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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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筐体電影(上)

(ヒルまも)
※『とても優しい殺人』の続き
※リクエスト作品


+ + + + + + + + + +
泥門高校は、東京大会3位という成績で関東大会へと駒を進めた。
今のところは夢のまた夢、遥か彼方にあるクリスマスボウル。
そこに至る道は勿論平坦ではなく、越えねばならない障害はそれこそ山のようにある。
それでも。
奇跡のような確率をくぐり抜けて、どうにかそこに至ることが出来たとしたら。
その時になって、必要となるデータが不足している、なんていう間抜けな事態はご勘弁願いたい。
関東を勝ち抜き、クリスマスボウルで対峙するは、関西随一の敵・帝黒学園。
放っておいても様々なソースから情報は飛び込んでくる。
ヒル魔は送られてきたデータに眸を細める。
「・・・ホー」
パソコンに表示されたのは、いかにも線の細い、華奢な女だった。
長い髪を一つに編み、帝黒学園の制服に身を包んでいる。
か弱い、とか可憐、とか、アメフトにはおよそ似つかわしくない表現が一番当てはまる姿。
小泉花梨。情報によればアメフト歴は一年に満たない。
他のスポーツの経験はなく、運動能力を見ると5秒を切る脚力の他は目立つ要素がない。
けれど、あの最強帝黒学園でQBとなったのなら相当の実力者だ。
おどおどと人を見上げるような目つきには見覚えがある。
フィールド外でヒル魔を見上げるときの、セナと同じ。
添付の映像には練習中に彼女がボールを投げる姿も映っている。
それを見て、ヒル魔の眉が寄った。
ほとんどぶれていない。
通常、完全な球ではないアメフトボールは、どんなに上手な選手が投げても多少はぶれるものなのだ。
ヒル魔の腕でもあそこまで回転が綺麗には出ないだろう。
ガムを膨らませながら、ヒル魔は僅かに思案する。
正確無比で取りやすいボール。
敵選手の手が出ない位置で、味方のWRが確実に取れるという保証があれば、これ以上ない武器だろう。
泥門だったらあり得ない話だ。敵側との間に極端に力の差がある帝黒だから成り立つ選手と言えよう。
その他のデータを見ていると、なぜだか花梨のスナップ写真が異様に多いことに気づく。
どうやら隠し撮りやら隠さなくても堂々と撮られることが多い女のようだ。
間が抜けている、というか人がいい、というか。
頼まれたら断れない気質というのが少し困ったように笑って映っている写真にも現れている。
とりあえずは、まだ必要とする時には早い情報。
ヒル魔は適当なフォルダにごちゃごちゃのままのデータをブチ込んで閉じる。
そして、次の対戦相手のフォルダを開き、対策を練りだした。


数日後。
「ヒル魔くん、みんなの基礎データ、最新版はどこ?」
「ア? 昨日渡しただろ」
「え? あれ?」
まもりは慌てて手元のファイルを見たが、どこにも該当するものがない。
「あの、やっぱり貰ってな・・・」
まもりが声を掛けるよりも先に、ヒル魔がへばっているモン太とセナの元に走っていく。
「オラオラ! テメェらさぼってんじゃねー!!」
「うわぁあああ!!」
「ひぃいいい!!」
慌てて走り出す二人と、それを銃乱射しながら追い回すヒル魔に嘆息しつつ。
まもりは手元のファイルをもう一度見直す。
やはり最新版がない。
まもりは昨日の作業中の彼を思い出した。
きっと、あのパソコンにデータが入っているのだろう。
自らがアナログ人間だという自覚はある。
けれど、次の敵は神龍寺。関東最強の神とまで呼ばれる強豪相手だ。
今は休憩する間さえ惜しんで走っているヒル魔を無理に連れて部室に向かうのは難しいだろう。
おそらくデータさえ見つければプリントアウトするだけだし、まもりは一人でも何とかなるだろう、と考えて。
練習で殺気立つフィールドから一人外れ、そっと部室へと足を運んだ。


ヒル魔のパソコンを立ち上げ、フォルダを開いていく。
彼は几帳面とはほど遠い存在なので、フォルダの中のデータはごちゃごちゃだ。
それでも必要な情報をいち早く見つけるのは得意なのだから、不思議だ。
一応彼なりに整理してある状態なのかも知れない。
まもりは根気よくデスクトップ上に散らばったフォルダを一つ一つチェックしていった。
「うーん、これでもない・・・」
ファイル名は「1」だの「zako」だの訳がわからず、開いていくしかない。
しかも中身は誰かの脅迫写真だったりもするので、慌てて閉じたりすることも多々あり、忙しい。
そして、探し出してから二十分程経った頃。
「んもう! まったく、どれ・・・」
まもりがやや苛立ちながら開いた一枚のファイル。
そこには。
おおよそヒル魔が調べるには該当しないような、綺麗な女の子の写真があった。
困ったようにカメラを見て笑うその顔は整っていて、儚いような頼りなさが透けて見えるようだ。
見慣れない制服だが、どこの子だろうか。
まもりはふと、自分の格好を見下ろした。
洒落っ気のないジャージ姿、髪も埃まみれで、気を付けていても肌も荒れる。
もう一度画面を見る。
色白の肌は、日焼けなんて知らないよう。艶やかな唇は微笑みを浮かべている。
長い金色の髪は編まれていても緩やかなウェーブを描き、柔らかそうだ。
思わず守りたくなるような、女の子らしい女の子。
思わずまもりは呟く。
「・・・ヒル魔くんって、こういう子が、好みなのかな」
試しに同一フォルダ内の他のファイルを見てみたが、何枚か彼女の写真が出てきた。
中にはいかにも隠し撮りしました、というようなものもあって、いたたまれなくなる。
まもりはそのファイルをフォルダごと閉じると元の作業に戻った。
そしてようやく目的のファイルを見つけ出すと、さっさとプリントアウトして、何喰わぬ顔でクリップボードに挟む。
まもりはパソコンをシャットダウンして閉じ、グラウンドへと戻った。

ただその時、まもりの閉じ方は勢いが良すぎて。
パソコンには似つかわしくない派手な音がしたのだった。


<続>
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