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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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収穫祭(上)

(ヒルまも)
※『デスサイズ・ドリーム』の続きです
※リクエスト作品


+ + + + + + + + + +
まもりは庭先で、自らの背丈を軽く超えて伸びた向日葵を見上げた。
既に花は盛りを終えて首をうなだれていた。
じっと花を正面から見つめていると、螺旋に吸い込まれるような心地になる。
まもりは草刈り用の鎌を持ってくると、それを振りかざし、ざくりと切り落とす。
ごろんと転がった花の姿に、かつての夢が蘇る。

あの時転がったのは彼の首で。
そしてその時その首は歌うように囁いて。

―――そうして、その言葉は未だにまもりを縛り続けている。



まもりが勢いのままにヒル魔に想いを告げたのは、去年の冬の事だった。
皆がクリスマスボウルに向かって全力を尽くして練習していたときのこと。
あれは白秋戦の前。
ヒル魔から渡された手紙を引きちぎった日の、夕刻。
皆が決意に満ちた顔で戦いに挑む最中、まもりだけが不安に揺れていた。
大けがなんてさせたくない。怪我に倒れる彼を見たくない。
けれど、彼が棄権するなんて考えられない。
色々と思い悩んでいたまもりが全ての片づけを終え、帰る準備を始めたとき。
ふらりとヒル魔が現れたのだ。
彼は既に着替えていたが、制服ではなかった。
どこかに出掛けていたのだろうか。あれだけのハードな練習の後も疲れ一つ見せず、彼は平然と椅子に座った。
「コーヒー、飲む?」
「イラネ」
あっさりと返され、そこで会話終了。
まもりはただ立ち去るのも憚られ、会話をしようと試みる。
けれどヒル魔の厳しい顔つきに声も掛けられなかった。
仕方なく帰り支度をする。
その時にはヒル魔も帰るつもりなのか上着を手に立っていた。
「ヒル魔くん、帰る?」
「おー」
不意に。
振り返った先に見えた、ヒル魔の背中。
彼の背中は大きいと、求心力があるのだと思っていたけれど。
こんなにも細かっただろうか。防具を外しているからだろうか。
直線で描ける肢体は引き締まっているが、あの峨王の力を見てしまった後ではか細く頼りなくさえ見えた。
守らなきゃ。
咄嗟にそう思った。
「ヒル魔くんは・・・怖く、ないの?」
「ねぇな」
打てば響くように返事が来る。
「本当に? 怪我、しちゃうかもしれないのに? 最悪、頭なんて打ったりしたら―――・・・」
地面に倒れたキッドの虚ろな眸を思い出し、まもりは身震いする。
「まるで俺に怯えて欲しいと言わんばかりの口調だな、糞マネ」
「っそ、んなこと!」
「残念ながらンなリスクごときで怯える心臓は持ち合わせてネェ。帰るならさっさとしろ」
ケケケ、と笑ってさえ見せる彼を、まもりはキッと睨みつける。
「怪我が怖くない人がいるわけないでしょ!」
「・・・なんでいきなりキレてんだ、糞マネ」
唐突なまもりの変化に、ヒル魔は訝しげに眉を寄せる。
「そんなに私、頼りない?」
「ア?」
「そりゃ、指示書破っちゃったり・・・涙目になっちゃったりしたけど、でも、心配なの! 私、話聞くくらいしか出来ないけど・・・」
「訳判らねぇことほざいてんじゃねぇ」
鋭利な刃物のようにヒル魔はまもりの言葉を切り落とす。
その眸は剣呑な光を帯びていた。
「テメェは俺をどうしたいんだ? 俺がテメェと顔突き合わせて益体もない愚痴話でもすりゃいいのか?」
まもりは目を見開き、ぎゅっと拳を胸元で握る。
ふざけんな、とヒル魔は吐き捨てる。そんなくだらないことに時間が割けるか、と。
「そんな・・・! 私はただ、ヒル魔くんが、・・・好きなの!」
その言葉は、あっさりとまもりの口からこぼれ落ちる。
そうしてまもりはその段階になってやっと、この思いが恋心だと自覚した。
けれど。
「テメェは一人だけじゃ飽き足らねぇのか」
その声は冴え冴えと冷たく、まもりの動きを凍てつかせるには充分だった。
ヒル魔は荷物を手に、来たときと同じようにするりと姿を消した。
呆然としたまもりを置いたまま。
季節が巡っても、まもりの気持ちは置いて行かれた時のままなのだ。

