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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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静寂の棺(上)

(ヒルまも高校卒業後)
※『イヤーロブ』前後に位置します
※リクエスト作品

+ + + + + + + + + +
二人暮らしを初めて、ほどなく。
まもりは一つの段ボールをリビングで開いていた。
「あ」
声を上げた彼女の元に、ヒル魔が興味を惹かれ、近づく。
「ア?」
もうすっかり片づいたと思っていた引越荷物。
けれど、母親から送られていた箱が一つ手つかずだったのを思い出したまもりは、その箱を開けてみた。
そこに入っていたのは、まもりのアルバムや母子手帳などの、思い出の記録一式だった。
おそらく引越の際に混じってしまったのだろう。
ヒル魔が物珍しげにアルバムを捲る傍らで、まもりは携帯を取り出した。
「もしもし? お母さん、まもりだけど。今いい?」
『あら。どうしたの? 何か足りないものでもあるの?』
「ううん、そうじゃなくてね―――・・・」
几帳面なまもりの親はやはり几帳面。きちんと整頓された写真は見やすく並んでいる。
生後間もなくの頃から節目節目にはちゃんと記録を、という意図だろう。
写真館で撮った写真も混じっている。
基本的に写真には意図して写らない方のヒル魔には、それらが随分と物珍しく見える。
昔から食い意地は変わっていないらしく、菓子類の側で映っている写真が多いのがらしいというか。
自然と笑みを浮かべながら、ヒル魔はごそごそとアルバムを漁った。
「うん、そう。じゃあよろしく。また電話するね」
通話を切り、振り返ったまもりが見ると、ヒル魔は大分アルバムをひっくり返していた。
「ちょっと! ヒル魔くん、なにしてるの!」
「ア?」
にたあ、とヒル魔が悪魔の笑みを浮かべる。
「こーんなネタの宝庫を目の前に、黙ってろと?」
「宝庫じゃない! ネタなんかないから!」
「これでも?」
ぴら、と出てきたのはまもりが庭で水遊びしているときの写真。
おそらく5才くらいの時のものだが、パンツ一枚で半べそをかいている。
「っきゃー!!」
「他に何がアリマスカネ~」
恥ずかしさに奇声を上げ、奪い取ろうとするのを難なく避けてヒル魔は更にネタを探そうと箱を漁る。
「やめてよ、もう!」
「ケケケ、やなこった!」
猫の子をあしらうようにまもりをからかいながらアルバムを見ていたヒル魔の手が、止まった。
「・・・どうしたの?」
まもりがひょい、とヒル魔の手元を覗き込む。
そこには、ベッドの上でやや痩せた面持ちのまもりの姿。
見舞いに来たアメフト部の面々に囲まれ、笑ってはいるが随分とやつれているのが一目瞭然だ。
それは、まもりが去年の夏に倒れて入院したときの、見舞いの時のもの。
「わ、懐かしー・・・って言っても、まだ一年前の話か」
あはは、と笑うまもりに対し、ヒル魔は無言でその写真を見ている。
「一年か」
「高校三年の夏だから、正確にはまだ一年経ってないわね」
まもりは懐かしむようにその写真を見た。
「あの時、目が覚めてから一体何事か、なんて思ったのよね」
気が付けばベッドの上、見慣れない天井。
横を見れば泣き顔の母。仕事先に連絡を入れたら、父は涙声で応じていた。
「そーか」
「風邪引いちゃって、寝てたのは覚えてたけど・・・目が覚めたらカレンダーが一週間進んでるんだもの。一体何事かと思ったわ」
「そーか」
「それこそヒル魔くんの大がかりなイタズラじゃないの、なんて思ってたんだけど・・・」
そこでまもりはようやく、ヒル魔の顔色が悪いのに気が付いた。
生返事をしながらどこか遠くを見るかのような目つき。
薄く、汗までかいているような。
普段から表情を押し隠す彼にしては珍しい程の、あからさまな変貌ぶり。
「・・・ヒル魔くん?」
不意にヒル魔が立ち上がる。
「どうしたの?」
「何でもねぇ」
いかにも何かありました、という風情で立ち上がり、彼はすたすたと自室へと戻ろうとする。
まもりは慌ててその後を追い、その腕を引く。
「ねえ、調子悪いの?」
「ベツニ」
けんもほろろに取り合わず、ヒル魔は腕を振り払う。
その後はまもりと視線も合わせず自室へと閉じこもってしまった。
「・・・なんなの?」
まもりは首を傾げるが、答えはない。
再びアルバムの元に戻ってヒル魔が目を留めた写真を見たが、なんてことのない写真だ。
そういえば、彼はあの時退院するまで一度も見舞いにすら来なかったのを思い出す。
他の人はわざわざ病室まで来てくれたり手紙をくれたりしたのに、ヒル魔は学校で再び顔を合わせるまでまもりに対して何のアクションもしなかった。
あの時は部活も引退していたし、クラスも違ったし、何より―――恋人同士という間柄でもなかったから、彼が来ないことも少し寂しいと思う程度だった。
復調してから顔を合わせても病気のことについてはさほど聞かれず、いつも通り過ごしていたから、そんなこともいつしか忘れていたけれど。
まもりはヒル魔の部屋の扉を見る。
そこは部屋の主のように沈黙し、動く気配を見せなかった。


ヒル魔はベッドに仰向けに身体を投げ出し、顔を腕で覆っていた。
自分でもおかしいと思うくらい、一気に調子が悪くなった。
理由はわかっている。
あの時の、ベッドに言葉もなく横たわるまもりの姿を思い出したからだ。
「・・・ッチ」
舌打ちしてヒル魔はきつく眉を寄せる。
自然と思い出される薄暗い病室の記憶を振り払いたくて、瞳を閉じた。


<続>
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