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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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筐体電影(下)



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ヒル魔は異様な程満面の笑みを浮かべるまもりに、眉を寄せた。
休憩時間、ドリンクを配る彼女に思ったままを告げる。
「テメェ、気味悪いツラしてんぞ」
「いつもこの顔よ?」
「どの口が抜かすか」
「この口よ、悪魔さん。何か文句があって?」
笑顔なのに、なんだか異様な威圧感さえある。
モン太などは今日も美しい、なんてほざいているが、セナはその後ろで一人青ざめ今にも逃げ出しそうだ。
それを視界の端に捕らえ、ヒル魔は何気なく歩いて近寄り、セナに声を掛ける。
「オイ、糞チビ」
「ひぃっ?!」
びくーっ、と飛び上がるセナをヒル魔は片眉上げて見下ろす。
「糞マネの顔、ありゃなんだ?」
「え、ええと、・・・なんだか判りませんが、相ッッッッッ当怒ってるみたいです・・・」
ちらりと視線を向ければ、まもりは笑顔で皆にタオルを配っている。その手つきが微妙に荒れているようだが、他の面々は気づかない。
一部勘のいいムサシや雪光くらいは気づいているかもしれないが。
「昔から機嫌の悪いときほど笑顔が輝くんですよ、姉ちゃんは」
「そーか」
それにしても、とセナは小首を傾げる。
「一体何にあんなに怒ってるんでしょう?」
「俺が知るか」
「ヒル魔さんが知らないなら僕だって判りませんよ」
「アァ?」
「だ、だって! 今日は本当に、ついさっきまで普通だったんですから! 休憩前に最後に話したの、ヒル魔さんじゃないんですか?」
部活に来てもいつも通りだったし、今の休憩に入る直前までは普通だったのだ。
ヒル魔もそれは知っている。彼女から目を離したのはほんの三十分程だ。
その間、彼女の姿が見えなかったから。
ヒル魔はまもりとの会話を順々に思い出していく。
今日は朝練の時に会話し、放課後練習のメニューについて昼休みに顔を合わせたときも普通通り。
セナの言う最後の会話は、会話というより質問だった。
それもさぼるセナとモン太に気を取られてろくに聞かなかった。
けれどその後は同じ事を問われなかったから、解決したのだと思っていた。
空白の三十分。
その質問は、データの有無についてだったか。
『やっぱり貰ってな・・・』
ヒル魔の耳に聞こえたまもりの声。
データがないのなら打ち出せばいい。
だが、アナログなまもりが、ただでさえ他人にとっては整理整頓がされていないヒル魔のパソコンから目的のデータを一発で探し出せるだろうか?
色々と検索をしていて三十分掛かったとしたら。
ヒル魔はそこでようやく、一つまもりが怒りそうなデータがフォルダに入っていたことを思い出した。
「・・・ア」
「何かありました?」
「何でもネェ。おらテメェも汗拭いてこい」
ぐい、とセナをまもりに向かって押すと、気遣わしげな彼を余所に、ヒル魔はガムを取り出し口に放り込んでいた。



