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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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収穫祭(下)



+ + + + + + + + + +
金曜日、早朝の部室に届いた大量のハチミツレモンに、部員達は歓声を上げて喜んだ。
「やったー! まも姐のハチミツレモン久しぶり!」
「うわ、こんなに! ありがとう、まもり姉ちゃん!」
「みんなで食べてね」
「こっちはドリンクだ」
「水分補給は忘れずにね」
「ありがとうございます!」
笑顔で受け取って貰えて、まもりを始めとした面々はほっと息をつく。
「仕上がりはどう?」
「バッチリです、まもりさん!」
「アハーハー! 僕のこの足上げ角度もサイコーですよ!」
「足上げ角度関係ねぇー!!」
ぎゃあぎゃあと相変わらずの部室で少々話をした後、みんなでその場を離れる。
「そういえば、ヒル魔なんだが」
「うん、どうしたの?」
「ヒル魔に今回のこと言ったら、お金だけ寄越したんだ」
「僕たちだけ行けばいい、自分は行かないなんて言っちゃって」
「え・・・」
派手好きで意外に面倒見の良い彼のこと、この場にいなくても後でまもりたちとは別に後輩に激励に行くのだと思っていたのに。
「何に意固地になってるのか、僕たちじゃ教えて貰えないんだ」
「出来ればでいいんだが、その理由を聞き出してくれないか」
それにまもりが困ったように眉を寄せる。
ヒル魔とはまもりとてしばらくしっかりと顔を合わせていない。
「なんだか心ここにあらず、みたいな感じなんですよね」
「そう・・・」
お願いします、と三人に頭を下げられては、まもりも断りにくい。
渋々、まもりは頷いた。

