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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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The Joker(上)

(ヒルまも一家)
※『邂逅パーティー』の前に位置します
※リクエスト作品

+ + + + + + + + + +
鈴音がまもりの元を尋ね、三人目を妊娠した、と報告したとき、まもりは我がことのように喜んだ。
今は自宅で優雅にお茶の時間である。
差し向かいでお持たせの洋菓子を突きながら、まもりはにっこりと笑った。
「順調にいけばこの子と同級生になるわね。楽しみだわ」
まもりは目立ち始めた腹を優しく撫でる。
「やー、そうなのー! 素敵よね! ・・・っ」
きゃいきゃいとはしゃいでいた鈴音は、不意に顔を顰めると口を押さえる。
「つわり?」
「うん、ちょっと・・・」
鈴音は青い顔でトイレに行き、しばらくして戻ってくる。
「ごめんね」
「ううん。辛いときは辛いって言ってゆっくりした方がいいわよ」
「やー・・・でも、ホラ、ウチの子たちってあんまりしっかりしてない、っていうか・・・」
鈴音は苦笑する。
もうすぐ中学生になる美佳の下は、葉月という男の子。
葉月はまだ小学校に入ったばかりで、まだまだ手が掛かるのだ。
セナは家事を積極的に手伝ってくれるが、あまり得意ではないし。
結局は鈴音が動くハメになっている。
「でもそれじゃあ休まらないでしょう?」
「うん、セナも気を遣ってくれてるんだけど・・・やっぱり料理とかは、ちょっと」
「うーん・・・鈴音ちゃんのお母さんはどう?」
「今、両親は喧嘩中」
「うわ」
「まあそれはいつものことだけどね。それもあってお母さんも呼べないのよ」
ぼやく鈴音の目の下には、クマが出来ている。拾うが滲む顔に、まもりの眉が寄る。
「つわりも上の二人の時はここまでじゃなかったから、次こそ女の子かな、って楽しみではあるんだけどね」
それでも笑う鈴音に、まもりはくるりと振り返った。
「ねえ、ヒル魔くん」
「うわ妖兄?! いたの!?」
「イマシタヨ」
視線を向ければ、にやにやと笑うヒル魔が立っている。
いつのまに、と鈴音は目を丸くした。
「しばらくウチにセナたちを泊めるっていうのはどう? もちろん鈴音ちゃんも」
「ヤー?!」
驚き目を見開く鈴音を余所に、ヒル魔はまもりを見下ろす。
「テメェだって妊婦じゃねぇか」
「もう安定期だもの、平気よ。鈴音ちゃんが落ち着くまでいいでしょ?」
「い、いいよまも姐。ウチのお子様三人も面倒見たら、まも姐の赤ちゃんが驚いて出てきちゃうよ?」
しっかりセナも大きな子供扱いだ。
「大丈夫よ、ウチの子たちなら上はもう高校生だし、面倒見てくれるし、部屋ならあるし」
「ヤー、だって煩いし、汚すし・・・妖兄だって落ち着かないでしょ?」
ヒル魔は自宅でも仕事をすることがあると聞く。悪いから、としきりに鈴音は遠慮するが。
「ヒル魔くんなら平気よ。そんな柔な神経してないから」
「まあヒドイ」
「ヒル魔くん、なんだかんだでちゃんと『お父さん』なんだから平気よ。ねぇ?」
にっこりと笑って言われ、ヒル魔はやれやれと肩をすくめる。
まもりが言い出したら聞かないのは昔から変わらないのだ。
「仕方ねぇな」
あっさりと了承したヒル魔に、鈴音はぱちぱちと瞬きをする。
そして。
「言っておくが、ウチに来るからにはウチのルールを守れよ、糞チビ一家」
しばらく騒がしいナァ、とぼやくような、けれど楽しみなような声を掛けられて。
鈴音はゆるゆると笑みを浮かべ、頷いた。