まもりは切り落とした向日葵の花を持ち上げると、日当たりのいい場所にその花を置いた。
このまま日にさらして乾かし、種を取るのだ。
鳥に食われても構わない。元より種が目的じゃない。
まもりがこの花を庭先に植えたのはただ一つ。
ヒル魔に似ているからだ。
金色の髪、すらりとした肢体、細いシルエットなどは茎そのものだ。
花を見上げると、ヒル魔を否応なく思い出す。
彼の隣に何の憂いもなく立てていた頃は、こんな風に思いもしなかったけれど。
近くにいられなくなって、向日葵の高さが彼の身長に近いと気が付いてからは、時折下に立ってその頃を思い出した。
想いを告げてまだ一年も経っていないのに、アメフトという柵が消えてしまうと、二人の間には全く何も残らなくて。
廊下ですれ違うことさえ稀で、顔を合わせてもかつてのように気軽に挨拶も出来ないで、俯きそそくさと通り過ぎるだけ。
これが元からの二人の距離だ。
関わろうとしなければ関わらないで過ごせるだけの他人同士。
それがたまらなく寂しいなんて、言えるはずもない。
まもりは嘆息し、首を落とされた向日葵の茎を引き抜くと、鎌をふるってゴミに出しやすいように短く切っていく。
この胸に育ってしまった恋心も同じようにすっぱりと切り刻んで捨ててしまえればどれだけいいか、とまもりは自嘲した。


まもりが授業を終え、席を立とうとしたとき。
目の前に巨大な壁が現れた。
「姉崎さん、今日時間ある?」
栗田だ。にこにこと笑う彼の隣にはムサシもいる。思わずその隣を探してしまうが、件の人は存在しない。
代わりにいたのは雪光だった。
「ええ、何かしら?」
小首を傾げるまもりに、ムサシが口を開く。
「二年の連中、今週末から大会だろう。景気づけに何か差し入れるか、っていう話になってな」
「姉崎さんも一緒にどうかな、と思って」
含みにっこりと雪光に笑いかけられ、まもりは一も二もなく頷く。
「いい考えね! 何がいいかしら?」
「消耗品や備品は実用的だが、景気づけにはちょっと弱いな」
「だったら何か食べ物がいいんじゃない? ケーキとか・・・」
「それはお前が喰いたいんだろう」
「食べ物だったら何がいいかな。姉崎さんは?」
「私だったら・・・」
甘い物が嫌いだと豪語していたヒル魔が、たった一つだけ口にしていた、甘い物。
「ハチミツレモン、とか」
口をついて出た単語に、栗田が瞳を輝かせた。
「姉崎さんお手製の! 美味しかったなあ、あれ」
「それじゃ姉崎だけが作ることになるだろうが」
「私が作るのでいいなら、作ってくるわよ?」
「ホント!?」
「でも、大変でしょ?」
「作るのは大して手間じゃないのよ。嵩張りもしないし・・・」
「そしたら僕たちはどうしようか?」
「材料費の部分くらいしか手伝えないな」
頭を突き合わせていたまもりは、くすりと笑う。
それをめざとく見つけた雪光が視線で問う。
「あ、ごめんね。もしここにヒル魔くんがいたら、絶対『そんなの却下だ!』とか言うなあ、って思って」
「ああ、ヤツなら言うな」
「言うだろうね。ん? ヒル魔は?」
「さあ。屋上でさぼってるんじゃないか」
「さぼる?」
思わぬ単語に、まもりはぴくりと反応した。
彼は部活に影響が出ては困るから、と割合真面目に授業には出ていたはずなのに。
「引退して気が抜けたんだろ」
「授業は相変わらず出てるけど、時々ふらっといなくなるんだ」
「猫みたいな表現ですね、それ」
口々に言うそれに、まもりはそうなのか、と僅かに俯く。
アメフト部に在籍していた頃は、彼の迷惑行動が目に付いたらまもりに報告に行く、というのが暗黙の了解だった。
彼に抗議を出来る唯一の存在として認められていたから。
けれど、今は部活も違う。
そして風紀委員会ももう所属していないから、彼のことで尋ねられたり報告が来たりということはなくなった。
だから彼がさぼるなんて初耳だったのだ。
「・・・じゃあ、それでいいかな?」
「え?! うん、え、何?」
一瞬ぼうっとしていて聞いていなかったまもりは、栗田の問いかけに慌てて顔を上げる。
「差し入れはハチミツレモンと、ドリンクの粉末にしようかって」
「結局消耗品だけど、ドリンクの粉末なら腐らないしいいでしょう」
「作ったら、材料費いくら掛かったか教えてくれ。金は出す」
「大したことないのに・・・でも判ったわ、作ったらみんなに金額徴収に行くわ」
「作って持っていくのは、金曜日でいいのかしら?」
「そうだね、土曜日が試合だから」
「じゃあ気合いれて沢山作るわね!」
頼もしい、よろしくと口々に言われてまもりは笑みを浮かべて頷く。
この雰囲気は久しぶりだった。―――ヒル魔の声がないのを除けば。
そこに予鈴が鳴った。
彼女の傍らから離れた三人は、それぞれに視線を交わすと、今度はまもり抜きで顔を突き合わせ、なにやら相談を始めた。


まもりは大量に作ったハチミツレモンを、小さな器にいくつか取り分けて入れ、それを小さな手提げ袋に入れてみた。
大量のハチミツレモンは重量も結構ある。大量に作ってしまったから、と言えばきっと栗田たちが手伝ってくれることだろう。
それらも丁寧に包んで、そして。
祈るような、縋るような気持ちでまもりは小袋を額に当てた。


<続>
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