午後、まもりはヒル魔の教室を訪ねた。
けれどヒル魔はおらず、尋ねるとやはり屋上ではないか、という。
こうも頻繁にいないとなると、進学に障りがあるのでは、と訝ってしまう。
要領のいい彼のこと、そんな不格好な真似はしないだろうけれど。
まもりは屋上への階段を上り、扉を開く。
鍵が掛かっているかと思ったが、扉は意外とすんなり開いた。
「・・・ヒル魔くん?」
声を掛けて周囲を見回す。プールサイドに、鋭角な人影が横たわっている。
まもりはごくりと喉を鳴らし、けれど意を決して足を踏み出した。
本当は顔を見るのが怖い。何か言われるのも怖い。
でも、今日はアメフト部の後輩達への激励にすら顔を出さない理由を尋ねるという大義名分があるから。
個人的な気持ちについてはこの際蓋をして、ヒル魔の様子が気になるのも事実。
「ヒル魔くん」
「・・・あ?」
どこかぼんやりしたような声。
次いでヒル魔がぱちりと眸を開け、まもりをじっと見た。
久しぶりに顔を合わせて、心臓が跳ね上がる。
「何の用だ?」
「ヒル魔くん、なんでアメフト部に顔出さないの?」
「必要ねぇだろ」
それに金なら渡しただろう、何か文句でも? という一言にまもりは眉を寄せた。
「そういうことじゃなくて、一言ヒル魔くんが『頑張れ』って言ってくれるだけでも、後輩のみんなは嬉しいのよ」
「シラネ」
ヒル魔はうざったそうに頭を掻くと、むくりと起きあがって立ち上がった。
「どこ、行くの?」
「テメェには関係ねぇだろ」
素っ気ないその声に、まもりは俯いたが、去ろうとする彼のシャツの裾を掴む。
「なんだ」
「今日の放課後、アメフト部に行って」
「アァ!?」
テメェ今の俺の話は聞いていたのか、という苛烈な視線にもまもりは俯いたままだ。
「ヒル魔くんの様子、なんかおかしいよ?」
裾を掴んだまままもりが続ける。
「心ここにあらず、みたい」
ヒル魔はじっとまもりを見下ろしている。
その視線が居心地悪く、それでもまもりは続けた。
「ごめんね」
「・・・ア?」
「私が変なこと言ったから、部に近寄りづらいんじゃない?」
まもりが告白したのは部室の中だった。
誰もいない部室はどこか薄暗い印象がある。あれほどに派手派手しい看板とは裏腹だ。
「大丈夫よ、私はそこにいないから」
ぱ、とまもりはヒル魔のシャツの裾を放すと、俯いたまま扉へと歩いていく。
悄然と落ち込んだようなその雰囲気に飲まれていたようなヒル魔は、不審そうに声を上げる。
「変なこと?」
「・・・覚えてないなら―――関係ないならいいのよ」
ふ、と口元でだけ笑って、まもりはヒル魔に背を向ける。
持ってきていた小袋がかさりと音を立てる。
やはり無駄になってしまったな、と内心呟いていたら。
「あの告白はテメェの中で『変なこと』になるのか?」
「っ」
まもりは息を詰め、思わず足を止める。
「相変わらず随分と勝手デスネ」
「・・・そうよ。私は勝手なの」
振り返ればヒル魔はすぐ側まで迫ってきていた。相変わらず足音のしない男だ。
その顔を見上ると、向日葵の花をじっと見つめたときの感覚が蘇ってきた。
今度は更に螺旋階段に迷い込んだような錯覚さえ覚えた。
どこまで登っても終わりの見えない階段。さりとて、どこまで下っても終わりはない。
永遠と彷徨い続ける、そんな心地。
「勝手だから、一人じゃ飽き足らないのよ」
自嘲の笑みがまもりの顔を彩る。
それは、日向ばかりをずっと進んでいて、不意に日陰に滑り込んだかのような表情の変化。
ヒル魔は片眉をピンと上げた。
その時、予鈴が響いた。戻らねばならない。
「戻らないと」
「待て」
今度はまもりの腕をヒル魔が掴んだ。
それにまもりは息を呑んで振り返る。
ヒル魔が自分から触れてくるなんて想像もしていなかったから。
「その顔で戻るつもりか」
「え」
ヒル魔の指がまもりの頬に触れる。滴る雫がそこに掬われた。
「なんで、泣いて・・・」
「テメェが勝手に泣いてるんだろ」
まもりはハンカチを取り出すと、顔を拭う。
結局その間に本鈴も鳴ってしまって、まもりはため息をついた。
さぼりなんて初めてだ。教室では騒ぎになっていないだろうか。
「テメェ一人いなくったって授業は進む」
「そうよね」
もっともな言葉だ。変に泣き腫らした瞳で戻って噂の種をばらまくこともあるまい。
「テメェは・・・」
何かを言いかけて、ヒル魔は言葉を探すような素振りをした。
それがやはり物珍しくて、まもりはしげしげと彼を見つめる。
「話がある。テメェにとって重要な話だ」
唐突な話題変換にまもりは首を傾げる。
ヒル魔が話したいことがあるときにわざわざ前置きまでするなんて。
「ただし、今からの俺の話を、最後まで全部聞け」
下手に裏を読もうとしたり悪い方向へ妄想を膨らませたりはするんじゃねぇ、と言われ、まもりは瞬く。
「え?」
「出来るか?」
「・・・まあ、うん」
何が言いたいのか判らず、けれど彼がそんな風に言うのならば意味があるのだろう。
まもりはこっくりと頷く。
ヒル魔はそれを見て、まもりを連れてプールサイドへ腰を下ろした。
水面が煌めいて、けれど真夏程の誘惑は投げかけてこない。
風に混じる塩素の匂い、聞こえてくる虫の音はいつの間にか蝉ではなくなっている。
秋だから。
日差しに揺らめく金色に、あの向日葵を思い出す。
「テメェは去年の秋、俺のことが好きだと言ったな」
「うん」
「俺は状況的に、それがテメェの単なる心配やら憐憫やらで出て来た自己犠牲的な台詞だと判断した」
まもりはわき上がる悲しみに僅かに眉を寄せた。
あの時、やはり信じてもいなかったのか、と知って。
けれど彼が先に釘を刺していたから、黙って先を促す。
「糞チビから手が離れたから、今度は俺か、と」
「そんな!」
まもりは思わず立ち上がろうとしたが、ヒル魔に目で制される。
「実際クリスマスボウルが終わってからも、テメェは一切変化なかったからな」
ああこりゃ間違いねぇな、と思って全てをなかったことにして、時を過ごしていた。
「だが、三年になってから―――正確には部活を引退してから、テメェは変わった」
