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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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静寂の棺(下)

※18禁部分は裏に掲載しました。

 


+ + + + + + + + + +
岡婦長の手引きで時間外に入り込んだ病室。
病気自体はともかく、倒れたときに頭を打ったこともそこで知った。
下手をすれば目が覚めない可能性もあると。
「・・・たかが転んだだけで?」
「打ち所が悪い、っていう言葉があるでしょう。検査結果は異常なし。でも、実際に目が覚めないの」
ヒル魔の威嚇も手帳も、この婦長の前には意味がない。
彼女自体が独特の世界に生きているし、医療関係者の矜持というものもあるのかもしれない。
逆に言えば、彼を恐れて下手な言い訳をしたり絵空事のような励ましを言わないということだ。
淡々と告げられるのは、事実のみ。
「あまり昏睡状態が続くと、脳に影響が出てしまうわ」
ヒル魔はベッドに横たわり、いくつもの管と機械とを取り付け、淡々と眠り続ける彼女を見下ろす。
「キスでもしたら目が覚めるかもよ」
それにヒル魔はピンと片眉を上げて婦長を睨め付ける。
彼女はそれに軽く肩をすくめた。
「照れなくてもいいでしょう」
「糞王子っつー柄じゃねぇ」
「キスはともかく、呼びかけは反応を引き出すのにいいのよ」
声を掛けて。触って。
聴覚と触覚の刺激で脳に働きかけるように。
そう言われたまもりの両親は交代で彼女の側でその名を呼び、手をさすって回復を祈っていた。
「あなたもそうすればいいわ」
婦長の唇がふ、と綻ぶ。
「好きなんでしょう?」
「サアネ」
「私の占いはよく当たるのよ」
本来は時間外の事故や事件を防ぐために面会時間外で病棟内に第三者が入ることなど出来ない。
けれどふらりとやってきたヒル魔に対し、婦長は顔色一つ変えず、脅迫手帳を見せないままにまもりの元へと案内した。
それもこれも占いで判っていた、と彼女は言う。
不確定な占いなんて信じない性質の彼であっても、少し信じたくなるくらい彼女の行動は神がかっていた。
「そのよく当たる占いでコイツの目が覚める日を占ったらどうだ?」
「だから言ったでしょう。キスでもしたら、って」
婦長は肩をすくめ、踵を返す。
「気が済んだら玄関から出なさいな」
姿を消した婦長に舌打ちを零すと、ヒル魔はベッドの傍らにある椅子に腰掛けた。
簡素なパイプ椅子は座るときに軋んだが、その物音にも反応せず、まもりは眠り続けている。
点滴で必要な栄養素を補っていても、頬はこけ、肌は青白い。
廊下から僅かに漏れる光は、彼女の表情を見るには弱い。
けれど、ヒル魔の眸には『色』が見えるために彼女の表情ははっきり見えずともおおよそ判断がついた。
生きとし生けるもの全てに存在する、命の色。
まもりのそれは、くるくると万華鏡のように絶えず変わり続ける華やかな色彩。
内側からにじみ出るような強烈な生命力に、豊かな感情が載っているから見える『色』だ。
けれど今はそれらが全て静かに沈み込み、薄く青く眠りを示している。
あの、賑々しい派手な色はどこに消えたのか。
このまま、蝋燭の炎のように揺らいで全て消えてしまうのか。
ヒル魔はもうとっくにまもりを身内として考えていて、自分から離れる事なんて考えていなかった。
まもりにしても無自覚だろうが、ヒル魔のことを好いているのはよく判っていた。
だからごく当たり前に、この先も二人でいられるだろうと思っていたのに。
こんなことは想定外だった。
人は生きている以上、必ず死ぬ。
だから『死』そのものは考えに入っていた。
けれど、よもやまさか、こんなにもまもりに早く『死』を感じることになるとは。
まもりがこんな棺のような部屋に眠っているから、そんな妄想が働いてしまうのか。
ヒル魔は僅かに頭を振り、どこまでも落ちていきそうな考えから離れようとする。
死んでしまえば、もう会えなくなる。
人は黄泉路を追いかける術を持たず、ただ嘆き悲しむことしか出来ない。
ここで、全てが終わってしまう。
それにヒル魔は身の毛がよだつ程の恐怖を感じたのだ。
手の甲に滴った雫に、ヒル魔はびくりと肩を震わせる。
それが己の顎から落ちた汗なのだと理解するのに数瞬掛かった。
想像だけでこんなに冷や汗を掻く程喪失の予感に怯えている。
ヒル魔は固く握っていた手を開き、まもりに伸ばす。
ひやりと冷たい前髪を払って額に手のひらを触れさせると、そのあたたかさに息をついた。
白い棺のような部屋で、死体のように横たわる彼女が、生きているという確実な証。
「・・・姉崎」
呼びかけると言うよりは、呟くように口に乗せる名。
「早く、起きろ」
その声が祈るように頼りなげで、ヒル魔は自らの唇を咬む。
鋭い牙が己の唇を傷つけ、鉄錆の味が広がる。
呼びかけに反応を返さないまもりをしばらく眺めて、ヒル魔はおもむろに立ち上がる。
音もなく玄関へと向かう彼に、婦長が声を掛ける。
「お姫様はキスでお目覚めになった?」
「寝込みを襲う趣味はねぇ」
ヒル魔はするりと夜闇に紛れ、病院を後にする。
そしてその後、ヒル魔は彼女の元には行かなかった。
まもりの目が覚め、回復したとは聞いても。
あの棺のような部屋に、もう足を踏み入れたくなかったからだ。
そこには、物言わぬ姿でまもりが横たわっているかもしれない。
もう、目が覚めず冷たくなった彼女がいるかもしれない。
そんな悪い想像ばかりが瞼の裏にちらつき、彼も密かに体調を崩していたことは、誰も知らない。