「おおおお邪魔します・・・」
「「おじゃましますー!」」
大荷物を抱えてやって来たのはセナ、子供達もそれぞれにリュックを背負っていっちょまえにお手伝い。
「はい、いらっしゃい!」
出迎えたのは妖介だ。セナから荷物を受け取り、軽々と運ぶ。
それを羨望の眼差しで見る葉月を足下にまとわりつかせて、彼らの当面の宿泊所となる客間に案内する。
鈴音がそれを見ながら上がり框に座りゆっくりした動作で靴を脱いだ。
立ち上がろうとしたら目の前に差し伸べられた手に、鈴音は顔を上げた。
そこには怜悧な美貌が凛と立っている。
「こんばんは、鈴音さん」
「アヤちゃん。こんばんは、ごめんね、煩くして」
「いいえ」
アヤは鈴音を支えて居間へと案内する。
「お邪魔します」
「いらっしゃい。夕飯は食べないで来てくれたわよね?」
「はーい。お言葉に甘えます!」
まもりがにっこりと笑ってテーブルの上を見せる。
今日の夕飯は腕の振るい甲斐があるわ、と張り切って作ったものだ。
近所とはいえ、泊まりの準備をするのは時間が掛かる。その上食事を済ませるのは難しいだろう、とまもりが踏んで事前に食事を用意しておくと言っていたのだ。
そこには色とりどりのおかずが所狭しと乗っていた。
荷物を置いたセナ達もリビングにやってきて、豪華な食事に目を丸くしている。
「すごーい!」
「おいしそー!」
はしゃぐ子供達を着席するよう促す傍ら、まもりは鈴音を手招く。
「鈴音ちゃんはこっちね」
同じ食卓だと匂いで気分が悪くなって食事が取れないので、あらかじめ聞いていた食べられるものを用意しておいたのだ。
リビングのローテーブルに鈴音用の別プレートを置き、まもりはソファに腰掛ける。
「まも姐たちは?」
「ウチはもう食べちゃったの。だから遠慮しないでどんどん食べてね」
「お残しは許しません」
妖介がいたずらっぽく告げると、お腹を空かせていた美佳と葉月が一斉に反論した。
「残さないよ!」
「ちゃんと食べるもん!」
「それならよろしい」
わざとらしい口調で告げる妖介を余所に、アヤが口を開く。
「どうぞ、召し上がれ」
「いいいいただきます」
「「いただきまーす」」
緊張している父親を余所に、子供達は屈託無い。
挨拶もそこそこに湯気の立つ白米に箸を付けた。
「おいしい!!」
「うまーい!」
「あ、懐かしい味」
それぞれの感想を聞きながら、鈴音は羨ましそうにテーブルを眺める。
「いいなあ、あったかいご飯・・・」
「ご飯もだめ?」
「うん、匂いがダメ。見ての通り、食べられるものがほとんどないの」
プレートに載っているのはシンプルなクラッカーに数種類のチーズ、それからリンゴと味気ない。
「まるで糞ネズミの食事だな」
「妖兄」
ふらりと現れたヒル魔はまもりの隣にどかりと腰を下ろし、まもりを見てにやりと笑う。
「それに引き替えテメェは食欲落ちるっつうのがなかったな」
「つわりはあったわよ」
「あんなにドカドカ糞シュークリーム喰える奴が何ほざく」
「それは別腹なの!」
「食い過ぎて糞シュークリーム産むんじゃねぇぞ」
「産み! ません!!」
仲がいいなあ、とぽりぽりクラッカーを食べていた鈴音は。
「イタイ!」
突如聞こえてきた悲鳴にびくっと肩を震わせる。
「葉月!?」
鈴音が振り返ると、手を押さえる葉月と、今まさに手を下ろしたアヤが視界に入った。
「何やった?」
ヒル魔の声に、妖介が鈴音用のミネラルウォーターを手にやって来た。
「箸使いを注意したんだよ」
あまり箸使いの上手ではない葉月を、給仕をしていたアヤが注意したのだ。
「その持ち方は間違い」
「だって、持てない」
「練習すれば持てるようになる」
「れんしゅうしても、持てないの!」
苛立ち声を上げる葉月の手に、アヤの白い手が掛かる。
「こうやって」
するり、と正しい位置に箸を導く。
「こう、持つ」
まだ小さい手を包むように教える。
ひんやりとした綺麗な手に触れられ、葉月はぎこちなく箸を動かした。
「そう」
「いいなあ・・・」
アヤに箸の正しい持ち方を教えて貰っている葉月を、美佳が羨ましそうに見ている。
彼とセナは箸使いに問題なし、と判断されたため特に注意も指導もない。
その呟きにセナは苦笑するばかり。
葉月が正しい箸使いで煮豆をつまみ上げる。
「よし」
それを見てアヤは優しく葉月の頭を撫でた。
「えへへ」
途端に、葉月の顔が綻ぶ。
「・・・アヤちゃんって、立派なトレーナーになれると思うな」
一部始終を見ていた鈴音が感心したように言って水を飲んだ。

<続>
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