見つめるアヤの顔の方が、よほどキレイだと思われたが、さすがにそれは気恥ずかしくて口に出せない。
アヤが不意にムサシの手から離れ、橋の欄干に手を掛けて川面を眺めながら口を開いた。
「よく、桜って潔さの象徴で語られますよね」
「そうだな」
「私、あれが嫌いなんです」
アヤの口から『嫌い』という単語が出てきたのを聞くのに違和感があり、ムサシは視線を向ける。
まだ花を見つめたまま、アヤは独り言のように続ける。
「ぱっと咲いて、ぱっと散る。引き際が美しいとか、散り際が綺麗だとか、そんなのは一時のことです」
風に乗って、花びらがちらちらと舞った。
「桜は何年も何年もかかって花を咲かせるじゃないですか」
花びらは川面に、地面に、そしてアヤの髪へと絡んでいく。
「一瞬で終わるなんて表現、桜に失礼ですよ」
幽かに憤慨したようなその言葉に、察しのいいムサシはすぐ気づいた。
何かを口にする前に、アヤの髪に絡んだ花びらを摘み取る。
「そうだな」
その逞しい腕が、アヤを捕らえて引き寄せた。
「厳、さん」
「桜は毎年咲くな。変わりなく」
ちら、とさほど背丈の変わらない、けれど僅かに低い位置で瞬く青い瞳を見る。
「これからもずっと、だろう?」
アヤの迂遠に言わんとしたことを察して、同じように返すムサシに、アヤはじわりと赤くなる。
照れくさく火照った二人の身体には、川縁の冷えた風も心地いい。
二人は言葉少なに、けれど幸せそうに手を繋ぎ、桜の下をゆっくりと歩いたのだった。
***
しばいぬ様リクエスト『ムサシとアヤの恋人話』でした。なんかお手々繋いで散歩という図式が浮かんだらもう止まらなくなりました・・・。ホワイトデーということで微妙にタイミングが合ったようなそうでもないような。桜は河津桜のイメージです。場所はウチの近所の用水路です。桜綺麗なんですよ。今年も散歩したいなあ。
この二人はムサシの年甲斐もないあたりだとか、アヤの普段の無表情さとのギャップなどを思い浮かべるだけでニヤニヤしてしまいます。リクエストありがとうございましたー!!
しばいぬ様のみお持ち帰り可。
それも黒美嵯川のような一級河川ではなく、ごく普通の用水路。
どうしてだ、と尋ねたが二人はにこにこと笑みを浮かべるだけで理由を口にしない。
これは尋ねても無駄だ、と諦めて当日を迎えた。
「おはようございます」
玄関を開け、アヤが声を掛ける。
「いらっしゃい、アヤちゃん」
母が応対しているのを聞きながら、ムサシは護が寄越した服を着て玄関へと顔を出す。
「おはようございます、厳さん」
にこっと花が綻ぶような笑みを浮かべるアヤに同じく笑みを返し、ムサシは母に無言で背を叩かれながら外に出る。
アヤは花柄のブラウスに白のスカート、上にロングパーカーを羽織り、シルバーのバレエシューズを履いていた。
髪は護がやったのだろう、くるくると巻かれて可愛らしく編み込まれている。
滅多に見ない女の子らしい格好のアヤを、ムサシはしげしげと眺める。
「・・・あの、どこか、変ですか?」
心配そうに己を見るアヤに、ムサシは苦笑する。
「いや。あんまりかわいいもんだから、見惚れた」
「っ!!」
途端に、かーっと音がしそうに赤面するその様がまたかわいらしく、ムサシはその頭を撫でた。
「・・・こ、子供扱い、ですか?」
「まさか。子供とは付き合えんからな」
飄々と言うと、アヤは赤面したまま手にしていた鞄を持ち上げる。
「お弁当、作ってきました」
バレンタインデーの礼だとは事前に言っておいたのに、というのが顔に出たのだろう。
それを見たアヤがはんなりと笑う。
「厳さんが美味しそうに食べて下さるのを見るのが、大好きなんです」
頬に赤みを残したままそんなことを言うアヤに、ムサシは少々照れくさそうに笑い、その鞄を持つ。
「え、私が持ちます」
鞄を追いかけるアヤの手を、掴むのはムサシのもう片方の手。
「荷物持ちは男の仕事と相場が決まってる」
そしてそのまま手を繋いで、そそくさと歩き出す。
思いがけないその行動に、アヤはとても嬉しそうに笑み崩れた。
十分程歩いたところに、その川はある。
日頃から人々が集まり、魚を釣り、のどかな雰囲気のある場所。
そして、今は。
「こりゃ、見事だな」
「そうですね」
満開に咲いた桜が青空に白くその姿を誇っている。
時間帯にもよるのだろうが、花見客は大概夜に集う。
仕事があるのだろうし、その他の朝から酒を飲む悠々自適な面子は人混みが予想される休日になど集わないのだろう。
休日の朝ということもあって、人通りはまばらだった。
「ここは早咲きなんだな」
「種類が違うと聞きました」
ちらりと橋のたもとを見れば、確かに普段見る桜とは違う種類らしく、お役所が作ったらしい仰々しい説明看板があった。
「キレイです」
風に靡く白い霞のような花々を見つめるアヤの顔の方が、よほどキレイだと思われたが、さすがにそれは気恥ずかしくて口に出せない。
アヤが不意にムサシの手から離れ、橋の欄干に手を掛けて川面を眺めながら口を開いた。
「よく、桜って潔さの象徴で語られますよね」
「そうだな」
「私、あれが嫌いなんです」
アヤの口から『嫌い』という単語が出てきたのを聞くのに違和感があり、ムサシは視線を向ける。
まだ花を見つめたまま、アヤは独り言のように続ける。
「ぱっと咲いて、ぱっと散る。引き際が美しいとか、散り際が綺麗だとか、そんなのは一時のことです」
風に乗って、花びらがちらちらと舞った。
「桜は何年も何年もかかって花を咲かせるじゃないですか」
花びらは川面に、地面に、そしてアヤの髪へと絡んでいく。
「一瞬で終わるなんて表現、桜に失礼ですよ」
幽かに憤慨したようなその言葉に、察しのいいムサシはすぐ気づいた。
何かを口にする前に、アヤの髪に絡んだ花びらを摘み取る。
「そうだな」
その逞しい腕が、アヤを捕らえて引き寄せた。
「厳、さん」
「桜は毎年咲くな。変わりなく」
ちら、とさほど背丈の変わらない、けれど僅かに低い位置で瞬く青い瞳を見る。
「これからもずっと、だろう?」
アヤの迂遠に言わんとしたことを察して、同じように返すムサシに、アヤはじわりと赤くなる。
照れくさく火照った二人の身体には、川縁の冷えた風も心地いい。
二人は言葉少なに、けれど幸せそうに手を繋ぎ、桜の下をゆっくりと歩いたのだった。
***
しばいぬ様リクエスト『ムサシとアヤの恋人話』でした。なんかお手々繋いで散歩という図式が浮かんだらもう止まらなくなりました・・・。ホワイトデーということで微妙にタイミングが合ったようなそうでもないような。桜は河津桜のイメージです。場所はウチの近所の用水路です。桜綺麗なんですよ。今年も散歩したいなあ。
この二人はムサシの年甲斐もないあたりだとか、アヤの普段の無表情さとのギャップなどを思い浮かべるだけでニヤニヤしてしまいます。リクエストありがとうございましたー!!
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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