部活が終わり、皆がそれぞれ引き上げていく中、ヒル魔はパソコンをいじっていた。
熱心なその様子が、普段の彼とは少し違って見えて、まもりは何度か声を掛けようとし、その度に口をつぐむ。
そんなに熱心なのは、あの子にメールを打ってるから?
それともあの子からのメールを読んでいるの?
何を口にしても詰問するような言葉しか出ない気がして、まもりは眉を寄せて皆の洗濯物を畳んでいく。
いつものように、部室には二人だけが残っている。
沈黙が重たい気がして、まもりはますます俯いた。
が。
「きゃっ?!」
不意に眉間に触れた指先に、まもりは驚き仰け反る。
「ヒデェツラ」
「な、誰の・・・」
そこまで言って、まもりはぱくん、と口を閉じた。
誰のせいでもないなんて、自分が一番よく知っている。
だが、ヒル魔はにやあと笑ってまもりににじり寄った。
「誰のせいかって?」
「・・・誰のせいでもないでしょ。私が勝手に機嫌悪くしてるだけよ」
放っておいて、と顔を逸らせば、喉の奥で低く笑う声。
「素直に言った方がいいぞ?」
「何も言うことなんて、ないわ」
「そうか?」
ヒル魔はまもりの顎を掴むと、強引に上に向かせる。
「ちょっと!」
「人のパソコン勝手にいじっておいて、勝手に機嫌悪くなるたぁ糞自分勝手な女だな、テメェ」
「!」
まもりは目を見開く。
「あの女の写真を見たんだろ。長い金髪を三つ編みにした、線の細い女の写真を」
「・・・そうよ」
「どう思った? 『ヒル魔くんってこんな守ってあげたくなるような子が好みなのかしら?』か?」
「な、なんで・・・」
かああ、と音を立ててまもりの頬が赤くなる。それを実に楽しげに見下ろし、ヒル魔は笑う。
「テメェほど判りやすい女もいねぇな」
「悪かったわね!」
「褒めてんだよ」
「どこがよ!!」
ほとんどが羞恥で占める怒りでもって、まもりは精一杯ヒル魔を睨むが、ヒル魔はびくともしない。
「生憎と俺はアメフトの事だけで手一杯なんでな」
そう言いながら、ぴら、ともう片方の手から出てくるのは、まもりが目にした子の写真。
困ったように笑う彼女の顔がそこにある。
そうして。
ヒル魔の指が、器用に次の写真をまもりに見せた。
そこには、アメフトのユニフォームに身を包み、ボールを投げる彼女の姿がある。
「・・・え!?」
「アメフトが絡まねぇ女の情報なんざ、わざわざパソコンに残さねぇよ」
ぱ、とヒル魔の手がまもりの顎を離れる。そうして彼女の手に乗せられたのは、制服姿の女の子と、ユニフォーム姿の女の子の数々の写真。
「え、え?! まさか、この子・・・アメフトやってるの!? なんで?!」
「女でも出来んだよ。ルールに規定はねぇからな」
「でも、だって・・・あの状況・・・」
数々の死闘を目の前で見ているまもりとしては、そんな野獣犇めくフィールドに足なんて踏み込めない。
それなのに、彼女はそこで戦っているのだと?
「こんなに細くて、弱そうなのに?!」
「糞チビみてぇなモンだ。見た目に騙されるとヒデェ目に遭うんだよ」
「え」
「そいつは関西の帝黒学園正QB、小泉花梨だ」
「QB?! しかも帝黒の!?」
まもりは主務として月刊アメフトの切り抜き等もしているため、帝黒がどれだけ強いかはデータ上よく知っている。
QBについてはまだあまり情報がなくて知らなかった。
しげしげと手元の写真を見るまもりの耳に、ヒル魔の声が届く。
「―――まだ、俺たちは帝黒と戦える舞台に立った訳じゃねぇ」
顔を上げれば、パソコンの前に戻ったヒル魔の姿。
「その前に倒さなきゃなんねぇ相手はまだまだいやがる。そいつら倒してからでも帝黒の情報は遅くはねぇが、早くもねぇ」
その言葉にまもりは頷いた。そして一つ、尋ねる。
「なんでその子の私生活の写真なんてあるの?」
「情報元が纏めて送ってきやがったんだよ。分けるのも面倒だから一カ所に突っ込んだだけだ」
ヒル魔がまもりを手招きする。まもりは彼の隣に立った。
デスクトップでは、判りやすく名称変更されたフォルダが並んでいる。
その中の一つ、『帝黒』とあるフォルダを開き、そこにあった花梨の日常写真類は、まもりの目の前で一括してヒル魔がゴミ箱へと放り込んだ。
「これ、全部分けたの?」
「そうしないと勘違いした糞マネ様が自分もユニフォーム姿で参戦しそうデスカラネ」
「な、そんなこと!」
「ねぇって言えるか?」
からかうような口調のヒル魔の眸を、まもりは至近距離で見つめる。
「そんなの、ないわ」
「ホー?」
まもりは笑みを浮かべる。先ほどとは違う、自然な笑みを。
「だって、私の戦う場所はフィールドの外だもの。そして、みんなを迎えるのも仕事なのよ」
「―――上出来だ」
晴れやかに笑ったまもりを引き寄せ、ヒル魔はその唇を柔らかく塞いだのだった。

***
海鳥様リクエスト『帝黒QBとしての花梨ちゃんを調べてるヒル魔を誤解・嫉妬するまもり。その後誤解も晴れてラブラブに』でした。花梨ちゃんそういえばウチではヒドイ扱いしかされてないなあ、と思って一生懸命褒めてみました(笑)カワイイですよね花梨ちゃん。あの子の登場があってヒルまも一家のアヤを出す踏ん切りがついたのだとしみじみ思い出します。是非ともちゃんと話を聞いてくれる異性とくっついて欲しいもんだと思いますね~。リクエストありがとうございましたーw

海鳥様のみお持ち帰り可。
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