「え?」
「俺から必要以上に距離を置くようになったな」
それは、告白してうまくいかなかった相手に飄々と顔を合わせるだけの神経を持ち合わせていなかったから。
そう言いたかったが、彼の話を聞くことが優先だ。
まもりはじっと彼の姿を見つめる。
「部活は当然のことながら、風紀委員会も入ってねぇから授業さぼっても関係はねぇし」
ヒル魔もまもりを見つめ返した。
「だが」
二人の視線が絡まる。
「テメェが俺の前にいないのが、不思議でしょうがなかった」
まもりはぎゅ、とスカートを握りしめる。皺が寄り、汗が滲んでもそれを解けない。
「廊下ですれ違っても、言葉一つ、視線一つないことの理由がわからなかった」
そこに今日の発言だ、と彼は独り言のように呟く。
「俺の一言でそうなったんだな」
どこかに力を込めないと、涙がこぼれそうだった。
「姉崎」
「はい」
「あの告白はテメェの中で『変なこと』になるのか?」
今日、ヒル魔に投げかけられたその言葉が、ようやく繋がった。
「もうあれは『変なこと』で終わったのか?」
まもりは堪えきれず、俯いた。
溢れた涙がぼろぼろと滴り、乾いたコンクリートに染み込む。
まもりが涙に引きつれる喉を叱咤し、どうにか言葉を紡ごうとした、その時。
とん、とまもりの肩が叩かれた。
顔を上げると、ヒル魔が視線を扉に向けて、手でサインを送ってきた。
まもりは瞳を瞬かせて涙を振り落とし、サインを解読。
そして勢いよく扉を見る。
「糞!!」
ヒル魔は傍らの銃を手に取ると、扉に向かって連射した。
「「うわぁあああ!!」」
扉の蝶番が弾け飛び、その扉が倒れて転がり出てきた人影。
雪光と栗田。そしてその後ろに苦笑するムサシの姿があった。
『覗いてる奴らがいる。少し黙ってろ』
ヒル魔の指示通りの有様、しかも相手が三年生組と来てはなおいたたまれない。
まもりは慌てて顔を拭う。驚きに涙も止まってしまっていた。
「な・・・」
「ご、ごめんね! 覗いてた訳じゃないんだ!」
「二人がどうなるのか心配で・・・」
「聞き耳立ててたんなら同じ意味だ、糞・デ・ブ!! 糞・ハ・ゲ!!」
「照れるなよ、ヒル魔」
「テメェも同じだ! 糞傍観者のフリすんじゃねぇ!!」
ヒル魔の銃が唸りを上げる。
ダパラララララ、という聞き慣れた音に、まもりは咄嗟にその場にあったモップを掴み、ヒル魔の前に立ちはだかる。
「銃乱射しちゃダメよ!」
「アァ!? テメェのプライバシー筒抜け状態でよくそんな悠長な台詞言ってられるナァ!」
「そっ、それとこれとは別!」
「別じゃねぇ!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人の様子がかつての姿を取り戻している。
それにすっかり蚊帳の外になってしまった三人は、それでも顔を合わせて微笑む。
「二人とも元気になったならよかったよ」
「退散するか」
ムサシの一言に頷きあい、三人は足音を忍ばせてこっそりと屋上から退出する。
それを目の端に入れて打ち出されたヒル魔の銃弾は、壁に穴を開けただけ。
ヒル魔は舌打ちし、まもりは嘆息してモップを下ろした。
沈黙が二人の間に流れる。
おもむろにまもりが口を開いた。
「・・・ヒル魔くん。私ね、あの言葉を言われた後、夢を見たの」
「夢?」
「そう。・・・ヒル魔くんを、殺しちゃう、夢」
あの時の生暖かい血の感触がいやにリアルだったのを思い出して、まもりは遠い目をする。
「私、大きな鎌を持ってヒル魔くんの首を落とすの」
「『サロメ』か」
サロメという女は好いた男を手に入れられず、その恋情はねじ曲がり男を死に至らしめたという、戯曲。
ヒル魔は沈黙するまもりににやりと笑う。
「テメェはンな柄じゃねぇな」
「そう?」
「死神の鎌のモチーフはなんだか知ってるか?」
「え・・・」
死神といえば鎌、ということしかまもりの知識にはない。
ざくりと首を切り落とす、鋭利な刃であることしか。
「あれは武器じゃねぇ。収穫の鎌だ」
「収穫の?」
「おー。農具としての鎌だ。日本にはああいうのはねぇけどな」
西洋の穀物を収穫するときの鎌。
折しも、季節も丁度、秋。
まもりは先日、向日葵の首を落としたときのことを思い出す。
そうだ。あれも、収穫だった。
まもりの瞳が真っ直ぐに焦点を結ぶ。
その先にはいつも通りの笑みを浮かべたヒル魔の姿。
「テメェにはそれが似合いだ」
まもりが振りかざした刃が切り落とすのは首ではなく、大地の恵み。
両手一杯に収穫された作物を抱き、微笑む姿は大地の女神そのものだろう。
不意にヒル魔がまもりを抱き寄せる。
まもりは抵抗もなく、彼の腕に収まった。
「第一、死神の鎌じゃ俺は殺せねぇよ」
何しろ悪魔だからな―――その囁きが妙に甘くて、まもりは微笑みを浮かべ、ことんとその胸に頭を預けた。

***
まあと様リクエスト『デスサイズドリームの続き』+葱様リクエスト『ヒル←まもで二人を応援するデビルバッツ2年生組』でした。死神の鎌が農具の鎌だと調べたら載っていたので、それからヒントを得て今回の話まで持っていきました。が、あの続きは全然考えてなかったので、なんだか微妙なような…w覗き見する二年生(話の都合上三年生になってもらいましたが)が書いていて楽しかったですwリクエストありがとうございましたーw

まあと様・葱様のみお持ち帰り可。
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何かちょっとうるっときました。もとより私涙腺が弱いせい?
今回もとっても楽しませて貰いました。
引き続き頑張って下さい!!
‥‥そして未だ裏が見つけれない私。笑
果てしなく限りなくパソコンに弱いので。
はる 2009/02/15(Sun)11:46 編集
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

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