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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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出産狂想曲(上)

(ヒルまも一家)
※護の出産時のドタバタです
※リクエスト作品


+ + + + + + + + + +
まもりは腹部の違和感に眉を寄せた。
カレンダーを見るが、予定日より一週間以上早い。
けれど早すぎるというほどでもない。
これは、もしかすると。
かねてより用意してある入院用鞄を再点検し、万全を期す。
「こういう日に限って一人だったりするのよねー・・・」
ぼやくように呟いても、誰も聞く者はいない。
今日、ヒル魔はどこかで仕事らしく不在。
アヤと妖介はまもりの祖父母に連れられて、今日は朝から遊園地へと遊びに行っていた。
まもりの実家には現在アメリカから里帰りしたヒル魔一家が寝泊まりしている状態だが、日本に友人もいない彼らが退屈だろうと祖父母が申し出てくれたのでありがたくお願いしたのだ。
予定日までは間があるし、まだ大丈夫だと思っていたけれど。
念のために携帯を握りしめてまもりは室内を動き回る。
ヒル魔に連絡しておこうかと思ったが、思い過ごしで無理に仕事先から呼び戻すのは悪いし。
それに今回は三人目、事前の検査でも子供に異常箇所はないと聞いているし。
「ま、なんとかなるでしょ。たぶんね」
気楽な気持ちのままソファでうたた寝していたまもりは。
唐突に響いた破裂音に、ばちんと瞳を開いて覚醒した。


ヒル魔は届いたメールに眉を寄せた。
まもりからのメールには題名はおろか、本文もなにもない完全な空メール。
機械音痴の彼女のこと、過去に何度もこんなメールを寄越された。
大概は少し待てば本文がちゃんと入ったメールが届くのだけれど。
今回は少し待ってみても、新しいメールが来る様子がない。
まもりの現在の様子を思い返し、ヒル魔は胸騒ぎを覚える。
予定日が一週間先でも、三人目ともなれば早く産まれてくるかもしれないとは聞いていた。
いつ産気づいてもおかしくない
嫌な予感がするのを押し殺しつつ、ヒル魔は車に飛び乗り、エンジンを掛けた。


まもりは一人トイレで唸っていた。
「うー・・・」
先ほどの破裂音は破水の音だった。陣痛前に破水してしまったのだ。
そして慌ててヒル魔にメールを送ろうとしたが、誤って空メールを送ったところで襲ってきた陣痛に尿意を押さえられず、携帯をその場に置き去ったままトイレに駆け込んで早三十分。
便座から立ち上がろうにも力が入らず、痛みに呻くばかり。
出産の時はいつもこうだったっけ、と考えようとするのだが、響く痛みに意識は散漫としてまとまらない。
携帯が手元にあれば救急車を呼ぶのだけれど、動けないのではそれも難しい。
このままここで出産かしら、と考えてさすがにトイレは嫌だなあ、とも思う。
必死になって立ち上がり、どうにかトイレから出たところで。
「・・・!」
一際強い陣痛の波に襲われ、まもりは廊下に突っ伏してしまう。
「い、痛・・・!」
呼吸すらままならない痛みにどうにかしなければ、という言葉ばかりがぐるぐると頭を回る。
電話のところまでなら這って行けば、と思うけれど・・・気が付いた。
「あ・・・」
もう、赤ちゃんが下がってきている。下手に動くと出てしまう、という危惧がまもりをその場に縛り付ける。
「うー・・・ヒル魔、くん・・・」
どうしよう、どうしよう。
焦りヒル魔を呼ぶまもりの耳に、扉を開く音。
「姉崎、いるか!?」
「・・・ヒル魔くん・・・!」
まるで救世主の声のようなそれに、まもりは涙を浮かべて浅い息の下、呼ぶ。
細い声を彼は過たず聞き取り、トイレの方へ向かって。
そしてヒル魔はまもりの姿を見つけ、声を上げる。
「おい、どうした?!」
「・・・破水、しちゃって」
「アア?! 救急車は?!」
「う、動けないの・・・もう、赤ちゃんが出そう・・・」
舌打ちしてヒル魔が救急車を呼ぼうとしたその時、まもりが大きく呻いた。
「やだ・・・う、生まれちゃう・・・!」
「な・・・」
「ダメ・・・まだ・・・!」
苦しみ悶えるまもりの下肢は既に血まみれだ。スプラッタ状態の廊下にさすがのヒル魔の思考も滞る。
「立てるか?」
「無理!」
即答され、ヒル魔はまもりを横抱きに抱え上げた。
「ヒ・・・!」
「少し堪えろ。とりあえず・・・」
先ほどまもりがうたた寝していたソファへと移動させ、そこに横たえようとするが。
「ソファ・・・汚れちゃう・・・」
「この糞アホ女! ンなトコに拘ってられるか!!」
「だって! お願い、タオルとか敷いて・・・!」
ヒル魔はまもりを抱えたまま洗面所からタオルを乱暴に掴み出し、ソファに重ねて敷いてまもりを今度こそ横たえた。
「床、汚れ・・・」
「そりゃ後でいいだろ!!」
「血は染みになると、取れない、から・・・」
「・・・っ」
ビキビキと青筋を浮かべたヒル魔はかかりつけの医者へと電話をしながらその場を離れる。
「うー・・・痛い、痛いよう・・・!」
泣き喚くまもりは、不意に額に触れた冷たい感触に視線を向ける。
濡れタオルで額を拭いてくれているヒル魔の姿。
「床・・・」
「拭いた!」
あまりにまもりがしつこいので電話がてら床を清めてきたのだ。
「・・・もう、ホントに生まれ・・・イタタ」
下手に車で移動したら車内で出産しそうで躊躇われたので、ヒル魔は医者をこちらに呼んだのだ。
「もうしばらく待てば医者が来る」
まもりのかかりつけの医者はここから車で30分は掛かる。
それまでもう持ちそうにない。
「それまで我慢しろ」
「出来ない!!」
無茶を言うな、と涙を零すまもりにヒル魔は再び電話を掛ける。
医者に様子を伝えると、今どうなっているか見ろと言われてヒル魔は困惑をそのままにまもりに問う。
「・・・どんなだ」
「判らない、けど、頭がもう出そう・・・」
「・・・頭が出そうだと」
そこからの医者の指示に、ヒル魔の眉が寄る。
「アア?! んな、ちょ・・・」
けれど通話が途切れ、ヒル魔は忌々しそうに携帯を放り投げる。
「医者はとりあえずこっちに向かってる。だが、道が混んでいて思ったよりも時間が掛かるっつー話だ」
「ええ・・・!?」
声を上げた瞬間、まもりの顔が引きつった。
「・・・おい?」
「頭が、出てる・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヒル魔はぴしりと音を立てて硬直した。

<続>
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