「ヒル魔くん」
「・・・ア?」
掛けられた声に、ヒル魔は腕をずらしてそちらに視線を向ける。
心配そうに見つめる青い瞳。いつのまに室内に入ったのか、それさえ気づかなかった。
「大丈夫? 随分調子悪いみたいだけど」
熱でもあるの? そう言いながら触れてくる腕を掴んで抱き寄せる。
自らは上半身を起こし、その胸に抱き留めた。
「ちょっと?!」
腕の中に引き入れたあたたかな体温に、ヒル魔は僅かに嘆息する。
「・・・やっぱり、調子悪いんじゃない?」
手がすごく冷えてるわ、とまもりの腕を掴んだ指を撫でる。
「季節の変わり目だし、調子わるくなるのかもね。何かあったかいものでも飲む?」
立ち上がろうとするまもりを背中から抱き込み、ヒル魔は短く否定する。
「イラネ」
「でも・・・」
「あったけぇもんなら、こっちのがいい」
気遣う声に、ヒル魔はにやりと口角を上げた。

□■□■□

湯を張ったバスタブに下ろされ、まもりはほっと息をついた。
そう乱暴にされたわけでもないが、慣れない姿勢に身体が悲鳴を上げている。
それが僅かに軽減された気がした。
「ありがと・・・」
ちゃぷ、と水音が鳴る。
ヒル魔はまもりに構わず、さっさとシャワーを浴びて身体を流し、扉に手を掛けた。
「え、もう出るの?」
「テメェはしばらくかかるだろ」
どこか絡まない視線を引き寄せたくて、まもりはヒル魔の手に触れる。
「ヒル魔くんも暖まった方がいいわよ」
「俺は・・・」
「いいから、ほら」
さほど大きくないバスタブに二人が入るのは体勢的に難しい。
それでも引き入れようとするまもりに嘆息すると、ヒル魔は背後から抱き寄せるような姿勢でバスタブに腰を下ろした。
けれどすぐ、まもりは身体を捻って、彼の膝の上に乗り上げる。
「重い」
「そんなことないでしょ」
彼の胸に身体を正面から預け、真っ直ぐ見上げる。
「今日のヒル魔くん、なんだか余裕がないわ」
「ホー」
ヒル魔は興味なさげに適当な相槌を打つ。
それでも先ほどまでの奇妙な怯えというか焦燥感というか、そういった負の感情が失せているように見えた。
「ヒル魔くんも、何か不安に思うこととかがあるのね」
とん、と彼の肩口に頭を預けて、まもりは独り言のように呟いて笑う。
「何笑ってやがる」
「んー? ヒル魔くんはやっぱり悪魔じみてても人間なんだなあって再認識したの」
「ホホー」
うざったそうに濡れた髪を掻き上げる仕草を見上げる。
「ねえ。さっき何に怖がってるのかって聞いたけど・・・」
ヒル魔の眸が僅かに眇められる。
彼が口を開く前に、まもりは更に続けた。
「無理に言わなくていいわ」
「・・・いいのか?」
「言いたくないって顔したわよ、今」
ばつの悪そうな顔になった彼に、まもりは笑みを浮かべる。
いつでも傲岸不遜に笑っていて、弱みなど誰にも見せず、常に気を張り続けていた彼。
共に生活するようになって、次第に様々な表情を見せてくれるようになった。
「そのうち、言いたくなったら教えてね」
今はそれでよしとしよう。
明るくそう言ったまもりの肩を抱いて、ヒル魔は静かにその頭に頬を寄せた。


ごく当たり前の日々が、ある日唐突に静寂の棺に納まることを知ってしまったから。
―――この恐怖は、一生お前は知らなくていい。

***
悠様リクエスト『愛おしきトランキライザーの元となった事件の話』でした。退院時の話を、とのことでしたが、その段階ではこの人達はまだ付き合ってないのです。『愛おしき~』の中ではキスしたりしてますが、あれはいろんな記憶がごっちゃになった夢なので事実とは違うのです。ということでご希望の時節とは時間軸が大幅にずれました。薄暗い雰囲気だったので、凄く楽しく書かせて頂きました♪リクエストありがとうございました!

悠様のみお持ち帰り可。
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ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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